魔法都市壊滅 前編
少し離れた場所から花火の音と歓声が聞こえてきた。
「おや、魔法大会が始まったようですね」
「ですな。少し見たかった気がしますが。こちらも忙しいですからなぁ」
「今日の夜が本番ですからね。とても忙しいです‥‥‥が、ロジック君の勇姿を見たかったですね。あーと、照明が外れますよ、あと音楽が踊りとずれてますよ!」
バレルクとトム座長は、今日の夜にサーカスの開演をするため、テントの中でリハーサルをおこなっていた。
今はティティとアレクが大舞台の上で踊りを披露しているところを、トム座長が色々と指示をしながら調整を行っていた。
「やぁやぁ、トム団長。そちらの調子は良さそうですな」
「これはこれは、ヤスダ団長。まだ調整は必要ですけど、いい感じですよ」
今回、あらくれサーカス団と共に興行を行う、ヤスダサーカス団の団長が舞台を見ながらやってきた。
「それでトム団長。次はうちが使っても宜しいかな。我々もリハーサルを行いたくてね」
「もちろんだとも。うちのダンサーの演技の調整が終わりしだい、ヤスダサーカス団が使ってくれたまえ」
「それはありがたい。我われは前座ではあるが、きっちりと仕事はしたいものですからな」
「ほうほう。それは是非とも頑張ってくださいね。最後はこちらの方できっちり終わらせますから」
トム座長とヤスダ団長はニコニコと微笑みながら握手した。ぐっと強く握りしめながら。
今回の興行は2つのサーカス団が合同で行う。そのため2部構成で演技が行われる。
最初はヤスダサーカス団で始まり、最後にあらくれサーカス団だ終わる。
主導権はあらくれサーカス団にあるので、出番としては美味しい部分をいただく形になっている。
簡単な挨拶を終えた座長と団長は、軽く話し合い、そして笑いながら別れた。
「んー、仲が良いことですな」
バレルクは、トム座長とヤスダ団長の会話にトゲがあるにも関わらず、最後には笑って別れたのを見てそう思った。
「実は、彼とは同い年で幼馴染だったりします」
「えっ、そうなんですかい?」
「見えませんでしたか?」
「いや、そう聞けば、そんな感じがしますよ。わはっはっ」
トム座長が老けているので、親子の差ぐらい離れているように見えた‥‥‥なんて言えないバレルクだった。
「2人共ちゃんと見てたー?」
演技を終えたティティとアレクは、舞台からバレルクとトム座長を不満そうに見て言った。
「ああ、もちろんだとも」
「あら、本当ですか? バレルクさんは見ていたけど、トム座長はヤスダ団長と話していて見ていなかった気がするのだけど」
「えっ、そ、そんなことないとも。話しながら見ていましたとも!」
「まぁ、いいじゃないか姉さん。トム座長、というわけでこっちは問題ないですよ」
アレクが軽く収めて、両腕を組んだ。
「それで、バレルクさん、そろそろ終わった頃かな?」
「ん? なにがだ」
「そりゃ、ロジックの試合ですよ」
「そうだな。今頃丁度やってる頃じゃないか。試合順で言うと4番目とか言ってたからな」
そんな会話にティティも入ってきた。
「ロジックはちゃんと出来てるかしら。大勢の前で緊張して固まってるんじゃない?」
「なに、我が息子はちゃんとやれるさ。逆に楽しんでいるんじゃないかな」
「ははっ、そして調子に乗ってる姿が思い浮かぶな」
アレクは、調子に乗ってるロジックの姿を想像して笑った。
「ありうるな。宣伝することも忘れてるかもしれんな。そうだとしたら、あいつの頭に拳骨を落としてやらんとな」
バレルクは手をぐっと握り、振り下ろすポーズを見せた。
それを見たトム座長達は笑った。
「なんの話してるじゃん?」
「なんの話をしているじゃじゃん?」
「こっちの準備を終わったわいの」
「ニャー」
ベルニーニとバルク、それにフレディとネコ達は各自の準備を終えてやってきた。
「いや、なに我が息子の事を‥‥‥ん?」
突然、ドドドドドドッと大きな地震が起こった。
「キャ」
「おわっ!!」
「うおぉ、なんだ!!」
大地が揺れる中、皆は転ばないように足を広げてバランスをとった。
「グゴォォォォッォ!!」
地震が収まった後、どこからか大きな咆哮が魔法都市全体に響きわたった。
「おいおい、なんだあの声は!」
「なに、なんの声なの。動物?」
アレクとティティは不安そうに声に出した。
「もしかして‥‥‥大会会場からか」
バレルクは、声の聞こえる方向から大会会場の闘技場ではないかと思い、1度テントの外に出て確認しようと歩き出した。すると‥‥‥。
ドドドドドドッ。
また大きな地震が起きた。今度は先ほどよりもっと大きかった。
「うぉ! またか!!」
ドドドドドドッ、ドッゴン!!
