続・101匹ネコちゃんの捜索
「違約金は大銀貨1枚になります」
「へ?」
俺は冒険者組合の受付で素っ頓狂な声を出した。
「すみません、えっと、何でそんな大金を払うんです?」
「依頼の破棄をおこなう場合は報酬額と同額を支払わなければならない、というのは知ってますよね?」
「いいえ、全然知りません」
「おかしいですね。冒険者に登録する時に説明があるはずですけど」
‥‥‥そんな話聞いてないよマタニーさん!!
つい心の中で、アバランマの冒険者組合の受付をしていたマタニーさんに叫んだ。
「なんにしても、これは冒険者組合の規約なので違約金の支払い義務が生じます。今回の依頼の報酬額は大銀貨1枚なので、違約金は大銀貨1枚となります」
「‥‥‥やっぱり、破棄しません。俺頑張ります」
俺の全財産は中銅貨5枚だぞ! 大銀貨1枚なんて大金払えるはずがない。
仕方ないので依頼を完遂させるべく、残り83匹のネコ集めに奔走した。
それから3日後。
俺は大きな屋敷の中で、カゴに入った1匹のネコを貴族様のご婦人に差し出した。
「このネコは、貴方様のおネコ様で間違いありませんね?」
ご婦人はネコを注視して、そして高く持ち上げてから頭を撫でた。
「あらあら、そうですねぇ。たしかに私のネコちゃんですねぇ。よく見つけてくれましたね」
「はっ」
ほっと一安心した俺は、礼儀正しくお辞儀した。
相手は貴族なので、ふざけた態度で相手をすると何をされるかわからない。
貴族は平民に対しては理不尽な事や容赦のない仕打ちを簡単にしてくるのだから。
「それではあと73匹の私のネコちゃんをお願いしますね」
「はっ」
ご婦人に頭を下げた俺は、執事に案内されて屋敷の外へと出た。
そして外に出るとガシャンと屋敷の門が閉ざされた。
「ふぅ‥‥‥残り73匹か。やばいなぁ、これ全然終わらないぞ」
この3日間で10匹のネコを渡すことが出来たが、この調子だと何時になったら終わるかわからない。
すでに王都ではお祭りもパレードもやってない。
王都内はそれなりに賑わいを見せているが、同業者や旅の商人達は別の場所へと旅立っている。
あらくれサーカス団も次なる目的地の事を考えて、この王都アレンシアから出る準備をしているのだが、俺はこの依頼を終わらせてないので、まったく準備が出来ていないのだ。
やばいなぁ‥‥‥このままだったら、俺を置いて行ってしまうかもしれないな。
ふと、あらくれサーカス団の皆がニヤニヤと笑っている姿を思い浮かべた。
彼らは、俺を笑いながら容赦なくこの王都に置き去りにして行きそう気がしたのだ。
「やべぇ、どうしようか。違約金なんて払えないし、このままだとマジで置いてかれるぞ」
夕焼けを見ながら頭をかきむしった。
俺の心に焦りが深まったのだった。
「それでは皆さん、乾杯!!」
「乾杯!!」
フィレンツの宿の傍にある酒場で、あらくれサーカス団の皆はビールの入ったジョッキをぶつけあった。
「ふぅ、それで次なる目的地は‥‥‥魔法都市ハリーでいいんですかい」
白い泡を口につけた親父は、これから向かう目的地の確認を行った。
「はい。同業者の話では魔法都市ハリーでは大きな魔法大会が行われるそうですよ。その大会を見るために大勢の観客が魔法都市に集まるとのことです。これはこれは絶好の稼ぎ場所です。もう行くしかありません。すでに私の知り合い達もハリーに向けて出発しました。私達も明日にでも出発するとしましょう」
親父は椅子から立ち上がり、両腕を上にあげて上腕二頭筋を強調するポーズ、フロントダブルバイセップスを行った。
「うーっし、出発は明日ですね。なら、ここの最後の夜はしっぽりと夜の歓楽街へ繰り出し、夜の勇者としての異名をこの王都アレンシアにも轟かせようするかな! フレディお前も行くか?」
「ふふっ、もちろんだわい。王都ナザレでは夜の魔王と言われたおいが行くのだ。バレルクの異名も消し飛んでしまうかもな」
「そりゃ、吹っ飛ぶでしょうよ。夜の魔王は不潔の王様といった悪名だからな」
「おいアレク! なんか言ったか?」
「あいや、なんでもないよ。あははっ」
