52。 メルティとメンバー
お待たせっす。
ちなみに2話まで修正が完了。合わせてお楽しみください。
あとマルコー君も、メルティに殴りかからかった、にしようか迷ってます。
ちなみに最新版の文章はカクヨムさんにあります。
その夜、メルティらはシロガネル家の邸宅に招待された。
つまり、マルコーの家だ。
彼の父親が聖騎士団の団長をしているため、それなりに家は裕福である。
そのため邸宅のサイズもメルティたちが住んでいる館―――「びっくり箱」(※49話参照)ーーよりもだいぶ立派で、メルティは踏み入るなり目を輝かせた。
使用人が人数分のお茶セットを運んで来て、どたばたがおさまった後。
五人はガラスのテーブルを囲んで座った。
カーテンはかすかに揺れ、夜の色を覗かせていた。
橙の光を浴びつつ、エルフの男子―――マージンが開口する。
「長居はしない。だがしっかり作戦は考えておきたいから、早速始めようか。……まずはお互いを知るところからだ。自分の苦手、得意を忖度なしで言おう。恥ずかしがることはない。後悔しないための第一歩だ」
彼の言葉を皮切りに、作戦立てがスタートした。
「私自身、剣術の腕はかなり良いと自負している。が、重さを逃がす動きがどうも苦手でね」
マージンは続けた。
「それより四人に伝えるべきなのは『精霊魔法』の方だろうね」
その言葉に、メルティが顔を上げる。
―――精霊魔法。
まさにメルティがこの間の薬草採取依頼で、かかってしまったモノである。
そのせいで逃げ遅れたのもあって、本人にとってはあまり「精霊」が付くモノにいいイメージを持っていない。
その嫌悪感がくっきりと顔に出ていたらしく、マージンが苦笑いを漏らす。
「……まぁ、事情は置いておいて、たしかに不気味だと思う人もいるだろう。だが意外と自分のものになってしまえば『そんなものか』となるものだよ」
メルティが頷く。
精霊魔法。
言葉の通り、精霊という存在が引き起こす人知を超えた魔法。
そのためあくまでも「お力をお借りする」という立場であって、決して彼らに対して「上に立とう」と思ってはいけないのである。
―――なぜならその溜まった怨念はやがて、災害へと変容するからだ。
「「……」」
その言葉に、みんなが黙りこける。
マージンは「事実だよ、」とだけ加えて、さらに続けた。
「というわけで私が使えるのは、私が家から受け継いだ『精霊魔法』―――【生命の脈動】のみだ」
【生命の脈動】。
一種の精霊魔法にして、高度なエルフ族直伝の古代魔法。
この魔法を施行している状態では、植物に触れることで、近くにいる生命体を感じ取ることができる。
残りの命が長ければ長いほど、その感じ方は強く、激しい。
それこそまるで、命そのものが「脈動」しているかのような。
美しい魔法。
しかしその反面、生々しい「死」と、死を迎えようとしているその瞬間が、否が応でも脳を占領することになる。
故に長期に渡って使用すれば、精神が破壊されてしまう。
「こ、こわぁ……」
猫人族、シャオワンが肩を抱いた。
率直な感想である。
「はは、そうなんだよ。……正直私の【生命の脈動】はね、授業くらいでほいほい使っていいものではないんだ。まあ、ちょっとくらいなら平気だけどね」
静まり返る皆んな。
その空気を打破したのは、シャオワンだった。
「はいはぁい!あたし次言うー」
「どうぞ」
「あたしはねぇ、正直ね―――戦うの苦手ニャ! 剣術科なのにぃ?って思われるかもしれないけど、まあそこは、色々ぉ、ニャ」
猫人族は概して低身長で、動きが鋭敏で、感覚が優れている。
一方で、体力が少ない。
しかしシャオワンは体力が人並みである代わりに、十八番であるべき「身軽さ」が不足していた。
「だから、相棒に頼るニャ」
そう言ってシャオワンは口を大きく開けた。
するとその鋭い犬歯の隙間から、何やら縞模様の丸い物体が転がり出てきた。
一言で説明するならば―――シマシマモグラ。
「これが相棒ニャ。名前はぁ、さっき言った通り『シャオワン』ニャ」
