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第十八部 memento mori(自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな)

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第十八部 第6話 Discrimination(ケジメ)

 「本陣を狙ったのか?・・・まぁ、今となってはどうでもいいことだけどな」

StarGazer(スターゲイザー)を許せないという俺の本質は変わっていない。そんな俺だったからこそ、ヤツらを打倒しようというNoah’s-Ark(ノアズアーク)に俺は属していた。なんでこうなったのかは分からないが、さっき飛んで行った反物質が両軍のMhwを大量に消し去ったと聞いても、喜びも悲しみも、それに似た感情すらも湧き上がってこない。

 分からないとは言ったが、そうなった原因をなんとなく察してはいる。かつて俺が空軍基地に属していた頃に比べれば遥かに付き合いが短いはずなのに、その時「仲間」と呼んだ連中よりも深い感情を、今「仲間」と呼ぶべきシーラたちに対して抱いているからだ。

 彼女たちの過去を知って同情でもしたのかと問われれば、ソレはたぶん「違う」と答えるだろう。なら、彼女たちの誰か、例えばシーラに特別な好意を持っているというのでもない。たぶん、シーラがグリット・ワイアーンの乗艦を撃ち抜いたとき、彼女たちの秘めていたモノと、ソレを完遂してみせたことに敬意を抱いたんだ。それは彼女たちを初めて目にしたときから感じていた、彼女たちがワイアーンに仕えていることに対する違和感の答えだった。その様を見た俺は、「彼女たちは報われるべきだ」と考えた。もしかしたら、これから俺のすることの行動原理はソレが根底にあるのかもしれないなと思う。

 「Wivre(ウィーウィル)全機、戦闘行動停止。何があっても仕掛けるな。回避に専念だ」

我ながら何を言っているのかと疑いたくなる。ここは戦場であって、今も戦闘は継続されている。そして目の前にはA2がその数を増やし、さぁこれから攻撃しようと言わんばかりだ。もっと言えば、これからさらに俺の口から出る言葉を思うと、気でも狂ったのかと自分自身を疑ってしまいそうだ。

「シーラ、A2の回線を割り出せているヤツは居るか?居なければ一般回線を使うが・・・」

「・・・?割り出せています・・・回しますか?」

「ああ」

こちらの動きが止まった様子を見たのだろう、それがこちらに対する警戒だったとしてもA2の動きが変化したのは幸いだ。一気に勝負をかけようという雰囲気が薄らいでいる。これで俺の言葉も幾分かは聞いてくれるだろうか。視界の片隅でコンソールに通信のオープンを示すサインが現れた。

 「聞こえるか?A2。こちらはNoah’s-Ark所属Wivre部隊隊長、ベクスター・ネイマルだ。言える立場ではないかもしれんが、俺との1対1・・・決闘を希望する」

沈黙。だが聞こえているはずだ。その証拠に彼らの動きが完全に止まった。

「・・・今私たちはアナタ方に対して優位と捉えているわ。その申し出を受けるメリットが無いように感じるのだけれど?」

オンナの声。聞いたことはないが、元ADaMaSの女社長か、そうでなければバックについていたLeef(リーフ)の現当主、ミシェル・リーだろう。どちらであってもたぶんホネの折れる相手だ。

 「ああ、所属不明機に少しやられた上、さっきの反物質でさらに失ったからな・・・さっきのアレ、アンタたちじゃないんだろう?ヘタすりゃそちらにも被害が出るところだったからな」

確認しておきたいコトではあるが、話が逸れた。

「そうね。私たちじゃないわ。ところで、私の質問には答えてもらえるのかしら?」

向こうから軌道修正してくれるとは助かった。この端的かつ的確な修正が、さっき感じたばかりの厄介さを増長させてくる。さっきの言葉に倣うなら、ホネはバッキバキにへし折られそうだ。

「そちらが勝つという保証はないだろう?それに少なくとも応戦はする。その結果、そちらが無傷ということもないだろう?事情があってね・・・こちらは命懸けなんだよ。悪い提案じゃないと思うが?」

