表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
2章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・上
59/80

56。メルティとシャオワン

さあ、波乱の幕開けだ。

夜更け前。


「半日、お疲れ様ニャ!!」


勢いのいいシャオワンの一声に続き、みんなの労いの言葉が飛び交う。

カランと木製のジョッキがぶつかり合う。


……中身はさすがに酒類ではないが、そこは雰囲気の問題である。

一応授業とは言え、せっかくの「冒険者っぽいこと」ができる滅多にない機会だ。

普段の座学や鍛錬から解き放され、いっそのこと楽しむだけ楽しもうーーーそんなふうに思う生徒も少なからずいるのだ。



「さて、反省会をしようか」


鍋を楽しみ、賑わいが落ち着いたところでマージンが口を開く。


「順番に行こう。まずは私から作戦の再確認だ」


作戦。

即ち、撹乱戦法。


メルティに好き勝手暴れさせておき、その隙に核を回収してしまおう、というわけである。

話題てんこ盛りな彼女のおかげで、陽動作戦が非常に旨味があるものになっているのだ。


「しかし、熱は冷めるものだ。核がそれほど集まっていないグループはおそらく、死に物狂いに探すだろう。作戦を新たに立てるいい機会だ」


次に、スキマが札をいくつか差し出した。

丁寧で達筆な字でこう書かれていた。


ーーー『作戦候補、其一/核を奪われても損害が抑えられるよう、分散する』


「この場合真っ先にあたしが狙われるニャ。メルティに気を取られなくていい分相手が楽ニャねぇ」

ジョッキを両手で抱えながら、シャオワンが苦言を呈した。


ーーー『作戦候補、其二/夜のうちに出動』


「疲れるけど真っ当だな」とマルコーが腕組みする。


ーーー『作戦候補、其三/強力な組どうしの戦いに混じり、漁夫の利を図る』


「これは……上手くいけばいいけど」

「ミスをしたら無駄死にニャ」


ピンとくる作戦がないのか、みんなの唸りが重なった。


「とりあえず次行こう。イノセント嬢、今日はどうだった?」

「ん、……わたし?」


話を振られ、メルティは目をぱちくりさせた。

それから十秒ほど頭を左へ、右へと傾けてから、


「……楽しかった」

「「「『そういうことじゃない』」」」


チームワーク、バッチリである。


「ま、まあ、私の聞き方が悪かったね。ほらその、今日の成果とか、他のグループの様子とかーーー」

「あー、そういう」

そこでようやく意図を察したのか、メルティは納得の顔を見せた。


「……言われた通りに、好き放題やった。武器、いっぱい回収したけど……あとで文句言われるのメンドクサイから、名前シール貼っておいた」


「さらっと言うけどだいぶハードな技ニャ」

『老練盗人並みの手腕/感嘆すべき』

「……もうちょいマシな例えにしてやれよ」


などなど、口々。


「あと、それなりに脱退させたから……明日はもう少し競争人数、少ないはず」

「「……脱退??」」


今回の実習には、特に脱退システムはないはずだ。

ルール違反でも見つからない限り、基本的には時間オーバーまでエリアの中で過ごすことになる。


「……ちなみにどうやったか、聞いてもいいかな?」

恐る恐る手を挙げるマージン。


「うん。 【烏】たちに頼んで、遠くまで運ばせた。……そうすれば場外になるし、時間内には戻れないはず」

「……なるほどニャ。運ばれた人、御愁傷様ニャ」


おそらくこの場にいるメンバーは、「烏」のことをメルティがテイムした「烏」だと勘違いしていることだろう。

しかしお察しの通り、この【烏】は普通でない。


ルイザのための薬草採取依頼、そのときにメルティとキツネを導いた存在ーーー【災禍の黒烏ーーーソル・ゾラ】。

若干一羽、メルティの話を聞かなくなりつつある個体もあるが(※15話参照)、基本は高い知能を持った従順な「魔法」である。


まあなんにしろ見た目は同じなので、メルティには新たに「テイマー」としての名を密かに持つことになった。


「話を戻そう。マルコー、シャオワン、核の分布状況はどうなっている?」


先に話し始めたのはシャオワンの方。


「ニャ。偏りなしニャ。面積あたりで計算すればぁ、全体で……二百くらいニャ」

指折り数える彼女に、みんなが目を見張る。

「……少ないな」

「まあ、もうちょい多い可能性もあるニャ。あと大きさもまちまちニャ……あ、そういえば核の収納袋ってマルコーが持っていたんだっけ」

「ああ、これだ」


どさりと、裏ポケットから収納袋が取り出される。

慎重に核を広げてみる。


「……十二個ニャ。まあまあニャ」

「そこそこ大きいものもある。これくらい集まれば不満はないだろう」