いつものやり取りを見ながら俺は、申し訳なさそうに手をあげた。
「おや? ロジック君どうかしたのかな」
トム座長は俺見て不思議そうに聞いた。
「その、実はまだ依頼が終わってなくて、えーっと。‥‥‥俺まだ行けないです、はい」
「依頼ですか? たしか冒険者組合のだよね」
「はい‥‥‥」
俺の話を聞いて皆は静かになる。
「なーに、お前に任せるぐらいの依頼だから簡単だろうよ。明日の朝にでもパパッと終わらせればいい。なんなら手伝ってやってもいいぞ、はっはっは」
親父は笑ってビールを飲んだ。
「助かるよ親父。101匹ネコちゃんの捜索なんだけど‥‥‥」
ブッーっと親父はビールを吐き出した。
「ゴホッ、待て、あの依頼受けたのか」
‥‥‥どうやら親父もネコちゃん探しの依頼を知っていたようだ。
たしかに冒険者組合の掲示板に貼ってある依頼の中で、一番高い報酬額だったから、それなりに注目度が高い依頼でもあった。
「ああ、金に目が眩んでな‥‥‥つい受けちまった。今は後悔してるよ」
「101匹ネコちゃん? なにそれ、物凄い数じゃないの」
「1,2匹捕まえるのも大変なのに、それを101匹? 正気じゃないぜ」
ティティとアレクは捕まえるネコの数の多さに驚いた。
「ちなみに、今どれだけ捕まえたんだぜ?」
「そうそう、どれだけ捕まえたのだぜぇぜぇ?」
「‥‥‥28匹。だから後は73匹」
ベルニーニとバルタは「オーノー」と困った顔をして頭を振り、両手を広げた。
「これはまた、えらい数のネコちゃんを集めないといけないんですね」
「はい、しかも貴族様が飼っていたネコちゃんを見つけないといけないので、苦労して捕まえても野良ネコちゃんだったらもう一度やり直しなんで、正直辛いです」
「うーむ、ちなみに依頼の破棄は出来ないのですか?」
「違約金大銀貨1枚必要だって言われました」
「だ、大銀貨1枚‥‥‥」
大銀貨という大金を聞いてまた一同静まりかえった。
‥‥‥くぅ、俺のせいで楽しい雰囲気を壊してしまった。
それどころか、これからの予定さえも壊してしまいそうだ。
そんな静まりかえっている中、フレディはビールを美味しそうに飲んでいた。
そしてジョッキをテーブルにドンと置いた。
「ふぅ、おいおい、おいの存在を忘れてもらっては困るぞい。ロジックよ、ネコちゃんに関してはおいにまかせろや」
「フレディ‥‥‥」
「そうだな、思えばフレディは調教師。動物に関してはお手の物だったな!」
「そういう事よバレルク。さーてと、となると今日は徹夜かの」
そうだった。バレルクは動物の専門家だ。
ネコを捕まえるぐらい朝飯前といった感じなのだろう。
「フレディ、助かるよ!」
「ふっ、ロジック。今度は自分の出来る範囲を見極めないとな。今回はおいが手伝ってやるわい。ほら、これで解決するから、さぁ盛り上がろうぞい!!」
「フレディーに乾杯!!」
「ガハッハッハ」
機嫌を良くしたフレディはビールをお替りして、一気飲みをした。
そしてまたお替りして一気飲みをした。
そして‥‥‥イビキをかいて眠ってしまった。
「おい! フレディ!!」
そんなフレディを皆でツッコミをいれたのだった。
「おー痛いわい。ちょっとだけ居眠りするぐらいよいではないか」
「いや、あれは絶対朝まで眠っていたぞ」
俺とフレディは酒場を出て、真夜中の道を歩いていた。
「それで、どうやってネコを73匹集めるんだ?」
「そうだな。まずは公園あたりで野良ネコを探そうかの」
フレディは近くにある公園を目指して歩いた。
その公園で早速1匹のネコを発見した。
「よしよし、それじゃさっそく。この粉を吹きかけるとするとしよう」
フレディの腰の周りに付けていたバックから袋を取り出して、袋の中身の粉末を手に乗せて、ネコ目掛けてフーと吹きかけた。
すると、ネコは酔っぱらったように千鳥足になって、ゴロゴロ言いながら仰向けになった。
「何をしたんだ?」
「この粉はな、マタタビの粉とタイマの粉を合わせたものだわい」
マタタビはネコを酔っぱらわせたり恍惚状態にさせたりするもので、タイマは意識を混乱させたりするもの。
