46。メルティ vs シャルメイ
2000PVありがとう!!みんな愛してる。
〜メルティside〜
こんな体験は初めてだ。
少なくともわたしの記憶の限りでは、こんなのは今までに一度もなかった。
ただ、ただ力をぶつけ合う。
わたしが蹴って、抑え、肩にかかった帯でシャルメイ王女を鞭打とうとする。
以後敬称、略。
彼女が当然のようにかわすと、わたしの肉体がしみ込んだ帯は勢いよく地面を抉った。
そして繰り出される鋭い反撃。
わたしもやられたくはないのでとっさに半身を切って、抜き手を避ける。
みれば数本の引っ掻き傷。コートが微かに煙をあげている。
「あははっ、なかなかいい動きなのだ!楽しいのだ!」
「……本当に好きなんだね」
簡単な技のやりとりが、ただ続いていくだけ。
しかしたしかに、今までの戦いにはない温かみがあった。
なんというか……イイ喧嘩?みたいな。
いや、喧嘩に良いとかあるのかな。
とにかく、楽しそうに笑っているシャルメイを見ていると、自分までにやけてしまいそうな―――それでいて気が緩めないようなそんな感覚だった。
どこか場外から、「あんなの女子がやることじゃねぇ」と聞こえる。
……正直、よくわからない。
わたしには多分、性別なんてないのかもしれないと思う。
だって単細胞生物なんだから。
わたしは、わたしだけで出来上がっている。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから多分厳密には、女子の体を保ったナニカなんだとおもう。
じゃあ仮に見た目どおりならば、女子がすべきことってなんだろう。
これ―――今のジャブの応酬とか、急所狙いとか、斬りつけとか―――は、女子がすべきことじゃないのかな。
そう考えると……。
「……ヒトって大変だなぁ」
「随分と余裕そうなのだ」
シャルメイの手刀が、わたしの首を目掛けて飛び掛った。
とっさに出た防御態勢。
しかし破れたのはわたしの手首だった。
どこかからする、わたしのではない小さな悲鳴。
自分の手を見る。なるほど、完全にえぐれている。
「びっくりなのだ。かなり痛いはずなのに平然としすぎなのだ」
「うん。……痛みがないから」
しかも―――多分今わたしの手から滴っているのは、血なんかじゃないと思う。
あえて言うなら血の色をした粘液。わたしという細胞の一部だ。
たしかにこう考えると、わたしって本当に人とはいえないのかもしれない。
ヒト種でも無いのかもしれない。
それに。
「シャルメイだって、普通ではないとおもう。……前から思っていたけれど、皮膚が硬すぎる」
「硬いというよりは、鋭いのだ」
わたしのかなり力を込めた蹴りを、片手だけで払って捌くシャルメイ。
ブシュッと、わたしの足首から血(と呼ぶとする)が噴き出た。
なるほど、たしかに鋭い。
ただわたしには、今の負傷でどれくらいの痛みなのかがわからない。
わたしが自分の足の切り傷を観察していると、シャルメイが口を開いた。
「我はヒト種ではあっても、『ヒト』ではないのだ。―――『剱鮫』と呼ばれる古代生物の……先祖返りなのだ。だから、肌は見た目ほど柔らかくないのだ」
「……それ、話していいの?」
「大丈夫なのだ。そもそも隠す気もないのだ」
鮫という生き物。
その大きな特徴の一つに―――「鋭い刃を持った肌」がある。
かつてのこの世界でもこの「剱鮫」が広大な海に君臨し、贅沢に限りを尽くしていたという。
その血が濃厚に流れているシャルメイも無論持ちあわせているのだ。
強靭な肉体と、残酷なほどに熱血な「闘争心」が。
結局のところ、決定打がお互い与えられていない。
―――ならば、することは一つのみ。
「そろそろ、魔法使う」
「どんと来いなのだ」
もういいや、隠さなくて。
別に悪いことをしているわけでもないのだから。
「【……スケイプ】×【悪意一縮】。……よろしく」
いつもの、氷の先制攻撃。
『なぜ……なぜ共に語り明かす暇もない……』
……もしかして、学校に通い始めてスケイプ王子のところに行く機会が減ったから、拗ねているのかな。
ええと、こんなときは。
(……ごめんね。今度休日があるから、一緒にお話しよう。……よかったら、……友達、連れてきてもいい?)
