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第五章:朝の温もりと、Fランクの冒険者

穏やかな朝は、まるで初めて迎えるもののように新鮮だった。

そして、平穏な日々の中に、思いがけない出会いが訪れる――ギルドという、新たな世界の扉が。

朝の光が、カーテンの隙間から柔らかく差し込んでいた。

彩がゆっくりと目を覚ますと、隣には紅蓮の姿があった。昨夜、縁側でうたた寝してしまった彼女を、彼が寝室まで運んでくれたらしい。

(いつの間に……)

彩の頬が、じんわりと熱くなった。

「起きたか」

低い声に、彩は飛び跳ねるように身を起こした。

「お、おはようございます! あの、昨日は……その、寝てしまって……」

しどろもどろになる彼女を、紅蓮は珍しく、少し愉快そうな目で見つめていた。

「別に構わん。よく眠っていたようだったからな」

「見て……たんですか」

彩の顔が、さらに赤くなる。紅蓮はそれに気づかないふりをして、台所の方へと歩いていった。

「腹が減った。何か作る」

「わ、わたしが作ります! 紅蓮さんの料理は……その……」

「なんだ、文句があるのか」

「昨日の卵料理、黒焦げでした」

紅蓮は一瞬、言葉に詰まった。

「……あれは、味付けの一種だ」

「真っ黒でしたよ」

「炭は身体にいいと聞く」

「聞いたことないです、そんなの」

彩がくすりと笑うと、紅蓮は軽く鼻を鳴らした。それでも、その口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。二人にとって、こんな他愛のないやり取りすら、まだ新鮮だった。

朝食を終えた頃、玄関の扉が叩かれた。

「ごめんください! いらっしゃいますか!」

聞き覚えのある声――先日のギルドマスターだった。

扉を開けると、彼は息を切らしながら頭を下げた。

「突然すみません! どうしても、あなたに話したいことがありまして」

「なんだ」

紅蓮が素っ気なく応じると、ギルドマスターは真剣な表情で切り出した。

「先日の狼の群れの件、あれから調べたのですが……あなたほどの実力者は、そうそういません。ぜひ、うちのギルドに登録していただけないでしょうか」

紅蓮は少し考えるような表情を見せた。

「……冒険者、か」

彼はちらりと彩を見た。彼女は少し期待するような目で、彼を見つめていた。

「……いいだろう。何をすればいい」

ギルドマスターは、目を輝かせた。

「本当ですか!? では、さっそくギルドまでご案内します!」

ギルドに着くと、受付には見慣れない水晶球が置かれていた。

「これは、登録者の力を測定する魔導具です。手をかざしていただければ――」

紅蓮は言われるがまま、水晶球に手を伸ばした。

次の瞬間。

パリン――!

甲高い音と共に、水晶球が粉々に砕け散った。

ギルド内が、一瞬にして静まり返った。

「……え」

受付の職員が、口を開けたまま固まっている。ギルドマスターは、こめかみに冷や汗を浮かべながら、震える声で言った。

「これは……測定不能、いや、限界突破……つまり――あなたは、頂点ランクからのスタートになりますね……」

紅蓮は特に驚いた様子もなく、あっさりと言った。

「いや、俺はFランクから始める」

「……は?」

ギルドマスターだけでなく、周囲の職員たちも一斉に目を丸くした。

「そ、そんな……あなたほどの実力があれば、いきなりSランクだって――」

「Fランクでいい」

紅蓮の声には、譲る気配が一切なかった。

「なぜですか……?」

困惑するギルドマスターに、紅蓮は視線を彩へと向けた。

「彼女と、一から歩んでいきたい」

その一言に、彩は目を見開いた。頬が、燃えるように熱くなる。

ギルドマスターは何かを察したように、小さく笑みを浮かべた。

「……わかりました。では、Fランクからのスタートということで」

こうして紅蓮は、Fランクの冒険者バッジを受け取ることとなった。歴代最強クラスの力を持つ男が、最底辺のランクから始めるという、前代未聞の出来事だった。

「彩、お前も俺の仲間として登録しておくか」

「わ、わたしもですか!?」

「当然だ。これから、一緒に依頼をこなすんだからな」

彩は戸惑いながらも、その言葉に小さな喜びを噛み締めていた。誰かの「仲間」として名を連ねる――そんな日が来るとは、思ってもみなかった。

登録を終えた二人は、掲示板の前に立った。ずらりと貼られた依頼書の中から、紅蓮は一枚を手に取った。

「薬草採取、か。これでいいだろう」

「Fランクらしい、簡単な依頼ですね」

彩がくすりと笑うと、紅蓮も小さく頷いた。

「行くぞ、彩」

「はい!」

彼女の声は、これまでで一番弾んでいた。二人は連れ立って、ギルドの外へと歩き出した。

最強の竜王が、Fランクの冒険者として歩み始める――誰が想像しただろうか。

しかし紅蓮にとって、ランクなど些細なことだった。大切なのは、彩と共に、一歩ずつ歩んでいくということ。

穏やかな朝、小さな依頼、そして寄り添う二人――平凡だが、かけがえのない日常が、静かに始まろうとしていた。

だが、天界の追手が動き出すまで、残された時間はそう長くはない――

For Chapter 6: their first mission (the herb-gathering quest) with

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