51。メルティと実習
実は持ち込みのために、1話から全部書き直したのですよ。
で、ちょっとずつ直して読みやすくしようと思いましてね。
しばしお待ちを。
「実習」。
それは実践の場。
それは、自分への把握―――。
「ついに来たのか!腕試しの時が!!」
「ふむふむ、今回はそうきたかぁ。楽しみだなぁ」
「えぇ……運動はちょっともういいですわ……」
何やら、騒がしい廊下。
目立つところに立て架けられた看板に、一枚のチラシがデカデカと貼られていた。
夏期休暇に入る前の最後の大型プログラムが、発表されたのである。
その名も、「課外実習」。
内容はみんな大好き「宝探し」。
・期間は明日の正午からまる一日。
・ランダムで組まれた五、六人組で、ポイントを競い合う。
・決められたフィールドの中で探索をし、散りばめられた「核」を集める。
・核の市場価格がそのままポイントとなる。
・事前に一部の核の場所が記された地図が配られるが、それが正しいとは限らない。
・奪い合いは可だが、度の過ぎた行動は控える(殺す、買収するなど)。
・道具使用可だが、先生に事前チェックをもらうこと。
云々。
ちなみにグループメンバーはランダムとは言え、ある程度ルールは決められており、なるべく同じクラスが集まらないようになっている。
つまり。
「……キツネ重い。……たかが一日」
「だ、だってぇ〜っ」
そう、キツネとメルティが同じグループになれる確率は、極めて低いのだ。
実習の途中でばったり会う可能性はあるだろうが、その時は「敵どうし」である。
さすがのキツネも、私情で仲間を巻きぞいにするは気が引けるらしい。
今は昼休み中。
そしてお約束どおり、キツネはメルティにべったりである。
キツネの家もまあまあ名が通っているというのもあり、全体重を他人にかけてあーんと口を開けている様子は、だいぶ見るに耐えない。
―――のはずだが、ここにいるメンツはすでに見慣れているらしく、多くて「あぁ、またか」くらいである。
「あ、そういえば。メルティちゃん……なんか、ほら【悪―――」
「だめ」
「うっ、な、なんで、わわわたしまだ何も言ってませんけど??」
「だいたい察した。だから、ダメ。不正はダメ。学園からポイされたくない」
「めぇるぅてぃちゃぁあん……」
「キツネ……恥ずかしい。マジで」
「げはっ……」
そうしてメルティの何気ない一言により、キツネは致命傷を受けるのであった。
そんな時だった。
「―――へぇ、君が噂のメルティ・イノセント嬢?」
「「??」」
落ち着いた声が、頭上からした。
見上げれば、そこに一人のブロンドヘアをまとめた、尖った耳の男子生徒が一人立っていた。
そして後からぞろぞろと四人ほど生徒がやってきて、同じようにメルティたちの前に足を止めた。
―――喧嘩勃発か、と思ってしまいそうな囲み方。
しかし我らがメルティはあまり興味が湧かないらしく、ただひたすらに、シューアイスを口に詰めている。
相変わらずである。
一方でキツネは口に放り込まれる冷凍フルーツを楽しみながら、四人を順番に観察していた。
(この耳はエルフ族でしょうかねぇ? やっぱり美形です。要注意です)
(後ろにいらっしゃるのは……こっちもスレンダーですね。メルティと同じ黒髪です。何度見ても綺麗ですよね、黒髪)
(その横にいるのは……猫耳がピコピコしているので猫人族でしょうか。可愛らしいです……もふってみたいです)
(で、最後に―――…………ん?)