返答はすぐにはかえって来なかった。
代わりに伝わってくるのは、覆われているこちらまで凍えてしまいそうなほどの低温。
前よりもはるかに華々しく、かつ凛々しい刺青。
『……ワインを、用意しておく』
(え、ごめん、飲めない。見た目コンプライアンス的な感じで)
『意味がわからぬ。……が、楽しみにしておく』
うん、ごめんね。わたしもよくわかんなかった。
最近、言葉遣いがキツネとかノーソリューションとかに寄ってきた気がする。
「いくよ―――【氷華】」
格好つけなければ、俗に言う「アイスランス」だろうか。
しかしそれよりもさらに鋭く、とにかく貫くことを重視したような形。
―――に、わたしは自分の一部を溶かした。
「すぅ……はあああっ!」
構え直して、シャルメイは氷の華を迎撃する。
しかし当然、さっきまでの様にはいかない。
「……っ!?」
「ちょっと痺れるでしょ。わたしの一部が今血液循環をコントロールしてるから」
貫通とまではいかなくとも、鎧を着ているかのようなシャルメイの表皮に、かなりの氷の破片が刺さった。
「次、行くよ」
肉体を回収して、次は肩にかけたマフラー(あるいは帯)に一割ほどの体を仕舞う。まるで命を吹き込まれたように、それはシャルメイへと向かっていく。
「【氷牢】【氷華】」
今度はよくわかった。
わたしの体を形成している小さなモノが、この特殊な帯を通じて、網を広げていたのだ。
そしてそこに、薄氷が乗って殺傷力を高める。
―――まるで、処刑用の牢獄のように。
しかし今回は、牢のターゲットをただ一人に決めた。
シャルメイは網を腕で薙ぎ払った。
それだけでも、その腕にはびっしりと結晶がこびりついた。
それはすなわち、慢性的な毒。
少し経てば、その自慢の防御力も内側から破られる。
「―――【氷心】」
とどめ。
内部から侵食する、反則的な魔法。
氷の結晶に気を取られているうちに、いっきに間合いを詰める。
「……甘いのだ」
「……!」
内部まで届かなかったのか、それとも痛みを耐えているのか。
シャルメイはわたしの手を避けると、手刀で腹部を薙ぎ払った。
たかが手刀と、侮ることなかれ。
勢いのこもった一撃に、先祖返りにより得た圧倒的な鋼の肌。
気づけば、わたしのお腹が一文字に裂けていた。
―――当然、本当なら致命傷ともなるはずだが……。
「やっぱりすごいのだ。最早化け物なのだ」
「……誉め言葉として受け取っとく」
内臓が存在しないわたしに、お腹という弱点があるはずもない。
「血」と認識していた部分は忽ち「肉」と認識し直して、そしてそれを繰り返し―――やがて、無傷の体に戻る。
「【氷華】」
「またそれなのだ?」
そう言って、シャルメイは深く踏み込んできた。
脚力も、並み大抵ではない。
わたしの氷の槍を避けもせずの突進。
それができるのは、彼女ならではなのだろう。
「うん。わたしもそろそろ飽きてきた。だから……【古龍・爍爍樂姫】」
―――そろそろ変えようか。
素早くポーチからカードを取って、噛み千切る。
封印されていた悪意が、蘇る。
「【悪意一縮】」
思い浮かぶは一頭の龍。
怒り狂う火山に君臨し、ソレが言えば暴れる溶岩ですら伏して従う。あるいは冷え固まり、あるいは天を突く―――そんな生れつきの「緋」の姫。
目には目を。
歯には歯を。
―――王女には、姫を。
「……【鉄火氷激凌】」
頭に流れ込む魔法を、口ずさむ。
一瞬にして、わたしの身体は爆炎をあげて柱に包まれた。
(ねぇ、えーっと、なんて呼べばいいの)
『わたしのことは、好きに呼べばいいですわ。シャクでも樂姫でも何でも』
(じゃあラッキーで)
『……』
(そういえばこの間、ありがとう。マナーの暗記、助かった) (※42話参照)
『あれはアッチが悪かっただけですわ』
わたしは呑み込まれそうな精神を引き戻しながら、古龍に話しかけた。
その特異な黒いオーラを炎はまといつつも、氷にも類している。
そもそも、炎としての自覚がソレにはないのだろう。
未開化の赤黒い塊。―――その一点のみ。
ソレは枝を伸ばし、触れたものを中心に結晶を形作って行く。
しかし同時に絶えず高温を発し続け、シャルメイを飲み込まんとする。
「……っ!」
シャルメイはその歪んだ空気に向かって両腕を構えた。
―――さあ、ぶつかって見ようか。
わたしは燃え盛る柱を、シャルメイ目掛けて倒した。
すでに地面がぐつぐつ煮えている。
……そして。
世界が一瞬だけ消えた。
目を貫くほどの眩しさで部屋が充満した。
やがて砂埃が静まり、会場が晴れた頃。
「……ふぅ……はぁ……危なかった……のだ」
「……!」
数箇所の火傷。
しかしそれだけで、彼女は見事にわたしの魔法を受け切った。
その見掛け倒しの柔肌はまだまだ健在だったのだ。
