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第十七部 emotions(感情の住処)

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第十七部 終話 tenacity(執念)

 「うそだろ・・・オイ」

アキラ・リオカは確かに目にしているのに、今自分が見ているものが何なのかを理解することが出来なかった。どうやらソレはフロイトも似たようなものであって、さらに言えばこの光景はあまり(どころかかなり)見て気分の良いモノではないと感じたからこそ、ベルルーイとの画像共有をカットした。幸いと言うべきかどうかは難しいが、イザナギにも当然同様にあるその機能はすでに失われている。

 「ああ・・・なんで生きてる?」

驚くべきことに、接射だったにも関わらず、カーズはその身を翻していた。ソレがどのタイミングだったのかは知りえないことだったが、vampire(ヴァンピア)から放たれた弾丸は、確かにBelial(ベリアル)のコクピットの装甲を正面から捉えていた。普通に考えればBelialの背中から飛び出すはずの弾丸は、Odin-Frame(オーディンフレーム)の反りによってBelialの頭部に達するという結果で結実していた。

 コクピットを抉られ、頭部を失ったBelialはMhw(ミュー)としての機能を失い、その場で漂うだけの鉄の棺桶と化したことは2人にとって想定どおりだ。問題なのは、棺桶は死者のためにあるものであって、これから死に行く者を閉じ込めるモノではないということだ。

 2人が目にしたのは、弾丸が抉り取ったおかげでコクピット内部がさらけ出された状態のBelialだ。もちろん、そこにカーズ・ヤクトは座している。いったいどんな奇跡が起きればそんなコトになるのだろうか。おそらくイザナギが撃った弾丸が、Belialのコクピットハッチや頭部だけでなく、カーズの着ていたパイロットスーツとヘルメット()()を一緒に掠め取っていったらしく、それぞれの残骸がまだ体に残っていたが、彼の表情を確認するに十分な開口部を作っていた。その表情は苦痛や恐怖というよりも憤怒と言った方がしっくりくるほどの狂気が色濃く宿っている。その口は何かを言っているようだが、そこは音を伝えるモノの無い空間だ。当然、聞き取ることはできなかった。

 カーズは宇宙空間で生身を晒している。人間は生身のままで宇宙空間を生きることはできない。当たり前だが、それはカーズも例外ではない。そもそも宇宙空間は真空の状態にある。生身の人間が宇宙に出た場合、その死因はいくつか考えられるが、最も分かりやすいのは呼吸ができないことによる窒息死だ。この他にも、気圧が存在しないことで体内の空気が膨張し破裂死するが、皮膚がある程度耐えるため瞬時にということはない。さらに宇宙空間はー270度の世界で凍死ということも考えられるが、熱を伝達する空気がないのだから、凍死に至るまで体温を奪われるには相応の時間が必要となる。そのため、いずれの場合も例外的なものであって、基本的には呼吸できないことによる窒息死となる。

 Mhwのコクピット内は宇宙空間であれば密閉され(地上なら外気を取り入れることも可能だ)、酸素が絶えず供給されている。だが、今のBelialはコクピットの外装が抉り取られ内部がむき出しになっているのだから、密閉空間であるはずもない。そこに居るカーズはパイロットスーツを着ていない(パイロットスーツだけで4~5時間の酸素量がある)に等しいのだから、呼吸ができていないはずだが、どうやらコクピット内の酸素濃度が極端に低下したことで供給過多になっているのだろう。噴射され続ける酸素がかろうじてカーズを包み、生き永らえさせている(とは言っても、時間の問題だろう)。

 「アイツ・・・まだ闘おうとしてるのか・・・」

ADaMaS(アダマス)製Mhwのほとんどは、機体の制御コンピューターをコクピットの後方に収めている。ウテナの設計したであろうBelialも、ルシオンが何か変更(しているとは思えないが)しているのなら別だが、頭部を失ったとしてもMhwを動かすことは可能だ。だが、カーズを中心として正面から頭上にかけて抉られているBelialは、カーズの必死の操作に全く反応を示していなかった。

