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巫女姫と魔法の暗殺人形(仮)  作者: 榊 唯月
桜舞う季節
18/50

七幕:教室の机の強度は戦車が上を通っても潰れないレベルです(実験済み)

春日かすが美久みく

母子家庭に育つ。その為、家庭的な一面がある。勉強は得意だが運動は苦手気味。


挿絵(By みてみん)

「で、なんで此処にいるんですか。拓都はともかく、貴方が」


 朝、中等部第一女子寮の前。雨宮拓都とトール・ブリューゲルはそこに立っていた。不審者と間違われてもおかしくない二人だったが、彼らの顔面偏差値によりそれは回避された。むしろ、朝通る時に女子達は眼福(がんぷく)じゃ~と思ったくらいだ。……それでいいのか凰璃学園!


 それはさておき、今日はHR(ホームルーム)とガイダンスのみの日。土御門である瑞稀は別に行かなくても支障はないのだが、迎えに来られていると判明したため行かなくてはならなくなった。本人もどちらかと言えば行く気だったのだが、他人による強制となると嫌らしい。


 まあそもそも、瑞稀達特権所有者(スペシャル)には登校免除もあるのだが。彼女達の特権の一つである。他にも試験免除やら個人での魔法使用や校舎への転移の許可など様々ある。



 さて雨宮拓都とトール・ブリューゲルという同室内で腹の探り合いをしていた二人がどうして仲良く迎えに来ているのかと言うと、真実から言うとまず仲良くない。これは断言できるだろうし、実際そうだ。


 少し話が変わるが、凰璃学園の敷地は空間魔法でいくらでも増やせる。だから様々な施設、例えば礼拝堂や部活棟等が大量に乱立している。そして、寮も多くあるのだ。外部から入ってきたら初めは誰もが初期寮と呼ばれる一般的な寮、門限があり、部屋は2人で一部屋、男女別で、年齢別といった寮に入る。そして自分と同室の者が2人とも望んだ場合、他の寮に入ることができる。ただ、条件をクリアしなくてはいけないが。他寮には色々な種類があり、例えば男子寮、女子寮はもちろん男女共同寮もあり、部屋も和室、洋室、中華風の部屋などや、一人部屋、二人部屋、三人部屋…………などがある。他にも寮内に礼拝堂があったり豪華なシステムキッチンがあったり、ジムがあったりと様々だ。これらの寮は6人以上の申請(しんせい)と学園の教師もしくはフリーの陰陽師・魔術師(成人済み)を寮母か寮長にできれば作れる。そして他の人が作った寮への入寮条件は、寮母もしくは寮長の出す試練や条件に合格することである。


 土御門瑞稀は必ず他寮に移る、もしくは新しい寮を作る。これはトールも拓都も予想してることであり、当然の(ごと)く彼らも同じ寮に移る気満々である。そして、彼らの予想では瑞稀は一人部屋の寮を選択する。


 なので彼らはどうせ少しの間だからと腹の探り合いはやめ、(表面上は)仲良くすることにしたのだ。


「沙織、とりあえず、行こう。あと、拓都、今度から、女子寮の前で、あんまり、待つのは、禁止。女子への、配慮(はいりょ)が、足りない」


「ごめんね。瑞稀に一刻も早く会いたかったんだ」


「わかってくれれば、いい」


 乙女ゲームに出てきそうな笑顔と甘い言葉にも瑞稀は動じず、あっさりと流して学校に向かった。





 靴箱には、まだ朝早いためそこまで人はいなかった。凰璃学園の靴箱は、すべてがロックされている。本人の指紋と魔力もしくは霊力と暗証番号を確認してようやく開くのだ。万が一、靴箱に爆弾を仕掛けられたりしないようにという凰璃学園らしい配慮である。


「では、瑞稀様、お元気で。何かあれば絶対に言ってくださいよ。絶対ですよ。ああ、本来ならお別れなどしたくないのですが…………」


「沙織、行くよ。瑞稀、じゃあまた放課後ね」


「ん、じゃあね、沙織、拓都」


 拓都は沙織の長くなりそうな話をぶった斬り、C組の前から動かなかった彼女を引きずっていった。「ま、待ちなさい、拓都、まだ瑞稀様にお伝えすることはあって………」というのは空耳だろう、ということで瑞稀はスルーした。


 凰璃学園の教室のドア、というものも不審者が入ったりしないように靴箱と同じように指紋と魔力か霊力を認証、それと生徒証をかざしてようやく開く。なお、生徒は自分のクラスしか入れないようになっており、だから沙織はC組に入らなかったのだ。そのためよくある教室のドアをガラッと開けて「ーーーは居るか!」なんてことはできない。しかもこれは自動ドアである。


 教室に入ると、ポツポツと人は居たもののやはりまだ少なかった。軽く2人の方をちらっと見るも、また各々のしていたことを再開した。それはおしゃべりや読書、ゲームだったり色々である。瑞稀の方はその容姿は知られていないし、トールの格好もこの学校では(めずら)しいものではない。だからこその簡素な反応である。


 教室は一般的なものとそう変わりはしないものだった。机が一列ずつ並べられておいてある。そして、机同士は離れている。()いて言うなら机の強度がすごく強いくらいである。机にはまばらに(すわ)っている人が居て、立っておしゃべりしている人も居た。何順で座っているのかと思いきや、前の大型スクリーンには自由席とあった。


