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メントシアの大道芸人

 「というわけでマリーちゃん、少しの間留守番お願いね」


 家に帰った俺は、ロレンスに頼まれてマルトロン神国へ人を送っていく事をマリーに話した。

 それから、お金がたっぷり入った袋をドンとテーブルの上に置いた。


 「ちなみに、なんとこれが報酬なんだぜ。中身は見てないけど多分結構入っているぞ」

 「えっと‥‥‥」


 マリーは戸惑った様子で俺と金の入った袋を目で往復した。


 「ねぇ、お兄ちゃん。私も‥‥‥」

 「これで、新しい服でも買ってみるか、最近買ってなかっただろう?」


 マリーが着ている服を見ると、生地が傷み、所々糸がほつれてきているように見える。

 思えば、マリーの持っている服はそんなんばかりだった気がする。

 マリー自身で新しい服を買えればいいのだけど、家の家賃や食費、その他日用品にお金がかさんで、なかなか余裕のないのが現状なのだろう。


 くっ、俺がちゃんと稼いでいれば‥‥‥もっと余裕があっただろうに。

 オシャレに気に掛けるお年頃の女の子なのに、俺のせいで苦労ばかりかけてしまった。

 よし、奮発して良い服買ってせんぜよう!!


 「あのね、私も‥‥‥」

 「よし、明日にでも買いに行こうか。そうだ、せっかくだから靴とか帽子とかも新調しようか、あと食器類も新しくするのもいいよな。やっぱ金がある時は使わ‥‥‥」

 「もう!! お兄ちゃん」


 俺がお金の使い道について話していると、ドンッ!! っとマリーがテーブルを強く叩いた。


 「ど、どうしたのかな?」


 思わずビックリ。

 恐る恐る、むっとしたマリーを覗き込むと、もう一度ドンッとテーブルを叩いた。


 「私も行く!! 私もついていくからね」

 「は、はいっ」


 思わず即答してしまった。

 

 「それでいつ行くの? 神官様やブルタスさんにお休みすることを言ってこないと‥‥‥。あと馬車の準備しないといけないよね」

 「あー‥‥‥いや、ちょっと待った。やっぱりマリーちゃんは家にいた方がいい。折角良い職場に巡り合えたんだし‥‥‥ほら、休みを取ってると仕事を失うかもしれないぞ」

 

 休みを取っている間に、別の人が自分のしていた仕事を奪って、帰ってきた時には居場所がなかった‥‥‥なーんてよくある話だ。


 「もしそうなったとしても新しい仕事をすぐに見つけれるから大丈夫だよ。それで、何時行くの?」

 「むぐっ」


 どうやら行くという意思が堅そうだった。

 これだと、何を言ってもついてくるだろう。

 

 ただ正直な話、留守番していてほしかった。

 今回はどうも、ロレンスの頼み事に嫌な予感がしたからだ。

 ロレンスはこう言っていた、最近は物騒だし‥‥‥と。

 はじめは魔物や盗賊の話だと思っていたのだけど、何か違う気がしてきた。

 俺の知らない危険な何かがあるのかもしれない。


 まぁ、俺の気のせいなのかもしれないけどね‥‥‥。


 「いや、実は分からないんだ。近いうちとしか」

 「それって、すごく困るね‥‥‥」


 いつ出発するのかが分からなければ、マリーとしてもいつ休めばいいのか予定を立てれないだろう。

 

 「まぁ、出発の用意だけはしておこう」

 「うんわかった。じゃあ、食料や馬車の用意は私がやっておくね」

 「ああ、頼んだ。あとお金が必要だったら、この中から存分に使ってくれ」

 「うん」


 俺は金の入った袋をマリーの前に置いた。 


 「ねぇ、お兄ちゃん。幾らぐらい入っているの?」

 「いや、俺も見ていない。あいつは結構金持ちだから、銀貨とかたんまり入ってるかもな。もしかしたら大銀貨が入っていたりしてな」

 「す、すごいね。もしそうだとしたら、私達一気にお金持ちになっちゃうね」

 「だな。まぁ見てみよっか」


 俺はゆっくりと袋を開き、マリーと一緒に覗き込むように中を見た。


 ジャラッとお金の音が鳴った。

 銀貨どうしが擦れ合った音だ。


 「おおっ、銀貨が沢山はいっているぞ」

 「わぁ、すごいね。お金持ちになっちゃったね」

 「ああ、まったく本当に勇者様さまだな。ありがとう、ありがとうロレンス」 

  