「……それどうにかならねぇのか? とんでもなくわかりづらい」
口を挟むマルコー。
ジロジロとシャオワンの口元とモグラを交互に観察しながら、さっきのリバースの光景を回想する。
どうにも理解ができないらしい。
「んーそれなら今日から君は『シャオワン二号』ニャ」
「いいのかそれで」
「いいのニャ」
「……わっかんねぇな」
文化の違いは、簡単に乗り越えられるものではないのだ。
そんなこんなで残り二人、無口な少女「スキマ」と聖騎士科マルコーの紹介が終わり、ついにみんなの目線がメルティに集まる。
「……なに?」
「お前もなんか言ってくれよ。戦闘は得意だろ」
フラッシュバックする黒歴史を拭うようにして、マルコーがメルティから目を逸らした。
「うん。……でも話し合いは苦手」
「じゃあ、得意な魔法とかぁ、要注意な点とか教えてニャ」
「得意な魔法は―――ない」
「うそつけ!!」
物申したげなマルコー。
無言を突き通してきたスキマが、腰を浮かそうとする彼を手で抑えた。
メルティは続けた。
「……本当のことだよ、マルコー。気づけば戦って、魔法使って……そこに、わたしの意志なんてなかったから」
「作りたてのゴーレムかよ」
「言い得て妙」
「……」
からかうつもりで言ったのだろうが、あっさり頷かれたマルコーは押し黙った。
「―――でも、キツネと出会った。それからはちゃんと……魔法が使えるようになった」
メルティはテーブルへと腕を伸ばした。
すると、マルコーは焼き菓子の皿を彼女の方へと滑らせた。
口をへの字のままにした彼を、ニヨニヨ見つめて小突くシャオワン。
マルコーの方はまるごと無視である。
口に二、三枚レーズンクッキーを放りこんで、満足したメルティが再び口を開く。
「だから、得意とかは……よくわからない。強いて言えば最近はよく氷を使ってる。……注意は特にない。たぶん、注意が必要になるような事態なんて、起きないとおもうし」
ぽんぽん。
メルティの肩を叩いたのは、スキマ。
一枚の札を掲げた。
―――『無理やり話さなくて良し』
「私もそう思っているよ。誰だって、話したくない秘密くらいあるだろうし」
「そのとおりニャ」
「ん、別に話したくないとか、そういうのじゃない。……単純に、説明が難しだけ。実際に受けて見ないとわかんないとおもう」
「……なんだよ。……はーぁ、わかったわかった俺が説明すればいいんだろ、説明すれば」
じっくり眺められて、致し方なしというふうに両手をあげるマルコー。
唯一の、「メルティアトラクション経験者」である。
あの日。
攻撃を仕掛けようとしたら、忽然消失したこと。
怪力で、壁まで吹っ飛ばされたこと。
第二王女が乱入してきたこと―――。
「「……」」
感想を聞いた後。
誰もが口をあんぐりと開けたままフリーズしていた。
メルティがクッキーを貪り食う音を背景に、マージンが「やれやれ」と自分の金髪を撫でた。
「なんというかその……本当にマルコーが生きていて良かったよ」
「そりゃどうも」
「でもぉ、マルコーがコテンパンだったのに、メルティといい試合したシャルメイ様ってすごいニャ」
「おい、言葉にトゲを感じるぞ、二年」
「真実を言ったまでニャ。シャルメイ様、なんだか今回もぉ、メルティ目当てで仕掛けてきそうニャ。そんな気配がプンプンするニャ」
「そんなことないとおもうけど」
あまり追いついていないらしく、メルティがコテンと首を傾げた。
「別に他にも、強い人くらいいるとおもう」
「そうだね。巨人族の末裔とか、有名な冒険者の子供とか。それこそパッと思いつくだけでも十人はいる。……そりゃあ、国で最大の学園だからね」
メルティの言葉に頷いたのは、マージンだった。
「だが今回、異例が起きた。一般の生徒はおそらくたどり着くことすらできない。自分の力が把握できる生徒なら、すぐに逃げ出すだろう。―――それからああ言った、一部のトップ層は……血が疼くだろうね」
異例。
今回の課外活動で最大の注意人物は、果たして誰なのか。
それは、大岩すらも砕く巨人族か?