「土御門様、自由席だそうですよ。席はどちらになさいますか?」


 その土御門という名に、目ざとい者はあれが土御門本家の長女か、と気づいた。


 瑞稀はこいつ、席も(とな)りにする気かと思いつつ、窓から逃げやすい窓際(まどぎわ)(あた)りを選んだ。


「そこの、最後列の、窓際で、お願い、します」


(うけたまわ)りました」


 ただ最後列の窓際はもう男子生徒(読書中)が座っていたのでその隣にした。そして、トールは瑞稀の椅子(いす)を引くという執事学校で学んだことをスマートにやってのけた。ちなみに瑞稀は普通に高級レストランに行くことも多いので椅子引きには()れているため特に感じるものはなくあっさりと座った。むしろそれを目撃した、おしゃべりしていた女子達が「キュンキュンする~」、「何あのイケメン」、「(うらや)ましい」と言っていた。


 トールもそんな瑞稀の横にさっさと座った。普通の男子であれば女子からの黄色い声に喜ぶだろうが、あいにくだがトールは普通ではない。(わずら)わしい、とさえ思っていた。


「ブリューゲルさん、私は、読書して、いますが、貴方は、お好きな、ように、していて、結構です、ので」


 瑞稀は高級そうな和風の柄のブックカバーを付けた本を取り出してそう言った。


「いえ、私も読書致しますので」


 トールも本を取り出すと、2人は静かに読書した。ただトールは瑞稀が何の本を読んでいるか気になったので透視(とうし)した。『凰璃の歴史』という本だった。そんな本があるのか。どこで買ったのだろうか…。ちなみにトールの読んでいるのは『拷問の歴史』という本である。()しくも同じ歴史についての本だが、内容にはかなりの差があった。





 瑞稀は読書中に本の表紙を透視したトールを、プライバシーの侵害だろと思いつつ、感じ取った危険信号を警戒(けいかい)していた。どうでもいいことだが瑞稀はわざわざ本の内容が透視されることを想定して、当たり(さわ)りない物を選んだのである。そこまで愛校心に(あふ)れているわけでもない。


 これは、転移の予兆か。数分後、侵入者ではない。女子生徒、外部生。危険性は低い。瑞稀は()た。


 結論はほうっておいていい、となったので瑞稀は読書を再開した。





 数分後、いきなり、瑞稀とトールの間に女子生徒が(あらわ)れた。


「わ、わわっ。えっと、教室……?」


 瑞稀は視た通りだったので、(おどろ)きはなかったが、一応驚いたふりをしておいた。トールが居るので、驚いていないと彼に不審がられると考えたからだ。


 トールの方も空間の(ゆが)みから一瞬前ではあるものの、転移を感知できたので驚きはなかった。ただ、校舎内への転移又は校舎内での転移が許可されているのは瑞稀達、特権所有者(スペシャル)のみなので、魔力がだだ()れな明らかに外部生である彼女が特権所有者(スペシャル)の知り合いがいるのでしょうか、と不思議に思った。ただ顔には出さずに安心されるような声で話しかけた。


「ここは凰璃学園中等部1年C組ですよ」


「ひゃ、ひゃい…………あ、ありがとうございます」


 素晴らしいほどに()んでいた。何故そこまで、というほどである。


「あ、えっと……お隣いいですか?」


 女子生徒はちょうど空いている、トールの隣の席に座りたいようだ。トールは瑞稀と同じ特権所有者(スペシャル)になりたく、そのため瑞稀以外の特権所有者(スペシャル)の人と知り合いたい、と思っていた。特権所有者(スペシャル)を決めるのは教員、最終決定するのは学園長だが、当事者の話を聞いておきたいし、この学校でコネクションを作りたいのもある。そのためにこの女子生徒からは話を聞いておきたいし、クラスメイトからの印象を悪くしたくはなかったので当然のように承諾(しょうだく)した。


「どうぞ」


 そしてまた瑞稀にやったのと同じように椅子引きをした。


「えっ、えっと……ありがとうございますです」


 そういうことをされなれてないらしい女子生徒(され慣れている瑞稀、し慣れているトールの方が珍しい)が(ほお)を赤く染めておずおずと座った。なんだか女子だなあという反応である。恋、とまではいかないが、少なくともかなりの好感度である。まあ、トールは全く気づいていないのだが。瑞稀の方はあいつ、ハーレム形成しそうだなあ…あんま、いや、かなり巻き込んで欲しくないなと思っていた。


「申し遅れました。トール・ブリューゲルと申します。お見知りおきを」


「あ、えっと、私は春日(かすが)美久(みく)というです。よろしくお願いしますです!!」


 トールの方はあっさりと言い放った。対する春日美久は、随分と気合いのこもったものだった。


「あと、こちらの方は土御門瑞稀様でいらっしゃいます」


「土御門、瑞稀、といい、ます。よろしく、お願い、します」


 瑞稀は内心、何面倒いこと(人の紹介)をしているんだと思いつつ、一応自己紹介した。


「はい、よろしくお願いするです、土御門さん」


 こちらはあまりよろしくする気はない。瑞稀は正直そう思いつつ、HR(ホームルーム)早く始まれと願っていた。


 願いはどうやら通じたらしい。


 ドアから担任らしき男性が入ってきた。席に着いていなかった者は座り、話し声もぴたっと()んだ。


HR(ホームルーム)を始める」


 静かになった教室に教員の声が(ひび)いた。




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