 思っていた通りのお金が入っていたので、思わず感動して一滴の涙がポロリと流れそうになった。

 

 これで、お金に困る事はなくなった。

 マリーが稼いだお金で家計のやりくりをしていたけど、このお金があれば色々と余裕ができるだろう。


 「ねぇねぇ、お兄ちゃん。ちょっとお兄ちゃん!!」

 「ん? どうしたマリーちゃん」


 なにやらマリーは興奮していた。

 俺の腕を何度も叩いて、そして袋の中に指をさした。


 「こ、これ!!」

 「うん? ‥‥‥こ、これは!!」


 指をさしたその先には、銀貨と銀貨の間に黄金に煌めく何かがあった。

 俺はその何かを、恐る恐るつまみ、そして持ち上げた。


 「ねぇねぇ、お兄ちゃん。これって、あれだよね!!」

 「ああ‥‥‥」


 袋から取り出すと、その黄金の何かはさらに光り輝いた。

 家の中に新しい太陽が生まれたかのように、俺達のいる場所を明るく照らしていった。


 「伝説のアイテムだ」


 貧乏人には決して手に入らない、天井人だけが手にする事を許される伝説のアイテム。

 見ることすらかなわないので、空想上の物なのではないだろうかと疑ったがっていた。

 

 だが今、俺の手元にそれがある。


 「‥‥‥私初めて見ちゃった」

 「俺もだよ。まさかこんな形で手にするとは思わなかったよ」


 その後俺達は何も語ることなく、ただ茫然とその『金貨(伝説のアイテム)』を眺めていた。





 気がつけば夜が終わり、朝日が昇ろうとしていた。

 俺とマリーはそれに気づき、驚いた。

 まさか金貨を眺めているだけで、これだけの時間が経っているとは思わなかったのだ。


 まさしく伝説のアイテム。恐るべし!!


 俺達は急いで部屋に戻りベッドに入って軽く眠った。

 そして朝、俺とマリーはお互いに寝不足まま目覚め、朝食をとった。


 「ふぁーあ。お兄ちゃん行ってきます」

 「おう、行ってらっしゃい」


 仕事に行くマリーを見送りつつ、俺も家から出る準備をした。

 正直2度寝したい気分一杯だったけど、それをすると1日があっという間に終わってしまう気がしたので、気力でその思いをふり払った。

 

 頬を強く叩き、それから外へ出るために寝巻からピエロの服に着替えようした。

 するとビリっとお尻のほうから破ける音が聞えて思わず頭をかかえた。

 

 「あっ‥‥‥はぁ、まじかぁ」


 寝不足のたるさとあいまって、深いため息が出た。

 お尻の辺りが破けたとなると、さすがにそのままで外に出るわけにはいかなかった。

   

 「はぁ、そろそろこの服も寿命かな。長い間使っていたしなぁ」


 だいたい5,6年ぐらい使い続けていたピエロの服。

 もともと大きめに作られていたので、体が成長しても問題なく着ていられた。

 だから俺はずっと使い続けていたんだけど、色々と酷使したせいか、生地がかなり傷んでいて、ついには破けてしまった。


 「俺も新しく新調しようかな」


 俺は机の上に置いていた銀貨3枚を手に持った。

 このお金は、一応護身用の武器でも買っておこうかなと思い、報酬の入った袋から銀貨3枚ほど取り出していたお金だ。


 ちなみに残りのお金と伝説のアイテム(金貨)はマリーに預けた。

 俺が持っていると、なんだか落ち着かないのだ。


 一旦ピエロの服は脱いで、代わりにボロいぬのの服とボロいズボンを身に着けた。

 ピエロの服が着れなくなった時の、いわゆる非常時に着るためだけの服なのだけど、昔買った物なので、結構小さかった。 


 ビリっ。


 「い、いかん」


 これもまたお尻から破けてしまった。


 「あー仕方ない。破けてるけどピエロの服を着るか」


 お尻の辺りがパックリと破けているのだけど、すぐ服屋に行って新しいのに着替えれば問題ないと考えた。

 そうと考えれば、早速ピエロの服に着替え直して、お金を革袋に入れて家を出た。

 

  



 町の大通りを歩きながら、なるべく目立たないように端の方を通って服屋を目指した。

 

 ビリッ‥‥‥ビリッ。


 歩くたびに音が聞える。

 多分破けている部分が広がっているのだろう。

 正直に言って、まじで焦る。

 そしてさすがに見られたら恥ずかしい。

 早く行かないと!!


