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第2話 燃やせない提灯(前編)

宣伝です。別物語である『黄昏薬局』もお読みください。

異世界の裏通りにある薬局に欲にまみれた者が、思いを賭した者が訪れる。

店主のセックは、その者に薬剤を処方する。その後、どうなるかはその者次第


https://ncode.syosetu.com/n7773mp/

1.


目玉企画が決まれば、あとは順調に文化祭準備が進むというのは、文化祭を運営したことのない人の発想である。


7月、期末試験前の生徒会室。仰木明の目の前には、文化祭実行委員会から回ってきた予算申請の束が積まれていた。全校投票で決まった目玉企画は「校内謎解き宝探しラリー」。校舎全体を使う参加型企画で、投票では6割を超える支持を集めた。


問題はその予算欄である。


「……三隅先輩。この目玉企画の予算、申請額の半分しか付いてないんですけど、これで謎解きの景品と装飾、賄えるんですか」


「賄えません」


生徒会室に呼ばれた三隅先輩は、先月と同じ幽霊のような顔で即答した。


「じゃあなんでこの額で申請を」


「これしか残ってないんです」


三隅先輩が差し出したのは、文化祭全体の予算配分表だった。明は上から目を通していき一箇所で指が止まった。


「目玉企画が予算額が半分も認められていないのに『万灯回廊』は、文化祭予算の3割も食ってますよ」


「それ、うちの文化祭の伝統企画ですから、予算多く割り振られるんですよ」


万灯回廊。中庭の渡り通路に、手作りの和紙提灯を三百個吊るして、光の回廊を作る企画らしい。十五年前に当時の実行委員が始めて以来、毎年続いているという。


「ええっ!、300個の提灯を全部手作り?」


「はい。九月から実行委員の有志が放課後に作ります。竹ひごの骨組みに和紙を貼って、防水のニスを塗って。ひとつ作るのに二時間くらいかかります」


「300個で600時間……。それで、当日の評判は?」


三隅先輩は無言で一枚のアンケートの集計を差し出した。昨年の来場者アンケート、企画別満足度。万灯回廊は下から数えた方が早い。


「点灯するのが夕方5時なんです。でも一般来場者の大半は4時までに帰ってしまう。つまり、一番手間と金をかけた企画を、ほとんどの客が見ずに帰ってしまうんです。


しかも去年は点灯直後に夕立が来て、提灯の三分の一がダメになりました。一昨年は強風で2割。毎年、破損分の材料費が膨らんで…ここ3年、万灯回廊は単体だとずっと赤字です」


「聞けば聞くほど、縮小か廃止の一択に思えるんですが」


「僕もそう思ってましたよ。実は今年の委員会でも、六月の時点では縮小案が優勢だったんですから。提灯を50個に減らして、浮いた予算を目玉企画に回そうって。ところが……」


三隅先輩は、言いにくそうに眉を寄せた。


「先月の委員会で、ひっくり返りました。縮小どころか、今年は500個に増やす拡張案が可決されたんです」


「はあ!?」


思わず声が出た。向かいの席で予算表を眺めていた籠宮沙知代が、面白そうに身を乗り出す。その左手首で淡く輝くブレスレッド。


「あら、話が急に面白くなってきたじゃない」


「面白くないですよ。会長、これ放っておくと、せっかく決めた目玉企画が予算不足で潰れます」


「だから面白いんじゃない。三隅くんその委員会、次はいつ?」


「明日の放課後ですけど……えっ、まさか会長、乗り込む気ですか」


「あら、生徒会は文化祭予算の承認権を持ってるのよ? あと、乗り込むんじゃなくて、視察」


にっこり笑う会長の隣で、明は静かに帰り支度を始める。この流れで自分が巻き込まれなかったことは過去一度もない。声を掛けられる前に撤収である。


「書記くんも当然来るわよね?」


声を掛けれてしまった。明はすこしため息をしながら籠宮に返答する。


「……分かりました。どうせ拒否権ないんでしょ」


2.


翌日の放課後、文化祭実行委員会・準備室。


「ですから!! 今さらやめられるわけないでしょう!!」


視察に来た生徒会長を前にしても、委員たちの語気は衰えなかった。むしろ、生徒会が縮小を蒸し返しに来たと察して、態度は硬化していた。口火を切ったのは、装飾班の班長だという三年の女子だった。


「万灯回廊は十五年続いた伝統なんです。先輩たちが毎年、何百時間もかけて守ってきた企画なんですよ。それを、私たちの代で終わらせるんですか?」


「そうですよ」と別の委員が続く。


「それに、去年作った吊り下げ用の骨組みがまだ倉庫にあるんです。単管とワイヤーで、組むのに丸二日かかったやつが。あれを使わずに廃棄したら、去年の苦労が全部無駄になります」


「材料だってもう一部発注してます。和紙200枚。キャンセルできない分もあるし」


「だいたい、ここ三年うまくいってないからこそ、今年は成功させて流れを変えないと。ここでやめたら、この三年の赤字は本当にただの赤字で終わるんですよ?500個まで増やして話題になれば、今までの分も報われるじゃないですか」


委員たちは口々に言った。明は黙ってメモを取りながら、内心で唸っていた。


’’揃いも揃って、見事なくらい、全部「あれ」だ’’


「意見は分かったわ」


籠宮が場を制した。それから、ごく自然な動作で隣の明の背中を叩いた。


「じゃ、書記くん。反論どうぞ」


「世間ではそれを丸投げって言うんですよ、会長」


明はため息をひとつつくと、メモ帳を閉じて立ち上がった。


「……ええと、生徒会書記の仰木です。反論の前にひとつだけ、皆さんに質問させてください」


準備室の視線が集まる。


「もしもですよ。万灯回廊という企画が今年まで存在しなかったとして。まっさらな状態で、誰かが今日、こういう新企画を提案してきたとします。


『提灯を500個手作りします。必要な労力は延べ千時間。予算は文化祭全体の三割以上。客の大半は点灯前に帰るので見ません。天気が悪ければ数十個単位で壊れます』


皆さん、この新企画に賛成しますか?」


準備室が、しん、と静まった。


お手数ですが、いいねを押してくださると助かります。

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