第二話 魔法という力
俺はマッシュに連れられて村の人々に挨拶をして回った。皆一様に俺の見慣れない容姿に珍しいものを見るような目で見られたが、この村の連中はお人好しが多いらしく、挨拶をしただけで食い物をいっぱいもらえた。
俺はそんなに腹が減っているように見えるのだろうか。まあ、貰えるものはありがたく貰っておく。
「一通り挨拶は済んだな」
マッシュが振り返ってそう言った。
「俺はこれからさっき会った隣のセッキじいさんの薬草を探しに森に行かなきゃならないから、しばらく村をぶらぶらしていてくれ」
「ああ、わかった。ところで俺が打ち上げられた浜辺ってどっちだ?」
「それなら村の反対側の坂を下った先だな。なんか探し物か?」
「ちょっと持ち物が一緒に打ち上げられてないか見てくる」
「わかった。気をつけて行けよ」
そこでマッシュとは別れた。とりあえずできれば刀は見つけておきたいな。俺以外は全員魔法が使える物騒な国だ。護身用に手元に置いておきたい。
そんなことを考えながらマッシュが教えてくれた道を海に向かって俺は歩き出した。
……………
―マッシュ―
「薬草はこれだけあればしばらく持ちそうだな」
かごいっぱいの薬草を見ながら俺は言った。
「カゲトラもいるし山菜でも探していくか」
いつも来ている森だ。どこを探せば欲しいものが見つかるかは大体わかる。
それから俺は山菜やきのこなんかをたくさんとった。
家を出た時にはまだ朝だったが、気付けば太陽が真上に上がり昼頃になっていた。
そろそろ家に帰るか。カゲトラの探し物も見つかるといいが……。
そんなことを考えながら村の方に目をやると、黒い煙が上がっているのが見えた。何かあったのかもしれない。俺はかごを担いで急いで村への道を引き返した。
………………
―カゲトラ―
「ゴガッ」
俺は目を覚ました。海に着いたはいいものの、腹が久しぶりに膨れて眠くなってきたところでちょうどいい具合に小屋があった。今は誰も住んではいないようなので少し邪魔してそのまま寝ちまったみたいだ。
寝る前に少し探したが、刀や他のものが打ち上げられている様子はなかった。俺の刀はどこへ消えたのだろうか。海に沈んでるんだろうな。
小屋の天井に張った蜘蛛の巣を見ながら俺は考えた。
いつまでもマッシュやミヤさんに世話になるわけにもいかない。見たところこの小屋は誰も使っていないようだし、ボロいが雨風はしのげる。
ここで生活しながら今後の身の振り方を考えていこう。釣りは親父の弟のおじさんに教わったから多分できる。釣った魚を村のみんなに分けて、足りないものと交換すれば生活もできるだろう。
俺は心の中のおじさんに感謝した。俺の親父と本当に兄弟か疑いたくなるほど適当な人だったが、俺に人生が刀だけではないと教えてくれた偉大な人だ。本人は弱かったが、周りの目を気にせずに自分を貫く姿は俺の手本になっている。
俺はおじさんのように仕事をせず、自分のやりたいことを全力でできる大人になりたいと思う。
などと、親父が聞いたら卒倒しそうなことを考えながら俺は小屋の中を見て回った。
するとちょうどいい木の棒があるのを見つけた。刀の代わりにとりあえず護身用に持っておこうと思う。
うん、これでようやく落ち着いた。腰に刀がないと落ち着かなかったんだ。
俺は見つけたばかりの棒を脇に差しながら小屋を出た。
どうやら結構寝ちまったらしい。刀は見つからなかったがこれからしばらく生活するための拠点は見つかった。マッシュやミヤさん、村の人たちに報告に行こう。
………………
―マッシュ―
俺が急いで村へ戻ってくると、セッキじいさんの家が燃えていた。
「じいさん大丈夫か!」
家のそばで座り込むじいさんを見つけて駆け寄った。
「わしの家が…」
「じいさん何があったんだ!」
「あいつらじゃ…」
そういうと、じいさんは村の真ん中にたむろしている連中を指差した。
そいつらは動物の毛皮で作った服を着て顔は何かの染料で模様を描いていて、あたりの村を襲って金や食い物をとっていくチンピラだった。
「しけた村だなぁ。俺様の炎魔法で全て燃やしてやるか!」
「そうはさせねぇぞ!」
俺は思わず奴らに向かって駆け出した。
「マッシュ行っちゃいかん!」
後ろでセッキじいさんが俺を止める声が聞こえたが、我慢ができなかった。
「なんだ?ヒーロー気取りのガキが来たぞ。止められるもんなから止めてみろ」
そう言うと俺に向かって火の玉を飛ばしてきた。俺は地面を転がってそれを避けると地面に落ちていた石を投げた。
石は今火の玉を飛ばしたやつに向かって飛んだが、火の壁で塞がれた。
「こんなので俺を倒せると思っているとは舐められたものだな。二度と逆らえなくしてやる!」
先ほどの火の玉とは比べ物にならないデカい火球が俺に向かって飛んできた。
ダメだ。避けられない。当たる――。
その時、俺の目の前に誰かが飛び込んできて火球を真っ二つにした。
「なにっ!」
チンピラのリーダーは驚いて声を上げた。
よく見るとそれはカゲトラだった。こいつ魔法は使えないと言っていたが、炎魔法を切り裂くなんてとんでもないやつだ。そんなことができるやつなんて聞いたことがない。騎士団にでも行けばいるのかもしれないが…。
土煙の中をカゲトラが立ち上がったが、どうも様子がおかしい。手に火のついた松明のようなものを持っているのも気になるがそれよりも体から黒いもやのようなものが立ち上ってきているのだ。
「カゲトラお前、それ…」
その時、カゲトラがチンピラ達に向かって吼えた。
「てめぇ、ようやく見つけた俺の相棒をこんなにしてくれやがって、どう落とし前つける気だこら!」
松明のようになった棒を振り回しながら怒った様子で言った。
「てめぇこそなんだ!ここらじゃ見ない見た目をしてるな。王都の見世物小屋にでも売ればいい金になるんじゃないか?」
「たしかにそうだな」
「やっちまいますかアニキ」
「ああ、だが俺の炎魔法を切りやがった。気をつけていくぞ」
そう言うと、チンピラ達はカゲトラに今にも襲いかかってきた。
カゲトラは名残惜しそうに火のついた棒を投げ捨てるとチンピラ達の飛ばしてきた魔法を手で殴って消した。
「またか!こいつ本当になんなんだ!」
「気味が悪いっすよアニキ!」
「ごちゃごちゃ言いやがって。相棒の仇思い知らせてやる!」
そう言うと、チンピラ達を次々と殴りつけてあっという間に倒してしまった。
こいつ本当に何者なんだろうか。
気絶して動かなくなったチンピラ達を怒ボコボコにしながら怒るカゲトラを見ながらそんなことを思った。
……………
異国人でありながら異端の大魔導士として後世に大きく名を轟かせる男が大陸のはじで産声を上げたことを世界はまだ知らない。




