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勇者パーティにはピエロはいらない  作者: トラタロウ
あらくれサーカス団
13/52

行方不明の冒険者

 アバランマの町で一番大きな宿屋は何処だと聞くと、町の人達はジェーソンの宿屋と言った。

 そんなジェーソンの宿屋は酒場も経営しており、1階が酒場で2階と3階が宿屋になっていた。


 その1階の酒場で、あらくれサーカス団のトム座長と団員達はビールの入ったジョッキを片手に持っていた。 


 「それでは、皆さん今日はお疲れさま。乾杯!」

 「乾杯!!」


 トム座長がビールジョッキを上にあげて乾杯の音頭をとると、団員達もビールジョッキを持ち上げて、そしてゴクゴクと飲み始めた。


 「ぷはっ、まずい!」


 俺はまだお酒を飲みなれていないので、皆とは違って美味しくは飲めなかったりする。


 「なんだ、ロジック。お前まだ酒をうまく飲めぇのかよ。まだまだ子供だなぁ」


 すでに酔っぱらっているアレクは俺の背中をバシバシと叩く。


 「あら、ロジック。飲めないなら私が貰うわよー。うふふ」


 ティティもすでに酔っぱらっていた。

 というかこの姉弟は一口飲んだだけで、もう酒に酔ってるぞ。


 「ゆっくり慣らして飲むのだから、あげませんよ」


 俺はそう言って、チビチビと少しずつ飲んだ。

 そんな俺の姿を見て、ティティとアレクは笑った。

 それから、2人はベルニーニとバルタのところで飲み比べをしにいった。


 「ふぅ、疲れた」


 お酒をお腹の中に入れると、疲れや眠気が強くなった感じがした。


 「お疲れ様だね。それでどうでしたか?」


 トム座長は俺の傍に来て、冒険者のお仕事の感想を聞いてきた。

 俺は「くたくたですよ」と手を広げた。

 それから今日の依頼の事や、シシ森で出会った大魔法使いと思い込んでるドルトの事を話した。


 「ほう。魔物退治に認知症のお爺さんですか。なかなか面白い1日でしたね。はっはっは」

 「いやいや、笑いごとじゃないんですからねトム座長」

 「これははや、これは失礼。だけど認知症のお爺さんの話は意外と本当の事を話してるかもしれませんよ。ほれ、その魔法の玉を動かす事が出来たのも、お爺さんの知識によるものですよ。それと魔法使いの強さに関しては、私もそういった話を聞いたことがありますよ」

 「そうなんですか?」

 「ええ、私にも魔法使いの知り合いはいますからね」


 たしかに、魔法の玉の操作はドルトのお爺さんから聞いたことだし、実際に動かす事も出来た。

 強さの基準の話もトム座長は聞いたことがあるということだから、もしかしたら大魔法使いというのも嘘じゃないのかもしれない。


 「それじゃ大魔法使いというのも嘘じゃないんですかね?」

 「それは、嘘だと思うよ。大魔法使いとなるとそれなりに有名ですからね。ドルトという大魔法使いは聞いたことがありませんねぇ。それに魔法の玉が持っていないのなら、なおさらです」

 「あらら‥‥‥」

 「でも、そのお爺さんは魔法使いになろうとして、知識だけは蓄えたんじゃないでしょうか。折角ですし、そのお爺さんの話はちゃんと覚えておくといいですよ」

 「わかりました」


 たしかにお爺さんという年になると、長く生きてるぶん知識はたんまりと持っているはず。

 そう言った話は覚えていて損はないよな。


 「さて、話は変わるけど。今日はバレルクは帰って来れないかもと言ってたんですよね?」

 「そう親父は言ってましたよ」


 トム座長は親父に聞きたいことでもあったのかな?


 「ふむ、なら先にここでの方針について、ロジック君に話しておこう」

 「方針ですか?」

 「私達はアレンシア王国へ向かうのだけど、そこへ行くのにお金が必要です。ですので、まずはこのアバランマにて活動資金を稼ぎに来たのはロジック君も知ってると思う」


 ‥‥‥知らなかった。でもまぁ、なんとなくそうじゃないかとは思っていた。

 なにせお金が全くなかったからね。何処かで稼がないとやばいだろうなとは思ってた。


 「このアバランマは明日、3日間におよぶ収穫祭が行われます。私達はその大勢の観光客や町の人達に芸を見せて、この3日間でアレンシア王国に行くためのお金を稼ぐつもりなのですよ」

