ポニーニ退治と魔法使いのお爺ちゃん
アバランマから北西へ進むとマーメイと言う名の町がある。
マーメイは、甘い砂糖菓子や果物を使ったケーキが有名な町で、別名でお菓子の町と言われている。
そんなマーメイは、毎年アバランマから新鮮なフルールを仕入れるのだが、荷車で運んで来る最中に、魔物に襲われる事があるそうだ。
その荷車を襲う魔物の名前ポニーニ。
森に住む猪のような魔物で、時たま畑や果樹園に現れてジャックイモやレンゲ草といった町の野菜を食い荒らす農家泣かせの害獣でもある。
そんなポニーニは主に野菜を好んで食べるのだが、果物もよく食べる。
特に果物のフルールは大好物な食べ物だった。
さて今回俺が受けた最初の依頼は、大量発生しているポニーニの討伐だ。
出現場所はシシ森、討伐する数は10匹もしくはそれ以上だそうだ。
余裕があったら沢山討伐して数を減らしてほしいとも言われた。
「さーてと、ポニーニが出現する場所はここらへんかな?」
俺はアバランマとマーメイを繋ぐ道の近くにあるシシ森にやってきた。
「見たところ、ポニーニは見当たらなけど‥‥‥」
まだ森の入り口あたりではあるが、ポニーニの姿が1体も見つけられなかった。
大量発生と聞いてたけど、意外とそうでもないのかもしれない。
見つからないとなると探すのが手間だなぁと思いながら森の奥へと進んで行くと、ポニーニ発見した。
1体のポニーニは「ブヒブヒッ」鳴きながら雑草をムシャムシャと食べている。
どうやらお食事中らしい。
「よしよし、じゃ早速いきますか」
やる気十分な俺は、御飯に夢中のポニーニの後ろに忍び寄り、魔法の玉を取り出して頭の中で熱々の火を思い描いた。
「ファイアーボール!」
言葉に出すと同時に魔法の玉から火の玉が飛び出して、ポニーニの体を火で包んだ。
「ブヒィィィィィ」
ボニーニは悲鳴をあげながら焼き焦げていき、そして真っ黒の黒焦げになって倒れた。
「ふぅ」
魔法の玉を使っての初戦闘に少し緊張をしたものの、問題なく勝利を収めことが出来て安堵した。
「なんだ、結構かんたんじゃん。よし次行こう」
自信がついた俺は、次の獲物を探して森の奥へと入っていく。
「おっ、いたいた‥‥‥ってこっち見てるな」
新しいポニーニを1体見つけたと思ったら、ポニーニも俺を見つけたようで、こちらをじっと見ていた。
そして‥‥‥。
「ブモォォォ」
ポニーニは咆哮をあげて、後ろ足何度も叩きつけてから俺目掛けて突進してきた。
「やばっ、ファイアーボール!」
「ブッブヒィィィィィ」
ファイアーボールがボニーニに直撃すると、激しく燃えて、それから黒焦げになって倒れていった。
「ふー、魔法ってすごいな」
俺は魔法の玉を指先で回しながら、改めて魔法という力に驚いた。
ポニーニはそんなに強い魔物ではないけれど、剣で戦うとなると大変らしい。
攻撃を当てるには近づく必要があるし、突進をうまく避けなければならない。
また、骨は堅いのでなかなかうまく斬れないので倒しにくいという。
でも魔法は違う。軽く唱えるだけで勝手にポニーニは倒れる。
近寄らずに遠くから倒すことが出来る。とっても楽で安全だ。
「よし、この調子で行こうか」
なんだかやる気が出てきた。この調子でどんどん倒していこう。
そうして、次の獲物を探しに森の奥へ歩いて行った。
「ブヒィィィィン」
どのくらい時間が経っただろうか。
ポニーニを探し回って倒し、今ので9体目を黒焦げにした。
「さすがに疲れてきたけど、なんだろうな‥‥‥」
探すのに動き回ったせいで疲れてきたのもあるが、何か不思議と寒気がした。
自分自身でもわからない悪寒。
なんだか、これ以上魔法を使ってはいけない気がしてきた。
「だけど、あと1匹だ」
気合を入れるために両手で頬をパンっと叩き、ポニーニ探しを再開し始めようと、1歩2歩と歩き始めた時、どこからか声が聞こえてきた。
「‥‥‥ぉーい」
今いる自分の場所よりさらに森の奥の方から聞こえてきた。
