43。メルティと水着フェア
どうぞ
※病系の単語が苦手な人はお気をつけください。若干過激なキャラがいます。
「や、二人共よく来てくれたね。ちょっとしたお話だから肩の力を抜いてー。……あれ、なんでメッちゃんそんなに警戒心丸出しなの」
「えぇと。……多分、教養科の先生に叱られてから、呼び出しがトラウマになったんだと思います」
キツネ、それから彼女の肩をがしりと摑んで離さないメルティは今、ノーソリューションの事務室にいた。
入学許可が降りた日と同じ場所のはずだが、昼間というだけで雰囲気が全く別物だ。
夜だとプラネタリウムだが、朝はちょっとした四阿、あるいは温室にも見える。
メルティがあたりを確認し、鬼が居ないことがわかって力を抜いたのを見て、先生は語り出した。
「メッちゃんが晴れて学園に入った日に説明したとおもうけど、ボクはキッちゃんに『イベント』を与えることができるんだ。そのイベントをクリアすることによって、キッちゃんはより一層レベルアップできる」
「はい。それは聞いています」
「うん」
「だから、そろそろまたイベントを開催しようかなーって思ってね」
それが伝わった瞬間、キツネが跳び上がった。
俗に言う、「目がシイタケ」の状態だ。
作業机越しに、ソリュの両肩を鷲掴みにして揺らした。
「先生、イベントってあれですよね。メルティちゃんとき、き、キスしたり、ぎゅってしたり、それから―――」
「おっとキッちゃんそれ以上はいけない。この話、R18をつけていないからね」
「なにメタなことを……」
「……こほん。さて、もう設定してあるから、是非とも今イベント内容を確認して見てくれ」
【夏の水着フェア、限定イベント開催中✩
イベント:[闇配信リョナたん]と仲良くなろう!
クリア条件:□[闇配信リョナたん]の本名を知る
報酬:経験値、水着、ゲームマスター権限(一部)✩、核】
「……な、なんで報酬に水着があるんですか」
「ナイス注目ポイントー。それはボクが二人のピッチピチでワンダフルな水着姿ver.のカップリングが見……」
「変態……っ」
ペラペラと語るソリュがその後天井まで飛ばされたのは言うまでもない。
「……で、今日二人に話したいのはクリア条件のところね」
「ほんと立ち直り早いですよね」
「唯一の取り柄だからね。で、この【闇配信リョナたん】って子が今回のターゲット。お察しの通り、この子はメッちゃんの【悪役カード】の中に入っている子だよ」
ソリュは拭き途中のうさぎ眼鏡を指先がわりに、メルティのポーチを指し示した。
「その、闇配信?リョナたんさんと仲良くなるって……そもそもどうやって会話をすればいいんですか、私」
「君が中に入ればいいのさ」
中。
つまり、悪たちがいるあの黒い空間。
「ソリュ、悪に呼びかけても入れるのはわたしだけ。あと憑依されて入るのもあるけど、キツネはやめたほうがいい。あれ危険」
メルティにとっても、悪に体を乗っ取られることはかなり嫌らしい。
メルティがデジタリアの作る繭に閉じこめられたときのように、他の【悪】―――ガロミヤやスケイプなどに手伝ってもらって一時避難はできるものの、決して心地いいものではないことには変わりない。
「や、や、違うよ。メルティちゃんなんか誤解していない?あの【悪役】たちが個々に入っている黒い空間―――ボクは『舞台裏』と呼んでるけど―――あそこは誰でも入れるよ」
「「え??」」
「あー説明し忘れてたかー。詳しい話はしないけど、とにかく『舞台裏』くらいなら、キッちゃんだって余裕で入れるんだ」
「え。……じゃあ憑依されるのは?」
「それはその子が君の話を聞きたくない時の過剰反応だよ。だってもし毎回『舞台裏』に回るのにいちいち憑依されていたら、めんどくさくない?」
「「たしかに」」
至極当然である。
【悪役カード】の役割はあくまでもハイリスクな「道具」であり、罰ゲームの「枷」ではないのだ。
「メッちゃんの許可があれば基本的には誰でも『舞台裏』に入れる。ただメッちゃん本人の場合、【カード】に呼びかけて了承もらえば直接個々のマイルームに入れるかんじ。
