第17話 まだまだ頑張れ俺の理性君!
正直に「あっ……」などと間の抜けた声で呟いてしまった手前、最早言い訳の余地はない。
俺は目下、アルちゃんの御機嫌取りに全力を注ぐことになった。
彼女は存外繊細なところがあるようなので、かなり苦しい戦いになるだろう。
一体この状況を打破する為にはどうすればいいというのか。
……四苦八苦の果て、「これから先、アルちゃん以外の剣は使わない!」と言ったら何故か機嫌を直してくれた。
どうやら、創造主である俺への好感度が異様に高かったのはユリアだけではなかったようだ。
さて、そんなわけで、俺はようやく当初の目的に着手する。
最優先は、寝具の作画だ。
そのついでに、今後の事について考える。
一番は、この世界でいかにして暮らし、ミクと結婚するかだ。
無論、これは今日すぐにという話ではない為、あくまでも漠然としたイメージの話だが。
より具体的な事は、ここから出た後に考えた方がいいだろう。
俺はこの世界の事をまだよく知らないし、それはミクの事も同じく。
しかし、ミクは王族だということは既にわかっている。
彼女と結婚する為には色々と下準備も必要だという事だ。
それこそ、目下の課題としては彼女の周囲の者達からの信用を得ることか。
それが、一番の関門である事は想像に難くない。
異世界もののラノベでも、王族や貴族との結婚に根回しは重要だと感じる場面は多いしな。
亡国のお姫様とはいえ、その血筋の尊さに変わりはないだろう。
故に、まずは外堀をしっかり埋めてから、プロポーズだ。
まあ、そうは言ってもミクの周囲の者達とはまだ知り合ってすらいないのだから、今その辺りの事を考えていても仕方がないだろう。
手持無沙汰な分の思考は、プロポーズのイメージトレーニングなんかをして補完していた。
シンプルに結婚してほしいとだけ言うのがいいのか。
少しくらい回りくどい言い回しをした方がいいのか。
我ながら気が早いとは思うが、そこは俺も初めての恋で浮かれているのだろう。
あるいは、やはり先ほどの試練が未だ尾を引いているか。
なんだかんだ言って、混浴という素敵なシチュエーションを存分に享受できなかったのは忸怩たる思いだった。
そんな事を考えている間にも、ついにベッドの作画が一つ終わる。
それとほぼ同時に、小屋の扉が開かれてお風呂上がりのユリアとミクの姿も見えた。
「あっ!ユヅル様!あの化粧水と乳液っていうの、使わせてもらったよ!」
満面の笑みを浮かべたミクが、まるでご主人様を見つけたワンチャンのようにシュタッとこちらに飛び込んでくる。
「おおっ、どうだった?」
「凄い!凄いよこれ!こんなに凄い美容品が存在するなんて、ほんと信じられないくらい!ほら見てユヅル様!お肌がこんなにトゥルットゥル!」
「ああ、ミクの綺麗な肌も、潤いで一層際立ってるな」
「えへへ……ありがとね、ユヅル様。それにね、シャンプーとリンスのおかげで、髪もこんなにさらさらなの!ユヅル様に会うまではあんなに気になってた髪のコンディションも、もうバッチリ完全復活だよ!」
高揚を隠せないというように、全身で喜びを露わにしてくれるミク。
彼女の言うように、魔法で乾かしたと思われる彼女の長い髪はさらさらと絹糸のようにほどけていった。
出会ったときはツインテールに結んでいたのでわかりずらかったが、こうして下ろしているのを見るとやはり綺麗な髪をしていると思う。
俺の贈った美容品の効能も、無事ミクのお眼鏡に敵ったようで何よりだ。
これも作画スキル様様というところか。
効能に関しては未知数だったので当初は不安もあったのだが、ミクの嘘偽りない喜びようを見て安堵した。
お姫様で、それも美容に五月蠅そうなミクがこうも素直な驚嘆を示してくれたのだ。
もしかしなくても、これらの美容品。この世界でも最高峰の品質なのではないだろうか?
