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勇者パーティにはピエロはいらない  作者: トラタロウ
あらくれサーカス団
16/52

ギガースとの激闘 後編

 傷だらけの体は砂に埋まり、頭からは血が流れ落ちた。

 意識が混濁して、自分がどういった状態になっているのか分からないでいた。


 「オワッタ、コレデ、ダンゴデキル」


 ドスンっと足音が近づいてくる。

 そして手を伸ばして俺の頭を掴み、砂に埋まっていた体を引っ張りあげた。


 「サテト、アタマヒッコヌクカ」

 「あぐっ」


 ギガースは俺の体を掴んで、頭を引っこ抜こうと力を入れた。

 その時、俺の回りに浮遊していた魔法の玉が弾けるように動いた。


 「ギィッ」


 ギガースの顎に激しく当たり、後ろ倒れていった。

 俺もまた、ギガースの手から離れて、転がるように倒れた。


 「ぐぅっ‥‥‥」

 

 とっさに動かした魔法の玉のおかげで助かった。

 もう少しで頭が引きちぎられるところだった。


 俺は満身創痍になりながら立ちあがると、ギガースもまた頭を振って立ちあがった。


 「オマエ、ゼッタイ、タベテヤル」


 怒ったギガースは、地面を強く踏み込んで俺目掛けて走ってきた。


 傷だらけの俺は逃げれるような状態ではなかった。

 となると、ギガースの足が止まるような魔法を放つ必要があった。

 例えば、うまく走れないようにするとか。


 そうだ、氷を張って転ばせよう!

 

 氷。想像するのは真冬の寒さ、荒れ狂う吹雪。


 「アイスボール!!」


 俺は走ってるギガースの足元に冷たい氷の魔法を撃ち出した。

 すると地面とギガースの足が氷でくっつき、体のバランスを崩して頭から倒れた。


 「ガァッ、イテェー」

 「はぁはぁ。まだだ、いけっ!!」

 

 初めて使う氷魔法に成功した俺は、すぐに魔法の玉で追い打ちをかけるように動かした。

 倒れたギガースの後ろ頭に目掛けて魔法の玉を勢いよく落とすと、バギィと骨が割れる音が聞こえた。

 

 「ギギャァァァ!」


 物凄い叫びをあげたギガースは暴れるように手を振り回して地面をドンドンと叩いた。

 そして、両手をを光らせた。


 その時、俺の心臓がドクンと高鳴った。

 まるで時間が止まったかのように世界がゆっくりと動いた。

 

 そして気づいた、今この瞬間がまさに正念場だと。


 今ギガースは自分の危機的状況を特技を使うことで逃れようとしている。

 そんなギガースが、もしここで立ち直る事が出来たら、俺は体力的にも精神的にも絶望的な状況に陥る。


 この瞬間で仕留めないといけない。

 ここで勝たないといけない。

 だから、俺は‥‥‥。


 「おおおぉぉぉぉぉ、ファイアーショットォ!!」


 俺は張り叫ぶように大声を出して、手元に戻した魔法の玉からファイアーボールより強い魔法をギガースの頭に向けて放った。


 「カタストロフィス!!」


 俺が魔法を放つと同時にギガースも全力で特技を放った。


 「ガァァァァァァァ!!」

 「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 ギガースの頭が燃えて大きな悲鳴をあげると、俺も土石流の直撃を受けて、体からメキメキッと鈍い音をさせて押し流されていく。


 「まだだ! ファイアーショット!!」


 砂に押し潰されながらも、俺は気合で魔法を放った。

 それと同時に魔法の玉ごとギガースの額目掛けて投げ飛ばした。


 ギガースは何度も受けた火の攻撃に、頭や目が焼け溶けていった。

 そして最後に放たれた魔法の玉で、ゴシャっと音を立てて頭の骨と脳髄が砕けた。


 「ガァ、グウゥ‥‥‥」


 力なく崩れ落ちたギガースは、口と鼻から血を流した。

 そして意識がなくなり、死んでいった。


 砂に埋まった俺は、動かなくなったギガースを見て力が抜けた。


 「はぁはぁ‥‥‥勝てた。‥‥‥帰れる」


 勝利の喜びはなかった。

 生きて帰れるといった安心感だけが心の中を満たしていた。

 ふと、気が抜けたことでだんだん意識が遠のいていった。

 

