第十八部 第10話 hide&seek(かくれんぼ)
「コイツら、なんかヘン!ってか、キモぃっ!」
マドカとアンの前に現れたのはボルドールの駆るHanielだ。ただ、見た限りでこれまでと異なるのは、従えているNLBMが12機ではなく、20機に増えていることと、明らかにそれまでとは動きが異なることだった。
「数の問題じゃナイよね?コレ・・・マドカちゃん、コイツらってさ、人が乗ってないのに乗ってる?」
自分でも言っていることの意味が分からない。NLBMがNEXTの脳を活用したシステムによる完全自立型Mhwだということは分かっているが、マドカもアンも強力なNEXTだからこそ、NLBMの連携に僅かばかりの〝個〟を感じ取ることができていた。それは正に連携の〝最高峰〟であって、1つの目的(おそらくはマスターの生存だろう)のために各機が連動した動きを即座に選択していた。それは意志の伝達ですら読み取れてしまう彼女たちからすれば、脅威ではあっても恐怖ではない。簡単に言ってしまえば、その脅威には対処が可能だった。
「だよねぇ?コレってなんかこう・・・部隊相手ってより、デッカい1匹のバケモノ相手してるってカンジ?ワカンないけど、ヌルヌルしてる」
「ソレ、わかるぅ~。ホント、キモいわ。チョー巨大なスライム、みたいな?」
2人への攻撃がキビシイものかと聞かれればそうでもない。いつもならばパイロットの思考が先に来て、それに呼応するように回避なりできるが、この相手にはソレが無い。だからと言って反射的に回避することはできている。さらに言えば、こちらの動きが先読みされているフシは無い。ならば2人の攻撃が当たるのかと聞かれれば、「かすりもしない」と答える他ない。あくまで感覚的にとらえればの話だが、2人からしてみれば、全部で21機居る敵Mhwが1つの巨体であるかのように感じ、巨体だからこそ攻撃が当たっているような感覚だったが、それらが体内をヌルりと突き抜けていった挙句、何事も無かったかのように元に戻る。正に「巨大なスライム」という表現が的確だった。
「なんか増えてるけど、コイツらの頭ってあの中心のヤツだよね?・・・違和感しかないんだけど?」
「あ、マドカちゃんもそう?だけどなんだか・・・」
アンには今感じている感覚に覚えがあった。これはNEXT同士の戦いだとすぐに分かった。けれども、NEXT同士の戦いを本当の意味で理解しているNEXTはそう多くはない。A2にはたくさんのNEXTが存在しているが、コレを知っているのはおそらくアンだけだ。
「アンちゃん?・・・この相手に心当たり、ある感じ?」
「・・・うん、ある。もう言っちゃうけど、たぶんこの相手、セウ中佐だと思う。NEXT同士だったらこんなコトもできるって教えてくれたヤツに似てる」
錯誤認識。セウはソレをそう名付けていた。NEXTはその能力故に、どれほど機体に搭載されたレーダーが高性能であったとしても自身の感覚に頼った戦い方になることが多い。それはNEXT-Levelの能力を使いこなす者ほど顕著だ。
セウがアンに教えたのはソレを逆手にとった戦法であり、簡単に言えば自分の位置を錯覚させることだ。NEXTも自分の目で敵機を見ている。現在地は正しくとも、NEXTはその能力で先読みをする。コレを狂わせることで、実際にはあらぬ方向へ、しかしNEXTには直撃を確信させる。相手の思考が読めてしまうのがNEXTだ。ならば逆に誤った思考を〝流し込む〟ことも可能だということだ。これは目の錯覚などというものでもなく、トリックもない。ただ単に、〝違うものを見せている〟のであって、そういう意味では、見せられている側からすれば見えているものは〝真実〟だということだ。
「それって・・・言うほどカンタンじゃなくない?ついでに言うと、コイツらって、全部で巨大な1つみたいに感じてるんだけど?」
「セウ中佐は最強のNEXTだよ?彼が最強と呼ばれてるのって、NEXTの中でも力の応用力がパないってトコなんよ・・・だからカンタンなワケない。ヘタしたら、うぅん、たぶんアノヒトにしかできんよ」
想像よりも攻防の激化は見られない。むしろ、セウには余裕をもって対応されているようだ。もしかしたら、セウがホンキだったとしたら、すでに2人は撃墜されていたのかもしれない。
「ソレって経験の差ってコト?まぁでも、ソレはそうか・・・そうなると、セウ中佐とヤりあってたって言うアレン・プロミネンスもご同僚だったのね。センパイたちの偉大さが身に染みるわ~」
アンには1つの疑問が頭を占有していた。この相手に核が存在しているのは間違いない。だがソレがセウ中佐なのかと問われれば、違うと断言できてしまう。ならばその違う誰かのMhwに搭載されたNEXTコンピュータがセウなのかと思えば、それも違う〝気がする〟。なら、確かにアレイス・セウだと感じるその存在はドコに居る?
「マドカ・・・少し時間をもらえる?」
「アン、探る気?・・・いい。アン、ウルが来る。だから見つけて」
連動して動き回るSnow-Whiteとsleeping-beautyだったが、突然sleeping-beautyのノズルから噴射する炎が見えなくなった途端、その左脇を抱えるように手を差し入れたSnow-Whiteが連れ去った。しかし「去った」と言えば表現としては正しくはない。BABELとのその距離感は変わらないままだ。
「それは悪手だよ」
不意に2人を言葉が襲った。その声はスピーカーの類から聞こえてきたものではい。2人の頭に直接響いた言葉だ。その声をどこかで聞いたことがあるようにマドカは感じ、アンはその声の主が誰なのかハッキリと分かるほど明瞭な声だった。アレイス・セウ、その人だ。
「・・・って言われて止めるかってんでぃ!」
マドカの体がシートを離れ、まるでモニターをすり抜けるかのように視界が広がっていく。その体1つで無限の宇宙を自在に飛び回っているかのようだ。左手にはアンの重みでさえも感じる。それはマドカの集中を表現した現象だった。少し攻撃の精度や頻度が上がったように感じられる攻撃を、自身とマドカにかすりもしないように回避し続けている。それはまるで、激しい荒波わずかに存在する隙間を縫うかのようだった。
一方でアンの心に波風は一切起きなかった。その声がセウのものだと確定したとしても、その声に動揺も驚きも無く、むしろ形の無い〝声〟に実は尻尾が生えているとでも言わんばかりに、言葉の片隅を握りしめ、辿り、その先を手繰り寄せる。
それでも相手は〝あの〟アレイス・セウだ。握られた言葉の端をスルリと解き、アンの手から逃れる。それでも再度掴もうとする手をヒラリと躱す。そんな優雅とさえも思えるイメージの中にあって、正に反比例するかのように2人への攻撃はその激しさを増していく。それはもう、ただでさえ大きい体をさらに広げ、大きく包み込むように2人を捕えてしまうと言わんばかりのイメージがアンの額から汗を流れさせた。
「覚悟すんのも勝ち誇んのも早ぇっての!」
広がって包み込もうとした大きな布の端が急激に反対側へと引っ張られた。イメージをそう例えたとき、その位置に居たNLBMの1機が押し戻され、ソレをフォローするかのように連動した全体の動きが、マドカにそのイメージを持たせた。ウルの駆るbeauty&beastの強襲が、辛うじてサーベルとシールドで両断を免れたNLBMを引き剝がしていた。




