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勇者パーティにはピエロはいらない  作者: トラタロウ
あらくれサーカス団
17/52

アレンシア王国へと出発

 泣いている声が聞こえる。

 

 俺はいったい誰が泣いているのかと振り向くと、1人の少年が泣いているのが見えた。

 どこかで聞いたことのある声に、俺は気になって泣いている少年に近づいた。

 その金色の髪をした少年は手で涙を拭きながら、俯いて座っていた。

 近づいた俺はその少年の顔と声で、ようやく誰だかわかった。


 「ロレンスどうした。なんで泣いてるんだ?」

 

 その少年は俺の親友。少年の頃のロレンスだった。

 思えばあの頃のロレンスはよく泣いていた気がする。


 「戦うのが怖いんだ‥‥‥僕は臆病だから、あんな恐ろしい魔物となんて戦えないよ。なのに皆が僕に戦えって言うんだ」

 「そりゃ、まぁ勇者だからしょうがないわな」


 そう答えてる俺も、いつの間にか昔の頃の少年になっていた。 


 ロレンスは魔王を倒す宿命を背負っている。

 だから勇者として、魔王を倒すまで戦い続けなければならない。

 もし勇者が戦うのを止めてしまえば、この世界は魔王によって支配されてしまうだろう。


 魔王がこの世界を支配したら、俺達人間はどうなる?

 多分奴隷になるか、食われるかの2択になるんじゃないかな。


 なら勇者には魔王を倒してもらわないといけない。

 魔王を倒せる唯一の人間は、勇者だけなのだから。

 

 「僕は勇者になりたくなかった。僕は白いキャンパスを片手に持って歩く画家になりたかったんだ」

 「たしかに、お前の絵は上手かったな。勇者じゃなければ一流の画家になれたかもな‥‥‥。でもお前は勇者に選ばれたんだ。なら仕方ないよ」

 「仕方ない‥‥‥か。でも僕1人で戦い続けるなんて無理だ」

 

 古の勇者は仲間と共に戦った。

 その仲間は、聖魔法で癒す神官テンドウ家、魔法を巧みに操るヒラガ家、武道を極めるカドウ家の3つの家系が勇者を支えたという。

 だが、今はその一族は存在しない。前の魔王との争いで、その一族達は不幸にも死に絶えてしまったとのことだ。


 だから今回の勇者ロレンスは、その仲間達の支えなしに1人で戦いに行くことになる。


 「ならさ、新しい仲間を見つければいいじゃないか。この世界には優秀な人間は沢山いるぞ。もしかしたらかつての勇者達より強力な仲間に出会えるかもよ?」


 俺はニィと笑ってロレンスに言った。するとロレンスは俺の方に顔を向いてこう言った。


 「ならさ、僕を手伝ってくれ。いや、僕の仲間になってくれ」

 「‥‥‥それは‥‥‥無理だ。だってさ、俺は見習いピエロ。勇者の仲間には一番入れちゃいけないんだぜ?」


 ‥‥‥わかってるはずだ。

 俺みたいな弱いのを仲間にすると、勝てる戦いも勝てなくなるということを。


 そんな俺の言葉に、少年姿だったロレンスが青年姿になった。そして手を差し出した。


 「そんなことはない。‥‥‥僕は待ってるよ。君が仲間になってくれることを」

 「‥‥‥」


 ロレンスの言葉とともに目の前が歪む。

 そして真っ暗になって、そして‥‥‥。


 俺は目を覚ました。





 チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえて、それから窓から光が差し込んできた。


 体を起こすと、俺の上にかけられていた布団がパサリと落ちた。

 ついでに額に乗せられていた濡れ布巾も落ちた。

 俺は辺りを見回すと、そこはジェーソンの宿屋の1室だった。

 俺はその部屋のベッドで寝ていたのだ。 

  

 ‥‥‥そういえば、俺はどうやって宿屋に帰ってきたか覚えていないぞ。

 たしか帰る途中で気を失ったようなきがするんだけど‥‥‥。


 そう思っていると、部屋のドア開き親父が入って来た。


 「おお、起きたかバカ息子よ! 全く、心配させよって」


 起き上がったばかりの俺の頭を、押さえつけるように撫でた。

 そしてそのままベッドに寝かされた。


 「今日は寝とれ。神官様のありがたーい神聖魔法で体を治してもらったが、それでも疲れは治らんからな」

 「神官様?」

 

 そういえば気絶する前にあった激しい痛みがなかった。

 体を見てみると傷すらなかった。

 なるほど、神官の神聖魔法で体の傷を治してもらったのだろう。


 「俺どうしてここで寝てるんだ。親父が連れて来てくれたのか?」

 「いや、俺じゃないぞ。倒れたお前を宿屋まで運んだのは、小さな少女だ」

 「少女?」

 「どっかで見た少女だったな。泣きながらお前を運んでいたぞ」

 

 泣きながら? 誰だろう‥‥‥。


 「今度会ったらお礼言っておけよ。すごく心配していたぞ」

 「ああ‥‥‥」

 「それとだ。‥‥‥これからは無理はするな。絶対にだ!」

 「んん? なにがだ」

 「受付から話は聞いている。巨人ギガースと戦ったんだってな。本来、戦いの素人のお前が勝てる相手じゃない。今回は本当に、最高に運がよかったんだ。次は必ず死ぬ。だから今度は戦うな。逃げろ。人質がいるとか、危機的な状況に陥っている人がいても、助けずに逃げろ。自分の命だけを考えろ!!」


