魔法都市壊滅 中編
「これは‥‥‥」
大会会場の付近に着いたバレルクは、入り口に多くの火の魔物が溢れ出てるのを見て驚いていた。
体全部が火で出来ているフレイマン。燃えた人型の泥、レッドドロール。空に浮かんだ図形の形をした真っ赤な石、ファイアーエレメント。その他にもいろいろいた。
「なんだこれは‥‥‥いったい闘技場の中はどうなってるのだ。くっ、あいつは大丈夫なのか」
多くの魔物達を見て戦々恐々としながらも、息子の心配をするバレルクは会場の中に入る方法を考えていた。
そんな時、小さな少女が母親を背負って歩いている姿を見つけた。
バレルクは魔物達に見つからないように、その親子に近づいた。
「大丈夫かお嬢ちゃん。それと君の母親は‥‥‥大丈夫そうだな」
頭から血を流している母親を見て、すぐに状態を確認した。
どうやら、頭の傷以外問題なさそうなので安心した。
「あの、ピエロおじさん助けてください! まだ闘技場にピエロのお兄ちゃんが‥‥‥」
「なに!」
話を聞くと、どうやらロジックがまだ闘技場にいてドラゴンを相手にしていると言う。
ばかな‥‥‥。ただのピエロがドラゴン相手に勝てるわけがないだろう。
なんにしても早く息子を見つけて回収しなければ。
「お嬢ちゃん。どこから会場から出たんだ?」
「あっちです!」
バレルクは少女が指をさした方向を見て、そして改めて少女を見た。
「よし。ならばそこに案内してくれないか。そのピエロのお兄ちゃんとやらを回収してから、一緒に逃げよう!」
「う、うん! こっちだよ!!」
バレルクはその少女の母親を自分の背中に担いで歩き出した。
「ん?」
少女に案内されて歩くバレルクは、風を切るような音が聞こえて上を向いた。
すると何かが空を飛んで落ちている者を見かけた。
「あれは‥‥‥ロジック!!」
建物を突き破って落ちた人物が息子だと分かり、バレルクは少女を呼び戻してロジックが落ちた建物へと向かった。
3階建ての建物に入り、すぐに階段をあがって息子がいる場所を探した。
荷物置き場のような部屋で、意識のないロジックを見つけた。
「おい! おいっ! 大丈夫かロジック!!」
何度か顔を叩いて意識を取り戻させようとした。
しかし、ロジックは目を覚まさなかった。
そんなロジックの体の状態を見てみると、手は折れて、服はボロボロで、体や頭からも血が出ていた。
「くっ、無茶をしおって。心配する方にもなれっというんだ!」
バレルクは、少女の母親を背負ったまま、片手でなんとかロジックを抱えて建物から出た。
「ピエロのおじさん。これからどうするの?」
少女は不安そうにバレルクの顔を見た。
「次は馬車を取りに行く。お嬢ちゃんは離れずについて来るんだぞ!!」
「うん!」
バレルクは2人を抱えながら、少女を連れて馬車を預けているリングの宿屋に向かった。
リングの宿屋に着くと裏手に行き、止めてある馬車を取りに行った。
「よし、こちらの方はまだ安全だな」
バレルクは馬車の中に少女とその母親、それとロジックを置いて、馬車の前部に乗って手綱を掴んだ。
「よし、行くぞ!!」
パシッンと手綱を振って、馬達に出発の合図を送る。
すると馬がヒヒンと鳴き、馬車が動き出した。
目指す場所は都市の南にある、たった1つの出入口の門だ。
この魔法都市の周りは厚い壁で守られている。
そのため都市の南にある出入口の門からでしか外へ出る方法がない。
俺達やあらくれサーカス団の皆、都市の民衆や観光客達もこの都市から出るために、そこへ目指して走っているだろう。
「走れ!! 走れ!! 魔物など無視だ!!」
バレルク達が乗る馬車は、魔物などに構わずに、ものすごい速さで通り過ぎていった。
「それにしても警備隊はどうした。魔法市長も何をしている。これでは魔法都市が壊滅してしまうぞ!!」
通常なら都市に魔物が侵入した場合は、都市内の警備を担当する戦士隊や魔法隊が対処するのだが、その動きがまったく見られない。また、都市を管理する魔法市長が何も行動して行っていないのが気になった。
魔法市長は賢者と呼ばれる、人間の中でも化け物クラスの存在だ。