いくらイメージを固めたからと言って、作画コストの安い品でもそれだけ高品質な物を具現化できるとわかったのは、僥倖だ。
ミクの反応から俺が色々と思案に耽っていると、そこでミクの視線が俺の手元に向く。
「ところでユヅル様、今は何を描いているの?」
「ああ、これか?後はもう寝るだけだろうから、最後にベッドをな。丁度、一人分完成したところだ」
「え!?もしかして人数分用意してくれるつもりだったの?」
「ん?ああいや、それは――――」
ミクに問われ、思わず口ごもってしまう。
なまじ、ベッドをいくつ用意したものかと不純な葛藤をしていただけに、少々拙い。
しかし、だからといって正直に答えるのもどうかと思うので、ここはあくまでも紳士的に答えることにした。
「……まあ、流石に初対面の女の子と同衾するのは拙いだろ?」
「そ、それは、私も気安く男の人と寝ちゃダメってことくらいはわかってるけど……でも、人数分用意するのって、大変じゃないの?」
「う~ん、まあ、あと一時間ちょっとあれば?」
「えぇ!?それは流石に申し訳ないよ!そういう事なら、私の分は自前の寝袋があるし大丈夫だから!」
「いや、流石に女の子を寝袋で寝かせて俺だけベッドで寝るのもな?」
「で、でも……う~ん……」
そこで何やら思案し始めるミク。
俺の手元をすっと覗き込んできて、先ほど完成させたばかりのベッドの絵を徐に見つめてきた。
すると、それに何を思ったのか「あっ……」と呟いて、今度は俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「ねえ、ユヅル様」
「な、なんだ?」
「ユヅル様の能力って、ここに描いた絵がそのままイメージ通りに具現化する力っていう認識で間違いないかな?」
「ああ、俺も詳しい事はまだわからないが、今のところそういう認識で間違いないと思うぞ?」
「このベッド、見た感じ三人で寝ても大丈夫なくらいの大きさだよね?」
「ん……?」
ミクの言うように、俺は寝心地の事も考えて、一人分とはいえそれなりの大きさでベッドを描いた。
しかし、そこに何か気になる事でもあったのだろうか?
「だったらさ、私、その……」
……なんだろう?
俺の心臓が、何やら素晴らしい予感を察知して段々と高鳴り出す。
こ、これはもしかしなくてももしかするのでは?
ドギマギとする俺を焦らすこともなく、ミクが意を決したように口を開いた。
「私、ユヅル様となら、一緒に寝ても、いいよ?」
す、すすす、据え膳だぁ!!!!!
思わず声に出して叫びそうになったが、ここはキリっとした顔をしてグッとこらえる。
いかんいかん。
ユリアの冷たい視線のおかげでかろうじて持ちこたえることが出来たぜ。
とにもかくにも、ここは一旦ステイクールだ。
まずは、紳士的にしっかりと確認を挟む。
「い、いいのか?だって、ミクはお姫様なんだろ?」
「う、うん。まあ、後で皆に言ったら怒られちゃうかもしれないけど……そこは、秘密にすればいいでしょ?それに、ユヅル様となら私、同衾しても安心できると思うんだ」
「……それは、なんというか、嬉しいよ。俺の事を信頼してくれて、ありがとう」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。会ったばかりの私にもこんなに良くしてくれて、本当に嬉しかった」
「ミク……」
「それにね、ユヅル様は私が美容に凄く気を使ってるって察してくれたんだよね?」
「まあ、そうだな……」
「私もそこまで詳しい訳じゃないけど、それでも、男の人がここまで女の人の美容に理解がある事って、この世界じゃとっても珍しい事だと思うの」
ミクの話に少し思案する。
確かに、この世界がまさしく俺の想像する異世界ファンタジーな世界だとして。
そのイメージにある時代感の男性が、女性の美容に理解が深いというのは中々に珍しいように感じるだろう。
しかし、現代的な価値観では美容に気を使う男だって少なくない。
俺もその中の一人だしな。
