魔法の玉
「そういえば、お爺さんの名前はなんていうんだ?」
お爺さんを背負ってアバランマに帰る道中、ふと名前を聞いていないことに気がついて、聞いてみた。
「それを言うなら、お前さんの方が先ではないのか?」
「こりゃ失礼しました。俺の名前はロジック。あらくれ劇場の‥‥‥いや、ピエロのロジックと覚えてくれ」
「うむ、ならワシの名前はドルト。偉大なる大魔法使いドルトと言えば聞いたことがあるじゃろう?」
「いや全然。まったく知らん」
俺の知ってる有名人は、どこかの勇者や民衆に崇められている聖女といった、超有名人物ぐらいしか知らない。
「まったく、なんたる無知な若者か。‥‥‥まぁよいわ。それにしてもおぬし、魔法を使うんじゃろうて、少しぐらい知識を身につけた方がよいぞ」
「いや、俺は単なるピエロなんで‥‥‥」
ピエロが欲しいのは知識ではなく経験と技術だと思ってる。
俺みたいな一般芸人は、頭が良くったってお金が貰えるわけではないので、別に必要としていない。
「わかっておらんのぉ。知識を得ることで出来る事が増やせるじゃろうて。うむ、せっかく暇じゃからおぬしに少し知識をつけさせようとするかのぉ」
「別にいらないんだが‥‥‥まぁいいか。町に着くまでは暇だしな」
「うむ、それでは何の話をしてやろうかのぉ‥‥‥」
背中でうんうん悩むお爺さんは、閃いたように手を叩いた。
「そうじゃ、お前さんは魔法の玉を持ってるくせに、魔法の使い方何にも知らないんじゃったな」
「まぁ、放つぐらいしか知らないな」
「宜しい。なら色々と教えよう‥‥‥と思ったが、お前さんすぐ忘れそうじゃな」
「かもしれんな」
「仕方ないのぉ、なら興味のありそうな話をしようか。‥‥‥うむ、今お前さんの持ってる魔法の玉は金貨1枚で売れる」
「まじかよぉ!!」
衝撃的の話だった。
この魔法の玉を売れば幻のアイテム、金貨が手に入るのだ。
王都にいた時に1度も見れることも触れることもなかった伝説のお金、金貨をだ。
「うわっ、まじかぁ‥‥‥まじかぁ。うわぁまじかぁー」
あまりの事で、つい何度も同じ言葉を反復してしまった。
「さてと、それは置いといて、魔法の玉じゃが」
「お、おう」
「魔法の玉を使う数で、魔法使いとしての強さを表す基準になっておる」
「数?」
「玉の数じゃ。お前さんじゃと魔法の玉を1つ使う事が出来るので、そこら辺にいる一般的な魔法使いとして見られるわけじゃな。まぁ、大抵の魔法使いは玉を1つしか持っとらん。これは1つしか使えないと言った方が正しいかもしれんが‥‥‥。だがそういった魔法使いらの中で、魔法の玉を2つ使うことが出来る優秀な人物がでてくることがある。その者は大魔法使いとして、魔法使い達の羨望の的になっている」
大魔法使いか。たしかドルトさんは大魔法使いと自分で言っていたな。
もしかして、本当にドルトさんは有名人?