 そしてそのまま俺は気絶してしまった。





 目が覚めると、辺りは暗くなっていた。


 目を開けると俺は砂に埋まっていた。

 そして近くにはギガースの死体が倒れていた。


 「ああ、そこの人。生きていたのか!」

 「よかった。本当に良かったよ」


 俺は寝惚けた様子で、鳥籠に捕まっている2人の少年少女を見た。


 ‥‥‥そういえば俺は、この2人を探しに来たんだっけな。


 「くっ、痛てぇ‥‥‥」


 砂の中から何とか這出て立ち上がると、全身に強烈な痛みが走った。

 服はボロボロになり、あちこちに赤い染みが広がっていた。

 頭には土や乾いた血がべったりと付いていた。

 

 誰もが見て分かる通り、まさに満身創痍状態だった。


 俺は死んでいるギガースに近づき、鳥籠を開けるために鍵を探した。

 すると腰の毛皮あたりに沢山の鍵とそれをまとめた鉄の輪っかを見つけた。


 「なんで、こんなに鍵があるんだよ‥‥‥」


 どの鍵で開けれるのかわからなかったので、仕方なく全部の鍵を使って試し、鳥籠を開けた。


 「ありがとうございます。本当に、本当にありがとうございます」

 「よく勝ってくれた。もしこのままだったら、俺‥‥‥俺‥‥‥」


 鍵で鳥籠を開けると、フィナとディーノが俺に抱き付き何度も頭を下げた。


 彼らを見ると、俺と同じぐらい服がボロボロで、足や腕には串に刺された怪我をしていた。

 そして何より精神的な疲労で憔悴しきった顔をしていた。


 生きて帰れる事に喜ぶ2人だが、心に影を落としたような喜び方だった。

 精神的に深い傷がついたようなそんな感じがした。 


 俺はピエロとして、そんな彼らに笑いで癒してあげようと思った。


 「ほうらほら見てくれよ、ボロボロの俺の顔を。おかげで口から‥‥‥」


 俺は腰袋に入れていた風船を口に入れて器用に膨らませた。

 そしてピューと何処かへ飛んでいった。


 「あ‥‥‥失敗したわ。わははっ」


 本当はいきなり口から風船を出して、2人を驚かせて笑わせようと思ったのだけど、思っていた以上に疲れててうまく出来なかった。


 「‥‥‥ぷっ」

 「は、ははっ。なんだよそれ」


 2人は、俺の失敗した演技が面白くて笑いはじめた。


 ‥‥‥どうやら笑わせる事は出来たようだ。少しは彼らの心を癒す事が出来たかな?

 

