美人研究者に拾われたと思ったら、なぜか恐竜の頭を被せられた件
今回、ちょっと雰囲気が変わります。
ヒゲロはようやく「普通に接してくれる人たち」に出会いましたが、
その“普通”が本当に普通なのかは、まだ分かりません。
少しだけ不穏な空気を感じてもらえたら嬉しいです。
連れて来られたのは、街からかなり離れた場所だった。
森の奥。
人の気配がほとんどない、小さな木造の小屋。
「ここなら安心よ」
フィリカがそう言って扉を開ける。
中に入ると、外見とは違って妙に整っていた。
本棚。机。見たことのない器具。
そして、その中央に置かれているものに、ヒゲロの視線が止まる。
「……それ、何だ?」
金属製の装置。
重厚で、無骨で。
そして──明らかにおかしい形をしていた。
長く突き出た口。鋭い歯のような装飾。
まるで、生き物の頭部を模したかのような造形。
(……恐竜?)
「魔力測定器よ」
サンネが淡々と答える。
「個体の魔力の流れ、出力、干渉性を観測する装置」
横からルリカが付け足す。
「改良型。まだ試作段階だけど」
「……それを俺に?」
「ええ」
フィリカが頷く。
迷いはない。
当たり前のように言う。
ヒゲロは、四人の顔を順に見た。
綺麗だ。
整っている。
だが──
(おかしい)
何かが。
決定的に。
“人の反応じゃない”。
興味の向け方が違う。
感情ではなく、観察。
評価ではなく、測定。
(……実験対象、みたいだな)
そんな言葉が、頭に浮かぶ。
だが。
同時に、別の光景が重なった。
石を投げてきた人々。
距離を取る兵士たち。
“災厄”を見る目。
(……それでも)
目の前の四人は違う。
少なくとも、追い払わなかった。
話しかけてきた。
食べ物をくれた。
それだけで、今のヒゲロには十分だった。
「……いい」
小さく呟く。
「やるなら、早くやってくれ」
一瞬だけ、フィリカの目が細くなる。
その意味に、ヒゲロは気づかない。
いや──気づかないふりをした。
「助かるわ」
シアンネが静かに言う。
「じっとしてて」
ヒゲロは椅子に座る。
金属の冷たさが背中に伝わる。
次の瞬間、視界が覆われた。
あの装置が、頭に被せられる。
重い。
内側はひどく冷たい。
「──開始」
サンネの声。
直後。
頭の奥で、何かが引きずり出される感覚。
「……っ」
胸の奥。
あの黒い水のようなものが、波打つ。
揺れる。
形を変える。
そして──
“外に出ようとする”。
「今、反応した」
ルリカの声。
「出力、通常値の……いや、比較できない」
「波形が一定じゃない。変化してる……?」
「違う。これ……観測されてるんじゃなくて……」
言葉が途切れる。
ほんのわずかに、空気が変わる。
だが、それは恐怖ではない。
理解できないものに対する、純粋な興味。
「ヒゲロ」
フィリカが呼ぶ。
「これ、すごいわ」
「……何が」
「まだ分からない」
即答だった。
「だから、調べる」
ヒゲロは黙る。
この人たちは。
本当に。
“怖がる”という感覚が、どこか抜け落ちている。
そんな気がした。
──その頃。
王都の市場は、いつも通り賑わっていた。
「珍しい薬草だ! 遠方から仕入れた特別品だ!」
行商人の声が響く。
人々が足を止める。
「女性に効く! 子を授かりやすくなる!」
ざわめきが広がる。
興味、期待、欲望。
様々な視線が集まる中。
「……それ」
四人の女が立っていた。
フィリカ。
サンネ。
ルリカ。
シアンネ。
人混みの中でも浮いている。
だが誰も、それを不自然だとは思わない。
「効果は?」
フィリカが問う。
「ああ、これはな──」
行商人が説明を始める。
だが。
「いいわ」
途中で遮る。
「買う」
即決。
サンネが金を差し出す。
「四つ」
「ま、毎度あり!」
袋に詰められる薬草。
それを受け取る。
その動作は、あまりにも自然で。
あまりにも迷いがなかった。
「これで足りる?」
ルリカが言う。
「ええ」
シアンネが頷く。
フィリカは袋の中身を一度だけ確認し。
静かに言った。
「次に進める」
その言葉の意味を。
まだ誰も知らない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この四人、優しいようでいて、ちょっとズレている部分があります。
ヒゲロ自身もそれには気づいていますが、あえて深く考えないようにしています。
さて、彼女たちが最後に買っていたものですが……
どういう意図なのか、今後少しずつ見えてきます。
もし気になる点や違和感があれば、そのまま覚えておいてもらえると嬉しいです。




