45。メルティと勝負
おまたせです。
っていうか読者のみなさん、ネット小説の応募にこれを出したいのですけど、どうするのがベストなんですかね。
せっかくなので教えてくださると助かります‼
さて前回のあらすじ。
リョナたんと仲良くなる方法を考えているとシャルメイ王女と会った。
雑談をしていると頼んでもいないフラッペが届くが、シャルメイがいち早くその中に潜んでいた幼虫を発見し―――。
「メルティが今ツェドリカ―――生徒総括に狙われている」といった旨の内容を二人に送った。
ツェドリカ。
そう。あの、メルティが登校初日に放送室もとい工房で出会った、カチューシャの少女である。
とはいえ、だ。
虫が入っていたとは言え、直接的にツェドリカが入れているところを誰かが見た訳ではない。
物証が揃っていても、はっきりとした関連がない限り、訴えても仕方ない。
そのうえ、相手は腐っても生徒総括―――言い方を変えれば生徒の中で最も権威のある人物である。
そんな彼女が、一生徒への嫌がらせのためにフラッペに虫を入れるだなんてありえない―――。
そう思うであろう大多数にのまれてしまっては、むしろこっちの立場が悪くなるということは、当然二人も気づいている。
そして何より、全てはシャルメイから間接的に得た証拠である。
王女という権威があったとしても、彼女が百パーセント正しいなんてことを、誰が確証できるのだろうか。
だから結局は、放置だ。
どうにもならないことは、実害を被らない以上後回しにする他ない。
メルティも正直自分が狙われる理由が思いつかないでいるので、予防のしようがないとも言う。
と、そんなある日。
一人の男子が、夏近くの廊下を行くメルティの前に立ちはだかった。
当然、キツネもその場にいる。
彼はメルティの鼻先に向かって指差すと、声を張り上げて言った。
「お前、俺と勝負しろ」
「……興味ない」
どうやらお気に召さなかったらしい。メルティは戸惑うキツネの手を握ると、彼の横を通り過ぎようとした。
「お、おい!止まれ! 止まれっつってんだろ」
「……なに」
キツネはメルティがゆっくり足を運んで振り返るのを見て、ふと、冒険者ギルドで二人して絡まれた時のことを思い出した。
別に前に立って喧嘩を買うつもりではないが、彼の荒っぽさに彼女は眉を顰めた。
少なくとも、一女子に対する紳士な態度とはとても思えない。
当然相手がその感情に気づくはずもなく。
男子は自分の胸板を鳴らすように叩くと、声をやや張って言った。
「改めて紹介する。俺はマルコー・シロガネル。聖騎士科四年だ。メルティ、俺と勝負しろ」
「だから、興味ない。……別にお金ももらえないのに、戦いなんてしたくない。しかも怪我させるのも嫌。依頼じゃないし」
「金ぇ?お前金のためだけに戦うのか?」
信じられない、といった風に頭を振ってため息をつくマルコー。
「だから中途半端なんだよ。お前、校長先生に気に入られて入学できたからって調子乗ってんじゃねぇ。しかも聞けば金目的か。はっ、笑わせる」
「……おかしいかな」
メルティは、今にもガントレットを装備しそうなキツネを片腕で抑えながら聞き返した。当然彼女自身もいい気分はしていない……はずだ。
「だから女は嫌いなんだよ。いいか、先輩のありがたいお言葉だ。ちゃんと聞いとけ。戦とはすなわち聖なる場だ。戦う意義はただ一つ―――自ら背負う名を支えるためだ」
「……よくわかんない。(キツネ落ち着いて)」
「はっ。いいよ、どうせガキにわかるはずも無いからな」
「うん……だから、勝負はいいや。怪我させたくないし。めんどくさいし……キツネとの時間のほうが大事」
それを聞いて、キツネが拳を緩めた。
とろとろ顔である。
「てめぇ……こういうやつがいるから学園の価値が下がるんだよ。おい、よく聞いておけ。姫様を護ることは重要な任務だ。そしてそんな任務の途中で、お前ら二人は割って入って来た」
「……それはシャルメイ?が―――」
「『様』をつけろ!!」
マルコーはそう怒鳴ると、メルティに掴みかかろうとした。
「淑女に乱暴するのが騎士の役目なんですか?」
「あ?」
キツネはそう言って冷笑を浮かべるとマルコーの手首を掴んだ。
メルティは彼女の顔を見て、(あ、これは完全にキレてる……)とこそっと慄いた。
一方、マルコーも冷や汗をかいていた。
年下のか弱い女子に手首を摘まれて、身動きが取れないのだ。
目線を違和感ある下に向ける。
(っ……! 足元に魔法陣!?……この青い光はなんだ!?……あれっ、消えた!)