賢者ほどの人物が率先して動けば、侵入してきた魔物やドラゴンなぞ、簡単に倒してこの危機的状況を打破することが可能なのに。
「もしや‥‥‥魔法市長に何かあったのか?」
この状態になっても現れないとすれば、もしかして魔法市長自身に何かがあったと考えられる。
そう、例えば‥‥‥すでに死んでいるとか。
バレルクはゴクリと唾を飲む。
そしてすぐ頭を振って、変な考えを振り払う。
まずは都市の外へ逃げる事だ‥‥‥今はそれ以外は考える必要はない。
馬車を操るバレルクは、ようやく中央通りが見えて少しほっとした。
が、すぐに顔が強張る。
その中央通りにある魔物がいたのだ。
「後は中央通りを真っ直ぐ進むだけだが‥‥‥。くっ、厄介な奴がいるな」
その大きな中央通りには1体のレッドドラゴンが炎を吹きながら荒ぶっていた。
「あそこを通るには、誰かが注意を引くしかないか‥‥‥。お嬢ちゃん、そこに大きな斧がないか? 重いだろうが持ってきてくれないか」
「うん!」
馬車の中で少女が「うんしょ、うんしょ」と引きずるように大きな斧を持ってきた。
バレルクはそれを手に持った。
「よーし、あとお嬢ちゃん。もう1つお願いがある」
「うん、私なんでもやるよ!!」
「よしよし、いい子だ。これからピエロのおじさんは、あそこにいるドラゴンさんとちょっとだけ遊ぶから、その間にこの手綱を掴んで馬車を動かし、真っ直ぐ走らせて都市の外に出ていってほしいんだ」
「だ、だめだよ! 危ないよ。あのドラゴンは会場にもいたけど、とても危険なんだよ!!」
「大丈夫、大丈夫。ピエロのおじさんはとっても逃げ足が速い。ドラゴンの攻撃なぞ、ピュッピュッと避けちまうから大丈夫だぜ」
「で、でも‥‥‥」
「なに、少し遊んだら、おじさんもすぐに逃げるから大丈夫。外で合流しような」
そう言って少女を持ち上げ、馬車の前部に置いてから手綱を持たせた。
それから少女の頭をやさしく撫でた。
「なーに、おじさんは勇気あるマスターピエロだからね。あのドラゴンなど簡単に倒しちゃうかもしれないぞ。わっはっはっ。では、後は頼んだぞ、お嬢ちゃん!」
「う、うん。すぐに追ってきてね、ピエロのおじさん」
ニコっと微笑んだバレルクは馬車から降りた。
そして、大きな斧を片手にドラゴンに向かって歩き出した。
「さてと、どうしたものか」
バレルクはレッドドラゴンという強敵に対して、どのように戦えばいいか考えていた。
この戦いは、勝つのが目的ではない。
バレルクがレッドドラゴンの気を引いてる間に、馬車が無事に中央通りを進んで、都市から出る事が目的となる。
「よし、こうするか」
バレルクは作戦を頭の中で考えた。
まずはレッドドラゴンを1度攻撃して気を引く。
それからすぐに都市出口とは反対方向に逃げて、追ってくるレッドドラゴンを撒く。
その後に、魔物達を避けて迂回しつつ、都市の外を目指して走る。
この手順で行く事に決めた。
「では行くぞ。おらっ!!」
バレルクは勢いよく走って、レッドドラゴンの死角から強烈な一撃を食らわせた。
「グゴォォォォ!!」
全力で振り下ろした斧はドラゴンの皮膚に浅い傷つけた。
その掠り傷でレッドドラゴンは怒りの咆哮をあげた。
「おいおい、こんなに硬いのかよ」
バレルクは顔を引きつらせた。
ドラゴンの皮膚はとても硬いとは聞いていたが、全力で振り下ろして、掠り傷程度しかダメージを与えられないとは思わなかった。
「グルゥルゥゥゥ」
「お、おっと、では一旦逃げるとしようか」
怒りに満ちたレッドドラゴンに思わず後退りをしたバレルク。
すぐに馬車に乗ってる少女に出口を指差して指示した。
それからすぐに別の方向へと逃げ出した。
逃げ出したバレルクを見たレッドドラゴンは、怒りの咆哮あげながら追っていった。
「よーしいいぞ、ついて来い。むぅ!!」
激しい炎がバレルクのすぐ横を通り抜ける。
そしてその熱風で吹き飛ばされる。
「ぐぉっ!!」
地面に転がりながらも、レッドドラゴンから離れる事を意識して体を回転させる。
そして体を起こしてすぐ体勢を整えてまた走り出す。
飛ばしてくる炎を気にしながら、全速力で走って逃げる。
