ピエロの神髄
「それでは、予選を突破したロジックに乾杯!!」
「乾杯!!」
会場から宿屋に帰ってきた時には辺りが暗くなってきていた。
部屋の中で待っていたあらくれサーカス団の皆に予選突破の報告すると、すぐ隣の酒場に行って祝杯をあげた。
「いやーよくやりましたよ。これで私達の興行は大繁盛間違いなしですよ」
「よくやった、我が息子。後は本戦であらくれサーカス団の宣伝をドカーンとすれば、俺達の未来は明るいぞ!!」
トム座長と親父は、俺の背中をバンバンと叩いてもう一度乾杯をした。
「ごほっ、大変だったけどなんとかね。んで、そっちの方はどうなんだ、サーカスの準備は出来たのか?」
今日の俺はずっと大会会場にいたので、トム座長が借りた場所を見ていない。
会場の近くとかしか知らないので、帰りに準備がどのくらい出来たのかを見ることが出来なかった。
「うむ。そういえば、まだロジックには言ってなかったね。今回確保した場所は思っていた以上に広くてね。あるサーカス団と協力して興行をすることになったんだよ」
‥‥‥協力?
「えっと、それだと。儲けとかどうなるんです?」
「4:6で分配することに決まりました。もちろん私達が6になりますよ」
「んー気になったんですけど。あらくれサーカス団だけでやった方が稼げるんじゃないですか?」
せっかく良い場所を確保したのだ。
うちらがその場所を独占して興行すればいい。
その方がいい稼ぎになったんじゃないかと思った。
「私もそうしたい所ですけど。残念ながら我らのあらくれサーカス団は小規模のサーカス団です。広い土地を確保しても、持て余してしまうのです。そしてなにより我らの団員は少ない。やれる事も限られています。ならば今回、他のサーカス団と協力して、大きな舞台に仕上げて興行をしたほうが、人も大勢集まるし、なによりその方が稼げるのではないかと考えたのですよ」
「なるほど‥‥‥」
「我が息子よ、そのおかげで結構大きな舞台が出来たぞ。それに大きな天幕も張っているんだぞ」
親父が手を広げて大きさを表現しながら言った。
するとティティとアレクも、親父と同じように手を広げた。
「そうね、物凄く大きなテントになったわ。なんだか私達は一流のサーカス団の一員に気分になれたわ」
「ああ、俺なんだか当日が楽しみだぜ。おい、ロジック。お前は大会という舞台で大勢の観客の前で演技をするが、俺達もサーカスの舞台の上で、大勢の観客を前にして演技が出来そうだぜ!」
そう言って「おかわり!!」と言った。
それから新しくきたビールを飲んで気分良さそうに笑った。
「俺達も気合がはいったきたぜよっ!!
「そうそう、俺達も気合がきたきたぜいよっ!!」
ベルニーニとバルタも興奮しているのか、椅子に座りながら体を左右に動かしていた。
「アルフレッドにタマにヨーゼフにラスカルの初舞台か。うむ、最初の舞台がこんなに大きいと張り切ってしまうわい」
フレディは、いつの間に増えたネコを両手に抱えて、顎でネコの頭を撫でていた。
そういえば、今のフレディの手元にいる動物はネコしかいない。
‥‥‥ネコにどんな演技をさせるんだろうか。
そう思いながら、俺はビールのなくなったジョッキを片手におかわりを酒場の亭主にお願いしたのだった。
次の日。
俺は皆と一緒にトム座長が借りた土地に向かった。
その場所は魔法大会の会場のすぐ近くにあり、すでに大きなテントがドドン!!と立っていた。
「これが、俺達のサーカスのテントなのか?」
今までとは規模が違うサーカスの舞台に驚きを隠せなかった。
「一緒にやるサーカス団がそれなりに大きいのでな、総じて舞台も大きくなった」
親父は腰を手に当てて、大きなテントを見上げた。
「さて、皆さん。すでにヤスダサーカス団が設備の準備を始めてますよ。私達も手伝いましょう!」
「おうよ!」
‥‥‥ヤスダサーカス団か。どんな人達だろう。
俺も皆と一緒にテントの中へと入ろうとする。
「いや、お前は来なくていいぞ」
「えっ?」
親父が俺を見て肩を掴んだ。
「まだ昨日の予選の疲労が残ってるのだろう? 今日はゆっくり休んで英気を養え。お前には明日の大会で大活躍をしてもらわないといけないからな!」
「確かにそうね。ロジック、今日はのんびりしなさいよ。明日は頑張ってもらわないといけないからね」
「そうそう。ここの準備は俺達でやっておくから、お前は明日の大会の準備でもしてろや」
ティティとアレクも親父の言い分に賛同するように、俺に休めと言ってきた。
