魔法都市壊滅 後編
魔法都市ハリーの周囲は高くて厚い石壁で守られており、都市の南にある門が唯一の入り口であり出口だった。
今、その門の前で大勢の人達が集まっていた。
門が硬く閉ざされていて、外へ逃げる事が出来ずに立ち往生しているのだ。
「おい! 誰か開けてくれ!!」
「ここから出してくれ!!」
「何をしているんだ、開けろ!!」
都市から出る唯一の門の扉が閉ざされているので、大勢の人達は焦りと怒りを露わに叫んでいた。
「なぜ、閉まってるのでしょうか。これでは外に避難が出来ませんよ」
トム座長とあらくれサーカス団の団員達はバレルクと別れた後、すぐに都市から脱出しようと走り出した。しかし、門が閉ざされているためにトム座長達も都市の外へ出ることが出来なかったのだ。
「わからんわい。しかしこれは困ったことになったぞい」
頭の上にネコを乗せているフレディは、後ろに振り向いて街中を見た。
都市のあちこちが燃えている。魔物の声も聞こえているのだ。
そしてその魔物達が声をあげながら、こちらに近づいてくるのもわかった。
「トム座長、このままじゃやばいですよ!!」
「アレク、それは分かっていはいるのだけど、私もどうしたらいいか‥‥‥。こんな時バレルクがいてくれたら良い考えを教えてもらえるのですが」
「バレルクは俺達の為に囮になってくれてるんだ。あちらの方が大変だわい」
戦う事や逃げる事はバレルクがすべて対処してくれた。だからこういった場合もバレルクが頼りなのだけど、今は傍にいないので、トム座長と団員達はどうしたらいいか分からないでいた。
「おおっ!! トム団長もここまで来れたか!」
「これは、ヤスダ団長。それに団員達も無事良かったです」
先に逃げていたヤスダサーカス団の面々もこの場所にいた。
「ああ、だがまだ無事とは言えん。まずは外に出ないことにはな」
「ええ、そのようです。それにしてもなぜ門の扉が閉まってるんです?」
「わからん。事が起きるまでは開いていたらしいが。突然閉じてしまったようだ。おかげで逃げれないでいる。このままだと、後ろから魔物や、あのドラゴンがやってくるかもしれん。そうなれば俺達はお終いだ」
「むぅ‥‥‥」
トム座長とヤスダ団長は苦虫を噛み潰したよう顔をして押し黙った。
そんな時、ギギギギッと門の扉が開くような音がした。
「おや、ヤスダ団長。門が動き始めましたよ!」
立ち往生していた大勢の人達の前で、閉ざされていた門の扉がゆっくりと開き始めた。
「おお!! 開いた、開いたぞ皆の者!!」
「よーし、行くぞ‥‥‥お?」
我先にと駆けだそうとする人達は、開いた扉の先へと進もうとした。
しかし、彼らは足を止めた‥‥‥。
なぜなら、そこに大きな何かが座っていたからだ。
その何かは、翼を生やした巨大な虎のような姿をしていた。
そして‥‥‥そして、それが凄まじい炎を門の前にいる人達に向かって吐いた。
「ギャァァァァァァァ!!」
炎の波が、都市の門前にいる人達を飲み込んでいった。
そしてそれは、ヤスダサーカス団の団員達や‥‥‥あらくれサーカス団の皆にも迫ってきた。
「い、いかん! トム団長逃げろ!! お前らも逃げろ!!」
ヤスダ団長はトム座長と周りにいる仲間達に大きな声で叫んだ。
そして振り返って逃げようとした。
だが、ヤスダサーカス団の団長や団員達は炎の波に流されていった。
「み、皆さん逃げっ‥‥‥」
トム座長も逃げる事が出来ずに、炎の波に飲み込まれていった。
「姉さん!!」
「アレク!!」
アレクはティティを庇う様に覆いかぶり、そして炎に包まれた。
「ぬうっ、アルフレッド達だけでも」
ネコ達を庇う様に抱きしめて炎を一身に浴びた。
「これだめじゃんよ」
「終わったじゃんよ‥‥‥」
ベルニーニとバルタは放心したように目の前の炎の波を見つめ、そしてその波に押し流された。
