王都から追放された“災厄認定男”に手を差し伸べたのは謎の美女たち――だが同時に、別の世界で“それ”を恐れる男が目覚める
追放後、誰も近づかなくなった主人公。
そんな中、初めて“普通に話しかけてくる存在”が現れます。
──ただし、少しだけ様子がおかしいです。
石が当たったのは、三度目だった。
「近づくな、化け物!」
甲高い声と同時に、小石がヒゲロの肩を打つ。
痛みは大したことがない。
だが──その視線の方が、よほど痛かった。
(……もう慣れたな)
王宮で“あの単語”が告げられてから。
たった一日で、すべてが変わった。
いや、違う。
最初からこうなる運命だったのかもしれない。
ヒゲロは視線を落とし、人気のない路地へと入る。
誰もいない場所。
誰も近づかない場所。
それが今の彼にとって、唯一の安全地帯だった。
腹が鳴る。
(……腹減った)
異世界に来てから、まともに何も食べていない。
だが店に入れば追い出される。
視線を向けられるだけで、拒絶される。
理由は単純だ。
“Nightmarebending”。
その単語を聞いた瞬間の、あの空気。
あれがすべてを決めた。
ヒゲロは壁にもたれ、ゆっくりと座り込む。
このまま、ここで朽ちていくのか。
そんな考えが、ふとよぎった。
「──ねえ」
声がした。
ヒゲロは顔を上げる。
路地の入口に、数人の女性が立っていた。
整った容姿。
そして、どこか場違いなほどに上質な服装。
だが何より目を引くのは、その落ち着いた表情だった。
恐怖も、嫌悪もない。
ただ、観察するような視線。
「あなたが“例の転移者”?」
一人がそう言って、ゆっくりと近づいてくる。
ヒゲロは反射的に身構えた。
「……近づかない方がいい」
「どうして?」
「俺に関わると──」
「危ないから?」
言葉を遮られる。
だが、その声音には恐れがない。
むしろ、どこか確信めいたものがあった。
「安心して。私たちは“研究者”よ」
「……研究者?」
「ええ。純粋に興味があるの」
別の女性が口を開く。
「未知の能力。未知の現象。未知の存在」
「それを知りたいだけ」
その言葉は、あまりにも綺麗だった。
綺麗すぎて──逆に現実感がない。
ヒゲロは黙ったまま、彼女たちを見る。
罠かもしれない。
新しい形の拒絶かもしれない。
だが。
「……ねえ」
最初に話しかけてきた女性が、少しだけ首を傾けた。
そして、ゆっくりと手を差し出す。
「お腹、空いてるでしょ?」
その一言は、あまりにも単純だった。
あまりにも、人間的だった。
ヒゲロの思考が、一瞬止まる。
差し出された手。
そこには打算があるのか、それとも──
「来なよ。少なくとも、ここよりはマシな場所があるから」
微笑み。
拒絶のない視線。
それは、この世界で初めて向けられたものだった。
ヒゲロは、わずかに迷い──
そして、その手を見つめた。
まだ、触れてはいない。
だが。
その距離は、確かに縮まっていた。
──そのときだった。
遠くで、何かが“揺れた”。
誰にも気づかれないほど微かな違和感。
だがそれは、確かに存在した。
ヒゲロはまだ知らない。
この出会いが、ただの偶然ではないことを。
そして──
この世界そのものが、すでに“誰かの恐怖”に触れていることを。
──別の世界。
まったく関係のない場所。
まったく関係のない男。
「……っ!」
男は飛び起きた。
全身が汗で濡れている。
呼吸が荒い。
心臓が、異様な速さで脈打っていた。
「……なんだ、今の……」
夢。
そう、夢だ。
ただの悪夢。
だが──
あまりにも“鮮明すぎた”。
見たこともない世界。
理解できない名前。
現実ではあり得ない法則。
「……ふざけるな」
男は頭を押さえる。
震えが止まらない。
「そんなもの、あるはずがない」
現実は現実だ。
世界は一つだ。
説明できないものなど、存在してはならない。
それが“正常”だ。
それが“正しい”。
だというのに。
脳裏に焼き付いて離れない。
あの世界。
あの空。
あの──
「……っ」
思い出しかけて、男は歯を食いしばる。
恐怖が込み上げる。
理解できないものへの、根源的な拒絶。
「……消えろ」
思わず、そう呟いた。
「そんな世界、存在するな……」
その言葉は、ただの独り言だった。
誰にも届かないはずの、拒絶。
だが。
もしも。
その“恐れ”が、どこかで現実に触れていたとしたら──
読んでいただきありがとうございます。
この章で“外の世界”に違和感を入れました。
まだ説明はしませんが、ちゃんと繋がっています。
そして次回、
彼女たちがなぜ近づいてきたのかが少しずつ見えてきます。
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