戦争で戦場にある兵士は誰だって命懸けではあるが、シーラたちにはそれ以上の事情がある。彼女たちは自分たちに未来が無かったとしても、ワイアーンからの自由を選んだ。バレているかどうかは知らないが、少なくともNoah’s-Arkに戻るという選択肢は無い。ヘタをすれば軍法会議を待たずに銃殺刑だ。決して生きることを諦めていない彼女たちにしてみれば、何はともあれ、生きてこの戦場から離脱することが全てだ。よく言うだろう?「必死に逃げる相手はコワイぞ?」ってな。

 「・・・なら、決闘の勝者が得るものは、何かしら?」

確かにソコは疑問だろうな。決闘の本質は奪い合いの解決方法だ。それはつまり、1つのものを巡る対立ということであって、俺たちの欲するものがA2にとっても欲するモノでなければ成立しない。とは言え、決闘が本質とは異なる使われ方をすることも多々ある。そしてコレこそ、自分が狂っていると思える本質だ。

「こちらが勝てば俺以外の僚機パイロットを保護してほしい。彼女たちは全員優秀だ。そして・・・そちらが勝てば彼女たちをくれてやる」

「・・・聞き間違いでないのなら、決闘する必要が無いのじゃなくて?」

ごもっとも。だが、俺にだけは決闘するイミがある。勝とうが負けようが、それは問題でなく、〝決着〟を必要としてるからだ。そしてそれは俺だけじゃない。そうだろ?

 「・・・分かった。その決闘、僕が相手しよう。それが望みだろ?ベク」

さすがはルアンクだ。やはり俺のことを分かっている。

「感謝する。決闘と言っても昔の騎士じゃないんだ。証人の方々、くれぐれも流れ弾にはお気を付けを。言っとくがルアンク・・・オマエを殺すつもりだから、覚悟しろよ?」

「だろうな。なら僕はオマエを切り刻んで、みんなの前に引きずり出してやる。そこでしっかりワビるんだな・・・みんな聞いてのとおりです。我儘言ってスイマセン。コッチはいいので、他に回っていいですよ?」

「他?ソレは却下ね。ソコの全機、周囲の警戒と敵機の動きを注視なさい。まぁ、ナイでしょうけどね。いいことルアンク?負けは許さないわよ?さて・・・そこのパイロット!おめでとう。決闘成立よ。みんな女性なのは驚いたけれど、しっかり使ってあげるわ」

 これでいい。すでに僚機との通信は切ってあるから、シーラたちの声が聞こえることは無いが、彼女たちがそれぞれに何かしら文句を言っているだろうことは想像できる。残念ながら俺の機体はWivreの隊長機だ。通信の強制オープンは、こちらからは出来てもそちらからは出来ない。さらに言えば、俺の声だけをそちらに聞かせる一方通行も可能なんだぜ?

「Wivre全機・・・黙って見ていろっ!!手出しも一切許さん。・・・いいな?オマエたちは自分たちの意志で生きる可能性を見つけたんだ。絶対に手放すんじゃねぇぞ?」

さてと。これで彼女たちの道筋はできた。後は俺の問題だ。最初はルアンクなら「仲間に戻れ」と言うんじゃないかと思っていたが、ソレは俺の知っているルアンクじゃない。

 俺自身に必要なのは〝ケジメ〟だ。それは仲間だったケビン・エデューソンを殺したことに対するモノじゃない。その先でどうするのかは置いといて、仲間と道を違えたことに対するものだ。

「用事は済んだか?」

ルアンクの声が耳に届いた。目の前に立つThe(ジ・)kuynbout(クインバウト)が手にしたラフルの銃口を俺に向け、俺にはその銃口にある暗闇が自らの心を映した鏡かのように思えた。結局俺は自分を卑下しているのだろうか。だとしても、今、ソレに飲み込まれるわけにはいかない。

「ああ、待たせたな。それじゃあ、始めようか・・・いくぜ?ルアンク!」

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