旅の終わり
今更だけど、色んな表現を文字にするって本当に難しい‥‥‥。
「‥‥‥んんっ」
目を覚めた時、俺はベッドの中にいた。
体中に包帯で巻かれ、特に右手は棒で固定されて入念に包帯が巻かれていた。
「ここは‥‥‥?」
記憶にないこの場所を見回しながら、俺はベッドから起き上がろうとした。
その直後、激痛が走った。
あまりの痛さに、ベッドに体を倒した。
「あたたっ、いったい何があったんだ」
混乱しているのか、ここに来る前の記憶が出てこなかった。
‥‥‥ふぅ、落ち着け。たしか俺は魔法大会に出て、そして‥‥‥そうだドラゴンが出てきて、そいつの尻尾で飛ばされたんだ。んで、そこから‥‥‥全く記憶がない。
俺は状況を確認するために、ベッドに横になりながらもう一度周りを観察した。
机に椅子、ネコが絵が描かれたタンスにおもちゃの入った箱。
なんだか子供部屋の様に見えた。
ギギィとドアが開く音がした。
「あらあら、起きたのですね」
白髪のお婆さんが部屋に入ってきて、俺の傍にある椅子に座った。
「あの‥‥‥貴方は? それと、ここは何処ですか?」
色々と聞きたい事があるのだけど、まずは自分のいる場所が何処なのかを知りたかった。
「私はリジー。そしてここはサモアの村。魔法都市ハリーから少し離れた所にある小さな村よ」
「サモア‥‥‥。それで、そ何で俺はここにいるんでしょうか?」
リジーは微笑みながら、ここに来るまでの経緯を話してくれた。
すると俺はあの後、体の大きなピエロのおじさんと闘技場で会った少女に助けられたらしい。
そしてそのピエロのおじさんとは一旦別行動をして、先に魔法都市の外へ出て、それから少女の実家があるサモアの村へと運ばれたらしい。
‥‥‥体の大きなピエロのおじさん。それは多分親父だよな。
なかなか、あの体格のピエロはいないしな。
「魔法都市ハリーの状況は私の孫から聞いたわ‥‥‥。貴方とピエロのおじさんが助けてくれなかったら、私は娘と孫を失っていたかもしれなかったわ。本当にありがとうね」
深々と頭を下げるお婆さんに、俺は恐縮したように手を振った。
「いやいや、俺もどうやらそのお孫さんに助けられたみたいだし。それでその、親父‥‥‥ピエロのおじさんは知りませんか? あと、あらくれサーカス団というサーカスの人達も知りませんか?」
親父とはどうやら都市内で別れたようだけど、その後はどうしたのかが知りたかった。それとあらくれサーカス団のの皆も無事に脱出できたのかも知りたかった。
「あ、ピエロのお兄ちゃんが目を覚ました!!」
「あら、本当。体調はどうですか?」
開いてるドアから、少女と母親が入って来た。
「大丈夫? もう元気?」
「ああ、大丈夫。ありがとうな」
心配そうな顔をした少女は、俺の言葉を聞いてニコリと微笑んだ。
「あらあら、コロナ。このお兄さんにお礼は言ったかしら?」
リジーが少女に、コロナにそう言うと、コロナは「あっ、言ってない」と俺に頭を下げてお礼を言った。
コロナの母親も「助けていただいて、ありがとう御座います」と丁寧に頭を下げてお礼を言った。
「気にしなくていいよ。それにこっちも助けられたしね。それでその、ピエロのおじさんを知らないかい? 他にもサーカス団の人達とかも」
俺はまた同じ質問をした。するとコロナは言いづらいそうに下を向いて、そして話し出した。
魔法都市ハリーから脱出した後、離れた場所でピエロのおじさんを待っていた。
だけど、日が暮れてもピエロのおじさんは現れなかった。
夜になると都市から大量の魔物が出てきたので、怖くなって、すぐにサモアの村に馬を走らせたとの事だ。
「ごめんね。お兄ちゃん」
「いや‥‥‥」
それは仕方ない事だ。
もしその魔物達に襲われでもしたら、せっかく助かった命を捨てることになる。
「気にしなくていいぞ。それで良かったんだ」
俺はしょげているコロナの頭を撫でた。
大丈夫だ。親父達はタフだし、逃げ足がとても速い。
ちゃんと上手く逃げている。そのはずだ。
自分の不安を説得するように、何度も大丈夫と唱えて心を落ち着かせた。
「さぁコロナ。御飯の用意をしましょう。お兄さんもお腹すいているでしょうしね」
その母親の言葉を合図に、俺のお腹がグゥ‥‥‥とお腹が鳴った。