「はい、じゃあもういいです。戦えばいいじゃないですか。戦えば」
「あ?」
「キツネ?」
氷のような笑顔を貼り付けたまま、キツネが両手を合わせる。
「メルティちゃんは少なくとも私が知っている人の中で、一番強いのです」
「はっ、どうせ女の中でちまちま比べただけだろ」
「そうですかぁ。なんだか残念です。……では、メルティちゃんがこれから強さを見せてくれるらしいので、先輩は頑張って受け止めてくださいな」
「馬鹿じゃねぇの。戦いの意義もわからないやつに何ができる」
完全に、メルティそっちのけで進んでいく話。
気づけば両腕を引き摺られ、いつの間に広場か何処かに付いていた。
生徒は少ないが、みんな何かしらの防具をつけてたり武器を構えていたりしていた。
どうやらここはトレーニング場らしい。
「……まだやるって言ってないんだけど……まあ、いいや」
「メルティちゃん、頑張ってください!」
キツネにそんな応援をされては、引くに引けない。
必要でもない上下競う争いにはほとほと関わりたくない性分のメルティだが、同時に抱かれた期待を裏切る気にもならない。
―――そのキツネの後押しもあって、ここまで進められたのだから。
「おい、着替えて来いよ。動きづれぇとか言って言い訳をするのは無しだ」
「んー……めんどくさいからいいや」
「あっそ」
からかわれているように感じたのか。
「スカートのままでもお前に勝てる」と言われたような気がしたのか。
奥の部屋から木剣を二本鷲掴みにしてやってくると、一本メルティに投げた。
「使え」
「……剣じゃないとダメ?」
「これ剣の戦いだ。途中で拳送るとか卑怯なまねをするんじゃねぇぞ」
「……そう」
メルティは言われたがままに、剣を構えた。
キツネの方を見ると、無言で声援を送られた。
(……この人も退いてくれなそうだし)
―――もう、ぶつかるしかない。
「言っておくけど、俺が勝ったらお前―――二度と姫に近づくんじゃねぇよ」
「なんで?」
「下心が丸見えなんだよ!!どうせまた金の欲しさに近づいてんだろ。だから騎士道精神のねぇ奴は嫌いなんだ。マナーの一つも知らない。敬いの一つも知らない。戦いに誇りすらない。それなのに中途半端なプライドだけを持っている!俺はそういう奴大っ嫌いなんだよ」
「よーい始め」
「なっ……!?」
なんとメルティ、マルコーの宣言を聞き終えることすらしなかったのだ。
「剣、持てばいいんでしょ?」という具合の、やらされている感が滲み出たオモチャ握りで、マルコーの腹部に斬りつけようとする。
「舐めてんのか!」
当然ソレを受け付けるマルコーではない。
剣先を引っ掛けて払うと、今度はメルティの首を狙って斬撃を繰り出す。
……速い。
マルコーという人の特徴を一言で捉えるなら、圧倒的な「速さ」。
聖騎士の見習いとは言うものの、重量のある鎧を着こなして機敏な動きが求められるのだから、体裁きは当然並みのレベルのはずがない。
刃は消え、そして一瞬でメルティの首筋に届く―――。
その時。
―――ぐにゃり。
「……!?」
マルコーだけではない。メルティをよく知っているキツネさえ。物の見たさに首をこちらに向けていただけの他生徒さえ。
その場にいる全ての人間が、同じ現象を目の当たりにした。
消えた。
まるで先ほどまで語りかけていたメルティが、実は霧でしかなかったかのように。
メルティは忽然とその場から消滅したのだ。
マルコーは奥歯を噛み締めた。
いやそんなはずはない、と。
地面を見れば、一本の剣が転がっている。
つまりメルティは剣を手放したのだ。
剣での試合とは言ったものの、剣を手放したら負けとは言っていない。
では次来る攻撃は―――蹴りか?パンチか?それとも……。
(どこだ、あの卑怯者!!)