さすがにわたしもこれは予想していなかった。完全にこれで終わらせるつもりでいたから。
「……かなり息が上がっているけど」
「興奮しているだけなのだ。メルっちこそ、なんで及び腰なのだ?」
シャルメイは口元から上がる煙を拭って消すと、どこからか杖を一本取り出した。
その先をわたしに向けた。
……及び腰。
そうなのかな。
「別に好きな手を使えばいいのだ。勝つのに、卑怯も卑怯じゃないもないのだ。実戦でやり直しが効かないのと同じなのだ。
―――【魔境作製: "群青"】」
杖が、シャルメイの手から離れ、そして瞬く間に海になった。
聞き間違いでは決してない。
今、わたしとシャルメイを囲んでいるのは決して乾いたトレーニング場などではなく、キューブ型に区切られた海だ。
つまり。
ここは、シャルメイの縄張りである。
―――情勢、逆転。
「【ウォーターランス】」
魔法科授業における基礎というものがある。
その中には「ファイアーボール(火の基本的な魔法)」だったり「ウォーターランス(水の基本的な魔法)」だったりがあるが、わたしはどれも使えない。
そもそも、自分がどうして今魔法っぽいことができているのかすらわかっていないのだ。
しかしそんなわたしにもわかる。
(威力、恐ろしい)
まさに水を得た魚という言葉の通り。
おおよそ基礎魔法とは思えない威力の水圧の槍。
「……!」
そして気づく。
わたしは海水中になると、うまく身体をコントロールできないのだ。水の揺れに負けて、ともすればどこかに流されてしまいそうになる。
そんな状態でわたしの横腹を掠めたランスは、さらに角度を変えてわたしへと突進してくる。
速い。
なんとか捩って躱す。
しかし。
いつの間に、シャルメイが背後にいた。
そうだった。
彼女の祖先は、鮫。
そして鮫にとって海という空間は―――絶好のバトルフィールドなのだ。
わたしの攻撃が届くはずもない。
そしてその猛攻を、避け切れるはずもない。
「【ウォーターアロー】」
基礎的で、確実な魔法。
無数の槍が光り、そしてわたしの全身を貫いた。
身が散っていく感覚。
核が転がり出る感覚。
麻痺した感覚。
しかし。
どこか落ち着いている。
貫いているのに、まるで急所は上手く外されているような感覚。
……あれ。わたしはなんで今戦っているんだっけ。
そっか。
挨拶、だっけ。
あと……マルコーが言っていた。
戦う理由。
わたしが戦う理由ってなんだろう。
わたしは何を目指しているのだろう。
別に強くなくていい。
武術を知りたいわけじゃない。
じゃあ、わたしは一体―――ーー。
別にそのまま負けたって、誰も文句を言わないとおもう。
思っていた百倍くらい相手が強かった。
けれど、心のどこかに沸き上がるこの、わがままはなんだろう。
なんか、こう。
―――昇華したいような気持ちが……。
そんな時だった。
心の中で、不思議な声が響いた。
―――『だから嫌いなのよ、あんたのこと』―――
(……誰?)
―――『はぁ?それくらい把握してよ。リョナたん。配信してる人って言えばわかる??』―――
(配信……。あぁ、なるほど。リョナたんね。……というかやっと話しかけてくれたんだ)
―――『……カルテを投げるのも面倒になったからよ。あんたらがしつこくしつこくやってくるから。……それに面白いのが見れそうだったしね。まるでバトル漫画みたいなやつ。ずっとあの暗闇の中にいると暇なんだよね。配信もできないし』
(……そっか)
―――『反応薄っ! なに、バカにしてんの?せっかく話してあげてるのになにその態度』―――
(ん、ごめん。なんか、ぼーっとしてた。あと、なんか、すごいなって)
―――『何がよ』―――
(全部。シャルメイの防御力もすごいし、リョナたんもすごい)
―――『そういう中途半端に褒めてるやつ、まじで殺したくなるからやめてもらえる?頸動脈切るからね、次言ったら。……で、あたしはどこがすごいっていうの?こっちはこんなところに閉じこめられて、どん底に突き落とされたままなのにさ。人の立場にやったことないくせに、よくすごいって言えるよね』―――
(リョナたんは……配信?っていうのをしてる。すごい)
―――『ニワカ(※知ったかぶりのこと)じゃん。配信がなんだかも知らないくせに』―――
(キツネ言ってた。いろんな人に声を届けるやつ)
―――『あながち間違ってないけど。……あたしの配信は闇配信。普通のそこらへんのやつらと一緒にしないで。……自分の手首を切るの。血ィ出して骨を見せるの。首を糸で縫うの。眼球をくり抜くの。……で、もう一回血みどろのまま戻すの。皮を剥げば人は簡単に骨が見えるの。白くて、赤い筋入りの骨』―――
(……痛くないの?)