「あ、本当だ! 今お母さんと作ってくる」
「ふふっ、それじゃお食事を持ってくるので少し待っていてね」
「あらあら、なら私も手伝うと致しますかね」
「す、すいません。助かります」
俺はお礼を言って、3人が部屋を出ていく姿を眺めた。
「ふぅ‥‥‥、まずは体を動かせるぐらいにまで治そう」
そう思いながら、俺は御飯が運ばれてくるまでゆっくりと体をやすめた。
それから1週間が経った。
ようやくベッドから立ち上がれるようになり、家から出て、村の中を散歩できるぐらい体は回復した。
ゆっくりと歩いていると、村人の話し声が聞こえてきた。
俺は聞き耳を立てた。
「どうやら、魔法都市ハリーに蔓延っていた魔物達から解放されたと聞いたぞ」
「勇者が来たってな。おかげで、これで一安心だな」
「ああ、いつ魔物がこの村にやってくるかって、お前ビクビクしてたからなぁ」
「お前だってそうだったじゃねぇか」
2人の村人がそう言いながら歩いていった。
‥‥‥そうか、ロレンスが来たのか。ならもう安心だな。
俺はすぐ近くにある切り株に腰を落とし、のどかな村の風に当たりながら眼を瞑った。
「皆、どうしてるかな‥‥‥」
俺はこの一週間、ほとんどが寝たきり生活をしていたので、皆の状況がどうなっているか分からないでいた。
今彼らはいったい何処にいるのか、何をしているのか‥‥‥。
もしかしたらだけど、親父はすでに皆と合流して、俺の事を探しているかもしれない。
俺は包帯で巻いて固定されている右腕を見る。
この手を完治させてからだと、皆を探すのはまだ先の話になる。
だが、別に片手が使えなくても動くことは出来る。
「片手が使えなくても馬は操れるし、そろそろ皆を探しに行くか‥‥‥おっ?」
俺は町の風景を見ていると。丸い何かがゆっくりと俺の方へ飛んできた。
そしてそれが、俺の膝元にストンと落ちた。
青くて丸い‥‥‥魔法の玉だ。
「魔法の玉‥‥‥誰のだ?」
俺はそれを手に持った。
すると、本当に不思議な事に、この魔法の玉の所有者が誰の物かがわかった。
「親父のか‥‥‥なぜここに」
そして俺は、親父の魔法の玉を俺は浮かせた。
プカプカと浮かせた。
すると、なぜだか涙が溢れてきた。
「あれ、おかしい。なんで涙が‥‥‥」
自分でもよくわからない。
心がキューっと締め付けるように、悲しくて悲しくて仕方がなかった。
俺はそのまま涙を流しながら親父の魔法の玉を眺めていた。
「お兄ちゃん もう行っちゃうの? 手の怪我治ってないよ」
「うん。だけど、早く仲間達を探さないといけないんだ。今頃心配しているだろうしね」
コロナは不安そうに言うと、俺は微笑んで彼女の頭を撫でた。
「あらあら、そんなに急がなくても‥‥‥」
「そうですよ。せめて手の怪我が治るまで家にいた方がいいと思うのだけど」
コロナのお婆さんと母親が心配そうに俺を見送りに来てくれた。
「ありがとうございます。でも行かないと‥‥‥そのなんというか、仲間の皆がどんな状況なのか、心配で居ても立っても居られないんです。だから行かないと‥‥‥」
そう言って俺は馬車に乗った。
「ありがとうございます。またここに来ます。次はサーカス団の皆を連れて来ます!」
「絶対だよ。待ってるからね!!」
「無茶しちゃだめですよ」
「何かあったら、すぐに家に来てちょうだいね。私達でよければ力になるから」
こうして俺は、お世話になった一家に手を振ってサモアの村から出ていった。
それから俺は魔法都市ハリーへと戻った。
もしかしたら魔法都市に戻ってきているかもしれなと思ったからだ。
俺は魔法都市へと馬車を進めてそこに着いた。
だが、そこは初めて来た時に見た魔法都市ハリーとは思えないぐらい、ひどく荒廃していた。
まさに魔物によって壊滅させられた瓦礫と廃墟の都市だった。
俺はその変わり様に驚きながらも、魔法都市の中に入った。
門の近くには大きな虎の様な魔物の死骸と、黒く焦げた大勢の死体が倒れていた。
「こ、これは‥‥‥」
俺はそれを見て、唾を飲み冷や汗を流した。
ここで大勢の人達を一気に丸焼きにしたような、ここはそんな場所は見えた。
「そこのお前、止まれ!!」
突然後ろから声がしたので、すぐに振り向いた。