こうして門前で集まっていた人達全員が、まるで一網打尽かのように燃やしつくされていった。
炎の波が止むと、門前にいた大勢の人達は黒く焼け焦げて死んでいた。
だがそんな中、トム座長だけはかろうじて生き残っていた。
「‥‥‥あ、あっ。みな‥‥‥さん」
手足は焦げて、それ以外の場所も大火傷で皮膚がおかしな事になっていた。
トム座長はそんな痛みを我慢して、団員達の状況を確認しようと頭を動かした。
「ああ‥‥‥そんな。こんな‥‥‥」
混乱して思考が回らなかった。
つい先ほどまで、サーカスのリハーサルで踊っていたティティとアレク。テントの裏でネコ達をボールの上に立たせる訓練をしていたフレディ。そして人数不足のため、照明役として舞台に明かりを向けていたベルニーニとバルタ。
皆は‥‥‥皆、黒く焼け焦げて‥‥‥死んでいた。
「‥‥‥そう、ですか‥‥‥」
トム座長は煙で濁った空を見上げた。
「ああ、終‥‥‥わった。旅が‥‥‥」
いつか、何処かで旅は終わるとは思っていた。
それは大都市なんで拠点をつくり、人生が終わるまでそこで興行をしつづける事。
それは仲間達の別れや結婚、又別の道を進む事。
そしてそれは病気や災害、魔物に襲われて死んでしまう事。
「魔物に、襲われて‥‥‥ての、一番‥‥‥嫌な終わり方でした」
トム座長の視界が少しづつ意識が薄らいでいった。
ああ、そういえば、バレルクとロジック君はどうしているでしょうか。
‥‥‥無事だと良いのですが。
呆然と意識が消えつつある中、ピエロの親子を思い出していた。
そんな時、馬車の音が聞こえた。
馬が駆ける音と車輪が勢いよく回る音だ。
視線を音の方へ向けると、そこにはあらくれサーカス団の馬車が走っていた。
「あ‥‥‥あっ」
あれは私達の馬車!! となるとあれにはバレルクとロジックが乗っているはず。
いけない!! この先には危険な魔物がいる。
トム座長は動かない体で必死に声をあげたが、喉も焼けているのか声がほとんど出なかった。
そんなトム座長を抜かして、都市の門へ向かって馬車が走る姿を苦悶の表情を浮かべながら見届けた。
このままではバレルクとロジックもあの虎の様な魔物の餌食になってしまう‥‥‥そう思っていた。
しかし、その魔物は門に羽が引っかかったようで、それをどうにかするのに夢中で、向かってくる馬車には気づかずにいた。
そして、あらくれサーカス団の馬車は魔物の横を通り過ぎて外へと出ていった。
「ふっふっ‥‥‥ふっ」
トム座長は不思議と笑いが込み上げてきた。
‥‥‥さすがは、ピエロ親子です。最後に笑わせていただきました。本当に‥‥‥運が良い。
軽く微笑み、そして一安心したせいか眠たくなってきた。
「‥‥‥皆さん、あの世でまた会いましょう。ジム兄さん‥‥‥先にいってます」
死んでしまったティティとアレク、フレディとネコ達、それとベルニーニとバルタを見て、それから遠くにいる双子の兄にお別れを言葉を言って、トム座長は意識を手放した。
◇
時計台の最上階で魔法都市ハリーが壊滅していくのを眺めていたデスピエロは、満足そうに微笑んでからパンと手を叩いた。
「どうだったかなホグワーツ。皆の楽しい声が聞こえたでしょ。最高の舞台だったよね?」
「どうかな?」と氷の彫像になっているホグワーツに感想を求めたけど何も答えなかった。
「‥‥‥うーん。やっぱり死んでしまってると、感想が聞けなくてつまらないなぁ」
デスピエロは手を広げて溜息をついた後、ホグワーツの額をペシッと叩いて粉々に壊してしまった。
「さてと‥‥‥次の舞台の準備でもしよっかな」
壊滅した都市を見ながら、デスピエロは5つの魔法の玉を浮かせて、魔法を唱えた。
ブーンと音がして、デスピエロは闇に包まれて何処かへと消えていった。
誰もいなくなった時計台最上階では、今でもドラゴンの咆哮が聞こえていた。