―――『あんたと一緒にしないで。痛いに決まってるじゃないの。でもねぇ。……わかるぅ?目を抜き出して、叫んで呻いて、痛くて気持ちよくて失禁して、痛感麻痺してカッターでさらに解剖して、もっと痛みを感じて泣いて……それをねぇ、聞いてねぇ、全世界何千万って人が推してくれるのよ。それで快感覚える男等もいるらしいし。わかる?このゾクゾク。リョナたんを支えてくれるのはねぇ、悲鳴なの。苦しみなの。やめてって言っても止めてくれない残酷なみんなの声援なの。それから……ファンの喜ビなの』―――
(……)
―――『……?なに黙ってんの』
(んー、リョナたんの配信見てみたい)
―――『……はぁ?感覚器官バグってるの?今の話を聞いてよくソレ言えるね。』
(そんなたくさんの人の前でおしゃべりできるのは凄い)
―――『……え?待って、注目するのそこ?舌根と脳ちゃんと繋がってる?脊髄反射系メルティなの?』―――
(わたしお話するのが苦手だから、尊敬する。それだけ)
―――『あんたと喋ってると調子狂うわね。だから嫌いなのよ。それに……あたしは尊敬されるほどの人間じゃない。
クソ両親に見捨てられて、クソ校長に犯されて、退学して、どん底に落ちて、這いずり回った結果あんな配信まで落ちぶれて、挙げ句の果てにリョナたんとしてのあたしが止まらなくなって、暴力ばっかのかれぴを解剖して冷凍保存して』―――
(……ちょっと前半よくわかんないけど、そんなに色々背負っていてもここまで来れたの、偉い。正しいかどうかはともかく)
―――『あたしが?偉い?ばっかじゃないの。来れてないじゃん。もうあの世界のあたしはいないんだから』―――
(でも今ここにいるんでしょ)
―――『いるけど』―――
(なら……偉い。だって、生きているだけでも偉いって言うでしょ。それに、さ)
―――『……なによ』―――
(今までのあなたはよく知らない。というかわたしに出来る事がない。けれどこれからまた頑張ればいいとおもう)
―――『頑張る?こんな暗闇で?』―――
(安心して。そのために―――わたしはここに居るんだから)
―――『……』―――
(痛みがわからないけれど、リョナたんのそれ、きっとすっごく勇気のいることだと思う。配信の良し悪しは言わないとしても、前に向かって進んでいけるだけでも、えらいえらい)
―――『……バカにしてる?……』―――
(してない)
―――『……っ……』―――
(……リョナたん、泣いてる?)
―――『誰のせいよ。……あんたじゃ……安心できないっつの。次そんなゾッとする事言ったら……言ったら……』―――
(言ったら?)
―――『…………』―――
(……?言ったら?)
―――『……パシリに行かせる……っ。次変なこと言ったらポテチ買って来て……わかった?分かったなら早く世界に戻りなさいな。……あたしの無駄な心配より、もっとやんなきゃいけないことあるでしょうが』―――
(……うん。ありがとう。次はかわいいシールの配信、楽しみにしてる)
―――『なんで勝手に決めてんの?は?バッカじゃないの。……そもそも外に出れないっつってんじゃん』―――
(ぷろちゅーしゃ?には従うんでしょ)
『いつプロデューサーになったのよあんた。……なによ、ぷろちゅーしゃって……)
(じゃ、行ってくる)
『待って』
(……なに)
『本名、知りたいんでしょ。……一回しか言わないから』
(うん)
『……聖護院涼南よ。―――絶対勝ってきなさい、メルティ』
―――――――――――――――
【記念!2000PVありがとう!!】
ついに【リョナたん】の本名がでましたねぇ。
次回、ついに決着。勝負の行方は一体ーーー?
更新は8/25(日)。お楽しみに!!




