第二十三章:宝物庫での団欒と、隠れる少女
戦いの後の宝物庫には、思いがけない賑わいが生まれていた。
しかし、新しい顔ぶれに囲まれ、彩の中には、まだ消えない人見知りが残っていた。
ゴーレムを討伐した後、一行は宝物庫で本格的に休息を取ることにした。ガルドたちは、散らばった金貨や宝石を手分けして回収し始めた。
「おい、見てくれこの剣! かなりの業物だぞ!」
ガルドのパーティーメンバーの一人、若い青年が興奮気味に声を上げた。彼は剣を掲げながら、紅蓮の方を振り返った。
「なあ、あんた、本当にあの邪竜を一人で倒したって噂、本当なのか?」
紅蓮が短く頷くと、青年は目を輝かせた。
「すげぇ……! 今度、剣の稽古つけてくれよ!」
「考えておく」
紅蓮の素っ気ない返事にも、青年はめげずに笑顔を見せた。ガルドが、呆れたように彼の頭を小突いた。
「馬鹿、命の恩人に図々しいこと言うな」
「いいじゃないかよ、せっかくこんなすごい人と会えたんだし!」
そんな賑やかなやり取りを、彩は少し離れた場所から、紅蓮の背中に隠れるようにして眺めていた。
「……彩?」
紅蓮が振り返ると、彩はびくりと身を縮めた。
「な、なんでもないです」
「怖がっているのか」
紅蓮が小声で尋ねると、彩は小さく頷いた。
「大勢の人に囲まれるの、まだ少し……慣れなくて」
長年、村で孤立していた彼女にとって、これほど多くの人々と近い距離で過ごすこと自体が、未知の経験だった。悪意がないと分かっていても、身体が勝手に萎縮してしまう。
紅蓮は、彼女の頭にそっと手を乗せた。
「無理に馴染もうとしなくていい。俺の傍にいればいい」
その言葉に、彩は少しだけ安堵の表情を浮かべた。
そんな彩の様子に気づいたのは、唯一の女性冒険者――ミーラという名の魔法使いだった。彼女は、にこやかに彩へと歩み寄った。
「彩さん、だったよね? さっきは、助けてくれてありがとう」
「い、いえ……」
彩は、おずおずと顔を上げた。
「その瞳、すごく綺麗だね。左右で違う色なんて、初めて見た」
ミーラの言葉に、彩は一瞬、身構えた。しかし、彼女の表情には、好奇心こそあれ、悪意は一切感じられなかった。
「……ありがとう、ございます」
彩は、小さな声で答えた。
「あたしも、昔は人見知りだったんだ。分かるよ、その気持ち」
ミーラは気さくに笑いながら、彩の隣に腰を下ろした。
「あんな強い人が、ずっと守ってくれてるんでしょ? 羨ましいなあ」
「そ、そんな……」
彩の頬が、わずかに赤くなった。紅蓮はその様子を、少し離れた場所から静かに見守っていた。
一方、ガルドは紅蓮に近づき、真剣な表情で切り出した。
「改めて、礼を言わせてくれ。あんたがいなければ、俺たちはここで朽ち果てていただろう」
「気にするな。成り行きだ」
「それでも、恩は恩だ。これから先、何か力になれることがあれば、何でも言ってくれ」
紅蓮は、少し考えるような素振りを見せた。
「……一つ、頼みがある」
「なんだ?」
「彩のことだ。人に慣れていない。あまり、気負わせないでくれ」
ガルドは、その言葉に、意外そうな表情を浮かべた。それから、にやりと笑った。
「へえ、あんたでも、そんな気遣いをするんだな」
「……悪いか」
「いや、いいことだ」
ガルドは、紅蓮の肩を軽く叩いた。
「分かった、彩殿には、俺たちからも気を遣うよう言っておく」
しばらくして、宝物庫の中央に、簡易な焚き火が用意された。ガルドたちが持っていた携帯食と、紅蓮が持参した食材を合わせ、簡単な食事が振る舞われることになった。
「彩さんも、こっちおいでよ」
ミーラに手招きされ、彩は少し緊張しながらも、輪の中へと足を踏み入れた。紅蓮は、そんな彼女のすぐ隣に腰を下ろした。
「あんたら、本当に仲良いよな」
若い青年が、からかうように笑った。彩は、慌てて俯いた。
「そ、そんなこと……」
「いいじゃねえか、照れんなって!」
ガルドたちの賑やかな笑い声が、宝物庫に響いた。最初は緊張していた彩も、次第にその温かい雰囲気に、少しずつ心を開いていった。
「……悪くない、ですね。こういうの」
彩が、小さく呟いた。
「ああ」
紅蓮も、静かに頷いた。彼女の肩に、そっと手を回す。
焚き火の灯りに照らされながら、一行はしばしの団欒を楽しんでいた。これから訪れるであろう、さらなる試練を前にした、束の間の温かな時間だった。
新しい仲間たちとの出会いは、彩にとって、また一つの成長の機会となった。
怯えながらも、少しずつ心を開いていく彼女の姿を、紅蓮は静かに、そして誇らしげに見つめていた。
宝物庫での団欒を終え、一行は再び、深層の主が待つ場所へと向かう準備を始めていた。
これから待ち受ける決戦――それに向けて、一行の絆は、確かに強まっていた。




