道中で
あらくれサーカス団全員を乗せた馬車が、アバランマの町を出てからマーメイの町を通り、国境付近にあるブレタの村に到着した。
ブレタでは、馬車の車輪が壊れて仕方なく村に寄ったのだが、その村でちょっとした騒動に巻き込まれて3日ほど滞在することになった。
俺は滞在している間に、有名な童話作家のグリム・グランという人と出会い、その人が手掛けた童話について幾つか語ってもらった。
それは、赤い頭巾をかぶった少女が狼の魔物を倒した物語や、恐ろしく長い金色の髪をした女性が窓から髪を垂らしたら王子様が釣れたとか、なかなかどうして、面白い話を聞くことができた。
ブレタの騒動が収まると、車輪を新しく付け替えた馬車は国境の関所を目指して走り出した。
関所に着くと、アレンシア王国へ行く人が大勢いたもので、かなりの時間待たされることになった。
そんな関所で待たされている時、王都ナザレで極悪な火付けサーカス団がいるらしいとのことが噂になっていて、あらくれサーカス団の皆は思わず顔を見合わせた。
結局、貧民街の半分以上を燃やした犯人は、あらくれサーカス団の団員達となっていた。
俺達はどちらかというと被害者なのだが、王都から逃げ出したのでそう判断したのかもしれない。
だから俺達は、関所の兵士には、サーカス団と名乗らずに、乗り合い馬車として通してもらった。
そう、こんな感じに。
「お前はアレンシア王国に何の用がある。あと、後ろに乗っている人達はどのような素性の者だ?」
「私は乗り合い馬車の主人でして、後ろの皆さんはアレンシア王国で活躍している勇者を見に行くそうですよ」
「おうよ! カッコいい勇者を見たくてたまらんよな、我が息子よ」
「おうよ! 見たいともさ親父!」
「アレク、勇者見れるの楽しみねー」
「だな。姉さん」
「おうよ。勇者と俺、どちらがナイスガイか見せてもうおうかの」
「流行りの勇者見たいぜ!」
「活躍してる勇者みたいぜぃぜぃ!」
そんな俺達の話を聞いた関所の兵士は、皆の姿を見て眉を顰めた。
今の団員達の姿は、俺と親父はピエロの服。ティティとアレクはお腹を出した真っ赤な衣装を着て、フレディは胸元を開けたシャツとズボンと腰に鞭を装備して、ベルニーニとバルタは黄色の全身タイツを身に着けていた。
「待て、お前ら全員の恰好からして、なにか可笑しいぞ‥‥‥まるで、そう、サーカスでもしていそうな服装を身に着けているが、まさか手配中の‥‥‥」
「あ、俺は冒険者の戦士ですぜい。ほら冒険者コイン見てくださいよ!」
「俺も魔法使いです。ほら、ほら、魔法の玉!」
「私は砂漠の民。この衣装は民族衣装なのですよ」
「そうそう。姉さんと同じで俺も同じ砂漠の民だし」
「ん? 俺の姿になにか問題はあるまい」
「俺らのタイツも民族衣装だぞ?」
「民族衣装なんだぞぉぞぉー?」
「むぅ、そう言われてみれば‥‥‥そうなのか? うーむ、まぁいいだろう。行ってよし!」
といった感じでなんとか関所を通り抜けて、皆で「ふぅー」と息を吐いて汗を拭ったものだった。
アレンシア王国へと入った馬車は、王国の東にあるマレスの町を通り、次にコウタの村も通り過ぎた。
俺達が寄ったマレスの町やコウタの村の人々の表情が明るかった。
以前は魔物達によって脅かされていたのだが、勇者と神官と武道家の勇者パーティが来たことで解決されたようだった。
そしてその勇者らが、アレンシア王国へと攻めてきたバードリ国の魔物達を返り討ちにしたのも喜んでいたのだ。
「さすがだなぁ」
俺はコウタの村で配っていた勇者新聞を片手に、馬車に揺られていた。
「ほう、それで勇者様は何処にいると書いてあるんだ?」
親父が俺が読んでいる勇者新聞を覗き見た。
「今は王都アレンシアへと戻っている最中だと書いてあるな。まぁ、俺達が王都に着く頃にはロレンス達は王都にいるだろうね」
「という事は、またパレードやらお祭りやらをやるわけだな。ようするに‥‥‥」
「うむ、稼ぎ時というわけですね」
親父の言葉に割り込んできたトム座長は、嬉しそうに白髭を何度も触っていた。
「ですな、トム座長! お前らも張り切って稼ぐぞ!!」
「おうよ!」
