冒険者組合へ
「おっ! 見えてきたな」
ジムの家を出発したあらくれサーカス団の馬車は、バーミリオン王国の東にある町、アバランマに到着しようとしていた。
俺にとって、アバランマは行ったことのない町なので、とっても興味があった。
たしか、アバランマには美味しい果物があった気がするが‥‥‥なんだったけな。
「我が息子よ、アラバンマの果物、フルールは最高だぞ。水みずしい果肉に甘く酸っぱいあの味は飽きることなどないぞ」
親父の言葉で思い出した。そうだ、フルールって名前だったな。
フルールはアラバンマの特産品で、毎年夏を終えるころに美味しいフルールが獲れるという。
形は丸いボールを握りしめた形をしていて、味は甘みとほどよい酸味がうまく組み合わさった美味しさになっている果物だ。
「それじゃ、食べないとな!」
「はっはっは。そりゃ無理だ」
「なんでだよ?」
「金がないからだ」
そうだった、俺達はあまりお金を持ってはいなかった。
俺達の家であるあらくれ劇場は燃えて、それから王都から急いで逃げてきたので、各自手持ちのお金しか持ってなかったのだ。
そしてそのお金も、トム座長に渡してサーカス団の活動資金として管理されている。
というわけで、俺も親父もお金が一切持ってない状態なのだ。
「これからどうすんだ、金がないと碌に飯も食えないぞ?」
「うむ、それに関してはだ‥‥‥俺とお前は皆とは一旦別行動するぞ。俺体だけで、ちょっとした所で働きにいくぞ」
「えっ、俺達だけ別行動で働きに行くのか?」
「そうだ」
「理由はわからないけど‥‥‥他の皆はどうすんだ?」
俺は馬車の中でのんびりしている団員達に顔を向けた。
「私達は大通り辺りで見世物でもするんじゃないかしら」
「そうそう、拠点が出来る前はそうやってお金を稼いでいたしな」
「路上でのパフォーマンス。お久しぶりな感じだぜ」
「久々で腕がなるぜぇぜぇい」
なんだか皆やる気だしているな‥‥‥それにしても、なぜ俺と親父は別行動するんだ?
皆と一緒に行動すればいいのにと思いながら、馬車はアバランマの町の中へと入っていった。
「おー、なんだ。思っていた以上に人が多いな」
町の中に入った馬車は、町を歩く大勢の人達にぶつからないようにゆっくりと進んだ。
なんでこんなに人が多いのだろうと不思議に思っていると、すれ違った人から「もうすぐお祭りだね」と喋っている声が聞こえた。
どうやら、お祭りが近いらしい。もしかしたらフルールの収穫祭であるのかもしれない。
「我が息子よ、そろそろ降りるぞ。トム座長、それじゃ俺達は行きます」
「うむ。バレルク、そちらの方は任せましたよ」
「あいよっ!!」
俺と親父は馬車から降りて、皆を乗せた馬車が遠ざかって行くのを見送った。
「それで親父、何処で働くんだ?」
「それはもちろん冒険者組合だ」
冒険者組合は、たしか親父が日銭を稼ぐために所属している‥‥‥たしか何でも屋だ。
結構報酬が良いと親父は言っていたけど、今日はそこで働くのだろうか‥‥‥。
「俺とお前は冒険者組合でお金を稼ぎ、他の皆は町で芸を見せてお金を稼ぐ」
なるほどね。
‥‥‥だがそういえばだ。冒険者組合は討伐の依頼が多いと聞いたことがある。
俺は戦いに関してはドがつくほどの素人だが、そんな俺でもやれるのか?
