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NEXT  作者: system
第十八部 memento mori(自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな)

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第十八部 第11話 record(記録)

 「想像以上の速度だ」

Beauty(ビューティー)beast(ビースト)の突撃に感嘆したアレイス・セウは、ふと自分がどこに居るのだろうかという疑問を抱いた。確実に覚えているところまで記憶を遡ってみる。


 アンとユウの2人を助けようとしたことを覚えている。相手は〝あの〟アレン・プロミネンスだったように思う。その最中に天使のようなMhw(ミュー)が現れたはずだが、ソレは今目の前に居るMhwに似ている・・・いや、そのときのMhwそのものだ。

 記憶として持っているのはその成層圏ギリギリの戦闘が最後のような気がする。衝撃があったところが最後だ。その衝撃に体が揺さぶられ、身を構えるよりも早くコンソールか何かに頭でも強打したのだろうか?

 そこから幾分かの時間が流れたように感じる。とても不思議な感覚だ。人の記憶というものは不思議なもので、実際に目にしたモノであっても、わずかな時間の経過でそれは姿形を変えてしまう。記憶の改変だ。時に自分に都合よく、そして別の記憶はより醜悪に、その記憶はストーリーとなって、本来の出来事に色を添えていくことがある。それを知っているセウとしては、自分の脳裏に浮かぶ映像が真実なのか確証が持てない。

 朧げな映像が少しあり、そのあとに続く映像はいやにハッキリと脳裏にある。まるでリアルタイムかのように、細部に至るまで鮮明に思い出せるが、ソレが妄想の類でないと誰が断言できる?それに、人の記憶がそれほどまでに鮮明で維持できるものなのだろうか。

 自分の記憶が信じられないというのは何とも悲しいことだ。「自分」というキーワードにふと自分の姿が見えた。そして自分の足元から幾本もの白い帯のような線が四方へ伸びている。じっと目を凝らして見てみれば、その線の表面にはまるで配線図かのような線が幾何学模様かのように描かれているのが分かる。そのうちの1本を辿ると、驚いたことにアレン・プロミネンスに行き着いた。姿形がハッキリとアレンだと教えてくれているのに、映っているのは円筒形の透明な筒のようなものの中に浮かぶナニカと、その円筒形の両端から伸びるケーブルらしきものだった。これまでに実物を見たことはないが、その円筒形の中を覗き込んでみれば、その中に浮かぶナニカは人の脳に見える・・・いや、ソレにしか見えない。

 アレンであるモノから伸びているケーブルは、それぞれ異なる位置で再び白い帯となり、また四方へ散っている。その先でさらにつながっているのは、同じような円筒形のモノと、ハッキリと分かる人間の姿だった。そうした様子が無限とも思えるほどの繰り返しによって無数の〝つながり〟を形成している。正に数えきれないその線は、不思議と見失うこともなく、辿ろうとするつながりを見失うこともない。

 これが記憶であるはずがない。こんな世界を見た覚えは僕には無い。当たり前だ。僕は人の脳の実物を見たこともなければ、こんな巨大な構造物は知りもしない。それどころか、線で繋がってはいるものの、まるで全てが宙に浮いている様は世界に存在しない。コレがもしも実在だと言うのならば、思い当たるのはネットワーク。そうなると今僕が居る場所はコンピューターの中だということになる。

 「そんなバカな」と言いたいところだが、その帰結は正しいのだと解かってしまう自分が居ることに気付いた。不思議なことに、そのことそのものに驚くような感情は湧き上がってこない。なんなら自分が何を見ているのかといった疑問すらもだ。厄介なコトに、ソレが世界であって、自分の置かれた環境なのだと理解してしまっているらしい。自分で言うのもアレだが、おそらく自分の姿だと認識していたのは、他から見ればアレンと同じような円筒形なのだろう。そう考えれば自分がネットワークに取り込まれた・・・いや、もっと正確に言うのなら、この巨大なネットワークを管理するために自分がソコに据え置かれたということなのだろう。僕をここに設置したのが誰なのかも、そもそもここがドコなのかもわかっている。その事実が自分にとって善悪もなく、是非ですらも今となっては、無い。ここはN3-system(エヌスリーシステム)の中で僕をここに誘ったのはIHCのミリアークだ。