 「というと、ここに滞在するのはだいたい3日ということですか」

 「そういうことだ。まぁ、この町には祭りが終わった4日目に出るんだけどね」 


 となると、それまで自分も頑張って働いてお金を稼がないといけないな。


 「あ、それなら俺もそっちの方に出ましょうか?」 

 「いや、ロジックは冒険者として稼いで貰えるかな。なにぶん道具がなくってね。演技でやらせることが少ないのですよ」


 ピエロの俺と親父は、主に道具を使って演技をする。

 ジャグリングをするのも玉乗りをするのも道具を使っている。

 他にも出来る事はあるけど、それはダンサーのティティ&アレク、それと曲芸師のベルニーニ&バルタがやるから今の俺は必要がなさそうだ。


 「折角の良い機会です。ここでは冒険者として経験を積むといいよ」

 「わかりました。トム座長」

 「うむ。それでは私は‥‥‥眠いです。なので早々に寝るとしましょうかね」

 「おつかれです」


 こうしてビールの飲み終えたトム座長は、赤い顔をしながら自分の部屋へ入っていった。

 俺は自分の分のビールを飲みながら、騒がしい団員達を眺めていた。

 

 こうして夜は更けていった。





 次の日。

 俺は朝早くからジェーソンの宿屋を出て、冒険者組合へと向かって走り出した。


 昨日はポニーニ退治とお爺さんの捜索の依頼で、報酬が大銅貨4枚と中銅貨7枚も貰えた。

 たった1日でこんなにも稼げてしまった。

 俺は冒険者という仕事はこれほど儲かる仕事とは思わなかった。

 これならサーカスより確実に稼げるんじゃないかと考えてしまう。

 まぁ、なんにしても‥‥‥。


 「よし、頑張るぞい」


 今日もがっぽりと稼いじゃうぞと意気揚々に冒険者組合の建物の中に入ると、受付の辺りで騒いでいる夫婦の声が聞こえた。


 「どうしてくれるんだ! 俺達の子供達がまだ帰らないじゃないか」

 「もう1日も経っているのよ。どういうことなの! どうしてそんな危険な依頼をまかせたのよ!」

 「申し訳ございません。今動ける冒険者の方達に都合をお聞きしている所でして」


 ‥‥‥なにやら受付あたりが修羅場というか近寄りづらい場所になっている。

 こういう時は嵐が通り過ぎるのを待つように、掲示板の依頼を見ながらのんびりしよう。


 「あ! ロジックさん丁度良かった。こちらに来てもらえますか」

 

 ‥‥‥まいったな。

 俺は受付のマタニーさんに呼ばれてしまった。

 正直そっちに行きたくないのだけど、怒ってる夫婦もこちらを見てなぜか手招きしている。


 「お前! 冒険者さんかい。なんだか変な服を着てるな。こんな奴で大丈夫かね」

 「ちゃんと探してくれるんだろうね。私達の子供達になんかあったら、あんたの責任だからね!」


 受付に近寄ったら、騒いでいた夫婦が俺を見て色々と叫んできた。


 「あーえっと、どういうこと?」


 この夫婦が何を言ってるのかわからず、俺はマタニーさんに説明を求めた。

 するとどうやら、この騒いでいる夫婦の息子と娘が冒険者になっていて、今回薬草を採る依頼を受けてシシ森に行ったのだけど、昨日から帰ってこないらしい。


 「シシ森って、俺が昨日行ってきた場所だよね」

 「はい、そうです。それらしい人は見かけたりはしませんでしたか?」

 「いや、お爺さん以外見ていないなぁ」


 昨日はポニーニを探すのに色々と歩き回ったけど、大魔法使いと思い込んでいるお爺さんぐらいしか見ていない。


 「ロジックさん。申し訳ございませんが捜索に手を貸してくれませんか? もちろん報酬は出ます」


 ‥‥‥まぁ、報酬が出るならやるか。

 人助けも出来るし、なによりモンスター討伐の依頼より安全にお金を貰える。

 うん、良い事尽くしだな。


 「まかせろ! 俺が探してきてやるよ!」

 「助かりました。収穫祭のために冒険者に所属している人達は休んでいまして、人出不足で困っていたんですよ」

 

 確かに冒険者でもお祭りの日ぐらい休みたいよな。


 「お前さん、頼んだよ!」

 「もし息子達になにかあったら。あんたを殺すからね!!」


 なんでや! とツッコミを入れたかったけど、思えばこの夫婦は冷静じゃなかった。

 自分の子供達が帰ってこないので、心配で取り乱しているのだろう。


 なら俺のやることは一つ、安心させるように夫婦に言葉をかけよう。


 「大丈夫! このピエロのロジックがちゃーんと探してきてあげるぜ!!」


 親指を自分に向けてアピールした。


 「‥‥‥」


 とても複雑な顔をした夫婦は黙ってしまった。

 なんだか、俺も複雑な顔をしたくなった。


 「えっと、それではシシ森で行方不明になった2人の冒険者について話しますね」

 「おう!」


 俺はマタニーさんの話を聞いて、シシ森へと出発した。





 

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