そして気がつけば大会会場付近まで逃げてきていた。
「ふぅ、俺を見失ったか‥‥‥。後は遠回りになるが、ドラゴンや魔物らを避けて別の道から行くとするか」
レッドドラゴンからうまく逃げたバレルクは、息を吐いて、少し足を止めた。
少しだけの休息。だがすぐ近くの大会会場から咆哮が上がった。
「むぅ。ここにもドラゴンがいるのだったか。急いで離れねば」
追いかけてきたレッドドラゴンの事ばかり考えていたので、うっかりと大会会場にもいることを忘れていた。
バレルクは、すぐにでも闘技場から離れなければならないと考えている、いきなり会場の壁が吹っ飛び、こちらに向かって瓦礫が降ってきた。
「なっ!!」
突然の事で驚き、バレルクは反応が遅れて飛んできた瓦礫を避けることが出来なかった。
「がぁっ、くぅ‥‥‥」
その瓦礫はバレルクの右足に当り、潰されてしまった。
潰されたあまりの痛みに、声を失った。
そして、そんなバレルクの前に巨大なレッドドラゴンが会場から現れた。
「ぐぅ‥‥‥はぁはぁ、おいおい、まいったな」
足を押し潰していた瓦礫を何とか取り除いたが、逃げるための足が潰されて動けない。
「まいったな‥‥‥はっ、はっ、本当に、まいったな」
潰された足から大量の血が流れて、痛みと失血でうまく頭が回らなかった。
そんな呆然としているバレルクを見てたレッドドラゴンは、ゆっくりと口を開いた。
「やばい‥‥‥なっ」
焦るバレルクは咄嗟に革袋に入っている魔法の玉を思い出した。
そして一か八かの賭けにでた。
「まだ、こんな所では死ねん。妻との約束があるのでなっ!!」
そう言って、バレルクは魔法の玉を取り出して全力で魔法を放った。
「アイスショット!!」
「グギィィィィ!!」
レッドドラゴンの両目に直撃すると、悲鳴を上げるように叫んだ。
「よし、今だ」
目を潰した今なら、近くの建物に入って隠れれば、やり過ごす事が出来る。
だが、そのためにはなんとか移動しなければならなかった。
その移動する方法は‥‥‥それは一つしかなかった。
それは魔法の玉を浮かして、それに乗って動かすといった移動方法だ。
これは馬車の中でロジックが時折やっていた事だ。
浮かせた魔法の玉に乗って、自由に移動する。
この状況で、バレルクはそれをしてみることにした。
‥‥‥が、しかし。魔法の玉に乗ることは出来たが、動かす事が出来なかった。
「進め!! ゆけぇ!! 行くんだ!!」
どれだけ叫んでも、動くように念じても、魔法の玉は動かなかった。
「ちぃ‥‥‥ダメか。しかし、これ以外に方法が」
「フシューグルルゥゥ!!」
バレルクは振り向いた。
レッドドラゴンの目の状態は回復していた。
ドラゴン族には自己回復を持っていたのだ。
そんな回復した目でバレルクを見つめていた。
「なんてことだ‥‥‥」
そして‥‥‥。バレルクに向かって極熱の炎を吐き出した。
そのジューっと激しく焼くような音が聞こえた。それは地面であり、空気であり、そしてバレルクの体の音でもあった。
「アァ‥‥‥アリス‥‥‥」
バレルクは全てを溶かすような炎に包まれていった。
意識が薄れていく中で、昔の記憶が走馬灯のように蘇ってきた。それは妻アリスの結婚した事、そして赤ん坊が生まれた事、トム座長達と出会った事、そしてアリスが死んでしまった事。そんな昔の記憶が駆け巡り、少しづつ真っ白になって意識が落ちようとしていた。
そんな中で、バレルクは目の前に魔法の玉が浮かんでいることに気がついた。
その魔法の玉は、バレルクが生まれた時に作られた物。両親から渡されて、そして今までずーっと大切に持っていた魔法の玉。魔法使いの道を諦めても、決して手放す事がなかった。この魔法の玉はバレルクにとって、常に傍にいる相棒のような物だ。
そう、バレルクにとっての大切な相棒だ。だから。
相棒よ、俺の代わりに息子を見ていてやってくれないか‥‥‥。
溶けるような熱の中で、バレルクは最後の力を振り絞って、自分の魔法の玉を「息子へ」と飛ばした。
飛んでいった魔法の玉を、薄らいだ意識の中で見たバレルクは満足をしたように炎に身を委ねたのだった。




