関係なくない
一緒に行く、と言った私に、ラッカルさんが首を横にふった。
「ダメだ、危ない。ララベル様はここにいろ」
ラッカルさんが強い口調で、そう言った。
真剣に私を心配してくれているのが伝わってくる。
「ラッカルさん! 心配してくれる気持ちは嬉しい。でも、王女様がルーファスに何かしようとしているのに、安全なところで、のんびりなんかしていられない! ラッカルさんだって、王女様の護衛になったのは、同じ気持ちだったからだよね? 私たちは王女様から救いたい人がいる同志。今の私の気持ちは、ラッカルさんが一番よくわかるはず!」
「確かに、気持ちはわかる。だが、やはり、ララベル様があの場所に行くのは危険だ。ラジュ王女があの場所で何をしようとしているのか、俺にはわからない。俺は肝心なことは何も知らされていないんだ。俺への指示は、全て、ラジュ王女から直接言われるわけじゃなく、先輩にあたる護衛騎士から聞かされる。俺はもともとアジュ王女の護衛騎士だったんだが、ロイスを救いたくて、ラジュ王女の護衛騎士に配属変更を希望していた。欠員がでて、希望がかなったのが半年前だ。まだ、ラジュ王女から、詳しい指示を聞けるほどには信用を得てはいない」
そこで、ほんの一瞬、間をおいたあと、悲しげな表情で話を続けた。
「というか、ロイスがそう仕向けているような気がする。俺がラジュ王女の護衛騎士になった時、ロイスが俺にこう言ったんだ。『何故、ここにきた? アジュ王女の元へ戻れ』と。ロイスを救いたいからそばにいると俺が言うと、ロイスは『俺は望んでここにいる。おまえは関わるな』と、感情のない顔でそう言った。それ以降、ロイスから俺に話しかけてくることはない。しかも、ラジュ王女のそばに寄る必要のある護衛は俺以外を指名するんだ」
「ロイスさんは、やっぱり、ラッカルさんのことが心配なんだね」
「心配? いや、違うと思う。ロイスの親友だと豪語しておきながら、ロイスがこうなる前に何も手助けできなかった俺が、今更、近づいてきたところで信用できないんだろう」
ラッカルさんの大きな耳が不安そうに揺れた。
「ええっ!? ちょっと、なんで、そう思うの!? そんな立派でかわいい耳を持ってるのに、被害妄想がすぎるよ!?」
揺れる耳を見ながら、思わず、声をあげた私。
「耳……? ここで俺の耳は関係ないだろう……?」
とまどうラッカルさん。
「関係なくないよ!? そんな立派な耳を、そんなに不安そうにさせたら、見ている私が悲しいじゃない!? だから、聞いて、ラッカルさん。ロイスさんは王女様から渡された物を飲まされて、別人みたいになったんだから、誰よりも王女様の怖さが身に染みてる。そんなロイスさんだからこそ、親友のラッカルさんには王女様に近づいてほしくないと思ったんだよ! あれだけ感情の消えたロイスさんが、ラッカルさんに、『アジュ王女の元へ戻れ。関わるな』と言ったんでしょ? それは、ロイスさんの精一杯の忠告だったんだと思う。淡々と王女様に従うだけのロイスさんが、ラッカルさんを王女様に関わらせないように動いているのは、そこだけは、強いロイスさんの意思だと思う。どれだけロイスさんが変わったように見えても、ラッカルさんを思う気持ちは変わってないんだよ。ラッカルさんはロイスさんにとって、それだけ大事な存在で、親友なんだからね! 自信をもってよ」
と、ラッカルさんの耳を凝視しながら力説した私。
あ、耳の不安そうな揺れがとまった! よかったー!
その時、ラッカルさんがふっと笑った。
「俺より、俺の耳を心配するなんて、ほんと面白い人だな……。でも、ありがとう、ララベル様。気持ちが楽になったよ……。ロイスに嫌がられても、ロイスを救うと心に決めてはいたけど、やっぱり不安だったんだ……。だが、ララベル様にそう言ってもらえて、すっきりしたよ。……わかった。ララベル様の意向に沿う」
「じゃあ、さっきの場所に連れて行ってくれるってこと!?」
「ああ。だが、王女に気づかれないよう、俺の指示した場所に隠れて、できるだけ気配を消していてくれ」
「まかせて。植物に同化するくらい気配を消して、じっとしてる! あ、でも、ルーファスが危なくなったら、なにするかわからないけど」
「そうなったら、俺が動くから。ララベル様は絶対に無茶はしないでくれ。万が一、ララベル様が傷つくようなことがあれば、それはそれで俺の命が危なくなるだろうしな……」
ん?
私が傷つくと、なんで、ラッカルさんの命が危なくなるのかわからないけど、まあ、一緒に行けるならいいか!
「ふたりを王女様から守ろう! 同志ラッカルさん!」
私が力強く宣言すると、ラッカルさんが優しい笑顔で、うなずいてくれた。
「じゃあ、早速、移動しよう。今、手をしばっていた紐をはずす」
そう言いながら、私の背後にまわったラッカルさん。
あ、そういえば、椅子のせもたれごしに両手をうしろでしばられてたんだっけ。
あまりきつく縛られてなかったから、忘れてた……。
が、次の瞬間、ラッカルさんの緊迫した声がした。
「誰か来る……」




