時計台での出来事
魔法都市ハリーの象徴ともいえる大きな時計台。
その最上階にある部屋で1人の老人が都市を見下ろしていた。
その老人の名前はホグワーツ。
魔法都市ハリーを治める魔法市長で、3つの魔法の玉を操る魔法使いの最高位である賢者様でもあった。
「‥‥‥うむ」
今日から始まる魔法大会により都市全体は活気づいていた。
そんな魔法都市を見ながらホグワーツは、長い顎鬚を撫でて先ほど秘書が持ってきた緊急報告に頭を悩ませていた。
「‥‥‥さてと、どう対処をするべきか」
ホグワーツは目線をあげて、バードリ王国の方角を見た。
魔法都市ハリーとバードリ王国は隣り合っており、その国境付近にはマジノラインと呼ばれる複合要塞と石壁の防衛線がひかれていた。
これはバードリ王国から攻めてくる魔王軍の魔物に対抗するもので、攻めてきた場合は要塞内で待機している戦士隊500と魔法隊200、それと魔道砲と呼ばれる魔力で動く大型兵器で対処をしてきた。
幾度なる侵攻にも対処出来ていたので、ホグワーツは安心していた。
3日前。
今回もまたバードリ王国方面から多くの魔物が現れたとの報告がくると、ホグワーツはいつもの通り対処せよと命令した。
これで問題なく魔王軍は追い返せると思っていた。
しかし、今回はいつもと様子が違っていた。
なぜなら魔王軍は攻めては来なかったのだ。
戦わずに、マジノラインから離れた場所にじっと居座っているのだ。
なにかを待っているかのように、じっとしていた。
そして今日。
ホグワーツのもとに魔王軍が消えたと前線から報告がきた。
その報告と合わせて、国境付近とその一帯で激しい地震が起きていると。
「魔王軍が消えた、それと地震か。‥‥‥うーむ、やつら何をしようとしている」
魔王軍の何らかの思惑があると感じたホグワーツだが、それが何であるかを分からないでいた。
なにか、その思惑をすぐに気づかないと恐ろしい事になる。
そんな予感めいた思いと焦燥感で頭を悩ませていた。
「やっぱり気になる?」
後ろから声が聞こえて驚いた。
ホグワーツはすぐに後ろに振り向いた。
部屋のドアの前に1人。道化師の姿をした少年が立っていた。
「何者だ? どうやってこの部屋に入った」
この部屋、魔法市長室のドアには強力な魔力の鍵がかかっている。
ホグワーツが魔法で鍵を解除しないと部屋に入れないはずだが、なぜか道化師の少年が部屋の中に入っていた。
「にひひっ、無理やり開けちゃった。ごめんね。それと僕はデスピエロちゃん。宜しくねー」
「‥‥‥何用だ」
ホグワーツは、デスピエロと名のる道化師を注視しながら、机に立て掛けていた杖を持った。
「んとね。魔法市長様からサーカスをするための許可を貰いに来たんだ。ちなみにサーカス会場の場所はここ、魔法都市ハリー全部。ねぇ、許可してくれるよね?」
ふざけた様に体を動かすデスピエロは、人差し指を口元に当ててニィっと笑う。
「むぅ‥‥‥」
その笑顔にホグワーツはぞっとして冷や汗をかいた。
なにかデスピエロが途轍もなく恐ろしい存在に見えて背筋を凍らせた。
「そうだ、魔法市長様も一緒にこの特等席から見ようよ。時計台なら良く見えるからね」
「何を言っているかわからんが、お主に許可はやらん。とっと出ていくがよい」
「えーそんな事言わないでよ。すでにお客さんをご招待してるんだしさぁ」
ニヤニヤと笑うデスピエロはホグワーツに向かって歩き、近づいていく。
「待て! 近寄るな。これ以上近寄るなら力を行使するぞ」
そう言って、ホグワーツは魔法の玉を3つ付けた杖、その名もトリプルハーケンをドンと床を叩いた。
「わぁお! 怖いなぁ。僕はただ魔法市長様と一緒にサーカスを見たいだけなんだけどなぁ。ねぇねぇ、僕と一緒に見ようよ。すっごくいい感じになってるからさ!」
デスピエロは手を広げて、ふざけた様に笑いながら、さらに一歩足を踏み出す。
その瞬間、ホグワーツは道化師に向けて殺気を出した。
部屋全体が凍り付くような雰囲気が広がった。
目を大きく開いたホグワーツは両手でトリプルハーケンを持ち、その杖先をデスピエロに向けた。
