勇者として召喚されたはずなのに、能力鑑定の瞬間に“災厄認定”されて空気が凍りついた
気づいたら異世界。
しかも勇者扱い。
──のはずだった。
この後、主人公は“たった一言”で立場が逆転します。
目を開けた時、ヒゲロはすでに囲まれていた。
石造りの広間。高すぎる天井。冷たい空気。
そして──玉座。
「……目覚めたか」
低く、よく通る声だった。
視線の先、豪奢な椅子に座る男。
王冠。紫の外套。揺るがない姿勢。
「余はダホブ王国の王である」
ダホブ王国。
聞いたことのない名前だ。
いや、それ以前に──
(ここ、どこだ……?)
ヒゲロはゆっくりと体を起こした。
その瞬間、周囲にいた兵士たちが一歩引く。
まるで“何か”を警戒するように。
王はそれを見て、わずかに目を細めた。
「安心せよ。お前は選ばれし者だ」
「……選ばれた?」
「そうだ。この世界──ラス・ウーパープット・アエックス・トラファー・ティルト・ダプレ・ニャダにおいて、お前は“勇者”として召喚された」
長すぎる世界名が、現実感をさらに削る。
ヒゲロは言葉を失った。
だが王は構わず続ける。
「本来であれば祝福すべきことだ。だが、我らには手順がある」
王が軽く手を上げる。
すると、奥の扉が音もなく開いた。
そこから現れたのは──異様な集団だった。
黒いローブ。
そして、顔を覆う仮面。
それは人の顔ではなかった。
犬のように長く伸びた鼻先。
鋭く細い目。
まるで古代の神を模したかのような──
(……アヌビス?)
なぜかそんな単語が頭をよぎる。
「彼らは我が国の占術師だ」
王が言う。
「転移者の“能力”を読み解き、その危険性と適性を判断する」
ヒゲロの心臓が、わずかに跳ねた。
(能力……?)
その瞬間、胸の奥に“あの感覚”が蘇る。
黒い水のような、揺らめき。
名前を持った何か。
だが、それを言葉にする前に──
占術師たちが円を描くようにヒゲロを囲んだ。
そして、一斉に口を開く。
「──In nomine……」
聞いたことのない言語。
だがどこか、ラテン語に似ている響き。
「──tenebrae……somnium……」
低く、重なり合う声。
空気が震える。
ヒゲロの足元に、見えない“何か”が広がっていく感覚。
(……なんだこれ)
寒気が走る。
占術師たちの声が次第に早くなる。
そして──
ぴたり、と止まった。
沈黙。
次の瞬間。
一人が、震えた。
「……っ」
もう一人が後ずさる。
そして、まるで連鎖するように──
全員の体が震え始めた。
「なにを見た」
王の声が鋭くなる。
だが占術師たちは答えない。
いや、答えられない。
一人が、自らのローブを掴んだ。
そして──
ビリッ、と引き裂いた。
「……っ、ぁ……!」
呼吸が乱れる。
もう一人も、同じようにローブを引き裂く。
まるで、何かから逃れようとするように。
だが逃げ場はない。
円の中心にいるのは、ヒゲロだ。
「報告せよ!」
王の声が響く。
その瞬間。
一人の占術師が、ようやく口を開いた。
だが、その声はもはや“報告”ではなかった。
ただの、恐怖の吐露だった。
「……Nightmare……」
震える声。
喉が潰れたような音。
「……Nightmarebending……!!」
その単語が、広間に落ちた瞬間。
空気が、完全に変わった。
兵士たちが一斉に後退する。
誰もが、ヒゲロを見る。
さっきまでの“勇者を見る目”ではない。
それは──
災厄を見る目だった。
ヒゲロは、まだ知らない。
自分の持つその力が、何を意味するのか。
だが、ひとつだけ確かなことがあった。
この世界はすでに──
彼を拒絶し始めている。
読んでいただきありがとうございます。
ここから一気に「扱い」が変わります。
というか、この世界、最初からちょっとおかしいです。
次話、普通に追放されます。
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