元気の良い団員達は馬車の中で拳を突きあげた。
俺も皆に合わせて声を出して、それから新聞を読むのを再開した。
「えっと、それで何々‥‥‥あ、また記者が変わってるな」
勇者新聞を見るたびに、担当記者が変わっている気がする。
今回も勇者の近くにいたせいで、魔物との争いに巻き込まれて大怪我をしたらしい。
勇者新聞を担当する記者達は武闘派で、戦いにも慣れていると聞いている。しかし、そんな人達がこうもすぐにリタイアする戦いって、勇者達はどれほど激しい戦いをしていたのだろうかと、俺はうまく想像する事が出来なかった。
「魔王軍の中には、巨人より大きい魔物や強いのが沢山いるんだろ。なんというか怖すぎだろ」
アバランマの町で戦った巨人を思い出しながら、俺は魔法の玉を浮遊させながら手の回りでまわした。
「ほう、息子のくせにうまく使いこなしているではないか」
団員達の士気をあげていた親父が、クルクルよ回っている魔法の玉を見て感心していた。
「普通の魔法使いは、魔法の玉をこれほど自由に動かす事は出来ん。お前は以外と才能があるのかもしれんな」
「ん、そうなのか」
「うむ、俺でもそこまで動かす事が出来んからな」
「俺でも?」
まるで親父が魔法の玉を扱うことが出来るような言い方をしたので、思わず不審な目で見た。
「ん、なんだ。この俺が魔法を使えないとでも思ったのか? 甘いな息子よ。お前が出来て俺にも出来ないわけがないだろう?」
そう言って、自分の鞄から魔法の玉を取り出した。
「えっ、まじかよ! 親父も魔法使いだっていうのかよ。その体で!」
魔法の玉を持ちながら、両腕を上にあげてフロントダブルバイセップスのポーズをした。
「そうだ。魔法使いも筋肉は必要だぞ息子よ」
「ちょっと待て、それならなぜ冒険者組合で戦士として登録してるんだ?」
そう言うと、親父は自分の手に持ってる魔法の玉を見て溜息を吐いた。
「俺は魔法を使えるが、使いこなす事が出来なかった。簡単に言うと才能がなかったのだな。これなら鍛え上げた筋肉でもって剣や斧を振り回す方が魔法で戦うより戦えたのだな!」
「はぁ‥‥‥」
たしかに、親父はそっちの方が似合ってる気がする。
だけど、そこでふと疑問が湧き出た。
なぜ親父は魔法の玉を2つも持っていたんだろう。
俺の持っている魔法の玉は親父がくれたわけだし‥‥‥使えこなせなかったとか言っているが、実は大魔法使いだとか?
俺が首を傾げていると、親父は俺が手の上で回している魔法の玉に指差して言った。
「その魔法の玉大事にしろよ。死んだ母さんの形見だからな」
「!!」
‥‥‥母親。小さい頃に亡くなった母さん。そうか、母さんのだったのか。
「母さんも魔法使いだったんだな‥‥‥」
「そうだ‥‥‥覚えてないか?」
俺の母親は、物心つく前に亡くなったのでまったく記憶にない。
顔すら思い出せない。
「全然覚えてない」
「そうか‥‥‥」
それから親父は黙って馬車の中で寝そべった。
昔、俺は親父に母親について聞いてみたことがある。
しかし、親父はなかなか話してくれない。
どうもつらい記憶があるのか、悲しそうに顔を歪めて「また今度な」と言って話を終わらせるのだ。
「でも、そうか。これは母さんの魔法の玉か‥‥‥」
俺はその玉を両手に持って、顔も知らぬ母親を思った。
コウタの村を抜けてサザンガイの町に着くと、もう王都アレンシアは目と鼻の先‥‥‥というほどではないけど、あと1日で着く距離まで来た。
王国の中心近くまで来ると、はぐれの魔物や狼やクマなどの人を襲う動物も見なくなった。
ここまでくると比較的安全だった。それまではスライムやら狼が時折襲ってきたので、野宿する時はしかるべき対処をしなければならなかったのだが、ここら辺なら宿が取れなくても安心して外で寝られる。‥‥‥多分ね。
それでも外で野宿するより、部屋の中のベッドの上で寝て休みたいものなので、サザンガイでなんとか宿を確保した。後は酒場で名産のエビっぽい食べ物ロブターを食べて、酒を飲んで今日という一日を終わらせた。
そして次の日の朝、馬車はサザンガイを出て出発した。
目的地である王都アレンシアに向けて。