「どうした? ははーん、お前ビビってるな」
「ビビッてねぇし。でもなぁ、俺は戦ったことがないからなぁ」
「まぁ、なに。あそこは討伐の依頼が多いが、それ以外もちゃんとある。それに‥‥‥」
「それに、なんだ?」
「お前はもうちっこいガキじゃないんだ。戦いぐらい覚えとかないとな」
俺の年齢は17歳だ。まぁ、童顔のせいで子供っぽく見られるけど、来年になれば成人(大人)として見られる歳になる。
ああ、たしかに、いつまでも親父の背中に隠れているわけにもいかない。
「よし、わかった。やるぜ親父!!」
「その意気だ、我が息子よ! では行くとするか」
そうして俺達は冒険者組合を目指して歩き出した。
着いた場所は丸太で作られた大きな山小屋のような建物。
ぶら下げられた丸いガラスのような看板には剣の紋章が描かれていた。
「へぇ、ここが冒険者組合か」
「ほぅ、ここの冒険者組合はこんな建物か。場所によって全然違うな」
どうやら親父も、この町の冒険者組合は初めてらしい。
俺達は腕を組みながら建物を見上げて、そしてドアを開けて中へと入っていった。
さてさて、中はどんな感じのかなと思いながら冒険者組合の建物の中へ入ってみると、依頼が貼り出されている掲示板が真っ先に目に入った。それと、掲示板を見ながら会話している冒険者らしき2人組の声も真っ先に耳に入ってきた。
「おい、アレンシア王国が激戦地になってるみたいだぞ」
「ほー、そうなのか?」
「なんだ、知らねぇのか。隣のバードリ王国が攻めてきているらしいぞ」
「はぁ? なんで‥‥‥あれ、たしかバードリって魔王軍に滅ぼされたんじゃなかったっけ?」
「そうそう。だからアレンシア王国は今、バードリー王国‥‥‥じゃないや、えっとそう、魔王軍に攻められているってわけよ」
「そいつはやべぇな。とうとうアレンシアにまで侵攻してきたのかよ‥‥‥大丈夫か?」
「まぁ、アレンシアには勇者様がいるから大丈夫だろ。どうやら最前線に立って戦ってるみたいだしな」
「ほー、それなら安心だな」
突然聞こえてきた情報に、思わず驚いた。
アレンシア王国が魔王軍に攻められているとは思ってもみなかった。
それと勇者が最前線で戦っているのも。
‥‥‥ロレンス大丈夫かな。後で勇者新聞探して見てみるか。
「おいロジック、何してる。こっちだこっち」
すでに受付の前に立っている親父が俺を呼んだ。
「おう、今行く」
気になる話だったから、もう少し盗み聞きしたかったのだけど、仕方ない。
俺は小走りで受付へと向かった。
「そんじゃ、後はこの美人なお姉さんの指示に従って登録をすませろ。俺は依頼書が貼ってる掲示板の方に行ってくるからよ」
「あいよ」
親父は軽く手ふって掲示板の方へ歩いて行った。
俺は栗色の髪をした美人の‥‥‥というよりは可愛らしいお姉さんに顔を向けた。
「それで登録したいんだけど」
「はい、それではこの登録書に必要事項をご記入ください」
俺は目の前に出された登録書を見ながら、横に置いてあるインクとペンを使って書いていく。
名前、年齢、職業、武器、得意分野、その他の項目をささっと書いて受付のお姉さんに渡した。
「はい。それでは、えーロジックさんですね。職業はピエロ‥‥‥あー、遊び人でしたか」
「ちょ、待ってくれ。たしかそうだけど、これでもしっかり働いてるんですからね」
「はぁ、でも遊び人なんですよね。申し訳ございませんが依頼人は職業を見て判断するものなので、これから依頼を受けようとしても、断られる可能性があるかもしれません」
「まじかよ‥‥‥」
「はい、残念ながら。あ、でも武器は魔法の玉と書いていますね。これは今お持ちでしょうか?」
「あります」
俺は魔法の玉を取り出して机の上に置いた。
受付のお姉さんは虫メガネを取り出して、魔法の玉をじっくりと見た。
「本物ですね。失礼しました。魔法使いはとても貴重な人材なので冒険者組合に所属してくれるは大変助かります。しかしそれなら職業欄にピエロと書かずに魔法使いと書けば、依頼人も安心して仕事を任せられたのですけど‥‥‥」
‥‥‥まぁ、たしかに依頼人の立場になって考えると、依頼をお願いして来たのが奇抜な格好をしたピエロだったら確かに不安に思うだろうな。
「それじゃ、俺、職業欄書き直します」
俺は職業欄にピエロを消して魔法使いにしようと思った。
‥‥‥のだけど、受付のお姉さんはなぜか頭を横に振った。
「申し訳ございませんが、すでに登録は完了されました。それと残念ながら、登録内容の変更もで行う事ができません」
