55。「舞台裏」
お待たせしました。一通り大修正は終わりです。特にこの章の最初、メルティちゃんが初めて王都にやってきたときのお話が修正。流れはほとんど一緒です。
今回はモブです。
〜マージン side〜
単刀直入に言おう。
今回の実習のグループ決めは、ランダムなんかじゃない。
学園の会議にて決定されたプログラムであり、メンバーである。
……特に、以下の二名に対して。
ツェドリカ・ゾナンブルーマ
メルティ・イノセント
いわゆる、見張り対象である。
ツェドリカ生徒総括は、ここ最近数々の不穏な動きを見せてきた。
確たる証拠は無いが、裏で何かしらの工作をしているものと思われる。
一体目的は何か。
一体どんな影を抱えているのか。
私にわかることではないのであろう。
さまざまなことを踏まえ、生徒総括は「たまたま」第二王女と同じグループとなっている。
一方、メルティ・イノセントに関して。
彼女こそ、別に何かの嫌疑がかかって監視をしているという訳ではない。どちらかといえば、見守りのほうが近いのだろう。
それで、なぜ彼女がこのメンバーと組むことになったかといえばーーー。
「お、こんなとこにいたのか」
剣術科三年のスキマ・ハリコと二人で灌木あたりをまわっていると、向こうから聞き慣れた声がした。
埋もれるほどの枝葉をかき分け、一人の男子が現れる。
「試験が簡単すぎるから、デートしようってか。羨ましいぜ、マージン君よぉ」
「まあ、それなりに数が集まったからね。そっちも元気そうで良かったよーーートロトロ君」
トロトロ君。
当然これは本名ではない。
誰かが彼に付けたあだ名が変形して、伝わって、この形になったのである。
「……それ、まだ流行ってたのか。全く、マルコーの奴ったらヘンなあだ名で呼ぶからぁ(※41話参照)……。お、そういえばお隣の彼女ちゃんには自己紹介してなかったね」
鶏冠のような立った髪を撫で、華麗に礼を取る。
「俺はケージ・フリューリン。聖騎士科四年さ。気軽に『ケージ君♡』と呼んでくれよなっ」
「……」
「君のお名前は?」
するとスキマは相も変わらず口を閉ざしたまま、札に何かを記すとケージに手渡した。
ーーー『剣術科三年スキマ・ハリコ/駆け引き(デートのこと)にあらず/勘違いせぬよう』
「おー、スキマちゃんでいいのかな?ねぇね、良かったら俺と付き合ってみない?」
またいつものナンパか。
そう思って頭痛を催していると、彼の目が私を捕らえた。
「……ーーーそういえばさ」
目の「色」が決してピンクではないことから、恐らく真剣な話なのだろう。
「あの子、どうなの?」
……あの子。
言わずもがな「彼女」のことを指している。
ーーーメルティ・イノセント。
目の前にいるこの人間、ケージ・フリューリン。とてつもなく胡散くさい顔をしているが、実力はピカイチだ。
そのため今回の課外実習の「舞台裏のこと」は伝えられている。
しかし「どうなの?」と聞かれたところで、イノセント嬢が何も動きを見せない限り話すことは何もない。
何と説明すればいいか分からず、私は取りあえず「それなりに」とだけ応えた。
「ほーん。……あーあ、メルティちゃんや、ちょっとくらい恋心を俺に向けてくれないかねぇ?」
なにかと思えばまた妄想話である。
「マージン、知ってるか。最近、メルティちゃんのファンクラブがアツいんだってよ」
「夏だから、当然のことだろう」
「お前って冗談言えるタイプだったのか、意外!」
「乗ったまでだ。……しかし、彼女が入学して数ヶ月か」
「? 何? なんかあるの?」
「ーーー妙なんだ」
「……」
私が顔を向けた先には、朱色がかった空があった。
ケージも目をぱちくりさせてから、私の真似をした。
「ーーー妙に、静かなんだ」
私が繰り返す。
「思わないか? 大きな凶兆の前には、必ず凪がある。静けさがある。『嵐の前の静けさ』と言うだろう」
「……なんのことだ?」
わからない振りなのか、本当にわからないのか。
私は「いや、気にしないでくれ」と頭を横に振った。
するとケージは私の話への興味を失い、またまたイノセント嬢へと話を戻した。この人と会話をするといつもこうである。
「なあ、聞きたくないか。メルティちゃんが今何をしているか」
「興味はある」
「俺もほんの一部をまとめただけだけど、まあこれがすごいんだわ。本人を見ていないケースも多いからなんとも言えないけど、あの子はマジでやばいよ」
