魔法都市へ出発
「ということがあったんだよ」
「ははっ、なかなか面白い話だね」
101匹ネコちゃんの捜索の依頼を達成した俺は、公園で待っていたロレンスに依頼の結末について話していた。
「今思えば、もっと早くフレディに相談しておけばよかったよ。そうすれば、依頼もすぐに終わって別の事が出来たのにな」
「そうかもしれないね。でも、そういった事はよくあることさ」
「まぁな、でも言いたくなるんだよな。もし、こうしていたらってね」
今回の依頼を振り返って見ると、後悔する事ばかりだった。
お金に釣られて出来そうにない依頼を取ってしまった事や、1人で解決するのに固執したため、時間だけが無駄に費やしていた事。
だけどまぁ、結果だけなら大銀貨1枚の報酬を手に入れたわけだけどね。
もちろんこのお金はトム座長に渡して、あらくれサーカス団の活動資金にしてもらう。
ぜひともうまく使ってほしいものだ。
「おーい、ロジック。お別れはすんだか、そろそろ出るぞ!」
「わかったよ親父、後で行くから先に行っといてくれ」
「おう、わかった。じゃ、先行ってるわな」
親父が俺を呼びに公園まで足を運び、そして去って行った。
「あれ? 今日旅に出るのかい。そんな話聞いていないぞロジック?」
「あーすまん。なんつーか言いそびれた」
俺は頭を摩りハハッと笑った。
言わなければいけないと思いつつも、別れを言い出せずに今日まできてしまったのだ。
そんな俺の姿を見て、ロレンスは呆れたように笑った。
「お前らしいよ。‥‥‥それで次は何処行くんだい?」
「魔法都市ハリーだってよ。大きな魔法大会があるみたいなんで、そこへ行ってみようと皆で決めたみたい」
「へぇ、そうなのか。そうか、魔法大会か。なんだか面白そうだね」
「なんなら、お前もくるか? 勇者パーティも来てくださると、さらに大賑わいで尚も良しだぜ」
ロレンスは困った顔をして両手を腰に当てた。
「そうしたいところだけど、そうもいかないみたいなんだ」
「おや、そうなん?」
「僕は、いや僕達は近いうちにバードリ王国を行く」
「バードリ王国‥‥‥」
バードリ王国は魔王軍によって滅ぼされた国だ。
また、最近バードリ王国にいる魔王軍がアレンシア王国に攻めてきたばかりでもある。
「これは秘密事項なんだけど‥‥‥実は、この王都アレンシアにはバードリ王国のお姫様が避難していてね。そのお姫様がアレンシア王国の国王、ラグナ王にバードリ王国の奪還を願い出て、とある条件付きで承諾したことから、アレンシア騎士団の出兵が決まったんだ。そして奪還のための戦いに、僕達も参加することになった」
「そりゃまたなんで?」
「ラグナ王には多大な支援をしてもらってるからね。それにバードリ王国を支配しているのは魔王軍の幹部の魔族らしい。ならば勇者としての役割を果たさないといけない」
ロレンスはふぅと息を吐いて空を見た。
「それにだ‥‥‥皆が勇者に期待しているんだ。はやく世界を平和にしてくれとね。だから俺は戦わなければならない」
「‥‥‥まぁ、そうなるな」
勇者は魔王を倒さなければならない。
ならばバードリー王国の奪還も、勇者としてしなければならない事だ。
「僕には仲間達がいる。それにアレンシア王国の騎士団もついている。あとは親友ロジックが支えてくれれば言う事なしなんだけど、そう思はないか?」
「いや、思わないな。ロレンスがんばれ!! お前なら出来るさ」
「あははっ。まぁがんばるさ」
それから俺達は無言に見つめ合った。
そしてお互い手を前に出して握手をした。
「またなロレンス。次会えるのはバードリー王国が奪還された時かもな。ちゃんと盛大に祝われておけよ、その歓声に惹かれて俺達あらくれサーカス団はやってくるんだからな」
「あははっ、わかったよロジック。その時には盛大に祝われているから、ちゃんとお前も来いよな」
こうして俺は、ロレンスに手を振って公園から去って行った。
またいつか会える日を楽しみにして‥‥‥。
公園から中央通りに出てきた俺は、王都入口にある前門に向かって歩き出した。
トコトコと歩いていると、目の端の方で本屋が見えた。
あれは以前入った所とは違う本屋だ。
‥‥‥そういえば、あのピエロの童話も大銀貨1枚だったよな。
ポケットに入っている大銀貨を手に持ち、少し考えた。
そして閃いた。
大銀貨で本を買って、読み終わったら同じ値段で本を売る‥‥‥これいい考えじゃない?
