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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
2章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・上
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53。メルティと呼び出し

12話まで訂正しました。ぜひ合わせてご覧ください。

あのキャラ、実はああだったんだぜと将来言えるチャンスです。

 次の日、早朝。

 校長室。


 目の前にいるのは、頭をおさえた教養科のホーリア先生と、目尻のシワを深くした校長。


「はぁ〜〜〜っ」

 沈黙を破る、ホーリア先生の長いため息。

 その様子が不可解らしく、メルティは子犬のようなクリンとした目で彼女を眺めながら、

「先生疲れてる?」

「全く、誰のせいですか!」

 切り返されたその気迫に、メルティが「わあ」と軽く()け反った。


「貴女、わかってますか。たとえ正しくとも、やってはいけないことがあるのですのよ、この世の中には」

「……あっちから来た。から、仕方ないとおもう」

「ああもう、そういうことじゃなくてですねぇっ……」


 再び、ホーリア先生が頭を抱えた。


 ーーー昨夜。

 メルティがマルコーの家から帰るとき。

 そこでなんと、幾人もの待ち伏せに遭ったのだ。


 あるときは束で襲い掛かり、ある時は一人で剣を抱え。

 とても一人の女の子相手にやることではないーーーように見える。


 メルティはいちいち相手にするのが面倒だったので、立ちはだかる人の足を次々と氷漬けにした。

 それも、【スケイプ王子】に頼んで、軽めの魔法にした上で。


 しかしそれでもそれなりの殺傷力があったようで、人によってはしばらくは歩けないほどまでになったという。


「……その氷漬けを発見したのは、今日の日の出の頃ですわ。蓋を開けてみれば、その多くは貴族の雇い人、中にはご家族やご本人もいらっしゃいました」

 ホーリア先生は角が折れた資料をめくり、そしてメルティの方に目を向けた。

「御意見を、多数いただいるのですよ。メルティ・イノセントさん」


 御意見。

 敬語を使わないならばーーークレーム。


 責められている。

 ……とも言えない。

 どちらかというと、面倒な「お客様」を相手にした後のような倦怠感が、メルティには感じられた。だからこそ、反論もしづらかった。


「たしかに正当防衛なのでしょうけれど、貴女ほどの力があるならば、躱して進む事も出来たはずでしょう」

「……めんどくさい」

「相手は貴族の方々なのですよ、わかっていますかメルティさん」

「わからない。……武器を持ち出したのはあっち」

「ええ、一般民衆なら正しいのかもしれませんわね。しかし今回の相手は貴族ーーー」


「ーーーだから何ですか」

「「!?」」


 紛れ込む男の声に、ホーリア先生の言葉が詰まる。


「……マルコー??」

「こんなところで油を売りやがって。早めに学園に来たのは、責任を擦りつけられるためじゃねえだろ」


 校長室の前に立つのは、腕組みをした不機嫌顔のマルコー。

 そして横には、「仕方なく門を開けたのですぅ……」と言いたげの、中年がオドオド控えていた。この学園の副校長である。


「マルコー・シロガネルさん。今は大事なお話中です」

「それくらいわかってますよ。だから来たんですよーーーコイツがいつまでも来ないから」

「ええ。それは、昨夜ーーー」

「何があったかくらい知っています。それで、コイツのどこが悪いんですか」


 メルティは黙ったまま、サンドイッチのように自分を挟むマルコーとホーリア先生を交互に見た。

 ホーリア先生はメガネをつまみあげて、ため息をついた。


「……どこも悪くありませんわ。強いて言えば、過剰防衛でしたね」

「過剰防衛ぃ? はっ、なんですかそれは」


 普段ならすぐさま立ち上がって「マナーがなってません!」とでも言い出しそうなホーリア先生。しかしマルコーの鼻笑いには目を伏せるだけだった。


「いいですか、マルコーさん、メルティさん。この世は理不尽なのですわ。だからーーー」

「だからコイツは殺されてもいいと」

「……っ。それは違う話でしょう」

「いーや。同じ話ですよ、先生。じゃあ仮にコイツが昨日の夜襲で殺されたとします。ーーーそれで、誰が喜ぶんです?」


「……それは当然、……仕掛けた方が喜ぶでしょう。今日行われる実習、ここでの評価は将来に大きく響くので……敵を減らしておきたい気持ちは、貴方もわからなくないでしょう? ええ、たしかに相手はやりすぎたのかもしれません。しかし相手が悪すぎますわ。この学園は王立です。国は勿論、貴族の方々のご応援がなければ、運営も足場もなくなってしまうのです。相手が貴族様である限りここは耐え忍び、謝るのがーーー」