ケージの悪い癖。とにかくなんでも、やばい、やばいと付けたがる。
そのため私の返事も一通りに限られる。
「……なにがヤバいんだ」
「ちょっとまとめるから、聞いてくれよ」
・どこかからふと現れては、武器を奪ってまたふと消えていく。
・腹が減ったときはキツネ・フッサ嬢(別グループ)の元へ行き、食べ物をねだる。
・待ち伏せをされても全く気にせず、ことごとく返り討ちにする。
・彼女が通ったあとのエリアは変容し、ある樹木は目を生やし、ある石はぷにぷにした魔法の花を咲かせる。
・全身が痒い、変な霊を見た、恐ろしい鳴き声が聞こえてくる、粉々になったモンスターの山を見てしまった、その真ん中に居座って真剣に味見しているメルティを見た、武器を奪われたーーーなどなどと戦意喪失する者多数。
「……予想はしていたが、彼女はとんでもないね」
私は乾いた笑いをみせた。
ふと、思ったことを口にする。
「もしかしたら、推薦をしてみてもいいかもしれないな」
「推薦って……おい、まさか」
「そのまさかだよ、ケージ。きっと彼らも歓迎してくれるはずだ」
「……あいつらはなぁ、捻くれてるからどうだかなぁ」
沈黙、続くこと数十秒。
ゆったりと流れる空気が、一瞬だけ張った。
「まぁ……」
ケージは頭を掻いている。
顔は穏やかだが、私にはその隠れた片手が剣の鞘に触れているのがハッキリと見えた。
「ーーーとりあえず核はいただいておくよ」
一瞬の加速。
私の収納袋に、ケージの細剣が伸びる。
速い。
ーーーしかしおそらく、忘れている。
「ぐっ!?……スキマちゃん??」
彼の突きを受け止めたのは、ハリコ嬢の堅実な払い技。
次に繰り出されるのは、素早い連撃。
だがそれも、ハリコ嬢によって軽々と受け止められた。
そこでようやく「おかしさ」に気づいたケージが、バックステップを踏む。
「何、あの重さ??」
「おっと、淑女に向かってソレは禁句だよ、ケージ」
「いや、だってあれはーーー」
「ああ、これが彼女の魔法だ」
スキマ・ハリコ嬢。
彼女の剣は鈍く造られており、おおよそ物体が切れないようになっている。
それは、斬るためにある剣ではないからだ。
万物には、重心なるものがある。
それがずれることで物は傾き、転がり、バランスを崩す。
そして彼女の魔法――【不動】はまさに万物の「重心位置」を操作できるのだ。
「彼女の重心は今、地中深くにある。そして君の剣の重心は、全て剣の先端にかかっているーーーあとは、言わなくとも良いだろう?」
「……っ。どうりで剣が重いと思った」
「さすがだね。普通の人なら、とっくに寝っ転がっているはずだろうに」
「あはは、それでも鍛えてきたほうなんで……ねっ!!」
旋風。
光を纏った一撃が繰り出される。
あの荷重を受けてなお、よく平然としていられるものだ。
だがーーー。
「ーーー【ダルマオトシ】」
前方へと素早く移動するハリコ嬢。
横方向の薙ぎ払い。
反則なほどにコントロールされたガード技。
ケージの光魔法と拮抗し、ほどなくして爆散させた。
「おいおいおい、うそだろ!?……しゃあないな、ーーー【金糸雀ノ檻】!!」
発動するのは、ケージの得意魔法。
直径数メートルの巨大な光の檻が、私とハリコ嬢を閉じ込めた。
ーーーどうやら、スキマの重心魔法が解除されたらしい。
「……さすがに核は奪えないが、仕方ないな! ほんじゃ、ばいば〜い」
ケージはハリコ嬢に向かってウインクをかました。
そして加速魔法を使ったのか、刹那にして視界から消え去った。
……最後まで、楽しい人間だ。
ーーートントン。
「……?ハリコ嬢、どうかしたか」
ーーー『先輩/メルティ・イノセントに勝てるか否か?』
そんな札に、私が固まる。
……イメージしてみる。
彼女と対峙する。
一体、初撃は何か?
行動原理はなにか?
果たしてまともに戦えるのか。
ーーー未知数。
「……恥ずかしながら、私一人では無謀だろうね」
「……」
「だけど」
「?」
「私ら全員が揃えば、快く勝てるかもしれない」
ーーー『先輩/大人げなし』
不満そうにジト目を向けてくる彼女に、私は笑って返すしかなかった。
「ハリコ嬢。大人らしく振る舞うことはーーー負ける言い訳にはならないんだよ」
モブ?メイン?
それはもしかしたら、反応次第。。。