「んふふっ」
そんなドルトはなんだか自慢気に口ずさんでいた。
「さてそれでの、この大魔法使いは魔法の玉を2つ使うのじゃが、その中でも稀に、そう稀に3つ扱う者がいる。その者は絶大の魔力と知識でもってこう呼ばれるようになった‥‥‥賢者とな」
「へぇー」
「まぁ要するにじゃ。魔法の玉1つで魔法使い。魔法の玉2つで大魔法使い。そして魔法の玉3つ使う事が出来たら賢者と言われるようになったというわけじゃ」
「なるほどね。‥‥‥おっ、町が見えてきたぞドルトさん」
魔法使いの玉について話を聞いていると、町が見えてきた。
俺の後ろにいるドルトも、町が見えてきてほっとしたのか「やっと帰れたわい」と頭を何度も縦に振っていた。
俺自身もやっと帰れたという思いだった。
今日という長い一日で聞いた事や経験した事が多かったので、とても疲れた。
すぐにベッドに入って寝たい気分だった。
「さぁ、若者よ走るがいいぞ」
「はいはい、仰せの通りで大魔法使いドルト様」
こうして俺はドルトを背負ってアバランマの町の中へと入っていった。
冒険者組合の建物に入った俺は、すやすやと寝ているドルトを背負いながら受付のマタニーさんに依頼を終わらせた事を報告しに行った。
「お疲れさまでした。冒険者としての初めてのお仕事はどうでしたか?」
「くたくたです。こんなに大変だったとは思わなかったよ」
「ふふっ、そうですか。何事も慣れるまでが大変なものですよ。それでは冒険者コインをお願いします」
俺はポケットから冒険者コインを取り出してマタニーさん渡した。
「はい。それでは確認しますが‥‥‥後ろのお爺さんはどうしたんですか?」
「ああ、この人は大魔導士ドルトさんと言うらしくて、どうも疲れて寝てしまったみた‥‥‥」
「お爺さん、探しましたよ」
俺がマタニーさんに説明していると、後ろの机でお茶を飲んでいたお婆さんがやってきた。
「はっ、ここは何処じゃ?」
お婆さんの声でドルトが目を覚ました。
「まったく、いったい何処へ行っていたのですか? いきなり家から居なくなって心配したではありませんか」
「‥‥‥うむ、そのなんじゃ。お前さんは誰かの? ワシの孫かなにかかの?」
首を傾げたドルトに、お婆さんは困った顔をして頭を横へ振った。
「また忘れたのですか? ほんと仕方ない人。そこの若い人」
「は、はい」
事情がよくわからず、呆気にとられた俺はビクッと返事をした。
「お爺さんをここまで連れて来てくれてどうもありがとうね。この人認知症で、時々家から居なくなってしまうのよね」
「は、はぁ」
「あとね、お爺さんは最近妄想染みた話をするのでね、あんまり信じないでね」
「こらこら、なんてことを言うんじゃ。わしはそんな事は言いはせん。大魔法使いのわしは嘘なぞ言わん」
俺の背中から降りたドルトは不満そうにお婆さんに向かって言った。
「お爺さん‥‥‥そもそも貴方は大魔法使いどころか、素質がなくて魔法使いにすらなれなかったじゃありませんか」
「なんじゃと? いや、そんなはずは‥‥‥」
「魔法の玉も持ってないでしょ?」
「‥‥‥あれぇ?」
「さて、それじゃそこの若い人、それと受付の人。お爺さんを見つけてくれて、ありがとうございました。それじゃ、行くわよお爺さん」
こうしてお婆さんは、大魔法使いだと思い込んでるお爺さんを引っ張って家に帰っていった。
「‥‥‥どういうこと?」
俺はいきなりの出来事に意味がわからなくて、マタニーさんに聞いてみた。
「先ほどのお婆さんは、お爺さんが行方不明になったので捜索をお願いしに来たのですけど、丁度ロジックさんが連れて来たというわけです」
「‥‥‥となると、さっきにお爺さんはもしかして大魔法使いとかではなくて」
「えっと、認知症で行方不明になったご老人という事になりますね」
今にして思えば、ドルトは魔法の玉を持っていなかった気がする。
大魔法使いなのに魔法の玉を持っていないのは確かにおかしかったのだ。
俺は目を瞑って上を向き、そして幸せが逃げていくような溜息を出した。
「はぁー、まじかよ‥‥‥。となるとドルトさんと話していたことは全部嘘だったのかよ」
結構真面目に話を聞いていた事があったので、俺はなんだか騙された気持ちになった。
「すべてが嘘とは思いませんが、そのように思っていた方がいいかもしれませんね」
「はぁー。そうですね」
俺はマタニーから依頼の報酬を貰って、トム座長から届いていた伝言を聞いて、あらくれサーカス団の皆のいる宿泊所に向かったのだった。




