鬼
ロジックがコソコソと隠れながら森の奥へと進んでいる頃、森の最奥では1体の魔物が切り株に座っていた。
3メートルを超える巨大な体と、額に太い角が2つ生えているその魔物は、鬼と呼ばれる種族の魔物で、肌が真っ赤に染まっていることから、赤鬼と呼ばれていた。
「ちぃ‥‥‥遅い」
赤鬼は立ち上がり、持っていた角笛を口に当てもう1度吹いた。
ビピーーッと角笛の音が森の中で大きく鳴り響かせた。
すると茂みから、青い肌をした1本角の鬼が1体出てきた。
この鬼は、肌が青いことから青鬼と呼ばれた。
「ギグ、来たか」
赤鬼は青鬼の名前を呼ぶと、青鬼のギグは赤鬼を指をさして、拙い言葉で「オォ、オカシラ。オデヲヨンダカ?」と言った。
「ギグ、100は集まったか?」
「ワカンネ、タクサンイル」
「そうか。それでゲートキーパーはどうした?」
「ゲート‥‥‥キーパー?」
「変な服を着た奴のことだ」
「アー、ワカンネ。ドッカイッタ」
「‥‥‥まぁいい。ギグ、集まった奴ら全員呼んで来い」
「ワカタ」
青鬼がコクリと頷くと、茂みの中へと戻って行った。
と同時に、別の茂みから黒い犬の様な魔物が飛び出てきた。
「ウォン、ウオン」
「オルトか、何処へ行っていた。もしや獲物でも見つけたか?」
赤鬼は腰をおろして、オルトと呼んだこの犬の様な魔物の頭を撫でて、口が裂けるような笑顔を見せた。
このオルトは、赤鬼の溺愛するペットでだった。
「ウゥー、ウォン!」
オルトが不満そうな鳴き声を出すと、赤鬼はニヤニヤと微笑みながら立ち上がった。
そして、すぐ近くに置いてある大きなツボから、丸い何かを取り出して「ほれ、ダンゴだ」と言って、拗ねているオルトの前に投げた。
オルトは鼻息を荒くして、勢いよく丸い何かに噛り付いた。
すると、赤い液体がグシャっと飛び散り、オルトの口元が真っ赤に染まった。
「くっくっ、言い食いっぷりだな。それにしてもいい香りだ」
血生臭い香りが辺りに充満して、赤鬼の食欲を刺激した。
じゅるりと唾が出てきた赤鬼は、食欲を抑えることができなくて、大きなツボから3つほどダンゴを取り出し、大きな口に入れた。
グシャリと音がして、バキバキと硬い物が砕ける音もした。
「うまい‥‥‥たまらん」
赤鬼はこのダンゴを何度も口にしているが、まったく飽きることがなかった。
なぜなら、1つ1つのダンゴの味が違うのだ。
それは酸っぱかったり、甘かったり、油っぽかったりと、もう様々な味があるのだ。
そしてそのどれもが大変美味だった。
「3つじゃ腹の足しにもならん‥‥‥。ん? なんだオルトも食い足りんか」
ダンゴを食べ終えていたオルトは、口を開けて、もっとくれと催促していた。
仕方ないとばかりに、赤鬼自身も、もう少し食らおうかと思いながら、大きなツボからダンゴを取り出そうとした。
「‥‥‥ないな」
ツボの中にはダンゴがなかった。
3日前まではツボ一杯にあったダンゴが、空っぽになっていたのだ。
赤鬼はダンゴを補充しようかと考えたが、その食材となる物は鉄の檻の中にあり、少々騒がしいという理由で寝床からは少し離れた場所に置いてあった。
面倒くさいが取りに行こうかと考えていると、大きな足音がいくつも聞こえてきた。
ドシンドシンと地面を強く踏みつける足音、それと大地がグラグラと揺れる振動がだんだん大きくなって、そして近づいてきた。
「オカシラ。ツレテキタ」
ギグが100体の青鬼達を引きつれてやってきたのだ。
「ココイイニオイ」
「ウマソウ。ハラヘッタ」
血生臭い匂いを嗅ぎ取った青鬼達が、口元を緩めて涎を垂らした。
匂いの元がどこにあるのかと、鼻息を荒くして「エサ、ドコダ?」と勝手に散開し始めた。
「グゴォォォォォォォ!!」
赤鬼が突然大きな咆哮をあげた。
鼓膜を突き抜けるくらいの声と、石壁をぶつけるかの様な衝撃を青鬼達に当てた。
すると、青鬼達は腰を抜けたかのように地面に倒れた。
「おう、俺を無視して勝手に動き回るとはいい度胸だ。さっさと俺の前に来い!!」
シュンと縮こまった青鬼達は、急いで赤鬼の前に集まった。
「俺を見ろ、2本角だ。オカシラの俺に従え」
赤鬼は自分の額に生えている2本の角を指差して言った。
鬼族は角の数で身分が分かれていた。
1本角は青鬼、鬼族の平民で一番の下っ端。
2本角は赤鬼、鬼族の貴族で隊長格。
3本角は黒鬼、鬼族の王族で統率者。
角の数が多いほど身分が高く、そしてその身分は絶対的な立場であった。
自分より角の数が多い者には決して逆らってはいけない、もし逆らった場合は死の制裁が待っていた。
「オレタチ、ツノ1ポン。オカシラニ、シタガウ」
青鬼達はオカシラと言って赤鬼に頭を下げた。
このオカシラという言葉、これは赤鬼の名前を意味したものではなかった。
オカシラというのは鬼達の隊長といった階級のようなものだった。
「てめぇら、よく聞け。そして喜べ。楽しい楽しい宴をやるぞ」
「オォ!!」
宴と聞いて青鬼達は喜んだ。
常に腹を空かせている鬼にとっては、腹いっぱい食べれる宴は最高のイベントだった。
「ドコデヤル、オカシラ!!」
「オカシラ、ハヤク、オシエテ!!」
宴を始めるには、場所を決める必要があった。
鬼達にとって食材がたっぷりとある場所をだ。
「宴を始める場所は王都ナザレという場所だ。そこにはうめぇ食材がたんまりといるぞ。まさに食べ放題だ」
赤鬼は残虐な笑みを浮かべて、じゅるりと涎を垂らした。
青鬼達も宴を思い浮かべて、唾が溢れて口元を濡らした。
「だが、まずそこへ行く前にだ、少し寄り道をする。まぁ、ちょいと宴の前のつまみ食いってやつだ」
「?」
早く宴をしたい青鬼達にとって、寄り道はしたくなかった。
がしかし、つまみ食いという言葉を聞いて、どういう事だろうと首を傾げた。
「ナザレの手前にバンダイという町がある。そこには食材がそれなり多いと聞く。宴の前に軽く頂くとするか」
ペロっと舌で涎を拭う赤鬼に、青鬼達は「オカシラ、サイコウ!!」と言って立ち上がり、両手を上げて喜んだ。
「がっはっは。さて、ギグ。お前がこいつら全員を先導してバンダイへ向かえ!!」
「ハイ、オカシラ‥‥‥アレ? オカシラ、イカナイ?」
「俺は‥‥‥」
赤鬼は、檻がある方向に目を向けて、顎をポリポリとかいた。
「まだ食材が残っている。食べてから行く」
「オカシラ、ズルイ」
「いいから行け!! あーそうそう、俺の分は残しておけよ」
「オカシラ、ワカタ。オイ、オマエラ、イクゾ!!」
ギグは大声を上げると、100体の青鬼達も「オウッ」と大きな声でさけんだ。
そして地面を揺らしながらバンダイに向かって歩いて行った。




