親友との再会
あらくれサーカス団を乗せた馬車は、雨で泥濘だ地面に車輪をとられ、王都アレンシアに到着するのが遅れてしまった。
おかげで夜までに着く道のりが、次の日の朝になってしまった。
「いやー、ようやく着きましたね。それにしても、すでにお祭りをしてますね」
トム座長は馬車の前部に座りながら、辺りを見回した。
王都アレンシアに入った馬車は中央の大通りへと進む。
そこは大勢の人や大通りの両脇に並ぶ露店や旅の一座による劇や演奏が行われていて大いに賑わっていた。
この賑わいは、いつぞやの王都ナザレで行われていた時とまさに一緒だった。
「これはいけない。すぐに市長に会って、私達が興行をする許可を貰わないと!!」
路上で大々的に見世物をする場合は、王都の城下町を管理している市長に許可書を頂かなけれればいけない。
もし無許可での見世物をすると罰金と罰則により捕まってしまう。
馬車を進めると、王城の前でパレードは行われていた。
お祭りとしても最高潮に達している。
今から許可書を貰うにしても出遅れた感がある。
だが、ここまで来たのだ、今からでもお祭りに参加しないとここに来た意味がなくなる。
「さぁさぁ、皆さん急ぎますよ」
トム座長は焦ったように手綱引いて馬を急がせた。
しかし大通りには人が大勢いるので進みは遅かった。
市長のいる建物に着いた頃にはお昼になっていた。
「それでは皆さんは、あそこに見える宿屋の確保をお願いします。それと必要な物のを仕入れてください。こっちは時間がかかりますからね。あとはーまぁいいです。では宜しくお願いしますね。それではね!」
トム座長は早口で喋って、馬車から降りて建物の中に走っていった。
親父が代わりに手綱を受け取って、トム座長が指をさしたフィレンツと書かれた宿へと向かった。
「ほう、運がいいね。何部屋か空いてるよ」
フィレンツの宿の主人の言葉に、ほっと安心しつつ、その宿を確保した。
運よく宿を取れた団員達は馬車預けて、各自必要な物を買いに出かけた。
「さて俺達はどうする。何から買いに行く?」
俺は親父と共に演技で必要な物について話し合った。
それはジャグリングや玉乗りに必要な物、自身の顔につける化粧や宣伝の風船など、買わなければいけない物は沢山あった。
ちなみにお金に関しては、トム座長から活動資金を貰っている。
「それに関してだが、全て俺がやっておく」
「え?」
「お前は自由に王都アレンシアでも観光してこい。そうだ、なんなら王城の前でパレードが行われているみたいだがら、見に行ってきたらどうだ? もしかしたらお前の親友とやらがいるかもしれんぞ」
「いいのか? 買わないといけない物が沢山あるだろ」
「それは俺1人で十分だ。お前がいなくても問題はない。ほら、行ってこい!」
しっしっと手で追い払われて、親父は行ってしまった。
‥‥‥親父に気を使われただろうか。
王都アレンシアにはロレンスがいる。
親友が今どうしているか気になってそわそわしていたのを、親父は気づいていたのだろう。
「んじゃ、王城の前でやってるパレードでも見に行ってみますかね」
パレードでは、勇者パーティの誰かがその場所で大勢に祝われているだろう。
もしかしたら勇者自身がそこにいるかもしれない。
そう思うと、俺は早速その場所へと歩いていった。
王都の中央通りに出てから、真っ直ぐ王都の中心へと歩いて行くと王城が見えてきた。
王城の前に着くと長い行列がゆっくりと歩いていた。
それは隊列を組んだ音楽隊やアレンシア騎士団、それと派手な馬車に乗りながら手を振っている王族ぽい誰かと、その横で派手なフードを身に着けた顎髭の長いお爺さんが手を振っていた。
その行列は王城の周りをまわりながら、大きな声援と共に紙吹雪や花などが飛ばされていた。
「あれ? 見当たらないな‥‥‥」
俺はそのパレードを見ていたけど、ロレンスは見当たらなかった。
それどころか、その勇者の仲間達すらいない気がする。
‥‥‥たしか勇者の仲間は神官メシアと武道家ミリカの2人。しかも女性だったはず。
あのパレードではそれらしい人物が見当たらない‥‥‥となると、もしかしたら勇者パーティは全員出席していないのかもしれない。
でも勇者達のためのパレードなのに、出席していないのはおかしくないかな?
