第十八部 第4話 darkness(暗黒)
「マドカちゃん?ソッチに動きはないわね?1機・・・できればウルを借りたいんだけれども」
もともとOrionの戦場はオピューリアが見ている。そこにベルルーイとフロイトが加わったのだから、そちらは一先ず任せていい。マギーたちもオペレートを頑張ってはいたが、セシルの応援に回って以降、現場でコールマンにゆだねる他なかった。いくらコールマンが居るからと言ってADaMaSチームの数的不利は大きい。その戦況をなんとか持ちこたえていたのはFailwahtの弾幕だったが、弾薬が無尽蔵であるはずもなく、メインのガトリングバズーカがその弾頭を使い切るまで、カウントダウンが開始されていた。
「うん、コッチに動きは無いね。それどころか、だ~れも居ないんだけど・・・?」
三姫がニラみ続けている宙域にはやはり何も見当たらず、センサーに反応するモノも無い。
「いいえ、ソッチにアナタたちは必須よ?だけれどゴメンね、ウルのbeauty&beastをローズたちのところに向かわせて」
ADaMaSチームが相対しているのはFallen’sだ。StarGazerの最強部隊とされる部隊であり、配備されているMhwも多岐にわたる。これまでの戦闘データを見る限りでは、相手に合わせて戦術を変えているのに合わせ、前面に押し出してくるMhwも選抜されていた。
「コールマン?そっちにウルを送るわ」
「それはありがたい。こちらはいよいよ限界が近くて・・・私とローズで格闘機を捌くのに必死なんですよ。やはりFallen’sは強い」
コールマンはFallen’sの強さをよく知っていた。そしてそれでは戦局を決定付けれないと考えたからこそ、自らが指揮する〝pentagram〟を組織した。コールマンの知っているFallen’sだったのなら、自らとローズ、ナナクルの3人で膠着させられると踏んでいたが、今相対しているFallen’sはそれまでと明らかに異なっている。以前から組織的な動きに定評のあったFallen’sだったが、このFallen’sはその組織力が飛躍的に向上している。そして目の前で展開するFallen’sの在り様は、コールマン自身の戦術に酷似していた。戦術論を教えたことがあるパイロットは2人しか居ない。1人はpentagram時代のアイ・タマズサ。そしてもう1人がかの有名なオールラウンダー、ショウ・ビームスだ。
「まったく・・・ショウのヤツ、敵に回ればこれほど厄介なまでに成長していたか・・・2人とも聞こえましたね?ウルが来るまでなんとしても戦線を維持します。ナナクルさん、構いやしません、ありったけの弾頭をプレゼントしてやってください」
「オーケー。つっても、言うほど残弾無いけどな・・・要するに、ウルの到着に合わせろってコトだよな?」
コールマンの要請に応えてはいるものの、手元は忙しいらしく、かつてウテナが言及したように微細なトリガーコントロールを続けている。もともとこの3機の目的はFallen’sの撃退ではなく、他のいずれかが到着するまでの時間稼ぎだったのだから、最初から残弾をコントロールした応戦だったのだろうが、それでも残弾数が心許ないのは仕方ない。弾幕で相手をある程度抑えつつ、抜けて来る敵機はローズとコールマンで叩くを繰り返しつつ、ジリジリと後退を余儀なくされていた。
ミシェルからの申し出によってすでにコールマンの戦略は変化している。ウルのbeauty&beastが合流すれば、戦略の方向性を大きく変えて槍状突撃で攻勢に転じることができると算段していた。Fallen’sを相手取ってもソレが出来るのはウルを先頭に据えるからであって、それだけの強さを彼女が有しているからだ。
「こーるせんせぇ~!おっまたせぇ~っ!」
よほど戦場に似つかわしくないような陽気な声がウルの到着を告げた。
「ウルくん!そのまま斬り込んでください!後ろは私たちがフォローします。お二人とも、いいですね?私とローズはウルの両翼につきますよ?」
「やっとコチラのターン?まったく・・・待ちくたびれたわよ」
こちらに合流しようとしていた様子だったbeauty&beastは、コールマンの指示を受けて流れるように弧を描き、Fallen’sの展開する中央にその進路を変えた。そしてほぼ同時に$100とblue-roseがナナクルの下を離れた。beauty&beastに劣らない速度だ。