気になった俺は、その声が聞こえてくる方向へと歩き出した。
声の聞こえる方へ近づいていくと、倒木の上でひょっこりと座っているお爺さんを見つけた。
「おおぉ、良かった。助かったわい」
黒い尖がり帽子とフードを身に着けたお爺さんが、ほっとした様子でこちらを見て微笑んだ。
俺は魔法使いのように見えるお爺さんに手を振って近づいた。
「お爺さん、なんでこんな場所にいるんだ?」
「ふむ、ポニーニ退治で小遣い稼ぎと思い森に入ったのだが、ほれ、足をくじいてしまってのぉ。困っておったのじゃよ。若者よ、少し町まで連れて行ってくれんかのぉ」
うわっ、まいったな‥‥‥あと一匹倒さないと討伐の依頼が達成できない。
だけど、ここに置いたまんまポニーニ退治をしに行くのもなんだか良心が傷つくしなぁ。
‥‥‥まぁ、仕方ないか。
「いいぜ。ほら、背中に乗ってくれ」
俺はポリポリと頬をかいて、魔法の玉を革袋に入れてお爺さんを背負った
「若者よ助かるぞ。それにしても奇抜な服を着ておるな。魔法の玉を持っておるから魔法使いじゃとは思うが、そんな派手な格好は止めた方がよいぞ」
戦いにおいて魔法使いは狙われやすいと言われている。
遠距離から高威力の攻撃がぽんぽんと出してくる魔法使いは、真っ先に潰したい相手だし、また、動きも遅いので倒しやすい相手でもある。
「わしみたいに地味な服を着るといいぞぃ。わしらみたいな魔法使いは攻撃力は大したものだが、防御力はぺらっぺらの紙みたいなものじゃ」
「あーお爺さん、俺は魔法は使うけど魔法使いじゃないんだ」
「ん? どういうことじゃ」
「見てみなこの服、ほらピエロの服さ。そして俺は陽気なピエロさ!」
「ピエロ? 道化師? ‥‥‥なんじゃ、遊び人か」
ピエロと言うと総じて遊び人として捉えられる。
この世界の常識になっている。
とっても悲しい事だ。
「いつもは見世物してるけど、今は冒険者として働いてるけどね」
「なるほどなるほど、となると魔法を使うピエロか‥‥‥。どこかのマスターピエロのようじゃな」
マスターピエロ‥‥‥? そういえば親父も自分を指してマスターピエロと言って笑っていたな。
「ん? なんじゃ、知らんのか。童話の中でも有名じゃぞ」
「童話かぁー、あまり本とか見ないんだよなぁ」
「もったいないのぉ、童話は書物の中でも知識と経験、あと教訓も入ったとてもためになる本じゃぞ。見ておかないと損をするぞぃ」
「ふーん。そういうものか」
正直あまり興味はなかったけど、お爺さんがそこまで言うなら見てみるのもいいかもな。
「まったく最近の若い者は星の神に祝福されし童話を読まんとは‥‥‥おや、あれはポニーニではないか?」
「あ、ほんとだ」
背中に乗せたお爺さんの指をさした方向へ目を向けると、1体のポニーニの姿を見つけた。
「わしらを見ているのぉ。多分じゃが、こっちに向かってくるぞい」
「あーそれは参ったな」
俺は今、お爺さんを背負ってるので魔法の玉を使うことが出来ない。
となるとお爺さんを降ろして魔法を唱えるしかないんだけど、ポニーニの突進はとても早いので、降ろしている間に近くまで接近されてしまう。その後、もし魔法を当てるのが失敗すれば‥‥‥を考えると、このまま逃げた方がいいんじゃないかと悩んでしまう。
「なにをしておる。ほれ、魔法の玉を出すのじゃ」
「いや、両手ふさがっていてね」
「手などいらぬ。魔法の玉がお主のなら、玉とお前さんは繋がっておる。念じれば自由に浮かせれるはずじゃ」
「まじかよ、そんな事も出来るのかよ」
魔法の玉ってすげぇな。それが出来るなら、色んな演技で使えそうだな。
「そら、来たぞい!」
お爺さんの言葉と同時に、ポニーニが勢いよくこちらに突っ込んできた。
俺はお爺さんの言葉を信じて、革袋に入れた魔法の玉に「俺の目の前に来い」と念じた。
すると魔法の玉が勝手に浮かび上がり、俺の目の前で止まった。
「おぉ、すげぇ。お爺さん、本当に出来たぜ!」
