小さな酒場の裏で
「おやっさん、ビール3つ追加で」
「あいよ」
バーミリオン王国の王都ナザレから東へ進むと、冒険者達が集まるバンダイの町があった。
その町の中にある小さな酒場の主人ブルタスは、ビールの入ったジョッキを3つ持って、冒険者達が座るテーブルにドンと置いた。
「おやっさん。つまみになるものお願いっす」
「あいよ!」
別のテーブルに座ってる冒険者の注文を受けたブルタスは、ビールのつまみになるチーズやソーセージ切ってを皿にのせて、これまたドンと置いた。
「おやっさん。おかわりくれ」
「おやっさん。俺にもくれ」
繁盛している酒場の中で、ブルタスは頭を抱えてテーブルに座る冒険者達を睨んだ。
「はぁ、今日給仕のマリーが休みで俺1人なんだ。お前ら取りにこいや!」
「あー、マリーちゃん見かけないと思ったら休みかぁ」
「なんだ、マリーちゃん休みかよ。なら、おやっさんの酒場に行く意味がなかったな」
「おい! 今言ったやつ出てこいや。食事の値段倍にすっからな」
ブルタスは額に青筋をたてて、冒険者達をさらに睨んで言った。
それを聞いた冒険者達は、肩を軽く上げて「おー怖っ」と呟いた。
「はぁ、まったく。それで外の状況はどうなんだ? 魔物が増えてるんだって聞いたが、お前ら冒険者としての目から見てどうなんだ?」
溜息をついたブルタスは皿を洗いを始めながら、ビールを飲んでいる冒険者達に話題をだした。
「ああ、かなり増えてるな。以前は森の奥や山奥にしか出てこなかった魔物らが、町の近くまで現れるようになったぞ」
「俺は町の近くで大ナメクジと戦ったぞ。退治するのにかなり大変だったぜ」
「あーいたなたしかに。ほんと、町の近くまで来てたよな」
「そういえば、すぐそこの森でギガースを見たって聞いたぞ。掲示板にそれの調査の依頼書が出てたぞ」
「おいおいギガースって、巨人族は絶滅したはずだぜ?」
「いや、3年前にもギガースが現れたとの報告があったみたいだぜ」
「おいおいまじかよ。ちなみに、その3年前のギガースは退治してるんだろうな?」
「どこかの冒険者がたった1人で退治したらしいな。しかもだ、噂だと職業はピエロだそうだ」
「はぁ、ピエロ? 冗談だろ? ギガースてのはたしか、1体相手するのに銀コインのベテラン冒険者が5人は必要と聞いていたぞ。それをたった1人で‥‥‥しかもピエロだって? なんだ、噂に聞く巨人族もそれほど強くないのかもしれんな」
「ああ、巨人族の恐ろしい話はもりっと誇張されていたのかもしれんな」
「へぇ、そうなのかい? なら、巨人族の調査の依頼受けてみようかな」
「俺もやってみよう。おーい、他にも行く奴いるか? 報酬はしょっぱいが、なに、町の安全と‥‥‥それと名誉が手に入るぞ。巨人殺しという称号をな」
「いいね~。でもギガースが本当にいたらの話だけどな」
「まぁな」
冒険者達は名誉を欲しがる。名誉があれば有能な冒険者として信頼され、報酬の高い依頼を受ける事が出きる。そしてさらに名誉は上がって国中に広がれば、英雄として歴史にその名が刻まれるかもしれない。
「ふっ、まぁ死なないように慎重にやるんだな」
ブルタスは冒険者達が盛りあがってる話しを聞きながら、ぼそりと呟いた。
冒険者の魔物退治は実入りの良い仕事だ。
だが、とても死にやすい仕事でもある。報酬が多い分、それと比例して危険度も高くなっていく。
今回、彼らの受けようとする調査の依頼だけならそれほど危険性はないのだろうが、どうも魔物退治を目的としているとなると、危険度は一気に高くなるだろう。
しかも冒険者達の話だと、魔物は巨人族ギガース。凶悪で知られる恐ろしい魔物だが‥‥‥さてさて、とブルタスは考えていると、若い冒険者が話しかけてきた。
「そういえばおやっさん。あいつどうしてるかな?」
「あん?」
「ほら、以前あそこにある舞台で何かやっていただろ? 道化師の姿をした‥‥‥ピエロみたいな奴」
若い冒険者は酒場にある小さな舞台を指差した。
その場所には楽器を沢山身に着けて大道芸人が、器用に音楽を奏でていた。
「ああ、まったく笑わない無表情なピエロを雇っていたな。まぁ、あいつがいると場が白けちまうんでクビにしたけどな」
「そう、そいつ。‥‥‥てかクビにしてたんだ。なんだか変わったピエロだったよな。演技は上手いんだけど、なんというか悲しい雰囲気があるというか‥‥‥見ていても楽しくなれなかったよなぁ」
「ああ。多分、辛い何かがあったんだろうな‥‥‥。だがな、だからと言ってこの場を盛りあげれないあいつを雇い続けるのはいかんのでな」
「はぁ、厳しいねぇ」
「世の中そんなもんさ‥‥‥特に今の世の中だとな」
「たしかになぁ‥‥‥あのピエロ今頃どうしてるだろうな」
「さぁな、意外と近くにいたりしてな。ほら、ビールのお替りはいらんのか?」
「お、いただきます」
ブルタスはジョッキにビールをついで、冒険者に渡した。
ヒュュゥー。
夜空の風が町の通りを駆けていく中で、小さな酒場の裏にあるゴミ置き場にて、1人の青年が酒瓶を両手に抱えながら眠っていた。
その青年は20歳ぐらいの男で、ボサボサの茶色の髪に特殊メイクをした顔と赤くて丸いボールを付けていた。服は赤と白の縦縞で所々に斑点のついた変わった服を身に着けていた。
「うー寒い。もっと酒が欲しい。もっと酒で頭ぐるぐるー」
青年は眠りながら酒臭い息を吐いて、ゴロゴロと地面を転がっていた。
すると、ポロッと鼻に付けていた小さい赤いボールが落ちた。
コロコロと転がった。
コロコロコロと転がって、赤い髪の少女の足元で止まった。
「やっと、見つけた! もぅ、こんな近くにいるとは思わなかった」
青年は少女の声でうっすらと目を開けた。
「うー、あれ。久しぶりーマリーちゃん。あー、どうしたんだ。2人に増えているぞ?」
寝惚けているのか、まだ酔っぱらっているのか。
青年はマリーの姿が2人に見えていた。
「ねぇ、帰ろ。最近寒くなってきたから、こんな所で寝ていると風邪ひいちゃうよ」
マリーは全身を使って、ふらつく青年の体をうまく支えながら立たせた。
「さぁ帰ろ、ロジックお兄ちゃん」
「あー、帰るか」
酔っぱらったロジックはマリーに支えられて、2人の住む家へと帰っていった。