「冷やせよ冷えろ。凍れ凍れ。その氷の炎で凍てつかせろ。アイスフレアー!!」
呪文を唱えると、トリプルハーケンの3つの魔法の玉から氷の炎が噴き出して、それが3つ絡み合い、ねじれるようにデスピエロに放たれた。
「むぅぅぅぅ!」
非常に強力な氷の炎に、杖を持ったホグワーツの手を凍らせた。
普段なら自身にダメージを負わないように魔法を制御して放つのだけど、近づいてくるデスピエロの異様な雰囲気が、直観的に全力で魔法を撃たなければいけないと判断したのだ。
全力の氷の魔法で部屋を凍てつかせていく。
そんな氷の炎に当てられながら、デスピエロは笑顔で手を広げていた。
「なに!?」
魔力の放出が限界点に達して、氷の炎の放出が止まってしまった。
ホグワーツは、魔力を大量に使い、激しい疲労感が表れて荒い息を吐いた。
「いやー、すごく寒かったよ。流石は賢者様でもあるね。だけど残念、これじゃ僕を倒せない」
デスピエロはそう言いながら、体の周りに浮遊させている5つの丸い玉をクルクルと回した。
「そんな馬鹿な‥‥‥」
デスピエロの周りで浮いている玉を見てホグワーツは驚愕した。
「いや、ありえん。そんな馬鹿な‥‥‥」
認められない、信じられない現実にホグワーツは後退りをした。
この世界の魔法使いは、魔法の玉の数で実力がわかるという。
そしてこんな数え歌もある。
1に魔法使い、2に大魔法使い、3つで最後の賢者様。といった短い歌だ。
魔法使いにとって賢者こそが最高クラスで、そこが人で到達しうる限界点。
すべての魔法使いが偉大なる賢者を尊敬して、崇拝し、そして目標になっている。
そんな3つの魔法の玉を操る偉大なる賢者の前で、5つの魔法の玉を浮かせているデスピエロがいる。
「さてと、次は僕の番だよね。にひひっ、それじゃ頑張って耐えてね」
お道化た様にポーズをしたデスピエロは、5つの魔法の玉をジャグリングをしているように手の上で回した。
ホグワーツは混乱した。
目の前でありえなかった事が起こっている。
そう何度も何度も頭の中で同じ言葉をくり返しながら、ふと、あることを思い出した。
それはとある童話の物語。
その童話にはこんな数え歌がある。
魔法使いにとって信じられない数え歌。
絶対無理だと考えられ、忘れ去られてしまったもう1つの魔法の玉の数え歌。
1に魔法使いで、2に大魔法使い。3,4の賢者に、最後の5つでマスターピエロ様。
「さぁ、僕と一緒に味わおう。天国の寒さを。オーバーデスフリーズ」
「ま、まさか。くっ、レジスト!!」
デスピエロが回す魔法の玉から、想像も出来ないぐらいの凍てつく冷気が噴き出した。
その攻撃を何とか防ごうと、ホグワーツは全ての魔力をトリプルハーケンに入れて放った‥‥‥が、オーバーデスフリーズの威力は想像以上に強力で、相殺をすることが叶わずに手から順に体を白く、冷たく、凍てつかせていった。
「どう? 天国って結構寒いよね。僕もこんなに薄着だから‥‥‥ってアレ?」
デスピエロはホグワーツに近づいて、コンコンと額を叩いた。
ホグワーツの体は氷の彫像のように冷たくて硬くなっていた。
「あーそっか、耐えられなかったか。本当は一緒にサーカスを見たかったんだけど‥‥‥。でもまぁ、形だけでも一緒に見ようか」
デスピエロは氷の彫像になったホグワーツを「うんしょ、うんしょ」と窓際まで押していった。
「これで見えるかな?」
ホグワーツとデスピエロは並んで立ち、魔法都市ハリーを見下ろした。
「さてと、あとはサーカスの開演するまで待つとしようか。最初は動物ショーだよ。タイトルは‥‥‥そう、ドラゴンパニックだよ。にひひっ、観客の皆は喜んでくれるかな? んで、それで次はね‥‥‥」
顔を歪めて笑うデスピエロはホグワーツにこれからの始まる演目について話し始めた。
ドドドドドドっ。
突如として都市全体が地震のように揺れだした。
「あ、そろそろ始まるよ魔法市長様。さぁさぁ、サーカスの始まり始まりー!」
その瞬間。魔法大会の会場である闘技場から炎があがった。