 今の自分の〝記録〟の中にあるアレイス・セウとしての〝記憶〟からすれば、ミリアークにこうして利用されることを良しとするはずがないが、ある意味、プログラムとなった自分なのだから、そこにコードを書き込むだけでミリアークに不都合となるモノは全て無効化できる。要するに、今の自分はかつて人であったときの性能をそのままに、それでいてミリアークの意に沿うようプログラムされた存在であって、ソレを指して人間と呼ぶ者は居ないだろう。


 プログラムとしての自分の前にMhwが居る。最初は2機、そして今は3機。この3つは同型機で、そして見覚えがある。N3-systemとしての性能と合わせれば、そのうち1機のパイロットがアン・ハートレイだと解かってしまう。彼女やその友達と闘わなくてはならない今の状況はできれば避けたかったところだ。

 彼女を「殺したくはない」という思いは持ち続けられていることに驚く。ミリアークにとって必要だったのは僕のNEXT-Level(ネクストレベル)と〝経験値〟だったのだから、過去の記憶は記録として引き継がれているらしい。そして、最優先事項として〝ミリアークの指示〟があることを疑う必要はないが、さきほどの2つの他にも、人特有の〝閃き〟も必要なことから、僕自身の思考がある程度自由度を持って許されているようだ。ミリアークの意思が撃破ではなく鹵獲だったことも幸いしているのだろう。

 過去の自分を見ても、今の僕であったとしても、アンやその仲間だろう2人には、NEXTパイロットの先駆者としてまだまだ教えたいコトがある。それは彼女たちに生き延びてもらうためでもあるけれど、結果的にはそれが彼女たちを強くすることを意味している。過程や目的がどうであれ、結果としてのソレはミリアークの意に反する。アレイス・セウとしてTartaros(タルタロス)に属していた時の記録のように教導することはできないようで、そうであれば可能な手段は1つしか残されていない。実戦に置いて自ら吸収してもらう他なく、その場合、アンは(覚えていれば)問題ないだろうが、友達2人がNEXTとNEXT-Levelをどこまで理解しているのかが重要となる。

 NEXT-LevelはNEXTが持つ能力を指すことが一般的だ。その強さを数値化したとき、今対峙している3人は自分よりも遥かに高い数値を有している。だが、その数値が戦闘結果に直結するかと言えばそうでもない。戦争におけるNEXTの強さとは、その数値ももちろん強さに影響を及ぼしはするが、何よりも重要なのはNEXT同士による戦闘の経験値だ。それは今正に、彼女たちが蓄積している。

 まだ人であったころの自分の意思とは無関係に、見方によってはミリアークの道具となった自分が、これほどまでに自由に物事を考えることができるとは思いもしなかった。ミリアークが欲したのは、アレイス・セウがNEXT最強と呼ばれる〝高い能力値〟と〝豊富な経験値〟なのは間違いない。しかし、厄介なのは〝経験値〟というものだ。コレはただ経験しているだけでは無意味なシロモノで、その経験を現状に照らし合わせ、次の選択を行って初めて意味を成す。そのためには時として経験から発想を転換させたり、経験から閃きを得たりと、コンピューターには実行不能な処理が必要であって、そのケースは意外に多い。そしてそれは人に教えられるモノではない。

 NEXT。コレはsystemの一部となって初めて知ったことだ。N3-systemはそもそもコンピューター内に構築されたプログラムで、そのコンピューターそのものはネットワークで外の世界ともつながっている。その世界に溢れる膨大な情報にアクセスできるのだから、今の僕に知らないコトは無い。そこで得た知識からすると今の世界はNEXTを間違って認識しているらしい。一般的に知られている「NEXT」とは「次の人類」だが、初めて「NEXT」という文字が表舞台に立ったとき、ソレは「N・E・X・T」と表記されていた。

New(ニュー)

Earth(アース)

Xenogeneic(ゼノジェニック)

Type(タイプ)

「新しく地球に生まれた異種」がNEXTの正式名称だということだ。これはたぶん、自分やアレンたちのようなモノでもなく、彼女たちのような存在を指す言葉なのだろう。この意味を正しく扱うのだとしたら、そしてその意味を彼女たちに適合させたのなら、彼女たちはすでに人類という種ではない、ということだ。

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