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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
2章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・上
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42。メルティとお嬢様らしさ

どうぞオシオキ編(⁇)です

 それからの学校生活は、メルティなりに上手くいった。

 ちょいちょいトラブルを起こしていてはいるが、記すほどのものではないだろう。


 さてはて、日々は過ぎすでに時期は夏前である。

 そんなある日のことだった。


 メルティはとある先生に呼び出されていて、校長室にいた。


「……メルティ・イノセントさん。貴女、ご自身がなぜわたくしに呼び出されたのか、わかってまして?」

「んー……わかんないや」

「そういう態度ですよ!!」

 ばしんと、メルティは頭に扇子を食らった。


 対面に座るのは、赤と黒の複雑なレースの長ドレスを纏った化粧の濃い女性。雰囲気は完全に冷徹な女王。シャルメイ王女とは違って、どちらかといえば厳格そうな顔立ちだ。


 教養担当の、ホーリア先生である。


「ちょっと聞いていますか、メルティさん!」

「……聞いてる聞いてる」

「あぁああ……もう、我慢ならないっ……。……わかってますか、メルティさん。わたくし、あなたがこの学園に飛び込んで以来ずっっっっっ……っと、我慢してたんですのよ!!その訳のわからない返事もそう! 高貴な御方がいらっしゃったときの反応もそう! マナーがなって無さすぎますわ!!」


 きぃきぃ叫んで、メルティを叱り続ける先生。


 しかし、こうかは いまひとつの ようだ。


 ちなみに同席するのは校長と、(本人の強い要求より)キツネである。

 いつもはメルティをまっさきに庇う彼女だが、今回は「メルティのためのマナー講座だから」と説得されて大人しく座っている。


「メルティさん……あなたのために言っているのですよ。これから社交界に出るときに恥をかくのはあなたですからね!」

「社交……パーティーのこと?」

「で・す・か!!」


 ―――べしっ。


「……パーティーのこと……ですか?」


 メルティは自分の額をこすった。痛くはないが、扇子ぺしぺしの回数を重ねているためにすでに真っ赤である。


「ええ、ほとんど間違えていませんが、貴女の場合些か認識がずれていそうなので説明をいたしますわ。いいですか、社交パーティとは決して!!決してお遊びの場ではありません。それが何歳の集まりにしろ、あくまでも社交のための場所です。ですから、そんな場で恥をかいてしまっては、将来が台無しですわよ」


「将来……」


「あら、考えたことありませんの?将来のこと。あなたはもう十分に自立できるお年でしょう。ちゃんと自分がやりたいことくらい考えておきなさい」


「やりたいこと……キツネと食べて、寝て、ぐーたらしたいです……いてっ、いてっ」


 今度は扇子(ぺし)×2である。


 痛くはないが、反射的に目を閉じるメルティ。


「痛いと思うのならしゃんとなさい!!『食べて、寝て、ぐーたら』ですって??貴女の頭の中はどうなっているのですか。それから『ぐーたら』なんて立派な女性が使っていい言葉ではありません。休憩なら休憩、ホビィタイムならホビィタイム。お茶会ならお茶会。礼儀も、為人も、まずは言葉からですわよ。まだわからないのですか。全く、親の顔が見たいですわね。どうやったらこんなどうしようもなく可哀想な子が生まれて来てしまったのか……。いいですか、立派な女性であるには―――」


「先生、」


「目上を呼ぶ時は敬称まで付けるのが常識ですわ。あとは発言許可をまずは取りなさい」


「……うん。わかりました。もう喋っていい?」


 あまりわかってなさそうだ。

 今にも噴火しそうなホーリア先生。歯をギリギリ鳴らして、肩で呼吸している。


「〜〜〜〜っ……。はぁ、もういいですわ。このままでは埒があきません。今は少々緩めましょう。メルティさん、その発言をなさいな」

「うん。立派な女性ってなにかなって」

「いい質問ですわ!!」

 扇をぱちりとあわせて鳴らすホーリア先生。

 肉食獣のような目をくわっと見開き、懐から一冊の分厚い辞書のようなものを取り出すと、それをメルティの目の前に添えた。

 タイトル、《女性教養文書》。

「……?」

「このなかには素晴らしい女性であるための礼儀、立ち居振る舞い、言葉づかいが全て含まれていますわ。ええ、決めましたわ。……メルティさん、これを一週間以内に覚えて来なさい。一文一句です。たった一つの句読点すらも漏らしてはいけませんわ。さもなくば教養点は一切あげられません。つまりあなたは今学期不合格となりますわ。ええ、わたくしは本気ですのよ。よろしくて?」