「ロジック君。今日は休みなさい。もしくは、舞台に立った時の口上の練習をするのもいいですよ」
「そうだぜ、せっかくだから練習しとけよぉ」
「そうそう、練習しないと失敗しちゃうよぉ」
トム座長とベルニーニとバルタも微笑みながら言った。
「お前の本番は明日だわい。しっかりとやってもらわんといかんからの」
フレディもネコを頭に乗せながら俺に指差した。
「了解。んじゃ、お言葉に甘えて俺は明日に備えるわ」
たしかに予選の疲れが抜けきっていなかった。
それに口上の練習も不十分してなかったのでm上手く宣伝できるか少しだけ不安もあった。
「おうおう休んどけや。それじゃ行きましょうやトム座長」
「そうですねバレルク。では、皆さん行きましょう」
そう言って、俺を以外のあらくれサーカス団の皆はテントの中へ入っていった。
「‥‥‥さてと、俺は宿に戻るか」
せっかくの休みだ。
体を休ませて、明日に備えて準備をしようか。
俺は宿屋に向かって歩いた。
「マッチはいりませんか、マッチはいりませんか?」
リングの宿屋に向かっている途中、聞いたことのある声が耳に入り、俺は気になって後ろに振り向いた。
「‥‥‥あれ?」
振り向いたけど、誰もいなかった。
気のせいだったかな。そう思いつつ目線を少し上の方へあげると、大きな時計台が見えた。
「相変わらず大きな時計台だな‥‥‥あれ?」
魔法都市ハリーの特徴になっている時計台。
その時計の針の端に、誰かが踊っていた。
目を凝らしてみると、道化師の様な派手な姿をしているのがわかった。
「あれは‥‥‥ピエロかな? いったい何をしているのだろうか」
ピエロがなぜあんな場所で踊っているのかと不思議に思った。
もしかしたら高所での練習をしてるのかもしれない。
あの人物がピエロなら俺と同じ芸人だ。演技や芸の特訓でもしているのだろう。
そう思ってそのピエロを見ていると、目を瞬きをした瞬間に消えた。
「えっ!!」
時計台の針の上から消えた。
さっきまでいたのに一瞬で消えたのだ。
俺は目を擦り、改めて針の上を見た。
しかしあのピエロはいなかった。
もしかして落ちた?
いや、それなら大騒ぎになってるはずだが。
俺はおかしいなと思いつつも宿屋に帰っていった。
部屋に戻った俺は、ベッドの上に座り魔法の玉を取り出した。
「さーてと、せっかくの魔法大会だし、優勝の事も考えておかないとな」
俺の魔法大会での目的は舞台でサーカスの宣伝をする事‥‥‥なのだけど、せっかく大会に出場するのだから、戦って勝って、優勝を目指したかった。
そのためには、俺が使える魔法の種類を増やしたかった。
今の俺は、火の魔法と氷の魔法が使える。
基本的に火の魔法は相手にダメージを与える用途で、氷の魔法は相手の動きを阻害する事で使っている。
ただ、昨日の予選で分かったけど、使える魔法の種類が少ないと戦い方の幅が狭まる。
もし自分の火と氷の魔法がきかなければ、俺は相手の攻撃を避け続けて疲労を誘う‥‥‥といった手段しか思いつかない。
それにだ、もし範囲の広い魔法攻撃がきた場合は、避ける事が出来ずに俺はそこで終わってしまうだろう。
そうならないために、使える魔法の種類を増やしたかった。
「出来れば相手にダメージがとおりつつ、動きをも止めたいよな‥‥‥」
そう口に出しながら、俺は昨日の予選で戦った仮面の魔法使いの事を思い出していた。
‥‥‥ビリビリ。電気。カミナリ様。
「雷の魔法かぁ、やってみるかな」
俺は魔法の玉を両手に包んで、頭の中で想像した。
それは昨日見て味わった雷の魔法サンダーフロア。
眩い光を放ち、舞台を弾けながら進む電気。
当たれば視界は点滅して、意識が瞬間的に落ちる。
体も自由には動かず、体の部分部分に棒がさし入れられたように固くなった。
あの体感した、ビリビリといった電気を思い出して、俺は両手に力を入れた。
「‥‥‥サンダーフロア」
魔法の玉から激しい電気が真下に放たれた。
床に落ちた電機は部屋全体に走った。
「あばばばばばっ」
走った電気は、俺自身を感電させてバタリとベッドに倒れこんだ。
手足は痺れ、髪の毛がポンと破裂したようにボサボサになった。
「う、上手くいった‥‥‥が、こりゃ対策しないと自分にもダメージがいくぞ‥‥‥はぁ、いたた。こりゃ治るまで休むしかないか」
俺は痺れが治るまでベッドに横になった。
ふぅ、と息をついて目を閉じると、一瞬で眠りに落ちていった。
気がつけば夕方になっていた。