(くそ、おちょくりやがって。逃げやがって……!!)
その、次の瞬間に起きたことだった。
「あっ……!?」
マルコーが握力を緩めた、その手中の剣が自ずから飛び出したのだ。
それはもう一本の剣と交差すると―――その場でメルティが再び現れた。
その手には、二本の剣。
それらを両手に握ってキツネの方を向くと、メルティなりにドヤ顔を見せた。
「キツネ、どう?二刀流。前に言ってたサムライ?っぽいかな」
「あっ、それがやりたかったんですか。ふふ。ちゃんとお侍さんですよ。メルティちゃんナイスです!」
キツネからは好評のようだ。
しかし相手はそうはすぐに飲み込めない。
恍惚の表情のまま、メルティを指差した。
「お、おまえ……さ、さっきのなんだよ!魔法……使ってなかったよな?」
「体をモノに溶かす……とかあんまり教えたくないから、隠蔽魔法?とかと思ってもらえれば……じゃあ、こっちからいくよ」
「お、おまっ……卑怯だぞ!! 剣を奪うなんて紳士じゃねぇ!」
「紳士じゃないし。淑女?……だし」
そう言って、メルティは軸足に力を込めて踏ん張った。
「それに―――」
「ま、待て!!」
待たない。待ちたくもない。
身軽な突進が、二本の斬撃の軌道が、空間を切り裂く。
「……剣を使えって言ったのは、そっち」
いくら木剣と言っても。
いくら年下の少女の攻撃と言っても。
―――その正体がメルティであるなら何も意味を果たさない。
防御も虚しく、マルコーはそのまま斬り飛ばされると、壁に叩きつけられた。
「かはっ……」
壁の石灰が剥がれ、マルコーの背中にパラパラ降って来る。
―――勝負、あり。
本来なら、年下の女子に挑んで負けたとなったら、周囲から冷やかしの一つや二つが飛んできてもおかしくない。
ましてやだいぶ煽った後の、ボロ負けだ。
しかし、会場で誰一人として彼を笑わなかった。
というより、笑えなかった。
誰もが頭の中で考えたのだ。
―――もしあの相手をしていたのが自分なら、勝てただろうか?
どうやって消えたのかもわからない。
見た目からは判断すら不可能な力量だった―――。
そんな時に上がる、一つの声。
「……血が……沸くのだぁあああああっ!!」
全員がそちらを向いた。
そこに立つ人物に、目を見開かない人などいない。
靡く、薄紫の縦ロール。
華やかさと穏やかさを持ち合わせたような扇子。
特徴的な尖った歯―――。
「「王女様……!?」
しかし生徒たちの驚きをものともせず、シャルメイはまず座りこんだままのマルコーの前までやってきた。
その顔を覗いては、
「ほら、大丈夫なのだ? ダメそうなら誰かに担いでもらうのだ。それにしても今日護衛の数が減ったと思えば、ここに来てたのだ」
……その、いつもと違う語尾に違和感を覚えつつも、マルコーは頭を下げた。
「……っ。……大変、申し訳ありません」
悔しげな鋭い目が、メルティに突き刺さる。
「……シャルメイ様を、お守りできませんでした」
「どういうことなのだ?遊んでいたのではないのだ?」
その台詞に、彼は青筋浮かべて跳び上がった。
「なっ……!お言葉ですが、これは決してお遊びではありません!彼女に戦いの精神と覚悟を―――」
「嫉妬ではないのだ?」
「……っ!?」
「図星なのだ」
「……っ、それは!!」
とたんに顔を沸騰させるマルコー。
「あの二人は我が呼んだのだ。それが気に食わないなら、我に直接言うのだ。それなのに本人に迫って近づくなと言うのは、それこそ卑怯な言い草なのだ。忠誠心嬉しいけど、今回はやりすぎなのだ」
「……っ」
言葉のカウンターをもろに食らったように、マルコーがそっぽを向いて小さく呻いた。
「―――さて」
それから、シャルメイはメルティの方を向いた。
その口角は釣り上がって凶暴なほどの犬歯を見せ、その頬は紅潮して熱を吹き上げている。
言っていいのかどうかを伺うようにキツネに目配せをしつつ、メルティは口を開いた。
「ねぇ、もしかして……ナノちゃんって―――シャルメイ王女?」
彼女がそれを口にすると、キツネがハッと目を見張った。
「い、言われてみれば……」
思い返す、今までの流れ。
学校で初めて出会った時から、どこか二人を知っている風であった。
では、一国の王女はいつどこでメルティとキツネを知ったのか?
