第十八部 第7話 duel(決闘)
「ホンキだな・・・ありがたいっ!」
ThekuynboutとGuiverが互いに示し合わせたワケでもなく放ったビームライフルは、互いにすれ違うことを良しとせず、2機の中間で互いの進路を譲らなかった。あまり見かけることの無いビームの衝突という現象は、その衝突点で激しい閃光を放ち、周囲で待機する決闘立会人たちの視界を奪ったが、ルアンクとベクスターの2人は、まるでそうなることが分かっていたかのように、トリガーを引いた直後、次の行動を開始していた。
ThekuynboutとGuiver。ThekuynboutはADaMaS製Mhwであり、その最大の特徴は重力下における自由飛行だ。この宇宙空間ではそれが優位性を失うことは明らかだったが、当然のことながら宇宙空間仕様に換装されている。特に外観が変わることもなく、その翼も備えたままだったが、その翼がスタビライザーの役割を果たすと同時に、複雑な可動を可能としている三次元スラスターによる機動性能は、ADaMaS製Mhwの中でも屈指のものだ。
GuiverはIHC製の最新鋭機体であり、ワイアーン大将がその権力をフル活用して生み出されたワンオフ機体だ。従来のMhw平均よりも一回りほどの大きさを持ち、その出力は過去に見ないほどに膨大だ。そのためビーム兵装が多数搭載された高火力機体であるにも関わらず、従来のそうした火力重視機体とは比較にならない機動性を有している。
互いに兵装はシンプルだ。ビームライフルとビームサーベル(と言ってもThekuynboutはその翼にもあるが)。2機はまるで自身の放ったライフルを追うかのように距離を詰め、そして切り結んだ。珍しく、Thekuynboutはその手にサーベルを握っている。
「その大きさでその機動性・・・なるほど、エネルギーの多くを推力に振ってるってことか。そもそもパワーはそっちが上のようだね」
「何言ってやがる。そうでもしねぇとオマエのスピードに付いてけねぇだろうが。そんだけスピードが乗りゃあ、突進力がエゲつねぇな」
会話を交わしている2人ではあったが、Mhwはと言えば斬り結んだ直後、互いのライフルの銃口を相手の頭部側面に当て、引き金を引いていた。その動きが見えていたと思いたいが、互いにサーベルの位置を動かすことなく、そこから連なっていた腕を伸ばすことでビームそのものは躱している。その間も斬り結ばれたサーベルの交点は微動だにしていない。しかし、伸びた腕の分だけ開いた間合いが、ケリを放つだけの猶予を生み出し、再び同時に放たれたケリが互いの脇腹辺りに食い込んだ。そこからビームサーベルは再び互いの距離を取った。
「そんなに利いてないみたいだね。反射的にケリ方向に逃げたか」
「オマエもだろ?格闘戦もデキるとは驚いたね」
やはり会話の最中であっても、今度は互いのライフルを撃ち合っている。戦闘機乗りだったころからスピードに魅入られた2人だ、分かっていてもライフルの銃口が機体速度に追い付かない。ほんのわずか一瞬前までソコに居た機体は無く、虚空を飛び去って行く。不思議と飛び去った先でどちらかの僚機をかすめることすらも無い。
「それじゃぁ・・・こんなのはどうだい?」
それまでまるで見えない球体の周りを対角で回り続けていたかと思えば、Thekuynboutが突然鋭角に球体の内側を目指した。ビームライフルで狙撃しつつ、手に持つサーベルを振り構えたThekuynboutが目指す先には、もちろんGuiverの姿がある。
「早いっ!けど、止められないワケじゃねぇ!」
2機の攻防からすれば久方ぶりに思える再びの斬り結びは、それまでの高速移動とは打って変わって静止画のようですらある。だがそれもつかの間、可動式のスラスターノズルの、ありとあらゆる稼働箇所が瞬時に動きを見せた。もともと翼の根本に備わっているビームサーベルが光を放ち、Thekuynboutの脇の下から第三の腕だとでも言わんばかりに斬りかかった。
「ちっ・・・ソッチもあるのか。奥の手のつもりだったんだが・・・」
「俺のGuiverじゃなけりゃ、あるいは斬れてたかもな」