イメージとしてはホテルかな。メッちゃんはホテルのオーナーだからどの部屋にも入れる。けど、一般の人だってロビーに行くことはできるでしょー」
「なるほど……それで、どうやって入るんですか」
「ポーチに触れたまま、メッちゃんに向かって『私を食べてください♡』と言えばいいよ。メッちゃんもちゃんと了承してね」
「……っ……先生……覚えておいてくださいね」
「え、なんのことかなー」
すっとぼけるノーソリューション。どうやらキツネを弄るのが楽しくてしょうがないらしい。
「わかった」
「めめめ、メルティちゃん!?」
どうやら我らがメルティ様はやる気のようだ。ただし内容を理解しているかどうかは不問とする。
「キツネ、早く」
「っ……はいはい、わかりましたってば!!」
沸騰しそうなのを我慢してキツネはメルティに寄り、ポーチを下から優しく支えた。メルティに身長をあわせて、入り込むようにして渦巻く双眸をじっと見つめた。
荒ぶる吐息は漏れ、お互いの鼓動すらよく聞こえる。
顔が火照るようなとろける感覚を噛み締めながら、濡れた唇をそっと開き―――。
「……め、メルティちゃん。……わ……私を、食べてくださいっ……♡」
「……ん。どんと来い」
「ゔぃぇぇえええええっ!?!?」
すると、うさぎのポーチは甲高い叫び声をあげて忽ち膨れ上がり、その大きな口をぐぱぁと捻り開けた。唾液らしい粘液が垂れる不ぞろいの牙は、このサイズともなるとかなりグロテスクな見た目になる。
それは一瞬で二人を包み込むと、再び元の手のひらサイズに戻った。
「舞台裏」―――もとい真っ暗な空間の中で。
ただひたすらに悶えるキツネ。
彼女の宥めに回るメルティ。
二人の前に蛍光ブルーの画面が現れる。
みれば、ノーソリューションからのメッセージだった。
『このようにポーチに触れて、メッちゃんが承諾すれば入れるよ。あとは頑張ってねー』
「はぁ……はぁ……。や、やっぱり先生の嘘つき……です!何が『食べてください♡』ですか……!!」
体全体であらわされる、「こんにゃろー!!だましたなぁーっ!!」とも言い換えられる羞恥心。
ともあれ、「舞台裏」への転移は成功である。
「……それで、『闇配信リョナたん』さんを探すんですよね。……あれ、どうやって?」
生き返ったキツネがあたりを見渡す。
ずっと続く、黒。
何色を垂らしても変わらないほどに染まった、黒一色。
それはまるで、悪意、憎悪、全ての苦しみを集めたような果てしない空間。
「ん、それは簡単」
そう言って、メルティは次に少し声を張った。
「おーい。おーい。リョナたんおいで」
「……」
「おーい。リョナたん?」
「…………」
「リ―――ーーョ―――ーーナ―――ーー!!」
「……」
ひらり。
一枚の紙がどこからか降ってくる。みれば、カルテの紙だった。そしてそこに書かれているのは―――。
―――【帰れ】。
しかしメルティは諦めない。
「おーい。おいで。メルティだよ」
ひらり。ひらり。
―――【ホルマリン漬けになって死ね】。
―――【どっかに消えろ】。
「じゃあ本名だけ教えて」
「いやいきなりそれは無理ですよ」
ひらり。
―――【死ね】。
―――【なんであんたに本名教えないといけないわけ??脳みそ何ccなの?】
「じゃあ―――ー」
「め、メルティちゃん、多分一回そっとしてあげたほうがいいと思います」
「大丈夫。きっといける」
そしてメルティが再度虚空に話しかけようとしたところで、上から何やら白い雲のような―――ではなく、無数のカルテが舞い降りてきた。
キャッチしてもキャッチしきれない量である。
「あ、ちょ、ちょっと……りょ、りょなたんさん、一度止めぶっ……」
「……めんどくさいから燃やしていい?」
「それはダメです!受けとれるだけぶっ……」
紙の勢いだけは衰えることなく降り注いでくる。
視界を埋めるほどのカルテの山。
―――【自販機の下敷きになって死ね】。
―――【蒸し料理になって死ね】。
―――【糖蜜の波に溺れて死ね】。
そんな殴り書きの山に埋もれ、メルティとキツネは一度「仲良くなろう」計画を早速断念するのであった。
早速頓挫。
次回更新は8/15(木)。お楽しみにーっ




