戦闘不能
舞台に突然の現れたドラゴンは、咆哮をあげ、激しい炎を観客席に向かって吐き出した。
「ギャァァァァァァ!!」
極熱のブレスが大勢の人を焼き尽くした。
驚きのまま固まっていた観客達は、炎で黒く焼けていった人達を見て大きな悲鳴をあげた。
「ド、ド、ドラゴンだ!!」
「皆逃げろぉ!!」
観客達は会場の出入口を目指して走り出した。
そんな逃げる人達に気づいたドラゴンは、顔を逃げている人達に方へ向けて激しい炎を吹いた。
「ギャァァァァ!!」
「イヤァァァァ!!」
それにあてられたて、熱によって真っ黒に焦げていく人達。
その余波だけで、服が燃えて体に火で包まれる人達。
その姿を見て、恐怖で悲鳴をあげて逃げ惑う人達。
突如として魔法大会の会場が火の地獄と化して、大勢の人達が死んでいった。
俺もまた、驚きと恐怖にとらわれて、この地獄から逃げるため、出口の場所を探していた。
「どうしてこうなった‥‥‥」
先程まで、この会場は笑顔と笑いで溢れていた。
俺自身も大勢にみられる中で、舞台で楽しい一時を過ごしていた。
とても楽しい時間だった。
それなのに、どうしていきなり舞台が爆発してドラゴンという最悪な魔物が現れるんだ?
「つぅ、痛てぇ」
俺は爆発の衝撃と観客席の足場に体を強く打ちつけたせいで、あちこちがズキズキと痛み出した。
「グゴォォォォッォ!!」
ドラゴンの凄まじい大きい咆哮に、耳どころか、頭がおかしくなりそうだった。
そして咆哮と同時にどこかに向かって激しい炎を吹き出した。
炎を吐き出す音が聞こえると、俺は反射的にしゃがんだ。
するとすぐ近くの観客席の一部が溶解して、その周りを炎の波で燃やしていった。
その燃えている中では、また悲鳴と倒れる音が聞こえた。
‥‥‥やばい、マジでやばい。
俺は冷や汗を出しながら4足歩行で動き、少しづつ出口の方向へと進んで行った。
俺がドラゴンに気づかれないよう出口へ向かっていると、観客席に8人の魔法使いが現れた。
彼らの手には魔法の玉を2つ付けた杖を持っていた。
8人の魔法使い達全員が強力な大魔法使いだった。
そんな大魔法使い達は、ドラゴンを見て苦虫を噛み潰したような顔をした。
「なんと、なぜ凶悪なドラゴンが、いやレッドドラゴンか」
「レッドドラゴンか‥‥‥。私達で上位のドラゴンをやれるのか?」
「やるしかないだろう。ここで倒さなければ、魔法都市ハリーが壊滅してしまう」
「うむ。さとなると奴倒すには弱点で攻めるしかないだろうが、氷もしくは水と言ったところか」
「お前さん達、そっちの系統は使えるか?」
「ああ、問題ない!」
「なら同時に放って一気に倒す。これでどうじゃろう?」
「うむうむ! それでよかろう。では魔法市長に恩を売ってやるとしましょうかの」
「よし、皆やるぞ!」
「おおぉ!!」
大魔法使い達は杖先をレッドドラゴン向けて呪文を唱え始めた。
それに気づいたレッドドラゴンは、魔法使い達に顔を向けて口を開いた。
そして極熱の炎を吹き出した。
「よくぞ、皆の者! アイシクルエッジ!!」
「こっちはジェットウォーターだ!!」
大魔法使い達の放たれた魔法がドラゴンの極熱の炎と衝突した。
熱と氷に水の衝突で、大量の水蒸気と爆発が発生した。
すると辺り一帯が白い霧で見えなくなった。
「くっ、相殺されたか」
「全員で攻撃したのに、押しきれんとは」
「やっぱりドラゴン系は化け物ばかりだな」
「焦るな! もう1度やるぞ」
魔法が相殺されて困惑した魔法使い達だったが、すぐに気を取り戻して魔法を唱え始めた。
霧が晴れてくるとすぐ魔法使い達は魔法を唱えた。
「今度こそ! アイシクルエッジ!!」
「ジェットウォータだぁ・・・あ?」
彼らが再度魔法を放とうとする瞬間。レッドドラゴンは後ろを向いていた。
そしてドラゴンの長いしっぽがU字形にしなり、それが弾けるように魔法使い達に向かって振り回された。
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魔法を唱えた瞬間だった彼らは体が硬直して、ドラゴンのしっぽを避ける事が出来ず、皆腹から真っ二つに引き裂かれて飛び散っていった。
そして止めを刺すかのように、極熱の炎を吹いて黒焦げにしていった。
「は、はぁ‥‥‥」
大魔法使い達がレッドドラゴンに殺される姿を見ていた俺は、信じられない思いでポカーンと口を開けていた。
ガシャガラガラガラ。
「ああっ!!」
そんな中、先ほどの大魔法使い達とレッドドラゴンの戦いで、外に繋がる観客席の出入口が崩れていった。
‥‥‥俺の逃げ道がなくなってしまった。
「やべぇ、どうしよう」
俺はどうやってこの場から逃げればいいか思いつかず、しゃがみこんだ。
‥‥‥出入口が潰れてしまった。となるとあとは選手出入口だけど、そこも今は炎の地獄と化している。なら後は‥‥‥。
俺は闘技場の観客席の一番後ろにある内壁を見た。
そこは一段と高い石壁になっていて、外に出るにはその壁を乗り越えて、そして降りなければいけない。
しかしだ、そもそも観客席は地上から4メートルほどの高さにある。
