第7話 初期設定はあなたより強い(前編)
文化祭の様子ははしょっています。
文化祭のお話は、閑話あたりでも書いてみたいと思います。
1
文化祭は、終わってみれば拍子抜けするほど円滑だった。
謎解き宝探しラリーは景品が昼過ぎに尽きかけるほどの盛況で、50個に絞った提灯の回廊は「ゴールの演出が泣ける」と評判を取り、十五年史展示には歴代のOB・OGが入れ替わり立ち替わり訪れて、装飾班班長は三回泣いた。
二日目の夜には天文部の観望会が皆既月食と重なるという出来過ぎた巡り合わせまであって、学園の秋は大団円で幕を閉じた。
「当日想定トラブル対応表、発動は二件。初日午前の小雨で受付を昇降口へ移設、二日目の放送機材の不調でハンドマイク対応。以上です」
事後報告会で、仰木 明は淡々と読み上げた。16項目書いた対応表の、出番はたったの2つ。
「ほぼ出番なしね。取り越し苦労だったんじゃないの?」と籠宮 沙知代。
「保険は使わないのが一番なんですよ。……ただ、正直に言うと、少し不思議ではあるんです。あれだけ工程が荒れてたのに、当日は妙に……綺麗に転がった。まあ、皆さんの頑張りの成果、ということにしておきます」
ということにしておく、という言い方を自分で選んだことに、明は少しだけ引っかかった。が、それ以上は考えないことにした。文化祭は成功した。それでいい。
2
文化祭の翌週、籠宮のブレスレットが三日間姿を消した。
「留め具、とうとう修理に出したのよ。ほら、前から調子悪かったでしょう。籠宮家出入りの銀細工師さんに預けてきたわ」
「証拠品を業者に預けていいんですか」
「証拠品が壊れていたらダメでしょう、……何よその顔」
「いえ、別に」
そして、その三日間、生徒会室は平和だった。
決裁書類と、備品の在庫確認と、議事録の清書。持ち込まれる相談はゼロ。放課後の生徒会室には、八田の電卓の音と、恵がプリントを綴じる音だけが、規則正しく響いていた。
「……なんか、静かだよね」三日目の夕方、恵がぽつりと言った。
「静かでいいんですよ。これが生徒会の正常運転です」
「そうなんだけどさ。なんだろ、こう……凪いでるっていうか」
四日目の朝、修理を終えたブレスレットが籠宮の手首に戻った。
そして、その日の放課後だった。
「失礼します。図書委員会の湯浅です。……ご相談が、あります」
入ってきたのは、二年の図書委員長だった。眼鏡の奥の目が生真面目そうな、姿勢のいい男子である。その手には、分厚い集計ファイル。
「単刀直入に言います。図書室の本が、返ってきません」
湯浅が広げた集計表に、明は目を走らせた。貸出図書の期限内返却率。一学期は九割前後で安定。それが二学期のある時期を境に、七割、六割と滑り落ち、先月はついに五割を切っていた。延滞は現在243冊。蔵書の回転が止まり、予約は詰まり、「借りたい本がいつ行ってもない」という苦情が図書室に積み上がっているという。
「それで、図書委員会としては対策を決めまして。来月から、延滞者への罰則を強化します。延滞一週間で貸出停止一ヶ月、延滞常習者は氏名を図書室前に掲示。……ただ、掲示については職員会議から『生徒会の意見も聞くように』と言われまして。それで、伺いました」
「氏名の掲示ぃ?」恵が眉をひそめた。「さらし者じゃん、それ」
「そうでもしないと、返ってこないんです」湯浅の声は硬かった。「僕たちだって好きで罰したいわけじゃない。でも、真面目に返している生徒が本を借りられない現状の方が、よほど不公平です」
「お話は分かりました」
明は集計表をもう一度、最初のページからめくり直した。そして、ある一点で手を止めた。
「湯浅先輩。この返却率、下がり始めた時期がずいぶんはっきりしてますね。九月の第二週。……夏休み明けの、しかも学期の途中から、崖みたいに落ちてる。何かありました? この週に」
「それが……分からないんです。制度も、担当も、蔵書も、何も変えていないはずなんですが」
はず、という言葉に、明の眉がわずかに動いた。
「分かりました。罰則の是非は、少し預からせてください。その前に、確かめたいことがひとつあります。返却率は、脅せば戻るとは限らないので」
学園の問題を行動経済学で解決してみたは、推理部門週間ランキングで、35位となっておりました。
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