冒険者ギルドで出会った、フードを被った少女。
それから度々エンカウントしては、驚くような才を見せてきた。
民衆の悩みも嬉しみもまとめられる包容力と判断力。
特別な資材や知識にも抜かりがない財力や情報収集力。
その異様にハイブリッドな存在を今まで相手にしてきて、今日初めて彼女―――あのフードを被った少女こそが王女様であると気づかなかったとは。
周囲にいた生徒たちも、ざわついている。
「俺知ってるぞ、あの掃除の―――」
「私も手伝ってもらったことあるわ。まさかあの子が―――」
どうやら「王女」という肩書きと同じくらい、「ナノちゃん」という称号は広がっていたらしい。
しかし、どうやら本人はちょっと反応が違うようだ。
シャルメイはコテンと頭を傾げた。
「別に隠したつもりはなかったのだ」
「え、ではあの、お嬢様らしい口調は―――」
「んー、どっちも自然体なのだ」
つまり、シャルメイには二つの顔があるのだ。
市民の上に立ち、国家の象徴の一つである王女としての顔。
そして―――市民と並び、共に生きる「ナノちゃん」としての顔。
「というわけなのだ。……メルっち」
「……わたし?」
「そうなのだ。我と――――――喧嘩をするのだ」
その顔は、笑っていつつも真剣そのもの。
今にも食ってかかりそうな闘争心を燃やすシャルメイの瞳が、まっすぐメルティを射抜いていた。
その言葉選びは、決してお遊び程度で済むものではない。
試合でも、勝負でもない。
そんな、生温いものであるはずがない。
―――喧嘩だ。
「し、シャルメイ様!! さ、さすがに危険です……!!」
「そ、そうですよ。少なくとも木剣で―――」
しかしそんな言葉は彼女に届くはずもない。
シャルメイはその場でスカートと上着を脱ぎ捨てた。
すると風はまるで意思を持ったようにその服たちを綺麗に畳んで、トレーニング場の端に降り立った。
そして本人は―――。
薄い下着、一枚。下は動きやすいハーフパンツ。
引き締まった体のラインが、まるで芸術作品のよう。
「はしたない」「ひめとして」などという言葉には耳を貸すつもりもないらしい。
「見るに耐えないとおもうなら見なければいいのだ。……メルっちも着替えてくるのだ」
「……うん」
本来は、断ってもよかったのだろう。
しかしメルティの体全体が、これはしっかり受け止めなければと意識に司令を送っていた。
粋で、かつどこか懐かしい感覚がしたのだ。
やがてやって来たメルティは、いつものコート一枚の姿。
「ルールは簡単なのだ。どっちかが降参したら終了なのだ」
「武器、使うの?」
「なんでもありなのだ。魔法でもなんでも、使いたければ使うのだ」
「ねぇ、一つ聞いていい?」
「どーぞなのだ」
「……喧嘩する意味を教えて」
「ご挨拶なのだ。親愛の印なのだ」
……ご挨拶で、喧嘩。
なんという、姫らしからぬ言葉。
しかし、誰も彼女を止めることはできない。
「……そう」
メルティが一歩、シャルメイに近づく。
「手加減―――」
「無用なのだ」
ひりつく空気。
まるで二人を中心に、聖域が発生しているよう。
これはただ、「本能」と「本能」がぶつかり合う場所。
「友」を確かめ合う場所。
メルティにとって。
シャルメイにとって。
大事なものとは?
戦いとは?
生きる意味とは?
血が沸く。
鼓動が暴れる。
それはまるで、赤熱した鋼のよう。
一人として予測のできない喧嘩が今、幕を開けた。
お読みいただきありがとうございます。
というわけで色々進んでいきます。
次回、決闘。
更新は8/22(木)。お楽しみに!!