俺はそう思って、その本屋の中に入った。
「らっしゃい。何を探しで?」
本屋に入ると、ニット帽を被ったおじさんが本の整理をしながら言った。
「あのー、マスターピエロの童話ありますか?」
「童話?」
おじさんは本の整理を止めて、俺の方を見た。
「お客さん。普通の本屋には童話は置いてないぞ。童話は、星の神を信仰する神官達が管理する事になっている。だからそれが欲しいんなら神殿か教会、もしくは童話専門店に行くんだな」
思い返してみると、前回行った本屋には神官の人が対応してくれた。そしてその本屋には童話しか置いていなかったような気がする。
‥‥‥そうか、あそこは童話専門店だったのか。
そして、その童話という本を、神官が管理と販売を行っていたんだな。
「それでどうする、他に欲しい本はあるんかい?」
「あいやーないです。失礼しました!」
あのマスターピエロの童話がないのであれば、ここには用がなかった。
だから俺は本屋を出た‥‥‥と同時に少女とぶつかった。
「きゃっ」
ぶつかったと同時に少女の持っていたマッチ箱が沢山落ちた。
「あ、ごめん。大丈夫か?」
俺は転んだ赤い髪の少女に手を伸ばした。
すると少女は顔を真っ赤にしてモジモジしていた。
俺はその少女の姿を見て、バーミリオン王国の王都ナザレで出会った、マッチを売る少女に似ているなと思った。‥‥‥というか、その少女だった。
「もしかして、マリーちゃん?」
「はうぅ」
真っ赤な顔をしたマリーちゃんは、急いで散らばったマッチ箱を拾って、逃げるように去ってしまった。
「え、なんで逃げるの? それにどうしてこの国にいるの?」
マリーちゃんがいきなり逃げ出した事に驚いた。
それと、どうしてこのアレンシア王国に来ているのかが気になった。
いや、待てよ‥‥‥もしかしたら王都ナザレで何かあって仕方なくアレンシア王国逃げて来たのかも。俺は一応そう考えてみた。
「そっか‥‥‥ここにいたんなら、王都ナザレにいた時のようにマリーちゃんと話したかったな」
今日俺はこの王都アレンシアから出ていく。
だからマリーちゃんとはまたお別れになる。
最後にお別れの挨拶をしたかったけど、彼女は疾風の如く消えてしまった。
「またいつかね。マリーちゃん」
俺はマリーが去っていった方向に手を振ってお別れを言った。
それから王都入口に向かった。
王都アレンシアの前門付近に着いた俺は、その近くで止まっているあらくれサーカス団の馬車を見つけて、そこへと歩いた。
馬車には、今回新しく買った荷車が馬車の後ろに繋がれていおり、王都で買ったサーカスに必要な道具が詰め込まれていた。
そしてその荷車には雨に濡れないように水を弾く布が上に被せてあった。
「おや、もういいのですか?」
馬車の裏側にいたトム座長と目が合って、俺は「はい!」と言った。
「お、帰ってきたか。トム座長、これで皆行けますぜ」
皆はすでに準備を整えて馬車の中に入っていた。
俺も早速馬車の中へ入り、空いている場所に座った。
「それでは出発しますよ。いいですかー皆さん!!」
「おうよ!!」
団員達は気合を入れて声を出した。
それと同時に馬車の車輪が動き出した。
次なる目的に魔法都市ハリーに向けて‥‥‥。
あらくれサーカス団の皆は、離れていく王都アレンシアを見ながら陽気な歌をうたった
その歌は、王都で出会った人達との別れを悲しむ歌であり、目的地である魔法都市ハリーで新しい出会いに期待する歌だ。
俺達はそんな歌を即興で作って歌う。
皆で歌をうたってると、ティティとアレクが立ち上がり馬車の中で踊りだした。
それに合わせるかのように、ベルニーニとバルタもラップの様な声を出して歌に深みをもたせた。
フレディは連れて来たネコちゃんと共に鳴き声を出した。
トム座長は足を馬車にぶつけてリズムにノリながら音を出した。
俺と親父は荷車から楽器を取り出して、まるで合唱をしているかのようにその歌を盛り上げた。
ああ、この時が一番楽しい時間だ。これからもずっとこんな風に、皆と笑って、楽しんで、喜んで‥‥‥そんな旅をし続けて行くんだ。
俺はそう思っていた。だけど‥‥‥そうはならなかった。
なぜなら‥‥‥俺達あらくれサーカス団の旅は、魔法都市ハリーで終わるのだから。




