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私が一番嫌いな言葉。それは、番です!  作者: 水無月 あん


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命は大事に

ラッカルさんの緊迫した声に、あわてて前を見た。


ガラス越しに見える庭には誰も見えない。


「誰もいないけど……?」


「いや、近づいてきている。俺は獣人のなかでも特に耳がいいんだ。足音だけじゃなく……かすかに、しっぽを引きずる音もする……」


「え? しっぽの音まで聞こえるの!? さすが、立派でかわいいだけあって、ラッカルさんの素敵な耳は無敵ね!」


「俺の耳を無敵って……なんか独特の反応だな……。とにかく、ラジュ王女に付き添ってきたメンバーで、しっぽをひきずるのはひとりだけだ。ラジュ王女の従者のひとりで、オオトカゲの獣人グェンだ」


つまり、そのオオトカゲの獣人さんは、ひきずるほどしっぽが大きいってこと?


先日の王宮での夜会でも、王女様のまわりにそんな人いたかな? 全然覚えていないけど……。


「そのオオトカゲの獣人さん、王宮の夜会にも来てたの?」


「いや、いなかった。グェンもロイス同様にラジュ王女の従者だが、ラジュ王女のそばにいて、表立って動くロイスとは違い、グェンはだいたい裏で動いている。今回も、この国に一緒に来たけれど、それ以降、あまり見かけていないから、王女の指示で別行動しているんだと思う。……ただ、グェンがここに来るなら厄介だ。あいつが何を考えているのか俺にはわからないが、ひとつだけわかるのは、あいつは盲目的にラジュ王女を慕っているってことだ。おそらく、ラジュ王女の望みを叶えるためならなんでもするだろう」


ラッカルさんの言葉に警戒心が一気にたかまった。

だって、王女様はルーファスを狙ってる。そんな王女様の望みをかなえるために、なんでもするってことだもんね。


すごく危険人物じゃない!?


「とりあえず、俺がララベル様と気安くしているのがばれたらまずい。やはり、手の紐はしばったままにしておく。だが、いざとなったら、思いっきりひっぱれ。そうすれば、ぬけるようにゆるめておくから。……そろそろか」


ラッカルさんが、そう言い切ったのと同時に、ガラス越しに人が見えた。

まだここからは距離があるけれど、こっちへ向かって歩いてきているのがわかる。


「やはり、グェンだ」


オオトカゲの獣人というから、ずっしり大きな体を想像していたら、どちらかというと小柄な男性で驚いた。

ただ、地面をひきずる長く大きなしっぽは、確かにオオトカゲの獣人というイメージ。


でも、そんなことより、もっと気になったことがある。 


「誰かを背負ってない……?」


そう、オオオトカゲの獣人さんは、ドレスを着た女性を背負って、こっちへ近づいてきている。


ラッカルさんは警戒した声で言った。


「誰だ、あれは……」


だんだんと近づいてくるオオトカゲの獣人さん。

背負った女性の顔は見えないけれど、背後から見えるドレスの裾には見覚えがある。


「え!? もしかして、モリナさん……?」


「モリナ……?」


「そう、モリナさんだと思う! 王女様がお友達になったからといって、今日のお茶会にいきなり連れてきたの。いつのまに、ふたりが友達になったのかも謎だけど」


「ああ、あの侯爵令嬢か……。おそらく、裏で画策したのはグェンだろう。ここへ来る時に護衛した時わかったが、あの侯爵令嬢、血はうすいが、竜の獣人の血が流れているだろう? ラジュ王女と同じ系統の獣人で血が薄いなら、ラジュ王女にとったら簡単に従わせられる相手だ。グェンがラジュ王女の望みを実行するために役立てようと目をつけたんだと思う。ラジュ王女は令嬢の友人と仲良くお茶をするような性格じゃないからな……」


そういえば、ルーファスもモリナさんのことを、王女様の駒にされて終わりだろうとか言ってたよね……。


「あ、でも、モリナさん、お茶会の途中でルーファスの威圧とやらで動けなくなったの。それで、ロイスさんが別室に運んで、確か、戻ってきて、モリナさんは眠っているって言ってたんだけど……。なんで、背負われて、こっちへ来てるんだろう……?」


「ラジュ王女の企みに役立てるつもりで、グェンに別室から連れ出されたんだろうな。……こんなところで、あんな厄介な奴と鉢合わせてしまうなんて、俺がララベル様をこの小屋へ連れてきたせいだ。いざとなったら、ララベル様のことは俺が命をかけて守るから、安心してくれ」


真剣な眼差しでそう言いきったラッカルさん。

きりりとした耳がなんて頼もしいの! ……じゃなくて、


「いや、命はかけないで大丈夫だからね!? というか、命は大事にしよう、ラッカルさん!」


あわてて私が言うと、ラッカルさんはガラスの向こうを見据えたまま言った。


「いや、なにがなんでも守らないと、ララベル様に危険が及べば、どのみち、この小屋へ連れてきた俺の命もないんじゃないかと思う……。とりあえず、俺は指示通りに、マラミという花のあたりにひそんでいたら、令嬢がいたから、この小屋へ連れてきた。つまり、ララベル様のことは何も知らないし、ララベル様も俺のことは何も知らない。そういう感じでとおすから、ララベル様もあわせてくれ」


「まかせて! ラッカルさんとは同志だから他人じゃないけど、他人の仮面をきっちりかぶっとくから!」


私が張り切って言うと、何故か、不安そうにラッカルさんの耳がゆれた。

が、すぐに射貫くような視線を前に向けた。


「もう来るぞ。油断するな……」


モリナさんを背負っているのに、歩くスピードはやけに速いオオトカゲの獣人さん。

あっという間に、小屋の前にやってきた。


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