 そんな思いで一杯になりながらも、今思えば軽く修繕してから行けばよかったと後悔しながら歩いた。 


 「さぁさぁ、皆様見ていってくださいまし、これなるは傘を使った珍しい一芸をお見せもうすぞ」


 コソコソと歩いているとそんな大きな声が聞こえた。

 声の聞こえた方向に顔を向けると、傘を持った男が1人、手を広げながら立っていた。

 

 「あれは‥‥‥メントシアの大道芸人かな」


 その男は、古風な民族衣装を身に着けていた。

 そしてその男の顔がメントシア独特の顔つきをしていた。


 「へぇ、珍しいな。これは気になるぞ」


 あの大道芸人がどのような見世物をするのかが気になって足を止めてしまった。

 そして丁度、大道芸人の演技が始まった。


 「はっ、ほっ、よっと。そぉーれ回しまするぞ!!」


 大道芸人は傘の上に3つのボールを投げて、傘を回してボールを落とさないように転がした。


 「それそれ、まだまだいきますぞ!」


 そう言って、近くにある大きなボールの上に傘を回しながら飛び乗り、バランスをとりながら片足立ちになった。


 「へぇ、すごいじゃん」


 俺はその演技を見て感心した。

 傘を使った演技は、島国のメントシアでしかなかなか見られない芸だったので、なおさら楽しめた。

 

 これなら大通りを歩く人達も足を止めて観客となることだろう‥‥‥そう思っていた。

 

 「あ、あれ?」


 だが、誰一人として歩みを止める人がいなかった。

 大通りを歩く人達は、まるで興味がないと言わんが如く、気にせず歩き去っていった。


 不思議だった。どうして、誰もあの大道芸人を見ないのだろうか。

 結構いい演技をしていると思うのだけど。


 そんな風に思っていると、大通りを歩いていた4人の冒険者が大道芸人に近づいていった。

 そして芸を見せている大道芸人にドンを押し倒した。


 「な、なにをなさいますか」


 押し倒された大道芸人は怯えた様に冒険者達を見た。

 

 「うるせぇ」

 「おいっ! お前、目ざわりなんだよ」

 「こんな状況で、遊んでんじゃねぇぞ!」

 「そんな遊具持ってんじゃねぇ。剣を持って戦えや!」


 冒険者達は大道芸人に対して罵声を浴びせ、それから服を掴んだ。


 「ひぃ。な、なにを」

 「おい、こいつ連れて行くぞ」

 「ああ、憂さ晴らしだ」

 

 そうして大道芸人は冒険者達によって脇道へと連れて行かれた。 


 俺はその場面を見て、思わず眉を顰めた。


 「‥‥‥あー」


 なんだろう、なんというか‥‥‥まぁ、なんだろうか。

 以前、俺自身があの大道芸人の立ち位置にいた様な気がした様な‥‥‥。

 

 「さてと、どうしよっか」


 見てしまったからには助けたいとは思うのだけど、相手は4人、しかも冒険者といった戦いに慣れた者達だ。

 助けに行っても返り討ちに合う可能性がある。


 「それにしても、なんで誰も助けに入らないんだ?」


 俺は周りを見回した。

 今この通りにはそれなりに人が歩いているのだけど、誰も助けようとしない。

 どう見たって冒険者の人達の方が悪いのだから、正義感の強い誰かが現れてもよさそうなんだけど。

 

 「はぁ、仕方ないなぁ」


 俺は魔法の玉を手に持ち、大道芸人と冒険者達が入っていった脇道へと歩いていった。



 


 俺が脇道に入ると、すでに大道芸人は冒険者達によって暴力を振るわれていた。


 「うらっ、おらっ。死ねくそがぁ」

 「あぐっ、おやめくだされ。おやめくだされぇ」


 地面で丸くなった大道芸人を囲んだ冒険者達は容赦なく足蹴りをしていた。

 そんな冒険者達の1人、顔に包帯を巻いた人物が苛立ちながら顎を摩った。

 