「ほら、魔法じゃ! 目の前に来とる来とるぞぉ!」
「おうよ! これで10匹目だ、ファイアーボール」
「ブホォォォォォン」
突進してきたポニーニが瞬く間に悲鳴をあげて焼き焦げた。
「ふぅ、焦ったわい。若者よ、少し焦ったほうがいいぞ。あの突進をくらったら骨など簡単に砕けるでのぉ」
「あははっ、ごめんよ。魔法の玉がこんな事が出来るなんて知らなかったからさ、ちょっと感動しちゃたのさ」
「まったく、魔法使いは総じて体が強くないんじゃ、なるべく攻撃を食らわないように、近寄らずに離れて戦わねばならんのにのぉ」
「まぁ、さっきのは仕方ないさ。それに俺は魔法使いじゃなくてピエロだしな」
「うーむ‥‥‥ん? まて、まだいるぞ」
プスプスと焼け焦げたポニーニの先に、新たに1体のポニーニがひょっこりと現れたのだ。
「さて、どうする若者。もう一体狩るとするかのぉ?」
「んー」
先ほどのポニーニを倒したことで最低限の依頼は達成している。
このまま町に帰ってもいいのだが、依頼内容だと出来るだけ沢山倒してほしいと書いてあった。
どうしようかな‥‥‥。
体力的には問題ないのだけど、さっき使った魔法でさらに体が寒くなってきた気がする。
これ以上使うと本当にやばい気がする。
「なんじゃ、若者。体が冷たい気がするぞ。もしかして魔力が枯渇しとるんじゃないだろうな」
「えっ、枯渇?」
「なんじゃ、顔が真っ青ではないか。こりゃ枯渇しとるわ。いかんいかん、さぁ逃げるぞ若者」
「え、真っ青? わ、わかった!」
ポニーニに背を向けた俺は、森を抜けるべく走り出した。
「はぁはぁはぁはぁ、はひぃ」
お爺さんはそれほど重くはなかったが、それでも人を背に乗せて走るというのは結構大変だ。
なにより、後ろからボニーニが追いかけてきているで、休むことが出来ないのが辛い。
「ほれ早く、すぐ後ろから来とるぞ。しかも7体!」
「まじかよぉ、増えてるじゃん!」
振り向くと、確かに7体のポニーニが追っかけてきていた。
「お爺さん、魔法を使って追い払ってくれ」
見るからに熟練の魔法使いぽいお爺さんならポニーニなんて簡単に追い払えるはず。
「ワシも枯渇しとるわい。これ以上使うと死ぬ」
「うわっ、まじかよぉ」
こんな話をしてる間に、ポニーニはすぐ近くに迫っていた。
「仕方ないわい。魔法の玉をぶつけておっぱらうんじゃ」
「いやいや、それ壊れちまうって!」
「壊れはせんよ。魔法の玉は魔鉱強化ガラスで作られていて、世界でも1、2番目に硬いんじゃ。ほれほれ、さっさとやらんとぶつかるぞぉ!!」
「くっ、いけ魔法の玉!!」
俺は魔法の玉に念じて、近寄ってきたポニーニの頭めがけて飛ばした。
すると、先頭を走っていたポニーニが悲鳴をあげて倒れた。
「よし!」
「まだじゃ、まだ来るぞ!!」
倒れたポニーニを踏み越えて、すぐ次のポニーニが突進してきた。
俺はすぐさま魔法の玉を自分の元へ戻して、また勢いよく飛ばした。
「ブギッィィィィィ」
バキゴキとポニーニの頭の砕ける音とともに倒れていった。
「若者、次じゃ次!!」
「おうっ!」
走りながら魔法の玉を何度も飛ばし、次々とポニーニの頭を砕いていく。
「これで最後じゃ、若者」
「これで、終わりだっ!!」
「プギギギィィィィ」
最後のポニーニが悲鳴をあげて倒れた。
「ふぅー、若者よ。大したもんだよ。おぬしなかなか見所あるぞぃ」
「はぁはぁ、そうかい。それはよかったぜ」
走り疲れた俺は、お爺さんを背負いながら地面に尻餅をついた。
「さぁさぁ、若者よ。こんなところで休まんでくれ。わし、早く町に帰りたいでの」
「いやほんと、まじで少し休ませてくれや」
魔力の枯渇と体力の枯渇で、全くと言っていいほど体に力が入らない。
今、このまま眠ってもいいぐらい疲れていたのだ。
「仕方ないのぉ、少しだけじゃぞ?」
「あいよ」
俺はお爺さんを下に降ろして、それからバタリと地面に背中を落として目を瞑った。