「目標は何位ニャ?」

「最初の予定なら、十位だ」

「ニャ……それだったら、もうちょっと頑張ったほうが良いかもしれないニャ。二日目はどうするニャ?」

「大方のところは集め終わったはずだ。探すよりも、他人から取るほうが稼ぎやすい。そうだな……焦っていそうなグループを狙おう」

「……マージン、隠れてる奴らを探したほうがいいだろ。そういう奴らはたぶんもう十分集めきっている。かっさらってしまえばいい」

あぐらをかいて横槍を入れるマルコー。

タイミングを見計らい、スキマが札を差し出す。


ーーー『相手の力量も高いこと多し/気をつけるべし』


「そりゃそうだけどさ。でもーーー」

「いやーーー」

「ーーー」


焚き火。

作戦会議。

メルティは、自分がその輪に入っているようで、入っていない感じがした。


(寂しいのかな、わたし)


思い出す。

いままでの学園生活で、キツネがそばにいなかった日があっただろうか。

夜に、ルイザの「おかえりなさい」を聞かなかった日があっただろうか。


ない。

ずっとずっと、二人はそばに居てくれた。


そんなことを思い巡らせていると、横で体育座りしているシャオワン視界に入った。

さっきから、(だんま)りとしている。

焚き火の暖かさがあるというのに、彼女の体は小刻みに震えていた。

しかしどこか、知られたくないようなーーーそんな「モヤモヤっとしたもの」をメルティは感じ取った。


メルティは口を一文字に結んだまま、シートから一口サイズの果物を摘んだ。

それからそっと、シャオワンの半開きの口に、それを添えた。


「……」


シャオワンは彼女に気づくと、くりんとした猫目をぱちくりさせた。果実を噛み潰し、味わうようにして飲み込んだ。


「もう遅いニャ。各自寝るニャ」

元気を取り戻したかのように、ぴょんと跳んで立ち上がるシャオワン。


「……お前、夜行性じゃねぇの?」

意外そうな顔をするマルコー。

長剣を磨きながら、彼女を見上げた。


「学園に入ってから昼夜逆転したニャ。そのおかげで一日中眠いニャ」


得意げにいうことじゃねぇよ、とマルコーがこっそりツッコミを入れる。


夜の森は昏くて、顔はあまり良く見えない。

しかしメルティはなんとなく、シャオワンは得意気な顔をしていない気がした。


「じゃあ明日に備えて、あたしが核の収納袋を持っておくニャ」

「はぁ?なんでだよ。管理は俺の仕事だ」

「いやぁ、今日一日ぃ、マルコーも疲れたかなーと」

「絶対思ってないだろ」

「思ってるニャ。あと女の子の(ねぐら)のほうが精神的に襲いにくいはずニャ」

「必要とあらば俺はやれる」

「変態ニャ。せんせー、ここに変態がいるニャ」

「ちげーよ。略奪に男女関係ねぇってことだよ!あと声でけぇ、見つかったらどうすんだよ」


「はいはい。二人とも一回落ち着こうか」


止めに入ったのはマージン。苦笑いを浮かべてマルコーの方を向くと、

「マルコー、すまないが今回はシャオワンに譲ってもらえないか。後輩にチャンスを与えるのも先輩の仕事だよ」


マルコーはまだ何か言いたげな渋い表情だったが、


「なら責任持ってちゃんと見とけよ」


とだけ吐いて、ずかずかと奥地へと足を運んでいった。




ーーー・ーーー・ーーー

夜更け。

鬱蒼とした森。

怪鳥かナニカの掠れた鳴き声。


白煙がのぼる、黒ずんだ枝葉の山。


かすかに聴こえてくる、細枝を踏み潰す足音。


男女別とはいえ、まとまっていたほうが敵襲に備えられる。

そういうわけで五人は簡単なテントを二つたてて、左男子右女子、のように決めると各々就寝時間に入った。


見張りは夜が明けるまで交代制。

今は、メルティが担当する時間帯だ。


うろちょろ、うろちょろ。

できるだけみんなを起こさないように、大きな円を描きながら。



「……ん?あれはーーー」


がさごそと、誰かが薮の中で(うずくま)っている。

何をしているのだろうか。


「……シャオワン?」

「ニャッ!?」


ーーー影の正体は、シャオワン。


「なにしてるの?」

「い、いやぁ、……お手洗いに行ってただけニャ」

「……」


別にメルティは彼女を疑ってはいない。

トイレに行っていたんだ、そうなんだ、というくらいのリアクションである。

ついでに言えばメルティの「なにしてるの?」もそのままのニュアンスでしかなく、ちょっとした好奇心の域を超えることはない。


しかし暗闇で、それと同化するくらいの暗色の瞳に見つめられては、誰でも怯んでしまうものである。


シャオワンは独特な猫耳を垂らして、頭を深深と下げた。


「……ごめんなさいニャ」

「? 謝る必要はない。……気になっただけ」

「……あはは、メルティはすごいニャ。誤魔化せないニャね」


(誤解されてる気がする……けど、いいや)