そういう意味では、俺がミクに美容品をプレゼントしたのは大正解だったのだろう。
本当に、我ながらナイス判断だったとしか言えない。
次の瞬間には、実際にそのような旨がミクの言葉でも告げられた。
「今の生活じゃ、美容品だって滅多に手に入らないし、綺麗でいようって頑張っても、中々大変な事も多いんだ」
「ああ」
「それでも私にとっては、いつだって綺麗な女の子でいる事が何よりも大切な事だったから。あんなに凄い美容品を送ってもらった時、私が一番大切にしていることを肯定してくれたようで凄く嬉しかった」
「まあ、自分で言うのも難だが、俺も美容には気を使っている方だからな。理解はある方だと思う」
「うん!やっぱりそうだよね!でもそれだけじゃないでしょ?私、ユヅル様って凄く優しい人なんだなって、この短い時間でもわかったよ?」
「本当か?」
「うん、だからね、私、ユヅル様ともっと仲良くなりたいな」
「ああ……嬉しいよ。俺も、ミクともっと仲良くなりたい」
「えへへ……やった!」
俺からの肯定に、無邪気な喜びを前面に押し出して応えてくれるミク。
なんだか照れと同時に、惚れた女の子に信頼してもらえたのが純粋に嬉しくて胸がいっぱいになった。
しかし、だからこそ拙い事もある。
こう言ってもらえた手前、今夜はミクに安心して寝てもらわなければいけないのだ。
せっかくミクにここまで信頼してもらえたのに、その信頼をぶち壊す様なことなんて出来ようはずがない。
いかに魅力的なシチュエーションといえど、これはまたしてもつらい自重を強いられることになりそうだった。
俺は先ほどの混浴と言う名の試練を思い出し、再度決意を固める。
「それじゃあ、ベッドは一つで本当にいいんだな?」
「うん、むしろ、用意してくれたことに感謝しかないよ!」
淀みなく、肯定的な返事を返してくれるミク。
なんだか既にみんなで寝る流れになっているが、俺はユリアにもしっかりと確認を取ることにした。
「ちなみにユリアは……」
「まあ、ミク様がそうおっしゃるなら、私も見張りとして渋々同衾いたします」
「そうか……なら、うん、一緒に寝るか。それじゃ、今ベッドを具現化するからな」
これでようやく、心置きなく二人と一夜を共にすることができる。
まあ、そうは言ってもムフフなあれやこれはひたすらに我慢であるが。
まさしくこの状況は、まだまだ頑張れ俺の理性君とでも言うべきか。
元はと言えば淡い下心から同衾を期待していた俺ではあるが、実際にこうなった以上は現状で満足するしかあるまい。
混浴の時と一緒だ。
今だけの辛抱である。
まあ、そうはいっても贅沢な悩みだとも理解しているが。
地球にいた頃は女の影一つなかった俺が、今では美少女二人と同衾である。
俺は鋼の意志を持ってベッドを一つ具現化すると、二人に勧められて先にベッドに入り、寝心地を確かめさせてもらうことに。
「おお、凄いふかふかだ」
ドギマギとした気持ちを覆い隠すように、掛布団を口元までかけて横になる。
正直、混浴の時もお風呂の気持ちよさには随分と助けられたが、このベッドも同様に寝心地の良さに助けられそうである。
とりあえず、今夜は心を無にしよう。
早いとこ、すやぁと眠りにつくのだ。
そう思って、目を閉じようとした瞬間。
するりっと二人が上着を脱ぎ出した。
当然、俺の目が眠気眼から一瞬で覚醒したのは言うまでもない。
しかし、まだまだ頑張れ俺の理性君!
薄着になって同じベッドに入らんとする美女二人を前に、俺は段々と自分の決意が揺らいでいくのを肌で感じているのだった。
↓同時連載中
「The Hero's Sweet Brides~学園の女子だけ貞操観念が逆転していくサバイバルクラフトゲームで、俺だけ既に神殺しと畏怖された異世界の救世主~」
https://kakuyomu.jp/works/822139838557577613
※もう一つのリンクはノクターンノベルズの為ここでは割愛。
・作者X
https://x.com/Shuu_Souzuki
作品の執筆状況などをたまに投稿していく予定です。