2機の間に存在するそれほど広くはないスペースで、2つの火花が咲いては消えてを繰り返している。斬り結ばれたビームがそれぞれ反発を起こし、まるで豪華な線香花火かのようだ。Guiverの片方の手にはサーベルが握られ、もう一方にはライフルが握られている。もう1つの新しく発生した斬り結びから辿っていくと、Guiverのフロントアーマーへと行きついた。跳ね上がったフロントアーマーの裏側から、サブアームよろしくシンプルな形状の腕が生えている。2機はそれぞれのサーベルを大きく振るうようにして再び間合いを開いた。
「よぉ、ルアンク・・・俺たちがヤりあうっていつ以来だ?」
「そうだね、殺しあったコトは無いと思うけど?模擬線なら戦闘機時代まで遡るんじゃないかな」
「そんなモンか?なら、俺たちは戦闘機乗りだ。ドッグファイトで決着つけようや」
「・・・乗った」
そこからの2機は止まることが無かった。基本スペックならThekuynboutの方が機動性において優位だったろうが、Guiverはさらにエネルギー配分を推進力に振ることで、Thekuynboutと同等の機動性を確保していた。
周囲で見ている者にとって、ソレはとてもMhwの戦闘風景に思えない光景だった。前後を頻繁に入れ替えるように動き続ける2機の姿は、戦闘機のソレを知っている者が見れば、ただ人の形をしているだけで正しくドッグファイトだと思えただろう。だが、Mhwで育ったパイロットたちが見たソレは少しおかしなモノに見えた。
本来Mhwとは起動兵器における最高性能であって、戦闘機の速度を有し、ヘリの旋回性能を持つ。なんなら戦車の装甲を超え、それら全ての火力を上回る。何も相手の背後を取ろうと必死にならずとも、速度を落とすことなく後方の敵機に攻撃する手段はいくらでもある。Mhwならばその場で反転することも問題なくできる。早い話その2機の戦闘はMhwの戦闘ではなかった。
発想の違いなのだろうか。正にドッグファイトを演じていた2機が、次第にMhwの特性を演出のスパイスとして取り入れ始め、その様子を見る者に従来のMhw戦闘を超えた世界を見せ始めた。
もしかしたら、2人のパイロットにとってそれは〝楽しい〟ひと時だったのかもしれない。高揚感が精神に肉体を超えさせたとでも言うのだろうか?本来なら身体が耐えられないはずの動きを繰り返し続けている。ThekuynboutがGuiverを追い回したかと思えば、次の瞬間には立場が逆転し、「おぉっ!」と感嘆の声が漏れたかと思えば、突然2機が正面からすれ違い、交差したその空間に火花だけを残して行く。誰もソレを目にすることはなかったが、それぞれのコクピット内で2人のパイロットは笑みを浮かべていた。
2機の決闘を見届けようとしていたはずの者は、いつしかソレが決闘などという血生臭いモノではなく、見る者によってはバレエやミュージカルといった類の観劇に見え、また違う者にはサーカスや舞踏会などに見えた。そして何に見えていたとしても、それらには必ず〝終わり〟というものが訪れる。
突然、2機の動きがそれまでと比べて陰りを見せた。むしろ今までよくもったと言った方がいいのだろうが、身体負荷を考慮しない機動性が、いよいよ2人の限界を超え始めていた。
「ハァ、ハァッ・・・キツいな。オイ、ルアンク・・・いい加減当たるか斬られるかしろよ」
「ハァ、フゥ・・・いや、別に僕じゃなくても、ベクがソレをしてくれてもいいんだよ?」
ルアンクは意識していたわけでもなく、ベクスターの名を呼ぶことをしていなかった。もちろん、昔の愛称「ベク」を口にすることはもう二度とないだろうとさえ思っていた。精神と肉体がそれぞれの限界とせめぎ合いをしていたことで、無意識に口をついて出た「ベク」という呼び名は、2人にそれぞれの覚悟と決意を生み出させた。
「ベク」という呼び名は愛称だ。ベクスターをそう呼ぶのは、空軍基地内でも限られた者だけだった。だからこそ、今それを口にした者は「またそう呼べるのか」と思い、そう呼ばれた者は「またそう呼んでくれるのか」と思った。互いにソレで十分だった。
『いくぜ』
2人の言葉が重なった。最後の一撃に選んだのは互いにビームサーベルだった。娯楽として見たことのある映像だ。すれ違い様にサーベルを振り抜く。そしてどちらかが倒れる。それがどちらになるのかは紙一重なのだろう。
互いにすれ違った2機のMhwは、互いに構えたサーベルを振り下ろすことはなかった。