「おいおい!・・・ったく。ま、ちょーどバズも撃ち尽くしたコトだし、わーったよ!ビームバズでこっから援護すりゃあイんだろ?」
機動性という点からすればあきらかなデッドウェイトであるガトリングバズーカを投棄すると同時に、ソレ用の予備弾倉を兼ねた大型のバックパックをパージすると、FailwahtはMahalという名称の姿へと成った。
目の前の敵がそれまでと明らかに違う動きを見せた。合流しようという1機のMhwをキッカケとしたその動きに、ショウ・ビームスは指揮官として反応していた。
「右側にカーテン!いなして奥を叩くっ!」
ビームスの指揮を受けてFallen’s全体が右側へズレていく。それは風に靡く「カーテン」さながらに、突撃してくる3機をヒラリと躱すかのように見えた。
「全機!この範囲に入らないでっ!!」
A2に属するMhwのコンソール全てに、2本の点線が表示された。ソレを叫んだミシェルの居るknee-Socksブリッジ内は激しく「反物質」や「起動」といった言葉が飛び交っている。Knee-Socksは反物質精製コロニーが動き出したことをキャッチし、ソレが巨大な砲身であったとしたのなら、そこから放たれる脅威が突き進む進路をMhwに送り届けた。もしもソレが放たれたときの惨状は誰よりも理解しているA2だったからこそ、ミシェルにはありえないと言えるほどの叫びを上げさせた。
ミシェルの叫びからどれほどの猶予があったのだろうか。その知らせを受けてから、その示された範囲外へ移動するに十分な時間ぐらいはあっただろうか?それとも瞬く間だったろうか。幸いだったのは、A2のMhwが示された範囲にもともと入っていなかったことだ。そして被害規模という意味合いで見れば、その線が示したのはFallen’sとWivreが陣形を成すその間だったことで、それぞれの部隊は数機だけが範囲内にあった。コロニーを操作した者の意図は、どうやらそのさらに先にあるようだ。
それは人類に理解できない現象だった。A2の意志とは関係なく、また、彼らの意図とは異なる使用法がされたそのコロニーは、見立てどおりその身を砲身として反物質という弾丸を撃ち放った。
宇宙空間で飛び交うビームの数々は、遠目に見る分には美しいとすら感じる光の演出だ。だが、反物質のエネルギーは黒く光る。宇宙空間でソレを視認するのはそれほど容易でないらしい。同じように遠目だったとしたら、その存在にすら気が付かないかもしれない。不幸にもミシェルの示した範囲内に入ってしまった数人は特に理解できなかっただろう。反物質に時間という概念が存在していない以上、〝放たれた〟という現象と〝直撃した〟という現象が同時にパイロットを襲った。それは言ってみれば、普通ならば線を描いていくはずのビームが、描き終わったビームの線が突如としてソコに現れたと同義だった。
反物質に触れた直後、自分の意識が消え去るまで、そのパイロットたちがどういった時間感覚を覚えたのかは想像したくもない。かつてのウテナの推測どおりなのだとしたら、それは「死ぬと分かっていても辿り着けない死」だ。果たしてその間、不幸にも対象となったその人物を指して、「生きている」と言っていいのか「死んでいる」と言っていいのかさえも判然としないのだろう。
「ミリアークのヤロぅ・・・撃ちやがった・・・ミシェル!A2に被害はあるか?」
先行した3機を援護しようと位置を変えたおかげで、反物質に触れることこそなかったナナクルではあったが、Mahalの足元を駆け抜けていった黒く光る線に自然と汗が流れ落ちた。
「ウチは誰も・・・ソコの相手も被害は軽微よ・・・」
「威嚇か?」
ナナクルは周囲の敵機を確認すると、今度は視線を反物質が進んだ先の方へと向けた。
「違うわね・・・ミリアークの狙いは向こうだわ。激突空域のド真ん中・・・相当な被害が出てるはずよ」
ナナクルの視線の先では、それまでと異なる様子はない。そもそも2つの軍が戦闘しているただ中なのだ。もとより人の命が失われることを意味する光はおびただしい数があった・・・いや、その意味でなら反物質が消し去った命は光に変わることもなく、ただ何も無い空間に置き変わったのだから、それまでとは打って変わって、その宙域はただただ暗黒となった。それは過去どんな〝死〟よりも圧倒的な死であった。