そう思っていると俺の前方で立っている青年達の話し声が聞こえてきた。
「勇者様もその仲間達もいねぇじゃん」
「いや、どうもあのドロス王子の横にいるあの爺さんがこれから勇者パーティに入るらしい」
「えっ、そうなのか?」
「どうやら宮廷の大魔法使いらしいぞ。たしかに今の勇者の仲間には魔法使いがいなかったからな。これで4人一組という最低限のパーティ構成が整ったといった感じだな」
「前衛がミリカ様と勇者ロレンス様で、後衛がメシア様と‥‥‥あの魔法使いはなんて名前だ?」
「確か、フォーラム様だったはず」
「へぇー聞いたねぇや。まぁ宮廷のお偉いさん方なんて全然知らないからなぁ」
‥‥‥どうやら勇者パーティに新しい仲間が加わるみたいだ。
そして、その仲間に加わる人物が、あそこで手を振っている大魔法使いフォーラムというわけか。
「はぁ、ここにはいないのかぁ」
なんだかがっかりした。
もしかしたらロレンスの姿でも見れるかもしれないと思い来たのだが、どうやらここに来た意味はなかったようだ。
「ここはもういいか。それに、ここはうるさいしな」
パレードの音楽や歓声のせいで、耳がおかしくなってきた俺は、王城前から離れて少し静かな所に行きたかった。
王城から離れるように、何処かの通りを歩いていると、丁度静かでいい公園が見えてきた。
その公園の中心には小さい噴水とその周りを囲むように6つほど長椅子が並べられていた。
「ふぅ」
長椅子に腰を落とした俺は空を見上げながら溜息をついた。
「‥‥‥」
今日の天気はとてもいい晴れ空、雲一つない。心地よい風も吹いている。
ぽかぽかと暖かな太陽に当りながら日向ぼっこをする。
‥‥‥なんだかこうやって、一人だけでのんびりするのは久しぶりな気がするな。
親友の姿を見ることが出来なかったが、とてもいい休憩場所を見つけた。
そう思いながら俺は目を瞑って、鳥の声と遠くで聞こえるパレードの音楽を聞いていた。
ウトウトと眠りに落ちそうになっていると、唐突に声をかけられた。
「やぁ、ロジック。こんな場所で奇遇だな」
「んぁ?」
寝惚けた感じで、俺の肩に手を乗せた人物を見た。
「‥‥‥ロレンスか?」
そこには親友が立っていた。
思わぬ人物が現れたことで、眠気が一気に去っていった。
「君がここに来ているとは思わなかったよ。王都ナザレのあらくれ劇場はどうしたんだい?」
そう言って、ロレンスは俺の横に座った。
俺は今だに動揺しながらも、その話を始めた。
「ああ、なんというか燃えちまったんだよ。真っ赤な炎に包まれてな‥‥‥。それより勇者のお前が何でこんな所にいるんだよ。パレードにでなくていいのか?」
「パレードは出なくてもいいんだ、ちゃんと適任者が出ているから。あと、この公園は僕のちょっとした休憩の場所さ。ここはいいだろう。人も少ないし、とっても静かだ」
勇者という存在が近くにいると周りが騒ぎ出す。
それは宿屋の中でも、町や村の中でも、またお城の中でも人が寄って騒ぎだす。
だからロレンスは静かで心が落ち着く場所を求める。
その場所がこの公園とのことだ。
「ははっ、人気者も大変だな。俺もピエロとして、それだけの人気と評判が欲しいぜ」
「僕はただ、勇者として魔物と戦っているだけなんだけどね」
肩を竦めるロレンスは空を見上げた。
そして何かを吐き出すように言葉に出した。
「‥‥‥今回の戦いも正直辛かったよ。本当に辛かったよ」
たしかロレンスはバードリ王国の魔王軍の侵攻を阻止するために、アレンシア王国のアレンシア騎士団と共に戦ったと聞いている。
「相手は魔物だけじゃなかった。バードリ王国の兵士達もそこにいたんだ。‥‥‥操られていたよ。そして残念ながら助ける事が出来なかった」
「‥‥‥そりゃ、仕方ないさ。勇者と言っても神様じゃないからな、何でも出来るわけがないのさ」
「それでも助けたかった。だが助ける余裕がなかった。僕達は常にギリギリの戦いをしていた。だから僕は彼らを殺した。迫りくる魔物と一緒に」
「‥‥‥」
俺はまったく知らなかった。
勇者だから簡単に戦いを終わらせていると思っていた。
だがそうじゃなかった。勇者達の戦いは俺には想像も出来ないほど壮絶で悲惨なものだったと。
「ごめん。変な事を言ったね」
「かまわんさ。俺でよければ何時でも話し相手になってあげますとも」
俺は立ち上がり、貴族風のお辞儀をしてニコっと笑った。
「そうか、ならさ」
ロレンスは立ち上がり、手を俺に向けて握手を求めるかのように前にだした。
「ロジック、僕の仲間になってくれよ。仲間として僕を支えてくれないか」
「‥‥‥」
その言葉に俺は固まった、そして‥‥‥。
「‥‥‥あーすまん、それは無理だ。俺はピエロ。人を笑わせる事は出来ても、戦うなんて恐ろしい事はできないぞ。だから、申し訳ないのぉ」
俺は道化た様に手を広げペコリと頭を下げた。
一応魔法使いとして戦う事は出来る。だが、それだけだ。
戦うだけなら出来るが、戦いに関しては素人な俺は必ず勇者達の邪魔になるだろう。
そうなるに違いないのだ‥‥‥。
「そうか‥‥‥でもさ、それでも僕は待ってるからな」
そう言って両手を腰に当てて笑った。
俺には分からなかった。‥‥‥どうして、俺を誘うんだ?