 それを聞いて、メルティは「わかった」とだけ応えたが、キツネは完全に顔を青褪めている。


「一度経験したことあるけど、あれはヤベェ」という顔である。



 さて、解放されたあと。


 メルティはそれからずっと《女性教養文書》に読みふけっていた。どこへ行ってもそれを持ち歩いていた。夜もキツネに手伝ってもらいつつなんとか一ページ目をクリアした。

 が……。


「飽きた」


「早い……!!」


 早速本を床に落として(※本は大事に扱いましょう)、机に突っ伏したメルティ。


 文書を渡された次の日の朝のことである。


(たしかにいきなりあんなプレッシャーをかけられては、萎えてしまうでしょうねぇ)とキツネは同情した。


 教育が正しくても、生徒に伝わらなければ意味がないのだ。

 それは決して、生徒の出来が悪いという一言で片付けていい問題ではない。

 結局生徒のやる気次第……とは言うものの、である。


「むり……全部は無理」

「あはは……私も全部はちょっと……。私の時のマナーテストでも、決められた文だけでしたし」

「でも退学とかになるのは嫌。せっかくキツネと一緒に居られるんだし、それに……残りの核も欲しいし」

「……はい。頑張りましょうね」

 ヨシヨシとメルティの頭を撫でるキツネ。

 さすが、手つきが慣れている。


 ぐったりすること、一分ほど。

「よし、決めた」

「お、やる気になりましたか」

「いや。ショートカットする。……ちょっとトイレ行ってくる」

「????……え、ちょ、ちょっとメルティちゃんそれってどういう―――」

 キツネが反応した頃には、すでにメルティの姿はなかった。

 そして地面に放り投げられた文書を拾いあげ、ぱふぱふと埃を叩きおとしながら、キツネはなんとなく嫌な予感がするのであった。




「……か、か、完璧ですわ……!!」

「ホーリア先生のご丁寧なご鞭撻の賜物ですわ」


 優雅に、腰を落として礼をするメルティ……っぽいナニカ。


 現場にいた校長はもちろんのこと、キツネも目をまんまるにしている。


「……こほん。失礼しました。あまりの変わりように先生、反応しきれませんでしたわ。やはり人とはこんなにも変われるものなのです。……では次に移りましょう。……《女性教養文書》134ページ第2を暗誦しなさい」


 ―――pi、pi、pi。

 ―――検索中……検索中……一件、発見シマシタ。


「……『教養ある女性たるもの、弱者に慈愛を抱き、その限りなき慈しみを持って救済へと励むべし』、ですわね。……これでよろしくて?」


「せ、正解のようね。……では教育論一条目は言えるかしら」


 ―――pi、pi、pi。

 ―――検索中……検索中……一件、発見シマシタ。


「『たおやかに、雅やかに、背筋を伸ばして』……ですわ」


 ぱちぱちぱち。


「え、ええ、素晴らしいわ。やや間があったものの、一言一句正かったです。……もう先生から言うことはなにもありませんわ」


 ハンカチを目尻に当てる先生。

 それに対して。


「それではお暇しますわ」

 そう言い終えるとスカートを持ち上げ柔らかに一礼して、メルティ(?)は部屋を出ようとする。

 全く先生の賞賛も感動も気にもとめぬ様子だ。


「ちょ、ちょっとお待ちなさい」

「……あら。どこか不足があったのかしら」

「い、いえ。今日に限っては、マナーも礼儀もパーフェクトでした。言うことはありません。しかしどうして―――」

「『どうして一週間でここまで変われたか』『どうして今までやって来なかったのか』……でしょうか」


「……っ」


「そりゃわたしがいなければ無理でしょうから。……そもそも、あのような課題自体無意味だと思うわ。少なくとも()()()には」


「え??」


「あら、話しすぎましたわ。家の出どころがわるいと言われてしまった以上、授業くらいは間に合わせなきゃですわね。……では、ごきげんよう」


 そうして、石膏像のようになったキツネの手を取って、メルティ(?)は優雅に部屋から出て行った。



「……ふぅ」

「……め、メルティちゃん?」

「ん?どうしたの」


 キツネは眉を顰め、メルティを上から下まで触診してまわった。

 そしていつも通りのどこか間抜けな声を耳にしてようやく、ほっと一息ついた。


「はぇ……よかったです……一時はどうなることかと思ってしまいましたよ」

「うん。うまくいってよかった」


 そう言って満足そうなドヤ顔を浮かべるメルティ。

 それを横目で見てほっこり表情を溶かすキツネ。お団子から一粒果実をもいで、メルティに渡した。


「それにしてもメルティちゃん、一体何をしたんですか。なんだか、別人のようでしたが……やっぱり『悪役カード』ですか?」


「うん。使った」


「やっぱり!!そうですよね。メルティちゃんがあんな礼儀正しいはずないですもんね!!」

「……それはそれで傷つく」

「あわわっ、失言です。ところでどなたにお願いしたのですか」


「……どっかの、ろぼっと?っていうものに本を覚えてもらって、後はどっかの女王一時的に取り憑くようにお願いした。上手くいった。えへ」

「えぇ?それ大丈夫なんですか」


 キツネは感服半分、呆れ半分といった様子だ。


「というか、それってまたいつか先生にマナーを指摘されて、怒られちゃうやつですよね」


「大丈夫。ちょいちょい竜王の威圧?とかなんとかを浴びせたらしいから」


「……うわぁ……」


 ……大丈夫とは?


 ……メルティのマナー講座はどこへ?


 あれぇ?


 ホーリアの言葉はきつい上に厳しすぎたとは言え、ちょっと今回ばかりは先生も可哀想だと思ったキツネであった。



馬の耳になんとやら。


次回更新は8/11(日)。お楽しみに!

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