それに加えて高い内壁を上がってから降りるとなると、かなりの高さだ。降りることが出来ないだろう。
「ん、あそこは‥‥‥。よし!」
何気なく辺りを見回した俺は、とある場所を見て良い考えを思いついた。
その場所は、レッドドラゴンの出した極熱の炎でポッカリと穴があいた石壁。
それから俺の前で浮かせている魔法の玉を見た。
「あの穴から、魔法の玉に乗って外へと降りる‥‥‥。これならいけそうだ」
早速行動しようと、俺はゴキブリの如く4足歩行でカサコソとその場所へ向かっていった。
するとその途中、声が耳に入って来た。
小さく泣く声だ。
俺は‥‥‥無視することが出来ず、その音に惹かれるようにカサコソと向かった。
そこには泣いている小さな少女と、倒れている女性がいた。
「うっう、おかぁさん、おかぁさん」
俺はその少女に近づいて、それから女性‥‥‥その子の母親を見た。
倒れている母親は頭から血を流していたまま目を瞑っていた。
俺は母親の心臓の辺りに耳を近づけて、心臓が動いているかどうかを確かめた。
ドクドクと心臓の鳴る音を確認して、俺は少女の頭を撫でて言った。
「大丈夫。軽く頭をぶつけて気絶しているだけだよ。すぐに目を覚ますよ」
「うぅ、本当? ピエロさん、お母さん大丈夫?」
「ああ、もちろん本当だよ。ピエロは冗談入っても嘘は言わないよ」
俺がその子に笑ってもらえるよう、変な顔をしながら「ホントだよ」と言った。
すると少女は、泣いた顔から少し笑ったような笑顔になった。
‥‥‥この少女と母親も絶対に助けないといけないな。
「さぁお嬢ちゃん。ピエロの後をついてきて」
俺は少女の母親を背負って、レッドドラゴンに気づかれないようにゆっくりと、コソコソと、静かに穴の開いた壁に近づいた。
「よし、熱いが‥‥‥通れないほどではないな」
極熱の炎で出来た穴だから、出来た瞬間は入れそうになかったけど、今はある程度冷めていた。
‥‥‥さてと、後はこの2人を担いで魔法の玉に乗って、下へと降りるだけだが。
「なんとか行けそうだな‥‥‥」
この危険な場所から逃げられる。
そう思って、俺はほっと気を緩めて息を吐いた。
そんな時。
「フシュー、グゴォォォォッォ!!」
レッドドラゴンの大きな咆哮が鳴り響いた。
俺は何かの視線を感じて振り向いた。
「‥‥‥やべぇ」
レッドドラゴンがこちらを見ていた。
俺はすぐに少女を魔法の玉に乗せて、その上に被せるように母親も乗せた。
「お嬢ちゃん、絶対母親を落とすなよ!!」
「うん、わかった。ピエロさんは?」
「ほら、いいから行けぇ!!」
2人を乗せた魔法の玉を会場の外へと飛ばした。
そして俺は‥‥‥そう俺は観客席の椅子を避けながら横に全力で走った、
その瞬間。俺のいた場所に極熱の炎が飛んできた。
俺はその余波の熱風に吹き飛ばされた。
ガッシャンガラガラと観客席に並べられている椅子と絡まりながら転がった。
「痛っーだが俺の判断は間違ってなかったな。もし俺も魔法の玉に乗っていたら、3人とも黒焦げになっていたぞ」
魔法の玉に3人も乗ると、動かすのに時間がかかってしまう。
そのため、自分は乗らずに2人だけ外へと飛ばしたのだ。
「ふぅふぅ。しかし、やばいぞ。いつぞやの巨人とは全然違うぞ」
かつて森で戦った巨人ギガースは、やばいと思いつつもまだ立ち向かえた。
だけど、今俺の目の前にいるドラゴンは無理。
勝てる気なんて一切しなかった。
それに、いま俺の手元には魔法の玉がない。
戦う手段がない状態だ。これはもう、逃げるしか出来ない。
‥‥‥だが、どうやって逃げる?
「フシュー。グルグルグルグッ」
首を伸ばしたレッドドラゴンは改めて俺を見てくる。
「わぁはっは‥‥‥すげぇ、大きい」
俺は首を伸ばすドラゴンを見上げながら、すぐに走り始めた。
「グゴォォォォォ!!」
咆哮とともに、激しい炎が口から吹き出す。
俺はそれを飛ぶように走り、決して止まらないように全速力でレッドドラゴンの周りを回った。
すると、フワフワと魔法の玉が俺の手元に戻ってきた。
あの少女と母親を外に逃がす事が出来たようだ。
なら、後は俺だけだ。
「よし‥‥‥あっ」
俺は魔法の玉を持って内壁の穴に向かって走りだしす。
するとレッドドラゴンは長いしっぽを俺目掛けて振ってきた。
その時、俺はあの瞬間を思い出した。
それはレッドドラゴンのしっぽで横に真っ二つに千切れ飛んだ大魔法使い達のあの瞬間を。
‥‥‥もしこれにあたったら、俺も真っ二つに。
「まっ、魔法の玉よ!!」
俺はそのしっぽに全力で魔法の玉をぶつけた。がしかし、向かってくる速度は緩んだけど、それでも関係ないと言わんばかりにしっぽが振り抜かれた。
バキバキッバキ。
「ぐげっっ」
レッドドラゴンのしっぽによって手と脇腹の骨を砕かれた。
そして放物線を描くように高く飛ばされ、会場の外へと飛ばされて落ちていった。
ガシャン!!
「あっ、がっあ‥‥‥」
俺は外にある建物に突っ込んだ。
ああ、なんだか視界が真っ白になっていく‥‥‥。
そう思いながら俺はゆっくりと意識をなくしていった。