体が痺れから回復したのを確認してた俺は、次に舞台での口上のセリフの練習を始めた。
まずは、発声練習だ。
ちゃんと声が出るか、またどのような大きさで声を通すか。
そして次は、どのような口上をするか。
やっぱり、面白おかしく話す方がいいか。真面目に宣伝する方がいいか。
そうしていく内に窓の外は暗くなって、夜になっていた。
今だに皆はまだ宿屋には戻っていない。
多分、サーカスの仲間達との会合や練習、設備の設置にやることは沢山ある。
今も彼らは準備に大忙しなのだろう。
「‥‥‥明日に備えて寝るか」
俺は早めにベッドに入って、体をやすめることにした。
こうして俺の一日が終わった。
次の日。
朝早くから魔法大会の開催を祝う花火の音が都市中に響きわたった。
そんな音を聞きながら俺は酒場で朝食をとっていた。
「息子よ、準備は出来たか!」
すでに朝食を終わらせた親父やトム座長、それに団員達はすでにサーカスのテントに出発しようとしていた。
「親父もう行くのか? トム座長も早いですね」
「ええ、私達も今日からサーカスの舞台に上がるので、すぐにでもヤスダサーカス団の団長達と会合をして、手順の確認をしないといけませんからね」
「俺達はもう行くが、お前もどうする? そろそろ会場に行かないと行けないだろ」
大会会場には朝早くから出席しないと不参加になってしまう。
時計台の針でいうと8を指すまでに行かないいけない。
ちなみに今は6を指している。
時間的にはまだ余裕がある。
だけど、なるべく早めに行って会場入りして、イメージトレーニングをしながら準備を整えておくと、物事は成功しやすいと知っている。
「おう、これ食べたらすぐ行くよ」
モグモグとサンドウィッチを食べながら、冷たい水で朝食を胃の中に流し込んだ。
「よし、行けるぜ」
「うむ、それでは皆行きますよ」
あらくれサーカス団の皆は酒場を出ていった。
会場の近くまで着くと、皆が見送ると言って、会場の入り口まで皆と一緒に歩いた。
「それじゃ、ちょっくら頑張ってきます!」
会場前で、俺はビシッと手を額につけて挨拶をした。
「待って、息子よ! お前に言わなければならないことがある」
「なんだ?」
親父は俺に近づいて、頬を掴んで、広がるように引っ張って無理やり笑顔にさせられた。
「いへぇ。なにすんだ?」
「どんな時でもニコやかに笑え! それがピエロの神髄だ」
「はぁ、神髄?」
いきなり何を言ってるのかわからず、眉を顰めて親父を見た。
「お前の事だ、予選の時もどうせ真剣な顔をして戦っていたのだろう。違うか?」
「そりゃ、真剣勝負だしな。余裕なんてないよ」
結構危険な戦いをしていたので、笑う暇も余裕もなかった。
「真剣か。そう真剣にやるんだ。ピエロとしてな。お前は魔法使いではない。お前はサーカスのピエロだ。人を笑わせて喜ばせる、そんな陽気なピエロだ。それを忘れずに戦え」
「‥‥‥おいおい、無茶だぜ親父」
「言ったろピエロの神髄だって。簡単に出来る事じゃない。だが何度でも言うぜお前はピエロだ。中途半端な魔法使いとして戦うより、笑顔で笑う楽しいピエロとして戦え。それにだ、お前としてもその方が戦いやすいしだろうし、なによりその方が楽しくやれるぞ?」
「‥‥‥」
ピエロとして戦えか‥‥‥。
となると、かなりおちゃらけた戦いになるな。
まぁ、どのみち会場で宣伝をする時には、そんな感じで舞台に上がるわけだけど、戦いになるとそのようにやっていけるだろうか‥‥‥。
俺の不安をよそに、背中をボンと叩いた親父はニコっと笑顔で親指を自分に向けた。
「まっ、俺みたいなマスターピエロなら出来るがな。残念な息子には無理かもしれんな。がははっ」
「‥‥‥へっ、いいぜ、やってやるよ」
親父の挑発に乗るような感じになったけど、まぁいい。これもピエロとしての勉強と思ってやってやんよ!!
「うむ、それじゃロジック君。君の活躍を期待しておるよ」
俺と親父の会話が終わったのをみはからって、トム座長は俺の胸を軽くトンと叩いた。
「頑張ります。そっちも大勢の人が流れると思うんで頑張ってください!」
「ほうほう。もちろん全力でがんばりますよ。そうでしょう皆さん?」
「おうよ!!」
団員達は拳を握りながら手をあげて気合を入れた。
それから俺達は互いに見合ってから手を振った。
「んじゃ、行ってきます! 盛大な宣伝をやってくるんで、皆の所も頑張ってくださいな!」
「そっちも頑張れよ!」
あらくれサーカス団の皆に見送られながら、俺は大会会場の中へと入っていった。