 親父はベッド脇にある椅子を座りながら俺に指差した。


 「俺もそう思っていたんだけど‥‥‥体がな。勝手に動いちまったんだ」


 実際は逃げるつもりだった。

 だけど助けを求める声に、思わずギガースと立ち向かってしまった。


 「‥‥‥まぁいいだろう。うむ、しかしよく巨人ギガースを倒せたな。ギガースが絶滅していなかった事にも驚いたが、お前が勝てたのビックリものだったぞ!」

 「ああ、親父の言う通り本当に運がよかったんだよ。もう絶対こんな命がけの戦いはしないぜ」

 「うむ、それでいい。身の丈にあった仕事をするのが一番だ。それに俺達の本業はピエロだ。色んな人に芸を見せて笑わせて喜ばせるのが仕事だ。戦いは本業ではないのだからな」


 「さてと」と言って椅子から立ち上がった親父は、部屋から出ようとした。

 そして何かを思い出したかのように俺に振りむいた。


 「そうそう、明日この町から出るぞ。収穫祭も今日で終わったしな。ちなみにお前は2日間寝ていたぞ」

 「え? まじで!」


 衝撃的な言葉を残して親父は部屋を去って行った。


 「‥‥‥まじで?」


 そんなに長く寝ていたのに驚いた。

 ギガースとの闘いで消耗した体力と精神には、それだけの休息が必要だったみたいだ。





 次の日。

 完全に回復した俺は、1階の酒場に降りてあらくれサーカス団の皆がいるテーブルに向かった。


 「おはよう! ロジック君。体の調子は大丈夫かい?」

 「ロジック。お前まじで傷だらけだったし、もう大丈夫なのか?」

 「そうだぜぃ、大丈夫なのかい!」

 「大丈夫かい? かい?」


 トム座長と他の団員達も俺を心配そうに見た。 


 「心配かけました。もう大丈夫です!」


 俺はバク転を2回して、それから手を広げてお辞儀をした。

 自分の体は問題ないとアピールしたのだ。


 「うむ、それならよかった。しかし本当に驚いたよ。あんなにボロボロになって帰ってくるなんて、もうそんな危険な事をしてはいけないよ。わかったかい?」

 「はい。もうしません‥‥‥というか、したくありません」

 「うむうむ、それなら宜しい。さて、それでは皆が集まったことだし、これからの事を話しますよ」


 俺はすぐに席について、団員の皆と共にトム座長の話を聞いた。


 「ようやく活動資金がある程度は溜まりました。なので、当初の目的地であるアレンシア王国へと目指しますよ。さぁ、これを見てください」


 トム座長はテーブルに地図を広げた。そして今俺達がいるアバランマの場所に指をさした。


 「今はここバーミリオン王国王都ナザレの西にあるアバランマにいます。そしてここからマーメイを通り、さらに西へ行くとアレンシア王国に入ります。それから国の中心へと入って行き、王都アレンシアへと目指します」

  

 これから進む道を指でなぞりながら、トム座長は周りの皆を見回した。


 「少しだけ長い道のりですが、皆さんがんばって行きましょう!」

 「おうよ!」


 団員達は気合を入れて返事をした。

 それから席を立ちあがって出発の準備にはいった。


 「トム座長。一度冒険者組合に軽く挨拶してくるので、俺がいなくても出発していてください。町の入り口で合流しましょう」


 元気満々に立ち上がった親父は、両手を腰につけた。

 

 「うむ、わかりました。それでは後で合流しましょう」

 「我が息子よ、お前の分まで受付に挨拶しておくから。お前はお前の準備をしておけよ」

 「おう、頼んだ」

 

 親父は冒険者組合に向かって走っていった。


 ‥‥‥元気だな親父は。そういえば、親父の依頼は終わったのだろうか。


 ふと思えば、親父がなんの依頼をしていたのか聞いてなかった。

 後で聞いてみようと俺は自分の部屋に荷物を取りに行った。


 馬車に自分の荷物を置いてから、トム座長に頼まれた保存食と薬草を買いに道具屋に行った。

 そしてそれらの荷物も馬車に入れて出発の準備を終わらせた。

 準備を終えた団員達が集まると次々に馬車の中へと入っていった。


 「それでは出発しますよ。皆さん準備はいいですか?」

 「いいですよ!」


 トム座長が馬車の前部に座って手綱を手に取って、団員達に振り返って確認をとった。

 すると団員達は、準備出来た事を声に出した。


 「それでは、出発!!」


 トム座長が持つ手綱を鞭のようにしならせて打ち、馬が動き出した。

 馬車の車輪が回り、前へと進みだした。


 「あ!」

 「ロジックどうしたの?」


 俺が出した声に反応したティティは、頭を傾げた。


 「そういえば、お礼言ってなかったな」

 「お礼?」

 

 自分をジェーソンの宿屋まで運んでくれた少女に、お礼を言ってなかったことを思い出した。


 「ティティさん知らない? 俺を運んでくれた少女の事」

 「あー、赤い髪の子よね。思えばロジックを運んだ後すぐいなくなったわね。ねぇ、皆はあの子が何処にいるか知ってる」

 

 ティティが皆の方に向いて、その赤い髪の少女の事を聞いた。

 しかし誰も知らないのか首を振った。


 「‥‥‥そっか、どうしようか」


 俺を運んでくれた少女にお礼が言いたい。

 その子のおかげで宿屋に帰ることが出来たのだ。

 なのだけど、馬車はもう出発している。

 もうその子を探す時間もない。


 「またここに来た時にでも、探してみたら?」

 「そう‥‥‥だね。そうしよう」


 これからの俺達はアレンシア王国へ行くけど、そこにずっといるわけではない。

 またいつか、この町へと来ることはあるだろう。

 その時にでも探してお礼を言ようと思った。


 こうして、あらくれサーカス団は町の入り口で親父と合流して、それからアレンシア王国へと向けて出発したのだった。





   

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