馬に乗った銀色の鎧を着た騎士がやってきた。
「この先は立ち入り禁止だ。この都市から出ていきなさい!」
「あ、あのー。すでに解放されたと聞いたんですけど」
「いや、まだ解放はされてない。まだこの都市の地下ではドラゴンが何体も隠れている」
「はぁ‥‥‥」
となると、解放されたってのは単なる村人の噂だったのか。
もしかしてロレンスがここに来たってのも噂だったのかなと思い、騎士に聞いてみた。
「バードリ王国を奪還してすぐ、魔法都市ハリーの現状を耳にした勇者様はすぐに出陣した。そして、魔物達を一掃するために今も戦っておられる」
「今もですか!?」
「そうだ! だから一般人は危険なのでここから出ていきなさい!」
‥‥‥ロレンスがここにいるか。
‥‥‥会いたい気もしたが、今は親父や仲間達を探すのが先だ。
親友と会うのはまた今度でいいだろう。
俺はこの騎士に魔法都市ハリーから逃げた人達は何処へ避難しているかを聞いてみた。
すると、ここから北へ進んだ所にあるランテラの町に大勢避難しているとの事なので、早速ランテラ町へと出発した。
ランテラ町に着くと、俺は避難している人達が集まっている避難所へ向かった。
「いや知らないな。俺はずっと倉庫に隠れていたから何も知らないんだ」
「サーカス団? 知らないな。少なくともここにはいないな」
「や、やめて。もうその話はしないで!!」
避難所を見つけてから、何人かの人達に話を聞いてみた。
しかし、あらくれサーカス団の情報を手に入れられなかった。
ここでは、皆の居場所についての情報は手に入らなかったけど、スーテランという町にも避難している人達がいると聞いて、俺は馬車に乗ってそこへ向かった。
だが、そこでも何一つ手がかりがなかった。
それから俺は、もしかしたら自分みたいに魔法都市の近隣の村に逃げ込んだ、もしくは運ばれたのではないかと考えて、馬車を走らせた。
そして村で話をしたり、探してみたりした。が‥‥‥それでも見つからなかった。それどころか、なんの情報もなかった。
「もしかしたら、すでに別の国に行ったのか?」
次に俺はアレンシア王国と隣のテヘラン都市国家の国境にある関所に行ってみた。
魔法都市ハリーが危険だと感じて、別の国へと行っている可能性があると考えたのだ。
だが‥‥‥。
「いや、それらしい人物は見てはいないし、通してもいない」
関所の兵士に話を聞いてみるが、あらくれサーカス団の皆を見かけたことがないと言う。
「‥‥‥」
俺は途方に暮れた。
親父もトム座長もティティもアレクも、フレディもベルニーニとバルタも見つからなかった。
何処にも見当たらなかった。
ここまで探しても見つからない、となると‥‥‥。
「皆‥‥‥あそこで死んだのか?」
もしかしたら‥‥‥もしかしたら魔法都市ハリーで死んでしまったのではないか‥‥‥そう考えた事はある。だがそれは信じたくなかった。
俺はその考えを頭の片隅に置いて、色んな場所へと探して探して探し回った。
だけど、結局皆を見つけることが出来なかった。
こうなると、もう‥‥‥そう考えるしかなかった。
俺は親父の魔法の玉を手に取った。
「親父‥‥‥死んだのか?」
不思議だった。なぜ親父の魔法の玉が俺の元へと来たのか。
もし生きているなら、俺の所に魔法の玉を飛ばしてこないだろう。
「俺達の旅は・‥‥終わったのか?」
旅の終わりについて、トム座長から話は聞いてはいた。
だけど、まさかこんな形で終わるとは思ってもみなかった。
「なんだよ‥‥‥全て失くして‥‥‥終わっちまったかよ‥‥‥ははっ」
馬車の中で、空笑いをした俺は涙を抑える事が出来なかった。
自分の中で何かが抜けた気がした。
そして、とても‥‥‥とても疲れてしまった。
「‥‥‥何処へ行こうか‥‥‥見失っちまったよ」
仲間を失くして、家族を亡くして、目的まで無くなってしまった。
そんな俺は無気力になり、馬車の手綱を掴んだまま進んでいった。
自分でも何処へ行くのか分からずに‥‥‥馬車を走らせた。
ここまで見てくださった方、本当にありがとうございます。
あらくれサーカス団の章はここで終わり、次の章に入ります。
一旦休憩しますので、再開の折には暇つぶしに読んで頂けたら幸いです。




