第二十二章:閉ざされた者たちと、宝物庫での休息
絶望の中に取り残された者たちを救うこと――それもまた、二人の使命の一つだった。
力を合わせて勝ち取った勝利の先には、束の間の安らぎが待っていた。
骸骨兵との激闘を終えた二人は、さらに通路を進んでいった。やがて、行く手に巨大な鉄扉が現れた。扉には、内側から何かで頑丈に閂がかけられているのが分かった。
「中に、誰かいる……?」
彩が、扉に耳を近づけながら呟いた。微かに、人の声が聞こえてくる。
「俺たちは、ギルドから派遣された者だ! 中にいるのは、行方不明になっていた冒険者か!」
紅蓮が声を張り上げると、扉の奥から、驚いたような声が返ってきた。
「――本当か!? 俺たちは、ここに閉じ込められて、もう三日になる……!」
「下がっていろ、扉を壊す」
紅蓮はそう告げると、拳を固めた。一撃で、頑丈な鉄扉が歪み、蝶番ごと吹き飛んだ。
扉の奥には、数名の冒険者たちが、疲弊しきった様子で身を寄せ合っていた。彼らは、眩しそうに外の光に目を細めながらも、安堵の表情を浮かべた。
「助かった……本当に、助かった……!」
一人の女性冒険者が、涙を流しながら膝をついた。
彩はすぐに鞄から回復薬を取り出し、一人一人に手渡していった。
「皆さん、これを飲んでください。すぐに楽になります」
冒険者たちは、震える手で回復薬を受け取り、口にした。たちまち、彼らの顔色が良くなっていく。
「あなたたちは……」
リーダー格らしき壮年の男が、紅蓮を見つめながら尋ねた。
「ギルドの依頼で、天穿の塔の調査に来た。お前たちを探していた者もいる」
「そうか……仲間たちは……」
男の表情が、一瞬曇った。
「俺たちは、深層の主と思しき化け物に襲われ、散り散りになった。生き残れたのは、ここにいる五人だけだ……」
紅蓮は、静かにその言葉を受け止めた。
「ここから先は、俺たちと共に行動しろ。一人で戻るよりも、安全だろう」
男は、深く頭を下げた。
「恩に着る。俺はガルドという。これから、よろしく頼む」
ガルドたち五人を加えた一行は、慎重に歩を進めていった。しばらく進むと、巨大な扉の前に辿り着いた。扉の向こうから、凄まじい魔力の気配が漂ってくる。
「この先に、ボスがいるな」
紅蓮が、扉を見据えながら言った。
「俺たちも、戦う!」
ガルドが、剣を構えながら申し出た。
「足手まといになるなよ」
紅蓮は素っ気なく答えたが、その声には、彼らの覚悟を認めるような響きも含まれていた。
扉を開けると、そこには巨大な石の巨人――ゴーレムが待ち構えていた。その身体には、禍々しい紋様が刻まれており、異様な魔力を放っている。
「行くぞ!」
紅蓮の号令と共に、一行は一斉にゴーレムへと攻撃を仕掛けた。ガルドたちが前衛となってゴーレムの注意を引きつけ、彩が後方から援護の魔法を放つ。そして、紅蓮が要所要所で決定的な一撃を叩き込んでいく。
「彩、右側から回り込め!」
「はい!」
彩は短剣を構え、ゴーレムの死角へと素早く回り込んだ。彼女の一撃が、ゴーレムの関節部に正確に突き刺さる。
「よし、そこだ!」
紅蓮が、彩の作った隙を逃さず、ゴーレムの核へと渾身の一撃を叩き込んだ。
ズオオオン――!
轟音と共に、ゴーレムの巨体が崩れ落ちていった。
「や、やった……!」
ガルドたちが、歓声を上げた。見事な連携によって、強敵を打ち倒すことができたのだった。
彩は、紅蓮の元へと駆け寄った。
「やりましたね!」
「ああ。お前の援護のおかげだ」
紅蓮が彼女の頭を撫でると、彩は嬉しそうに微笑んだ。
ゴーレムが守っていた扉の奥には、煌びやかな宝物庫が広がっていた。金貨や宝石、魔道具の数々が、所狭しと並んでいる。
「これは、すごい……」
ガルドたちも、目を輝かせながらその光景に見入っていた。
「少し、ここで休むとしよう」
紅蓮の提案に、全員が安堵の表情を浮かべた。激しい戦闘の疲れが、ようやく癒される時が来たのだった。
彩は、宝物庫の片隅に腰を下ろすと、大きく息を吐いた。
「本当に、色々なことがありましたね」
「ああ」
紅蓮も、彼女の隣に腰を下ろした。ガルドたちも、それぞれ思い思いの場所で身体を休めている。
「深層の主……あとどれくらいで、辿り着けるでしょうか」
彩が、不安げに呟いた。
「分からん。だが、ここまで来た以上、後戻りはできない」
紅蓮は、彩の肩をそっと抱き寄せた。
「少し休んだら、また進むぞ。お前も、無理はするなよ」
「はい」
彩は、彼の肩に頭を預けながら、静かに目を閉じた。宝物庫に満ちる静寂の中、束の間の安らぎが、一行を優しく包んでいた。
閉じ込められていた冒険者たちを救い出し、強敵を共に打ち倒した一行。
仲間が増えたことで、これから待ち受ける困難にも、立ち向かう力が増したように感じられた。
宝物庫での束の間の休息――それは、深層の主との決戦を控えた、最後の静けさだったのかもしれない。
迷宮の奥深くには、まだ見ぬ真実と、計り知れない脅威が、静かに待ち受けていた。