 まるで自分の置かれた状況が理解できていないとでも言うように、カーズの視線はRe:D(レッド)とイザナギ(上半身だけだが、すでにRe:Dに抱えられている)に向けられ、あまつさえ2機を睨んでいる。その様子は、完全に決着したはずの戦闘が未だ継続中だと2人に錯覚させるほどの力を秘めていた。

 「なんつー執念だよ、オイ。オレたちゃぁ、アレとヤり合ってたってのかよ・・・」

絶句するアキラと、「ゴクリ」と生唾を飲み込んだフロイトが、逸らそうとしてもそうすることが叶わないソレがほんの少しずつ、見て分かる変化を見せ始めた。薄っすらと部分的に白くなりだしたソレの表面が、窒息よりも早く〝温度〟を奪っていることを2人に教えていた。

 気圧というものは温度と密接に関係している。気圧が100m下がれば温度は1度下がる。今カーズはパイロットスーツの中という限定的な空間に存在し、その空間に存在する空気は広大というには広すぎる宇宙空間に吸い出されている。それはつまり、スーツ内の気圧が下がることを意味している。見る見るうちに白さが増していくソレが、最初は足、そして脚、腕、体と順番に動きを止めていく。四肢はまだパイロットスーツに覆われていたことで気付かなかったが、露わになっている胸部がまるで石灰岩の彫刻かのように白く染まっていく様子が、すでに四肢は正しく〝石灰岩の彫刻〟に変わってしまったのだと教えてくれ、そして、それでも尚動く頭部にゾっとした。

 「カーズ・・・もういい。オマエはもういいんだ・・・」

聞こえるはずもないカーズへの言葉をフロイトが口にしたとき、それでもまだ動かそうとしたからなのだろうか?はだけたような肩口、肩と胴体の境目辺りにビキリと亀裂が入った。そこからまるで舞い散る粉雪かのように舞う〝何か〟が、かつてカーズそのものの一部だったこと、そして尚も何かを語りかけてくる口や、未だに殺意すら宿る目に、吐き気を覚えるほどの感覚が込み上げてくる。

 かつてカーズだったモノの全てが、完全に動きを止めてしまうまでにどれほどの時間が必要だったのだろうか。おそらくは1分も無かったのだろうとは思うが、実際に目の当たりにした2人の感覚では、10分以上あったのではとさえ思えるような光景だった。

 すでに反物質のエネルギーソードはその刃を失っている。もう生成されることは無いのかもしれないが、だからといって放置しておくこともできないだろうと、Re:Dはソレを回収した。再びイザナギの側に戻ったフロイトは、視線をBelialに、かつてカーズだったモノに向けた。

「アキラ・・・ソイツはまだ使えるかい?」

視線をBelialの方へ向けたまま、Re:Dがそっと指さしたのはvampire(ヴァンピア)の片割れだ。

「ん?あぁ。残弾はまだあるぜ?・・・ケジメ・・・ってヤツか?」

「・・・まぁ、そうだな・・・うん、そんなようなものだ」

 どうやら残された全てが本来と同様に動くことはないらしく、わずかに腕をRe:Dの方へ向けられた程度で動きを止め、あとは指を開くのが精一杯といった様子だった。腕のわずかな動きによる慣性だろうか?手から離れたvampireは宙をRe:Dの方へと流れた。その先でRe:Dはしっかりとvampireのグリップを握り、トリガーに指をかけた。

 「その姿で漂流させるのは忍びないからな・・・せめて炎で送ってやるよ」

フロイトの指の動きに合わせ、Re:Dが静かにトリガーを引いた。3機の周囲では距離があるとは言え戦闘が継続中だと言うのに、現れては消える光が見えるだけでヒドく静かなその空間に、一際大きな炎が生まれた。炎に包まれたカーズは、そんなコトは有り得ないのだろうが、幾分か人であった頃に戻ったように見えた気がした。

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