その2つの特性を持った粉をネコに嗅がせると、仰向けになって、ゴロゴロと喉を鳴らして、うっとりしながら転がった状態になった。
「これは動物を調教するのに良い粉でな。これからこのネコをいいなりにさせるでのぉ、おーよしよし」
フレディはネコのお腹を撫で、顎をかいて、それからネコの耳元で「にゃーお」と低いネコの鳴き声を出した。
するとネコはさらにウットリしてフレディに頭を擦りつけた。
「さすがは調教師だな!」
俺は感心してフレディを見た。
「なになに。ここからがおいの本当の仕事というわけだ」
そうしてネコを立たせて命令した。
「さぁ、仲間のいる所につれていってくれ」
「ニャ!」
ネコは短く鳴いて走り出した。
「ロジック行くぞ、見失うなよ」
「おう!」
俺達はネコの後を追って走り出した。
時折ネコが止まり、こちらを見てから、それからまた走り出すを繰り返した。
多分俺達がついてきているかを確認しているのだろう。
こうしてネコは、誰も住んでいない廃墟の中へと入っていった。
もちろん俺達も後を追ってその中へと入る。
中に入ると、そこには20匹近いネコが集団で生活していた。
「フーッ!!」
縄張りに入って来た人間に威嚇するネコ達。
そんなネコ達にフレディは気持ちよくなる粉を吹きかけた。
「クー、ゴロゴロッ」
一瞬でネコ達は惚けてしまった。
「よしよし、さてとここのボス猫は‥‥‥こいつか。ほーれ、よしよしー」
傷だらけで体の大きいネコに近づいたフレディは、最初のネコと同じように仰向けになったお腹を撫でて、顎をかいた。
そしてフレディはネコの耳に低い声で鳴いた。
「にやーおっ」
うっとりとしたボス猫。
この瞬間、ボス猫はフレディに逆らえなくなった。
「ボス猫はこの一帯の住むネコを束ねているが、そんなボス猫がおいに逆らえなくなった。この時点でおいが新たなボス猫になったと言えるだろう。これで、ここにいる全部のネコはおいの言う通りに動くぞ」
「おー!!」
俺は思わずパチパチと拍手した。
「こんな感じでネコを手に入れていくわいの。さてロジック、次は貧民街あたりにでも行くぞい。あの辺りなら沢山いそうだわい」
「おいっす!」
こうして俺達は20匹以上のネコを連れて貧民街に向けて歩き出した。
夜が明けて朝日が見えてきた。
それまで俺達は王都中を歩き回ってネコを増やしていった。
そうして気がついた時には、俺達の周りには200匹以上のネコ達が集まっていた。
多分だけど、王都にいる全てのネコを集めたんじゃないかと思う。
「にゃー」
「にゃーにゃーにゃ」
「にゃにゃにゃ!!」
しかし、これがまた結構煩い事。
耳元でネコの合唱をずっと近くで聞いていたので、耳がおかしくなりそうだった。
「まぁ、こんなもんでいいかのー。さてと」
フレディは俺を見てニヤリと口の両端を広げた。
「さぁロジック。俺を殴れ!」
「え、なんで?」
いきなりマゾ的発言をしたフレディに驚いた。
「今おいがこのネコ達のボスだ。だから、そのボスを倒してお前がボスになるんだ。そうすれば皆お前についていくだろうよ。後は貴族の屋敷に連れていけば依頼は達成出来るはずだわい」
「なるほど。だから殴れか‥‥‥」
「そうだ、ほらおいの腹を殴れ」
フレディは両腕を広げ、大股になってからお腹をボンボンと叩いた。
いつでも殴ってこいと。
「わかった、いくぜ!!」
俺は拳を握り、フレディのお腹目掛けて殴った。
「ぬわーーっっ!!」
ーーーパパスーーー
ふと頭の中で星の囁きが聞こえた。
なんだか久しぶりな気がしたけど、やっぱりその言葉が何の意味か分からなかった。
そう思っている間に、フレディは倒れて動かなくなった。
「ぐごぉぉぉぉー、ぐこぉぉぉぉー」
鼻提灯とイビキをかいて動かなくなったのだ。
そんなフレディを見たネコ達は俺の方を見た。
そしてネコ達全員が俺に向けて大きく鳴いた。
「にゃおーーーーん!!」
この瞬間、俺がネコ達のボスになった。
こうして俺は、200匹以上のネコ達を連れて依頼主である貴族様の元へと歩いて行ったのであった。