「世も末ですね」


「貴方……っ」

「そりゃそうでしょう?ていうか、先生もそんな『()()()()()()』を演じるのはやめてくださいよ、すっげぇ疲れます。……どうせアイツらと良心の板挟みを受けて、どうしようもなくなったんでしょう?」

「ま、マルコーさん、つ、謹んでください!どこで聞かれてるかなんてーーー」

「はっ、聞きたいなら聞きゃあいいじゃないですか?」


 マルコーは堂々とホーリア先生の机の前までやってくると、親指を下に向けた。


「一応、昨日のような馬鹿なことをした家は全部、名前を確認済みです。……先生、本当にこの学園を支えられるほど寄付金を出しているやつは、あんなことはしないです。する奴は全員ーーー俺の家よりも、下」


 マルコーははっきりと「下」を強調した。


 王国の中でもそれなりの地位を持つ、聖騎士団の団長。

 その息子にばっさり言われては、ホーリア先生は目を逸らすしかなかった。


「そんなやつの言うことなんて、無視してください、無視。それよりもホーリア先生、なんでコイツがこんな狙われるか、わかりますか?」


 突然指先を向けられて、メルティが「わたし?」と反応する。


「ええっと……」

 たじろぐホーリア先生。

 メルティを上から下まで観察してから、弱々と口を開く。

「それは、目立つからでしょう。あちこちで問題を起こしている、問題児ですから」

「違いますよ。嫉妬ですよ嫉妬。気持ちわりぃ嫉妬」

「……まあ、それはあるでしょうけどーーー他人に絡んでは、喧嘩を売っているのはメルティさんの方でしょう?」


(……ん? そんなことした覚えない)

 さすがのメルティも、目をパチパチさせた。

 身に覚えのない、とばっちりである。


「わたし、喧嘩売った事無い。だいたい売られる方。……あと、言っても、二回くらいしかまだやってない」

「えっ……!?」


 ホーリア先生は驚く勢いのまま、跳び上がった。


「わ、わたくしが聞いた話と違いますわ。だって貴女、第二王女(シャルメイ)様にまで喧嘩を売ったとーーー」

「えぇ、本気で言ってるんですか?」


 メルティの代わりに、マルコーが冷笑を浮かべた。


「コイツが言った二回の喧嘩というのは、シャルメイ王女と、それからーーー俺」

「まままま、マルコーさん!??」

「いーやいや、それくらい四年(おれら)の中では周知の事実ですよ」


「ど、どうして……」

「俺が、気に入らなかった。コイツが、姫様と一緒にいるのが煩わしかったから。だいたいこのご時世、姫様に近づくやつはだいたい碌なもんじゃないから。以上」


「え、ええと、そうすると喧嘩を売ったというのは」

「ーーーはい、俺です。コテンパンでした」


「何でそんな得意気ですか」

「コイツ相手に負けたからです」


「……で、では、シャルメイ様の方はーーー」

「あれも姫様が始めました」


「たのしかった」

「お前は黙っとけ」


「……」


 ホーリアはメルティは凝視したまま、微かに頭を横に振った。


「メルティさん……」


「行くぞ」

「……? わかった」


 おもむろに立ち上がるメルティ。

 申し訳程度に頭を下げると、校長室を出て行った。



 廊下にて。


「……お前ももっと反論しろよ」

 ずかずかと足を運びながら、マルコーが零す。


「わかんない」

 その斜め後ろから、メルティがついて行く。


「なにがだよ」

「全部」

「はあ?」

「ねえ、マルコー」

「なんだよ」

「ありがとう」


「……姫様のためだ」


 マルコーはそれだけ言って、メルティから視線を逸らした。



 ーーー・ーーー・ーーー


 校長室。

 曖昧な影が、机にかかっていた。


「校長先生……どうするおつもりですか」

 五分間。机に顔を伏せていたホーリアが、再び眼鏡をかけ直した。


「……これは、マルコー君の言うとおりさね」

「校長先生まで……!」

「ホーリア先生よ。価値観とは、変わるもんよ。十年前なら、ややもすればメルティ・イノセントは退学になっていたのかもしれない。だがね、今は違うかもしれない」

「また曖昧なことを」

「曖昧に決まってるさ。自分のことですら完全にはわからんものよ」


「ではーーーどうするおつもりで?」

 校長は腰の後ろに腕を回したまま、飾られた油絵に沿って部屋を一周、また一周した。


 それから校長室のドアの前で立ち止まると、言った。


「儂らも変わる。あるいはーーー廃れる。それ以外にないさ」


 軋む音とともに、使い古したドアがゆっくりと開いた。



 早朝。

 まだ、廊下は薄暗い。




どうもありがとうございました。

これはまあ良くあることですよね。


次回からが本番。この章もそろそろ終盤です。

更新は9/19(木)です。お楽しみに。

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