「実はーーーコレ、ニャ」

「! それは」


シャオワンの手には、ひとつの袋ががっしりと握られていた。

ーーーこの半日間、五人で集めに集めた、モンスターの核を入れた収納袋であった。


「メルティ……」

「……どうしたの」


「あたし、がんばってこの学園に入ったニャ」

「うん」

「お姉ちゃんに誘われて、一緒にこの街まではるばるやってきたのニャ」

「うん」

「何でか、わかるニャ?」

「わかんない」


突然始まった話題。

モンスターの核をシャオワンが持ち出したことと、全く関連性の無さそうな話題。


メルティはただ黙々と、シャオワンの呟きに頭を縦に横に振っていた。


「それはーーーココなら、……()()なら、あたしを受け入れてくれると思ったからニャ」

「うん」

「なのに……」


シャオワンは出かかった言葉を、無理やり飲み込むようにして心の中に抑えた。

しかし、溢れてくる気持ちだけが迸っていた。


彼女は矛先をメルティに向けまいと、気遣うようにして弱々しくかぶりを振った。

そして、漏れ出すのは、一言だけ。




「あたしはーーーーーーーーー何を信じればいいニャ……?」




「……」


話が見えない。

メルティが聞き返そうと口を開く。

だがそれよりも早く、その収納袋はメルティの手元に仕舞われた。


「……?」

「メルティに渡すニャ。……あたしでは、やっぱり……()()()()()()()ことなんて、できないニャ」


シャオワンはそれから、メルティの方へと顔を向けることもなく、テントの方へと帰っていった。



ーーー取り残される、メルティ一人。


「……」


その場にとどまること、約一分。


メルティは、自分の両手に収まるくらいの収納袋を眺めた。


「ーーー【イチゴ丸】、……おいで」

肩掛けのポーチは口をぐわりと裂いて、中から一枚のカードを吐き出す。


びりり。

容赦なく、噛み千切る。


ドクン。

ドクン。

脈動する。


悪意は瞬時にメルティを侵食した。

ソレは暴れるようにして、メルティの両目を喰らおうとする。

ばきりばきりと不快な音を立てて、メルティの顔に亀裂を入れていく。

しかし抵抗しきれないのか、それとも何かを感じ取ったのかーーーソレは間もなく動きを止めた。


やがて現れたのは……一本の金縁のモノクル眼鏡。



「……【鑑定】、よろしく」


ーーーpi、pi、pi。

ーーー検索中……検索中……十件、一致シマシタ。


「……で、何だったの、この核」


ーーーpi、pi、pi。

ーーー編成中……編成中……十件、作成シマシタ。



ーーーpi、pi、pi。

ーーー「ワイバーン種 幼体 ノ 核」、二ツ。


ーーーpi、pi、pi。

ーーー「ゴブリン族 幼体 ノ 核」、三ツ。


ーーーpi、pi、pi。

ーーー「フレアボア種 幼体 ノ 核」、三ツ。


ーーーpi、pi、pi。

ーーー「サイクロプス族 幼体 ノ 核」、一ツ。


幼体?

赤ちゃんということ?

メルティですらも若干眉をひそめ、その結果を聞いていた。


そして彼女は最後の一つに、目を大きく見張った。


ーーーpi、pi、pi。


ーーー「() () () () () () ()」 、 一ツ。





「……」

瞬時に、シャオワンの一言が、メルティの頭によぎった。



ーーー『あたしは……何を信じればいいニャ……?』



メルティはポーチに手を伸ばした。

未だかつてないほどの、黒くて濃密な霧がメルティを覆った。


「……【烏】、全員、集合」

『ゔぇぇっ』


ポーチが、激しく震える。

粘液まみれの口から、無数のカードが吐き出された。

びり。びりり。

カードはすぐさまに粉砕され、そして形をなしていく。


()ーッ!!』『()ーッ!!』『()ーッ!!』『()ーッ!!』『()ーッ!!』


夥しい数の烏。

靄を帯び、朱色の目を嵌めている。


林冠はぬばたまの黒羽根に覆われ、死へと(たか)る声が樹林に轟いた。


メルティは、その中央まで歩み寄った。

まるで、演奏会で、燕尾服を着こなす指揮者のように。



「……【烏】。この付近の、()()()()()()()()()。……一つ、残らず」



()ーッ!!』

()ーッ!!』



「……これは、命令」



瞬時に、場は静まった。


そして再び、鳴き始める。


旋回。


叫喚。


蜘蛛の子を散らすようにして、【烏】はやがてーーー闇夜に溶けていった。






ゾッとしたい方は、ぜひ9話、14話、35話へ。


いよいよ、メルティが立ち上がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