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フォレストの森の魔物

 「はぁ、やっと着いたぞ」


 腰を曲げて荒い息を吐いた俺は、目の前に広がるフォレストの森を眺めた。

 町から一番近い森と言われているのだけど、徒歩だと結構距離があった。

 昼過ぎに町を出て、着いたのが夕暮れ時になっているぐらいの時間がかかったのだ。


 「それにしても失敗したなぁ。馬でも借りて行けばよかったぜ」


 今更だけど、馬で行けばもっと早く着くことができただろう。

 また、体力をも温存することができただろう。


 「はぁ、疲れた」

 

 もう1度大きな溜息を吐いた。

 最近運動らしい運動をしてなかったので、長時間歩くのが結構きつかった。

 本当はここからが本番なのだけど、もう家に帰ってベッドに入りたい気分だった。

 だが何も成果なしに帰るわけにもいかないので、俺は諦めて森の入り口から中へと入っていった。

 

 森の中は、やはりと言うべきか暗かった。

 日中でさえ森の中は暗いというのに、夜にさしかかる時間になると、さらに真っ暗。

 まるで自分の人生のように前が見えなかった。


 ‥‥‥いや、そこまででもないか。まぁ、なんにしてもだ。


 「こりゃ松明必要だわな」


 俺は一旦森の外へ出て、手頃な木の枝を探した。

 そして木の枝の先の方に火をつけて松明にした。


 「んー、なんだか心もとないけど、まっいっか」


 油が染み込んだ布などを巻き付けているわけではないので、ちょっとした風で消えてしまいそうだった。

 なので俺は、なるべくゆっくりと歩きながら森の中へと入っていった。




 森の入り口からは、人が歩きやすいように舗装された道ができていた。

 そしてその道の終着点には冒険者の拠点が作られている‥‥‥と依頼書に書いてあった。


 俺はまずその拠点を目指して歩いた。

 舗装された道を、たった1人で、真っ暗な暗闇の中をゆっくりと歩いて行く。

 夜になった今、森の中では自然や動物達の音はなく、地面を踏む足音だけが響いていた。

 

 「そ、そういえば、魔物がいるんだったよなぁ」


 この暗闇の中、この静けさの中には魔物が潜んでいる。

 そう思うと、心に恐怖が生まれてきた。

 もしかしたら、突然現れて襲ってくるかもしれないと。


 「おおっ、怖っ」


 やっぱり夜の森に入るのは止めた方がよかったかなと思いながら、道なりに進んで行くと、冒険者の拠点らしき場所が見えてきた。

 そこには、倒れたテントや積まれた薪に焚き火跡、それと冒険者達が使っていたであろう武器が散乱していた。

 一応、拠点に誰かいないかと松明を高くかざして周囲を見回してみたけど、誰もいなさそうだった。

 

 「んーいないか。それにしてもちょっと見にくいな‥‥‥明かりをつけるか」


 松明だけでは辺りがよく見えなかったので、置いてある薪を焚き火跡に投げて、松明で火をつけた。

 すると‥‥‥。


 「おいおい、まじかよ」


 俺はゴクリと唾を飲んで、焚き火で明るくなった拠点を見た。

 地面には戦いでできた深く抉れた跡や飛び散った血痕、それと引きずられた跡などがあった。

 

 「この跡は‥‥‥人を引きずった跡か。何処へ連れて行かれたんだ?」


 多分、この跡は冒険者が魔物に連れて行かれた跡なのだろう。

 そしてその引きずった跡は森の奥へと続いていた。

 となると‥‥‥。


 「この跡を追って行けば見つかるということか」


 救助対象となる冒険者達がその先にいる。

 ついでに冒険者達を連れて行った魔物もいるわけだが。


 「うーん‥‥‥」


 さて、どうしたものかと考えた。

 このまま、この引きずった跡を辿って行くと、魔物と出会う可能性が高い。

 なにせ真っ暗の中で松明という明かりを持っているのだから、すぐ見つけて襲ってくるだろう。

 はっきり言って、視界の悪い状況で襲われるのは凄く危険だ。危なすぎる行動だ。


 やっぱり朝になるのを待った方がいい気がしてきた。

 日が昇っているか、いないかで森の中の明るさは断然違う。

 日中なれば松明のような目立つ物を持たないで行くことができる。

 

 だがしかしだ、そうするとそれだけ冒険者の救助に遅れることになる。

 ただでさえ時間が経っているのだ。これ以上遅れていいのだろうか。

 今行かなければ助からない命があるのかもしれない。


 「いや‥‥‥」


 ちょっと待てよ。よく思えば俺は調査だけでもいいんだよな。救助まで考えなくてもいいか‥‥‥。 

 たった1人で来たわけだし、そこまで無理する必要はないよな。

 それなら朝になるまで待ってから行けば‥‥‥。

 

 そんな風に深く考えていると、ふと冒険者組合で困っている人達の姿が脳裏をよぎった。

 それと、あの兄妹の姿も。


 「‥‥‥はぁ、どうすっかな。ん、なんだ? やべぇ!!」


 悩んでいると、突然背筋が凍った。

 俺は松明を捨てて、すぐ近くの木に駆け寄り、急いで登った。

 そして見つからないように体を縮めて隠れた。


 ‥‥‥あれ? 俺なんで隠れたんだ?