「あ、なら、新しいのに書くから、その‥‥‥なんとかなりません?」
「すでに冒険者コインが出来ておりますので、申し訳ございませんがなんともなりません」
「コイン?」
気が付けば、登録書が置いてあった場所に丸い銅のコインが置かれていた。
俺はそのコインを手に取って見てみると、裏表に剣の紋章が彫ってあった。
「これは冒険者としての身分証明書のような物です。大事にしてくださいね。あと、これから依頼を受ける時はそのコインと掲示板に貼り出されている依頼書を持ってきてくださいね」
「はぁ‥‥‥」
冒険者コインはどうやら大切な物になりそうだが‥‥‥小さいので失くしてしまいそうだ。
「ちなみに、紛失しても再発行できますので、その時は受付に来てください。料金はかかりますが」
「再発行できるんですか」
「はい、ロジックさんの冒険者コインはもう一つあるので、これを複製します」
なんで受付のお姉さんが俺の冒険者コインを持ってるのだろうか、と思ったらちゃんと手元にあった。
多分登録書がコインになる時2枚出来たんだな。多分。
「ただ失くしてしまうとこれまでの戦果、戦ってきた記録も失くしてしまう事があるので、気を付けてくださいね」
「はぁ」
詳しくはわからないけど、このコインは失くしてはいけない物だとはわかった。
「息子よ、登録は終わったか? あとマタニーさん、この依頼をやらせてもらうぜ!」
親父は冒険者コインと一枚の依頼書を受付のお姉さん、マタニーの前にドンと置いた。
マタニーは「かしこまりました。少々お待ちください」と言って、コインと依頼書と持って受付の前からいなくなった。
「そうだ親父。職業がピエロだと依頼人が拒否するかもしれないんだってよ」
「ふむ、だがそれがどうした。その時は交渉だ。依頼人と直に会って、ちゃんと依頼をこなせる事をアピールするんだ」
「なるほど、会って説明すればいいのか」
「そうだ、そしてピエロでも仕事をこなせるという事を、分からせてやればいいのだ! わかったか、我が息子よ」
「おぉ、わかっ‥‥‥」
俺が頷こうとする直前、マタニーは受付の前に戻ってきた。
「お待たせしました。戦士のバレルクさんですね。銀コインとなるとベテランですね。全然問題ありません。組合の方で依頼を通しておくので、どうぞよろしくお願いします」
「うむ、ではマタニーさん、後は頼んだぞ。うん? どうした息子よ、変な顔をしているぞ」
「‥‥‥親父はピエロと書かなかったんだ」
「当たり前じゃないか。芸人とかピエロとか書いてあると依頼人から拒否られるではないか。常識を考えろ」
くっ‥‥‥そうだった、親父はこういう奴だった。
「じゃ、行ってくるわな。あーもしかしたら今日帰ってこれんかもしれんと皆に言っておいてくれ」
「はぁ、あいよ」
親父は風の如く外へと飛び出して行った。
俺は呆れた気持ちになりながら、何度も溜息を吐いた。
「ふふっ、溜息を吐きすぎると、その分だけ幸せが逃げると言いますよ」
「はぁ、それなら幸せはもうなくなってます」
‥‥‥溜息はもう、これでもかってぐらい出してるからなぁ。
「それでは、今日はどういたしますか? 登録は済みましたので依頼を受ける事が出来ますよ」
おっと、ならさっそく依頼を受けてみようかな。たしか掲示板に張り出されている依頼書を持ってくるんだったよな。
「じゃ、ちょっと見てきます」
「はい、まず初めてなので簡単の依頼を受けるのをお勧めしますよ。例えば、ちょうどここに冒険者組合からの依頼であるポニーニ退治があります」
マタニーは机の引き出しから一枚の依頼書を出して、机の前に置いた。
「後で掲示板に貼りにいこうと思っていた依頼書なのですけど‥‥‥どうでしょう? 初めてのお仕事に丁度良い難易度なんですけど、やってみませんか?」
ポニーニ……か。たしか森の中にいる猪のような魔物だったかな。
野菜や果物の作物を食い荒らし、時たま人を襲ったりすることがあると聞いたことがあるような?
まぁ、うん、名前からして脅威が感じられないな。いけそうだ。
「あ、はい。じゃあそれでお願いします」
「はい。かしこまりました」
俺はマタニーに冒険者メダルを渡した。
それから、ポニーニ退治の依頼内容を詳しく聞いて、冒険者メダルを返してもらった。
「メダルはちゃんと身に着けていてくださいね。そうしないとポニーニを退治できたかどうかの記録をとることが出来ませんので」
「了解!」
「それでは、依頼の方お願いいたします」
こうして俺は、冒険者としての初めての依頼を受けた。