 「つぅ、それにしてもまだ顎がイテェぜ。イライラするぜ。おらっ」

 「そういやぁジーン、なんで神官に治してもらってないんだよ」

 「デニムよぉ、治すのもけっこう金がかかるんだよ。出せねぇってあんな金額」

 「あー高けぇもんなぁ。神殿の神官様はあこぎな商売をしてるぜ、おらよっと」

 「あがっ、た、助けて。誰か助けてくだせぃ」


 体を丸めて暴力に耐えていた大道芸人は泣き出しながら助けを求めた。

 そんな姿を見た冒険者達は、顔を歪めて笑い、かまわず暴力をふるい続けた。


 「おらっ。はぁ、それにしても俺の顎を砕いたふざけたピエロ、次会ったらただじゃおかねぇ」

 「まぁ、待てジーン。あのピエロは魔法使いだ。しかも玉2つ持ちだ。真正面から戦ったら負けるぞ」

 「うっ、それならまぁ、真正面から戦はなければいいってわけだな」

 「まぁ、そうだが。どうするんだ?」

 「それりゃあれだよ。後ろから奇襲ってやつよ」  

 「なるほど、魔法を使う前に叩けってか」

 「そっか、なら先に魔法使わせてもらおうかな」

 「あん?」


 冒険者達は突然割って入ってきた声に驚き振り向いた。


 「いや、やっぱお前達に魔法を使うまでもないな。あらよっと」

 「げはっ」


 顔に包帯を巻いた冒険者ジーンに向けて魔法の玉を飛ばした。

 するとゴキャっと音を立ててジーンの顎がさらに砕けた。


 「ガゲ、ゲ、ハッ」


 そしてそのまま後ろに倒れて仰向けになり泡をぶくぶくと吹いた。


 「ジ、ジーン!」

 「ええい、よくもジーンを!!」

 「何者だ!!」


 ジーンの仲間の冒険者達は怒りの眼差しを俺に向けた。


 「何者だ‥‥‥だって? そう、君達のお探しのピエロさんだぜ」

 「なっ!!」


 そうして俺は、魔法の玉を勢いよく飛ばした。

  

 「ゲハッ」

 「ゴホッ」

 「プベェ」


 飛ばした魔法の玉を巧みに操作し、3人の冒険者の顎に命中させて砕いた。

 後は先に倒したジーンと同じように後ろに倒れて仰向けになり、ぶくぶくと泡をふいた。


 「あらら、一撃で倒しちゃったよ」 

  

 なんというか拍子抜けした。

 相手は戦いに慣れた冒険者。強さはピンからキリまで幅広いけど、それでもある程度の強さは持っている‥‥‥はず。それが魔法を使わずに、こうも簡単に倒してしまえるのだから、思わず驚いてしまった。


 「魔法を使うまでもないとは言ってみたけど、本当に魔法の玉だけでやれるとは思わなかったな」


 ボリボリと頭をかきながら、気絶して倒れている冒険者を見下ろした。

 それから、怯えている大道芸人のもとへ行き、手を差し伸べて「もう安心だぜ」と言った。


 「た、助かりもうした」

 

 ウルウルと涙目をした大道芸人は俺の手を取って立ち上がった。


 「あいたたっ」

 「おっと、大丈夫か?」

 

 立ち上がると同時に、大道芸人は痛みでバランスが崩れ、こけそうになった。

 俺はそれをなんとか支えた。

 その時‥‥‥。


 ビリビリッ


 ピエロの服のお尻‥‥‥部分だけじゃなく、股下までもがパックリと破けてしまった。


 「あっ‥‥‥しまった」

 「あいやー、これは申し訳ない。服さ破いてしもうたか」

 「いや、気にしなくていいぞ。まぁ、もとから破けていたしな」

 

 俺は足を上げて、改めて破けた所を見た。

 完全にパンツ丸見え状態になっていた。

 これはじゃさすがに通りを歩けない。


 「いえ、これはいけません。助けていただいたお礼もありますし、ぜひ新しい服さ用意させてくだせい。あ、申し遅れまもうした。私、ゴエモンともうします。メントシアで大道芸人をやっておりもうす」 

 「やっぱりメントシアの芸人だったか。あ、俺はロジック。ピエロをやってるぜ、宜しくな」

 「これはこれは、同業者でしたか。いやぁー宜しくもうす」


 俺とゴエモンは握手を交わした。

 


 

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