否。
それは、名高き冒険者の秘蔵っ子か?
否。
その答えは……。
突然の転入。
高学年の聖騎士見習いを軽くいなし。
第二王女と拳を交わし。
そして経歴を聞けば、背筋が凍る……。
討伐したモンスターは数知れず。
しかしその過去は誰として覗けぬ深淵。
その、罪深きまでに魅惑的な存在―――。
全員の注視を受けて、ようやくメルティは目をぱちくりさせた。
「……わたし?」
―――・―――・―――
それから約一時間。
大まかな作戦を立て終えた面々は、やがて屋敷から立ち去っていく。
夜の挨拶を交わし、それぞれの岐路に着く……。
「……わたしをひきとめて、どうするの」
ゲート前。
微かに水面が揺れる噴水を背景に、影を伸ばすのはマルコーとメルティ。
メルティが問うてもなお、マルコーは目を合わせず、どこか虚空を見つめていた。
「……帰っていい?」
「ま、待ってくれ」
「……言いたいことあるなら、早めに。キツネとルイザが待ってる」
「だったら、俺、送っていくよ」
「……大丈夫。私強いから」
にんまりおどけるメルティ。
しかし、マルコーはあくまでも彼女から目を外していた。
「……済まないことをした」
「……?ああ、別にあの試合のことなら気にしないで。謝るなら、キツネにして」
「ああ、そうする。……なあ、」
「……?」
「お前って―――どれくらい強いんだ?」
そこで、初めて。マルコーはまっすぐメルティの瞳を見つめた。
今までの嫌そうな目とは違う。
メルティはなんとなくそう感じた。
むしろ、消えかかった灯火のような―――そんな目に思えた。
自分がどれほど実力があるのか。
……ただ単に力が知りたい、そんな雰囲気ではなかった。
むしろその裏に、隠しても隠しても隠しきれない、少女の素肌のような含みを感じた。
「……身内を守れる、くらいには強い」
メルティは答えた。
「―――そうか」
「うん」
「それは……何人でもか?」
「え」
「あ、いや、なんでもない。忘れろ」
「?わかった」
「なあ、最後に聞いていいか」
「どうぞ」
「お前はどうしてこの学園に入ったんだ?」
「……」
「入ってもいいことないだろ。……俺を正当化するつもりはないけど、たぶん、あんときの俺以上にお前が憎くて邪魔で仕方ないやつなんて、いっぱいいるぞ」
「……」
「醜い嫉妬をするやつがわんさかいる。外面がいいあの学園も、蓋開けてみればそんなもんなんだよ」
「……」
「いずれそういうのはいじめに繋がる。お前ら二人じゃあ、なんにもできずに潰されるかもしれない」
「……」
「それでも―――お前は入ったんだ」
メルティは目を瞑った。
それから、歩み始めた。
「お、おい」
「この学園に入った意味は……今のわたしには答えられない。……けど」
メルティは風に舞うポーチをそっとおさえた。
「学園に入らなくたって、わたしのことが嫌いな人なんてたくさんいるはずだよ。だからわたしは―――あんまり気にしてない」
「……そうか」
「うん」
「引き止めて悪かったな」
「大丈夫」
「良い夜を」
「うん。おやすみ」
挨拶を軽くすませて、メルティは小走りでその場を去った。
それから分れ道で足を止めると、振り返った。
ちょうど月の影が、シロガネル邸を覆ったところだった。
―――
ありがとうございました。
かなり、書きたかった1話。
次回更新は9/15(日)。メルティちゃん、やらかします。
お楽しみに。




