第十八部 第3話 breakthrough(突破口)
「ミシェルさん!」
どうやら同じものを見ていたらしいオピューリアが、不安を色濃く滲ませた表情を見せている。これまでの艦内での様子から「もしかして?」と思ってはいたものの、どうやらそのカンは正しかったらしい。ミシェルには〝思い当たるコト〟があった。
「いいわよ?行ってきなさい。そのままじゃオペレートにも支障が出そうだしね」
「はい!」
そう言ってブリッジを出ていくオピューリアの背中に、「ホントにアレでいいのか?」という疑問が複数人から視線で向けられていた。やはりADaMaSに集まったメンツは主要メンバーだけに留まらずいろんな意味でカンがいいらしい。半面、状況がそうさせるのだろうが、当のオピューリアが周囲のその雰囲気や視線に気付く素振りは無い。ミシェルはカタパルトを映す画面に視線を移すと、正に今、イザナギを抱えたまま着艦しようというRe:Dの姿が映し出されていた。
「フロイト?そっちにオピューリアが向かったわ。アキラはオペに任せていいわよ。と言うか、アナタはジャマだからとっとと再出撃なさい」
「・・・えぇえ!?ちょっとヒドくないです?ソレ・・・ん?オペに任せる?・・・ああ、そういうコトか。そりゃ確かにジャマだし気まずいコトこの上ないね」
一瞬何を言われたのか理解できなかった分反応が遅れはしたが、察しは良かったようだ。イザナギの機体に固定用のワイヤーが繋がれたのを見届けると、コクピットハッチを開きアキラを外へ送り出した。イザナギを失った以上、これ以上戦闘に参加できそうもないアキラに掛ける言葉を探すうちに、アキラ自身がスっとその場を離れた。フロイトが見たその背中は、少し寂しさを含んでいたように見えた。
画面で上半身だけとなったイザナギの方へ流れていくアキラを見届けると、周囲で慌ただしく作業をしているクルーに影響の無いよう、Re:Dの足先だけを上手く使いフワリと機体をカタパルトデッキから離脱させた。
「それで?ドッチに向かえばいい?」
「ドッチも似たようなモノだけどOrionの方ね。相手の連携で近寄れないのよ。どう?アナタなら突破口になれるかしら?」
「了解した・・・やってみるさ」
スラスターノズルがカタパルトデッキの方へ向かないように四肢を使って機体制御を行うと、すぐさまノズルに青い炎が光を宿した。一般的な機体の三倍はあるだろう速度でknee-Socksを離れていく。
「Orionでも取り付けねぇのか・・・敵とは言えイイ部隊だな」
「ホメてる場合ですか?で、どうなのヴォルフ?」
未だ背中合わせの席に戻らないオピューリアが多少気掛かりではあるが、ミシェルの思惑は理解できているベルルーイがオペレートに戻った。横目でチラリとミシェルを見れば、ウィンクしてくる口元は忙しく働いている。どうやらすでにADaMaS部隊の方との通信に切り替えているようだ。
「いや、正直キビしいだろうな。何かキッカケでもありゃあ違ってくるんだがね・・・ま、まずは初手で試してみますかね」
さすがにスラスター全開で移動するRe:Dは速い。見る間に後方で支援狙撃に就いているクルーガンのgolgoの側に到着した。
「クルーガンくん。これからユウとヒュートくんを連れてヤツらと距離を詰めてみる。フォローを頼めるか?」
「了解っスけど、アイツら、近づいて来ねぇんスよ。この状況じゃ、どこまでフォローになるかアヤシイっスよ?」
そうは言うものの、手を緩めることもなくトリガーを引いている。それも闇雲なモノではなく、しっかりと1発1発を狙い定めていることが感覚で分かる。軍人でもなかった人間が戦場においてこうも在れるのかと思うと、改めてADaMaSに席を置いていた者たちの異常性を思い知る。
「アンタらホント、スゲーと言うべきかオカシイと言うべきか・・・ま、味方だって言うんだから、頼もしい限りなんだけどさ。ベル!オペが戻ったらクルーガンの照準補佐に専念しろ」
クルーガンにも直接聞こえるよう、golgoの肩に手を当ててそう言い終わると、走らせた視線の先にユウとヒュートの機体を捉えた。
「いいんですか?付きっきりで・・・嫉妬、しませんか?」
見えてはいないが、ベルルーイの表情が真面目そのものなんだろうと想像できる。
「いや、するけどさ・・・俺の動きを言わなくても理解できるのなんて、ベルぐらいしか居ないじゃないの。だからあくまで仕事でヨロシク。親密感はコレっぽっちもイランからな」
「ハイハイ。それじゃあクルーガンくん、オペも戻ってきたし、ヨロシク、ね」
「ムネ焼けしそーっス」
ブリッジに戻ってきたオピューリアは、話途中のベルルーイにウィンクをして見せ、暗にアキラが無事だったことを知らせているようだ。すぐさまヘッドセッドを装着し、Orionのオペレートに戻った。2人の様子は後でシッカリと聞くとして、画面の上半分に望遠画像を、下側はさらに左右に分割し、golgoのスコープ画像とその視野を同調させた。
準備が整ったと察知したフロイトはその場を離れる際、ベルルーイの「ヨロシク、ね」にハートマークが見えた気がして若干後ろ髪を引かれたが、よくよく考えればそんなコトを気にかけてる場合じゃないと思い直し、前方に展開している戦場に急いだ。
「ヒュートくん!ユウっ!俺の左右に着け。ヤツらに接近するチャンスを狙うぞ」
ユウの操縦技術はよく知っている。だが、ヒュートもユウと同調するようにピタリと同じタイミングでRe:Dの両翼に機体を置き、速度を合わせこんでいる。軍属パイロットであってもこれほど機体をコントロールできる者は多くはない。大したものだと感心せずに居られない。
「よし、行くぞ?敵の攻撃は自己判断で避けろ。スリーマンセルは意識から外すなよ?孤立すれば死ぬからな」
『了解』
2人からこれまた同時に返答が返ってきた。
これまでNoah’s-Arkに属していたとき、フロイトは部隊に所属せず、要請に応じて様々な戦場、部隊に作戦の一部として組み込まれてきた。実際、フロイトが部隊に属したのは最初のディミトリーの隊だけであり、以降において〝組める〟と思えた誰かが居なかったという真実は誰にも言ったことがない。
三位一体で戦場を駆ける最中、2人は指示どおりのことをやってのけている。相手の練度が想像以上に高く、なかなか距離を詰めることができないでいることはジレンマだが、こちらの動きを抑制しようという攻撃に対して確実に回避している。瞬間的に離れたかと思えば、次の瞬間には元の位置に戻り、ソコを狙われたかと肝を冷やせば、その冷えは気のせいだと言わんばかりに紙一重で回避している。
後方から飛んでくるgolgoのビームライフルは、どうやら相手の位置取りを的確に阻害しているらしい。マーカーで示される敵機の位置が、フロイトの願う方向に動かせている。こちらの動きに気付いてか、Orion3機の動きが一際大きくなり、そちらへの警戒が大きくなっていることを肌で感じ取れた。
ディミトリーと共に戦場にあったときは、その指示に従えば間違いがないと〝頼って〟いたのだと改めて思った。だが今はそうではないらしい。その当時、ディミトリーが今の自分のように感じてくれていたのだろうかと頭を過る。信頼して任せられる仲間と一緒に居るという事実は、フロイトにある種の安心感を抱かせていた。
「ならば俺の役割は突破口を開くことだ・・・だが、強い。あと一手、何かないか・・・」
フロイトは僚機の動きに配っていた意識を自分に引き戻した。