 「さぁ、帰ろうか。お前さんらの家族が心配してるぞ」

 「はい!」


 こうして俺は2人を連れてアバランマの町へと帰っていった。





 「フィナ、ディーノ!!」


 俺達が冒険者組合の建物の中に入ると、夜中だというのにフィナとディーノの夫婦が座りながら待っていた。

 そして夫婦は自分の子供達を見つけると、すぐ立ち上がって走りだした。


 「お母さん!」

 「父さん!」


 フィナとディーノは夫婦に抱きしめられて、泣きながら「心配かけてごめんなさい」と何度も謝った。

 夫婦の方も涙目になりながら、「お前達がちゃんと帰って来れたならいいんだ」と言って自分の子供達の頭を撫でた。


 そんな家族のやりとりを見ながら、俺は受付のマタニーさんのところへと報告に行った。


 「だ、大丈夫ですか! 血だらけじゃないですか。少し待ってください、今医療箱を持ってきますので」

 「お願いします。あと、あの2人も怪我をしているので見てあげてください」

 「わかりました。ササキさんとニアさんも手伝ってください」

 「はい。わかりました」


 受付の後ろで作業をしていた2人を呼んで医療箱を取りに行った。

 それから俺とフィナとディーノの手当てをしてもらった。


 「それでいったい何があったのですか?」


 包帯グルグル巻きになった俺は冒険者コインを渡してから、シシ森での出来事を話した。


 「ギガース!? 巨人ですか、そんなはずは‥‥‥いえ、たしかにコインに記録されてますね。しかし巨人族は全滅したと聞いてましたが」

 「俺もそういった話を聞いていたんだけど、どうも生き残りがいたみたいよ。おかげで、ボロボロですよ」

 「そうですか。お疲れのところ申し訳ありませんが、ギガースのいた場所を教えていただけませんか、のちほどこちらの方で調べたいと思いますので」

 

 俺はシシ森で見つけた足跡の場所と、その足跡を追っていけばギガースの拠点に着くことを話した。

 マタニーさんはそれをメモ帳に書いて何処かの部屋に入って行ってしまった。


 「あの、冒険者の人」

 「うん?」


 フィナとディーノの夫婦が俺の前にやってきた。


 「ありがとう。これで俺達は安心して家に帰れる。ありがとう!」

 「ありがとうございます。ピエロと言ってたので正直心配だったけど、やっぱり熟練の冒険者は違うわね」


 夫婦はそう言って頭を下げて、フィナとディーノを連れて家に帰っていった。


 ‥‥‥熟練というか、実は昨日冒険者の登録をしたばかりなんだけどね


 さてと、俺も帰ろう。

 そう思って、座っていた椅子から立ち上がる。


 「‥‥‥くっ」


 手当はしてもらったけど、体の痛みは全然治まらなかった。

 それどころか、痛みが増している気がする。


 「ロジックさんお待たせしました。今日の報酬になります」


 マタニーさんが受付に戻ってきて、ドンとお金の入った布袋を机の上に置いた。


 ‥‥‥そういえば、まだ報酬を貰っていなかった。


 俺は受付に行き、報酬の入った布袋を手に持った。


 「ん?」


 思っていた以上の重さに驚いた。

 よく見るとその袋はたっぷり入ったお金で膨らんでいた。

 俺はその袋を開いてみると、中には大銅貨と銀貨、それと中銀貨も入っていた。

    

 「え、いいの? こんなに貰っても」


 思わずマタニーさんを2度見した。


 「はい。まずは行方不明の冒険者の捜索、それと巨人の討伐の2つの報酬となってます。また組合の方からも謝礼として多めに色付けしています」

 「そうか、冒険者って儲かるんだな」


 改めて思った。冒険者って儲かる仕事だと。

 これならサーカス団で稼ぐより、冒険者の仕事をした方がより稼げそうだ。


 いや、待てよ。

 お金は沢山貰えるけど、冒険者の仕事をし続けると、ギガースみたいな魔物と命がけの戦いをする事になる。


 ‥‥‥それっていつか死ぬよな。


 「‥‥‥ははっ」


 やっぱり冒険者はやるもんじゃないなと俺は考え直した。


 「今日はお疲れさまでした。明日は病院か教会で体の状態を見てもらってくださいね」

 「わかりました。それじゃ、お疲れ様です」


 俺は手を振って冒険者組合の建物から出た。

 そして、あらくれサーカス団の皆がいるジェーソンの宿屋に向かって歩いた。


 「‥‥‥あれ?」


 通り歩いていると、目の前の景色がぼやけてきた。

 不思議な事に自分がどのように歩いているのかわからなくなった。

 ふらふらと体が揺れて、気がつけば体が前のめりに倒れていった。


 目の前が真っ黒になり、俺は意識を失った。 

 




  

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