「げげっ!?!?」
大きく飛び上がるキツネ。
危うく果汁を吹くところで口を押さえ、申し訳なさそうに座り直した。
「キツネ?」
「あ、メルティちゃん、お気になさらず……」
「?そう」
キツネが落ちついたところで、先頭のエルフ族らしき男子生徒が口を開く。
「お二人は本当に仲睦まじいみたいだね。……だからこそ、その、キツネ・フッサ嬢には申し訳無いが、一度メルティ・イノセント嬢を借りてもいいかな?」
「……というと?」
「というと―――明日の課外実習のグループが決まったんだ。先ほどね。だから一度顔合せくらいはしておきたくてね。いいかな」
メルティが頷く。縋り付くようなキツネの目線に気づくこともなく、わかった、とだけ言って立ち上がる。
「え、あ、つまり私はやっぱり―――」
メルティをチラ見。
それからメンバーをチラ見。
メルティを再度チラ見。
そしてメンバーを再度チラ見―――。
「あー、その……そう……だね。とても気持ちは分かるが、……別のー……グループになってしまったようだ。その点に関しては申し訳なく思うよ。うん。……あ、でも、確かフッサ嬢の方には豪腕の剣士見習いが―――あれ? フッサ嬢? フッサ嬢!?」
「キツネ……ごしゅうしょうさま」
みんなで声をかけるも反応は無し。
ただただメルティの太ももに顔をうずめて、撃沈するキツネであった。
わかっていたはず。
……わかっていたはずだけれど、いざ現実を叩きつけられると、人とは落ち込む生き物なのだ。
―――・―――・―――
「改めて自己紹介をしようか。こういう場は何度あっても素晴らしい」
学園裏の、森のフィールドにて。
口上を述べるのは高身長のエルフ。
サヤに仕舞った長剣を立て掛け、優雅かつ堂々たる起立を見せた。
「私から行こう。剣術科四年、マージン・レーヴェンという。西方エルフ族だ。長剣と、精霊系統の魔法が得意だ」
次に、黙々とみんなの前に出るのは一人の黒髪の女子生徒。
こちらも、マージンほどではないが高身長だ。
彼女は胸元から何やら札を取り出すと、筆を走らせて掲げた。
代表してそれを読み上げるマージン。
―――『剣術科三年/ スキマ・ハリコ/ 長剣、"不動"』―――
気になることはさておき、次はもう一人の少女。
「次はあたしニャぁ!」と飛び回りつつ、ようやく元気よく着地した。
大きく腕を振って一礼し、毛深いの耳を動かした。
「剣術科ぁ二年! 藍小旺ニャ!!好きに呼ぶニャ。ただシャオちゃんって呼ぶとお姉ちゃんとかぶるからぁ、それはダメニャ。得意なことはぁ索敵ニャ。戦闘はあまり得意ではないけどぉ、仲良しのスライムちゃんが代わりに頑張ってくれるニャ。どちらかといえば長剣ができるニャ。重い荷物でもねぇ、藍はへっちゃらニャ! あ、ちなみにスライムの名前はぁ『シャオワン』ニャ。たまたまあたしと同じ名前ニャ。お姉ちゃんが付けたニャ。あ、そういえばぁ昨日美味しい根菜類を発見してニャ、もしよかったら後でぇ一緒に食べるニャ? あ、話すぎたニャ。……あ、話すぎたといえばぁ、一昨日の夜か今日の夜にぃ―――」
「話が長ぇよ!!」
得意げに鼻を鳴らしながら語るシャオワン。その洪水のようなマシンガントークを止めたのはもう一人の男子。
キレッキレのツッコミに、さすがの彼女も一旦口を紡いだ。
その人物にようやく注意を向けたメルティは―――珍しく声を上げて目を丸くした。
「……マルコー??」
「……はぁ? 今更かよ」
―――そう、マージンの他にいたもう一人の男子生徒が、なんとあのマルコーだったのだ。
―――あの、先日、メルティに「騎士道」を訴えてコテンパンにやられた。
「どうしてマルコー? 偵察?」
「……ランダムなんだからしょうがねぇだろ。っつーかこんな堂々と偵察する奴いねぇよ」
「いや有り得る。わたしなら」
「俺はお前じゃねぇよ」
勝手に始まる微妙な距離感のトーク。
目尻を細めて、マージンが二人の間に挟まる。
「おや、仲いいね二人」
「「仲良くない(ねぇよ)」」
「ほら、喧嘩するほど―――」
「「仲良くない(ねぇ)」」
「その―――」
「「仲良くない(ねぇ)」」
「……そ、そっかぁ」
さすがにもう一押しする勇気はないらしく、マージンは大人しく観客席に後退していった。
そして一応は自己紹介をするマルコー。
「聖騎士科四年、マルコー・シロガネル。聖魔法なら使える」
「意外とまとも」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「……キツネをおこらせた、妙に速い人」
「このっ……」
顔を赤くするが、事実は事実である。
入りたての一年が四年を伏せたというのもあり、基本誰でも知っている噂になってしまっていたのだ。
笑いをこらえる面々。
怒るに怒れないマルコー。
結局はあらゆる気持ちを飲み込んで、深呼吸をした。
「で、お前の自己紹介もしとけよ」
「……ん、たしかに」
というわけでようやくメルティの番。
彼女は壇上(に見せかけた切り株)に立つと、キツネに習ったようにぺこりと頭を下げた。
何を考えているかもわからない、渦巻く瞳。
しかしその声は透き通っていた。
「……メルティ・イノセント。好きなものは……―――シール。ぷにぷにの」
「「「「…………」」」」
違うそうじゃない―――とも言い出せず、四人はメルティの方を向いたまま、固まってしまうのであった。
ちなみに同時刻、キツネも自分のグループの生徒に呼び出されています。
来月誕生日なんですよ。
皆さんにサプライズを用意いたしましたので、お楽しみに。