 自分自身を不思議に思った。

 なぜいきなり木に登ったのだろうかと。

 どうして体を縮めて隠れているのだろうかと。


 俺は首を傾げていると、地面落ちた松明の火と焚き火がフッと消えた。

 突然明かりが消えて、視界が一気に真っ暗になった。


 なぜ消えた? もしかして何かいるのか?


 風が強く吹いたわけでもないのに、突然火が消えたのだ。

 これは何者かが消したとしか考えられなかった。


 いったい何がそこにいるんだと思いながら、焚き火跡付近をよーく目を凝らした。

 が、暗くてよく見えない。


 「くっ、まったく見えないぞ‥‥‥」


 小さく呟きながら様子をうかがっていると、近くで音が聞こえた。

 シトッ、シトッ、シトッと変わった音が、俺のいる木の真下から聞こえてきた。

 そして木の下から少しずつ近づいてきている。


 「ちょ、嘘だろ」


 どうやら魔物に見つかっていたようだ。

 俺はすぐに革袋から2つの魔法の玉を取り出して戦闘態勢にはいった。

 

 まず、使う魔法は動きを鈍らせる氷属性で、今だによく見えないので広範囲でしかける。

 次に狙う場所は真下。多分木の下から登ってきているはず。

 最後にタイミング。近くで当てればダメージが高い‥‥‥はず。


 準備は整った。さぁ、来い!! いや、やっぱり来ないでくれ!!


 俺は瞬間的にはやる気になったが、すぐ怯えた気持ちになった。

 なぜだって? それはね‥‥‥魔物が見えないからだよっ!!


 音だけが近づいてくるこの感じ、まさに恐怖としか言えなかった。


 シトッ、シトッ、シトッ‥‥‥。


 ゴクリと唾を飲む。

 多分、もうかなり近くまで登ってきている気がする。

 もう魔法を唱えたほうがいいかもしれない、そう思い魔法の玉に魔力を入れようとした。

 その時、森の奥の方からピーーと笛の高い音が響くように聞こえてきた。


 「ウォン、オォン!!」


 犬の様な泣き声とともに魔物は木から飛び降りて、そして立ち去っていった。

 魔物がいなくなると、笛の音も聞こえなくなり、辺りは静寂を取り戻した。


 俺はほっと安心して、額に流れていた汗を拭った。


 「ふぅ、焦った」


 結局のところ、魔物の姿を見ることが出来なかった。

 近くまで登ってきたはずなのだけど、まったく見えなかったのだ。

 泣き声からして犬の様な魔物といった想像は出来るが、足音とゆっくりと木を登ってくる様からして、もしかしたら違うのかもしれない。


 「冒険者達が行方不明になったのは、あの魔物が原因か? それと森の奥から聞こえてきた笛の音はなんだろ?」


 どうも森の奥には、先ほどの魔物とは別の何かがいるようだ。


 「気になるけど、探るにしても1人じゃ荷が重いなぁ。仲間が欲しい」


 頭をガシガシとかきながら溜息を吐いた。

 そもそもだ、こんな暗い中で、たった1人でいるのは精神的にも戦力的にも心細かった。

 やっぱりこういう場所には、パーティを組んで行くものだ。

 人数的には最低でも3人は欲しい。

 3人いれば戦闘面に関しては大抵の事は対処することが出来る。

 

 「いない者は仕方ないか。さてと‥‥‥もうちょっと頑張ってみるか」


 行くかどうか悩んでいたけど、思えばまだここに来たばっかりで何もしていないし、なにより先ほどの魔物や笛の音がすごく気になった。

 だから俺は、もう少し森の奥を探ってみようと思った。

 

 俺は手元を確認しながらゆっくりと木から降りて、そして魔法の玉を1つ浮かべた。


 「まぁ、行くにしても、魔物に見つからないようにちゃんと対策しておかないとな。ライト!」


 光の魔法ライトを唱えると、魔法の玉が光だし、明かりとなって辺りを照らしだした。

 これで森の中を歩くことが出来るようになった。


 次に俺はもう1つの魔法の玉を左手に持って魔法を唱えた。


 「マジックバリア」


 マジックバリアは前面に透明な四角状の板を作り出して、相手の魔法を防ぐ守護魔法になるのだけど、今回俺が使ったマジックバリアは少し形と色を変えた。

 マジックバリアは半透明の黒色で形は板ではなく布のように薄くてヒラヒラしていた。

 

 俺はそんなマジックバリアを体に包み、暗闇に溶け込めるようにした。


 「おっと、これじゃ俺が目立つか。魔法の玉は離そうか」


 辺りが魔法の玉の光で照らされている中で、自分だけが薄黒いので目立っていた。

 なので、俺はライトを唱えた魔法の玉だけを先行させて、自分は光の当たらないように森の暗闇に隠れた。

 これで、またあの魔物が明かりに引き寄せられて来たとしても、俺自身は薄黒いマジックバリアで隠れているので、見つからないだろう。


 ‥‥‥多分な!!


 「ふぅ、魔力を抑えてっと」

 

 魔力を使い続けての移動のなるので、なるべき消費を抑えるよう調整した。

 だが消費を抑えたとしても、使い続けるのはすっごく疲れる。

 だけど、身の安全を考えるとこれが1番だった。

 

 「よし。んじゃ、慎重に行くとするか」


 俺は拠点にある、人が引きずられた跡を辿って森の奥へと進んでいった。




 

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