その瞬間、あらくれサーカス団の皆がいるテントの中、その大舞台がいきなり火をあげて爆発した。
「んなっ!!」
「えっ!」
「なにぃ!」
今日のサーカスで必要な大舞台。
それが今、目の前で爆発して燃えて吹っ飛んでいった。
今まで苦労して作った舞台が粉々に飛び散っていく。
だがそんな舞台より、サーカス団の皆は違うものを見て驚愕していた。
「グゴォォォォッォ!!」
大きな咆哮を出したそいつは。壊れた舞台から体を捩じらせて出てきた。
それから顔を上にあげて、咆哮とともに激しい炎を吐き出した。
「フゴォォォォゴー!!」
上へと燃え上がった炎はサーカスのテントの天井を突き破り、テントが燃えて倒れ始めた。
「きゃーーー!!」
「に、逃げろ!!」
テントの中にいた人達は悲鳴を上げて逃げ出した。
あらくれサーカス団の皆も急いでテントの外へと走り出した。
「はぁはぁ、皆さん大丈夫ですか?」
テントの外に脱出したあらくれサーカス団の皆は、全員が無事かどうかを確認した。
団員達は膝をついて、息を荒げながら頭を縦に振った。
「ふぅ。トム座長、皆大丈夫そうです」
「それは良かったです。しかし、あれはいったい何ですか? うわっ!!」
倒れたテントが激しく燃え始めた。そしてその中心で大きな何かが何度も咆哮を上げて、炎をまき散らした。
「あれはレッドドラゴンだ‥‥‥なぜこんなところに」
「バレルク、知ってるのですか?」
「ええ、まぁ名前だけは。サツマ火山を住処にするとても凶悪で恐ろしく強いドラゴンです」
「ド、ドラゴン‥‥‥ですか。その、あれを倒せそうですか?」
「無理ですよトム座長。あれを相手に出来るのは、人間の化け物クラスの勇者とか賢者とかそういった奴らぐらいですよ。今は逃げるしかありません。急ぎましょう!」
「そ、そうですか。しかし、その‥‥‥」
せっかく魔法都市ハリーに来て、最高の運を出して最良の場所を借りることが出来た。
後はここで興行を成功させれれば、今までの色んな苦労も報われるはずだった。
そうなるはずだったのに、突然現れたレッドドラゴンによってすべてが燃やされてしまう。
この事が、あまりにも突然の事だったので、トム座長はなかなか割り切ることが出来なかった。
「トム座長。命あっての物種ですよ!! また次があります。だから今はどこかに逃げましょう!」
「わ‥‥‥かりました。逃げましょう」
そう言って、トム座長は周りを見た。
激しく燃えているテントと、そこから脱出したヤスダサーカス団の皆や手伝いの人達が逃げていた。
「グゴォォ!!」
「ガゴォォォォォ!!」
都市のあちらこちらに炎が上がった。
そして、いくつもの咆哮もあがった。
「なっ、いったいこの魔法都市でなにが起こっているのですか‥‥‥」
「‥‥‥いかんな。トム座長これは魔法都市ハリーから逃げた方がいいかもしれません。都市全体がやばいことになっている」
目の前で燃えているテントだけじゃない。大会会場や中央広場、住宅街や商店街などが激しく燃えて、都市全体が火の色に染まってきた。
そして魔物はレッドドラゴンだけじゃなく、多種多様の魔物まで現れるようになった。
「わかりました。そうしましょう! それではバレルクはロジック君と合流して、都市の外へと避難してください。私達も馬車を取りに行ってから急いで外へと行きます」
「いや、トム座長。俺が馬車を取りに行きます。今から馬車を取りに行くのは危険すぎるので俺がやります。トム座長は皆と共にいち早く、外へと逃げてください!」
「いや、しかし。それではバレルクの負担が‥‥‥」
トム座長とバレルクが話していると、レッドドラゴンがこちらを見て近づいてきた。
「いかん! お前ら。トム座長と共に先に行け!」
「わかったわいの。バレルク無茶をするなよ!」
フレディがトム座長を片手で担いで、都市の出口目指して走り出した。
「バレルクさん、また外で!」
「バレルク、ロジックをちゃんと連れて来てね!」
ティティとアレクも走り出した。
「先行くぜバレルク。後でまた会うぜい」
「まただぜぃぜぃ!!」
ベルニーニとバルタも皆の後についていった。
「さてと、俺もさっさと‥‥‥」
バレルクも大会会場を目指して走り出そうとすると、レッドドラゴンがトム座長達に顔を向けて、口をひらいた。
それを見たバレルクは、焦りながら武器になる物を探した。
「い、いかん!! こんな時に限って武器がない。仕方ない」
バレルクは腰の革袋から魔法の玉を出して、レッドドラゴンの顔目掛けて魔法を放った。
「魔法は得意ではないが、ドラゴンこっちだ! アイスショット!!」
「ングゴォォ!」
攻撃を受けたレッドドラゴンは、開けた口をバレルクに向けて、そして極熱の炎を出した。
「つぅ、そうなるわなぁ!!」
バレルクは前傾姿勢になりながら全力で走り、前へ飛ぶように前転をした。
その瞬間、バレルクの後ろが激しい音とともに炎で焼けた。
「おぉと、あぶねぇ! んじゃ、後は逃げるが勝ちよ」
トム座長達が見えなくなったのを確認したバレルクは、すぐに体勢を整えてレッドドラゴンから逃げるように走った。
そして、息子がいる大会会場へと向かって行った。