ロレンスがなぜ、俺みたいなピエロを勇者パーティに誘ってくるのかが分からなかった。
何度も思うように、ロレンスはもっと優秀な仲間を見つけたほうがいいと思う。
あれ、そういえば‥‥‥。
「そういえば、新しい仲間を見つけたみたいだよな。大魔法使いのフォーラムだっけ?」
「ああ、何といえば言えばいいか‥‥‥アレンシアの王様に押し付けられたんだ」
「はぁ? どういうことだ」
「アレンシア王国の宮廷魔法使いが勇者パーティの仲間になっているという事が、魔王を倒した後、重要な意味を持つようになる。‥‥‥まぁ、ロジックにとってはどうでもいい話だね」
「そ、そうか」
「あーそれと合わせて国王の姫君と結婚しないかとも言われたね」
「へぇ、姫様と結婚できるなら、裕福な生活が出来ていいんじゃね?」
「僕達の戦いは始まったばかりだし、結婚とかなんて考えられないよ。それと、どうも国王の思惑に乗せられるのが怖くてね」
「はぁ‥‥‥」
たしかに、王族や貴族などの政治的思惑や国同士の立ち位置を変化させる勇者の存在は、ロレンスの意思など関係なく彼らの駒として動かされる。
気がつけば誰々の婿になったり有力な貴族なっていたり、もしかしたら王様になってたりすることもあるので、気を付けて発言しないと自分の未来がいつの間にか決められてしまう。
そしてそれは、勇者だけの話ではない。
その仲間達も色んな思惑で動かされる事もあるのだ。
「なんだか、たいへんだねぇ」
「ははっ、まったくだよ」
「ははっ、じゃないわよ!」
誰かが突然俺達の会話に割り込んできた。
俺は声のする方に顔を向けると、そこには神官が着るような白い帽子と白いコートを着た女性がいた。
金色の髪とつりあがった目が印象的な女性だった。
そんな女性が怒っている感じでロレンスを見た。
「やぁ、メシアじゃないか。どうしてこの場所がわかったんだい?」
「何を言ってるんだか‥‥‥、貴方はいつもこの公園に来るじゃない。まったく、王様が呼んでいるわよ」
「わかった、今行くよ。だがその前に。僕の仲間を紹介するよロジック。彼女はメシア。星の神を信仰する神官だよ」
ロレンスは俺に勇者パーティの一人、神官メシアを紹介をした。
するとメシアは俺を見て、頭を下げてお辞儀をした。
「初めまして、メシアと言います。神官の位では大神官を頂いてます。どうぞ宜しくお願い致します」
礼儀正しく頭を下げるメシアに、俺流も自己紹介をした。
「初めまして、俺はロジック。あらくれサーカス団のピエロやってるよ、どうぞよしなに」
くるっとバク転をして手を広げてお辞儀をした。
「ピエロ‥‥‥遊び人?」
メシアの目つきがきつくなった。
何やらあまり印象が良くなかったらしい。
「遊び人としての職にはなるけど、別に遊んでるわけじゃないからな。結構忙しいんだぜ」
人差し指を左右に動かしながら「チッチッチ」と口を鳴らした。
「はぁ、そうなの‥‥‥それはいいとして、急ぐわよロレンス!!」
「はいはい。それじゃロジックまた会おう」
メシアに背中を押されて歩き出すロレンスは、手を振って行ってしまった。
俺は2人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
‥‥‥それにしても、本当に偶然だったな。まさかこんなところでロレンスと会えるとは思ってもみなかった。
俺は親友との偶然の出会いに神に感謝しつつ、振り返ってから両手を頭の後ろで組んだ
「‥‥‥さてと、戻るか」
気がつけば夕方になっていた。
団員達は買い出しを終えて宿に戻っている頃だろう。
俺は夕日を見ながら、のんびりとフィレンツの宿へと帰っていた。




